こんな新書を読みました。
版元の内容紹介によれば、このような本です。《19世紀末美術を魅了した「ファム・ファタル」以降、魔女は可視化され、そのイメージが爆発的に拡散された。中世魔女狩りからゴスロリ、そしてアニメまでに継続される「魔女」の遺伝子とは? 20世紀の魔女復興運動、フェミニズム、カウンターカルチャーを通過し、新たなステージへ飛翔する「魔女」論》。
副題「女神信仰からアニメまで」の通り、中世の魔女に、ゴシック・ロマンス、世紀末、フェミニズム、ネオペイガニズム、ニューエイジ、パンク、ゴス(ロリ)と、さすがは海野弘さんという感じで、取り上げられる「魔女」の事例の幅がきわめて広い。ちょっとした美術史・カルチャー史にもなっていて、とてもおもしろく読めました。
興味深い内容で、知らないことも次々に出てきて、非常に勉強にもなったのですが、一方で、ちょっと気になるところも目立ちました。あの人も魔女、この人も魔女、という感じで、一般的には魔女的な存在・イメージとはされていない人まで、魔女扱いされていたりするのですが、その女性のどのあたりがどう魔女的なのかが、やや弱いというか、断定が強引というか、説明が少ないというか、そんなふうに感じられることがしばしばありました。
たとえば、ココ・シャネル。ファッションの魔女のはしりだというのですが、その短い説明のなかに、こんなくだりがあります。《毎年新しいファッションを発表し、ドレスを変えていくのは魔女ではないだろうか》。これでは、ファッションデザイナーはみな魔女になってしまいますね(苦笑)。服装のジェンダーを取り払った云々という補足はあるのですが、それで魔女というのはちょっと弱い気もします。やはり、ココ・シャネルが魔女的な存在だというのであれば、対独協力、ナチスのスパイ疑惑などにふれてほしい気がしますし、そういうダークサイドも含めて人物評価をすべきではないかと、そんなふうに思ってしまいます。
もう1例。「魔女文学」にヘンリー・ダーガーがあげられています。ただ、ダーガー作品のどのあたりがどう魔女的なのかは、説明がありません。《少女たちが奴隷解放のために大人との大戦争を繰り広げるとてつもない物語》と内容の説明はありますが、魔女文学として紹介するのであれば、絶対にふれておくべきであろうヴィヴィアン・ガールズという名称さえ紹介されません。また、戦う主人公少女たちがしばしば裸であることや、少女たちが残虐な仕打ちに合い、殺されてしまったりすることにも言及がなく(《血を流して倒れていく》とあるのみです)、ペニスを持つ少女が描かれていることがあることにもふれられていない。魔女との関連を云々するならば必ずふれなくてはならないことのように思えるのですが、いくら短文での紹介とはいえ、これらの要素を避けるかのような書き方でダーガー作品を説明するのはちょっと不自然な気もします。
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9/26、恵比寿のamuで、町本会公開会議が開催されました。出演は、海文堂書店の元店長・福岡宏泰さんと、同店に縁の深い『ほんまに』の発行元・くとうてんの石阪吾郎さん。
企画側の一員がこんなふうに書くとまさに自画自賛で申し訳ありませんが、今回の町本会公開会議は本当にいいトークになりました。福岡さんが海文堂書店の閉店後にお店のこと、とくに閉店までの経緯についてまとまった話をされる機会はこの1年間、ほとんどありませんでした。その福岡さんが自らお店の話をされる場が、東京で実現するとは、しかも、自分たちの企画で実現してしまうとは……。我々町本会スタッフにとっても夢のような時間となりました。
今回のトーク、福岡さんは、ご自身が入社されてから閉店までのことを資料などもあたって調べ、まとめてきてくださったようで、時系列順に、ご自身とお店の関わりとを丁寧に話してくださいました。お店にとっても、福岡さんにとっても、町にとっても、大きな大きな転機となった阪神淡路大震災の前後の話もはさみ、最後は、お店の閉店の事情まで。話しにくいこと、話すのがつらいこともたくさん含まれていたはずですが、福岡さんは、ご自分にとっても、閉店から1年たったことでいい区切りになったということで、これまで新聞などの報道ではふれられなかったことも含めて、話をしてくださいました。
↑スライド上映のため、照明を暗めにしていたため、写真、まっ暗ですね……。手前から、島田さん、福岡さん、石阪さん。
こちらも、こんなイベントを企画するぐらいですから、同店の閉店前後の報道はどれもしっかりと目を通してきたつもりです。『本屋図鑑』の取材などを通して、直接お店の方や夏葉社島田さんから得た情報もたくさん持っています。同店のことはそれなりに知っているつもりでいました。そんな身にも、福岡さんの話は新鮮で、知らなかったことがたくさん含まれていました。福岡さんは最後の数年、店長として店を切り盛りし、閉店時も最後の最後まで見届けた方ですから、ぼくのような若造が知らないことが次々に出てくる、そんなことは、当たり前のことです。当たり前のことなんですが、でも、やっぱり驚きと感銘を禁じ得ませんでした。
町本会公開会議では、トークの前に、海文堂書店の写真のスライドショーも行いました。同店の閉店直前の様子をとらえた写真集『海文堂書店の8月7日と8月17日』が夏葉社から刊行されましたが、完売・品切れで、重版の予定もありません。海文堂書店の閉店時に売り切れてしまったので、関東では、そもそも目にした方すら少ないでしょう。読者が目にする機会が失われて久しい同写真集に収録されたものだけでなく、写真集には掲載されなかったものも含めて、70枚以上に及ぶ海文堂書店の写真を当日用意、それを会場の壁に大きく映しだし、福岡さんに解説していただきました。撮影は、キッチンミノルさん。海文堂書店がどんなお店だったか、お店で働いていた人がどんな人たちだったが、とてもビビッドに伝わってくるすばらしい写真です。あとで、何人もの方から、写真がすばらしかったと感想をいただきました。
【“恵比寿での町本会公開会議終了……海文堂書店はやっぱりすばらしい本屋さんでした”の続きを読む】
先日9/26、恵比寿で開催された町本会公開会議は、おかげさまで盛況に終わりました。お集まりくださったみなさま、ありがとうございました。
10月の公開会議は、10/5の沖縄・那覇と、10/17の大阪の2回となります。どちらも予約受付中です。この10月の2回で、町本会公開会議の開催はいったん終了となります。近隣の方は、ぜひご参加ください。
(以下、町本会の公開会議とは直接関係ない、というか、関係なくはないのですが、とにかく、長めの独言です。)
【“町本会公開会議も残すところあと2回……そして「金太郎飴」についてちょっとだけ”の続きを読む】
まもなく発売です。
特集は「続・神戸の古本力」。元海文堂書店の平野義昌さんが巻頭言を寄せている他、清泉堂書店の倉地直樹さん、やまだ書店の山田恒夫さん、うみねこ堂書林の野村恒彦さんらのお名前が目次に見えます。「兵庫県古書店MAP」も、関西の古本好きならば気になるところですね。
『あしたから出版社』の島田さんが単行本未収録原稿を寄せていたり、吉祥寺を飛び出して神戸で新しく出版社を立ち上げた石井伸介さんの名前があったりと、特集以外にも読みどころがたくさんですよ。そのほか、『「本屋」は死なない』の石橋毅史さんのお名前もあります。
前号、15号は、特集が「新刊書店と本の話 海文堂書店閉店に思う」ということで、わずかながら海文堂書店に縁がないわけでもない当方も寄稿させてもらったのですが、今回も、発行元くとうてんのご好意で寄稿させてきただきました。今回は、町本会についての一文です。
もう少し正確に言うと、海文堂書店のこと、『本屋図鑑』のこと、そして町本会(ができるまで)のこと。いつも通りのだらだら書き、あいかわらずの駄文ですが、テーマがテーマなので、個人的には、いつになく力を入れ、思いを込めて、がんばって書いたつもりの一文です。町本会に関心を持ってくださる方に広く読んでいただけるとうれしいです。
とくに、『あしたから出版社』で夏葉社・島田さんのファンになった方にはぜひとも読んでいただきたいです。彼がどのような人なのか、海文堂書店閉店のときに、短期間でどれだけのことをやってのけたのかを、ぼくの足りない筆力でもそれなりに伝わるように書いたつもりですので。
ところで。島田さんに石井さんに、ということは、ぼくも入れると、神戸の雑誌の同じ号に、15号に引き続き、吉祥寺関係者が3人も稿を寄せていることになりますね。なんだか妙な、でも、うれしい縁です。
発売は、今月末頃。値段は467円+税。くわしくは『ほんまに』のサイトをご覧ください。『ほんまに』は、どこでも手に入るというわけではありません。サイトやツイッターに取扱店の情報が流れると思いますので、興味を引かれた方は、どこで買えるか、それらの情報をご覧ください。
『ほんまに』15号と16号は、9/26に恵比寿で開催される町本会公開会議の会場(恵比寿・amu)でも販売します。海文堂書店と『ほんまに』の当事者お二人が出演するイベントです。書店応援派ですから、いつもならば書店で買っていただくのがうれしいのですが、この『ほんまに』にかぎっては、今回のイベント会場で買っていただけると、とてもうれしいです。
おもしろい新書が出ましたよ。
ハマザキカクさんから直接本をいただいてしまいました。ここしばらく仕事が大変なことになっていて、毎日疲労困憊、電車内ではほとんど読書できない日々が続いていたのに、その日は、帰りの電車で読みふけってしまい(電車内で広げるにはどうか、という本もときどき出てきましたけどね(笑))、あっという間に読了してしまいましたよ。いやあ、おもしろかったなあ。
版元の内容紹介を引きます。《年に8万を超える新刊が出版される日本。なんとその全てをチェック、珍書発掘に人生を賭ける人物がいる。それが社会評論社のハマザキカク氏だ。そして発掘された本から厳選、特に「ヤバイ」本をレビューしたのがこの『ベスト珍書』である。選ばれた本は内容も体裁もさまざま。共通するのは誰が読むのかわからぬ『珍書』ということのみ。そこに『珍』へ鋭い嗅覚を持つ氏が、著者すら意図しない魅力を再発見していく。「珍書」の叫びを聞け!》
ここで中途半端に部分を紹介しても当方の筆力では魅力が伝わりそうもないので、どんな本がどんなふうに紹介されているかは、ぜひ店頭で実物を手にとって確認してみてください。なお、多くは問題ないかと思いますが、たまに、ちょっとグロいのやキモいのも出てきますから、そういう方面に耐性が低めの方は、立ち読みでチェックする際も、先に目次であたりをつけたほうがいいかもしれません(ぼくも数点、とばし読みしてしまったものがあるほどです)。取り上げられている本に、ぼくが持ってる本、読んだことある本は、予想通り、ほとんどありませんでした(笑)(その数少ない所有本に『レコジャケジャンキー!』と『胞子文学名作選』が含まれていたのは、個人的につぼでした)。
この本自体もすごいし、取り上げられている本もすごいのばかりですが、いちばんすごいのは、なんといっても、膨大な本の山の中からこれらの珍書を発掘し、新書1冊にまとめあげたハマザキさん本人でしょう。
実はこの本は、単なるへんてこ本のガイドではありません。ハマザキカクという編集者の「編集術」の本なんですよね。ハマザキさんがどんなふうに新刊情報を収集しているか、情報収集にどのようにツイッターを使っているか、集めた情報をどんなふうに選別して情報発信しているか、そうした情報収集術&情報発信術のテクニックが、とくにコラムでは惜しげもなく開陳されていますし、本文のあちこちからも、それが読み取れます。稀代の珍書プロデューサーが何をどうおもしろがっているのかがわかる、編集企画術の本でもあるわけです。
ちなみに、この本、当方が出てくるというので、珍書本に何故?、ひょっとして『本屋図鑑』が珍図鑑に分類?(笑;可能性がなくはない)と、本をひもとく前は、どきどきだったんですが、さすがにそんなことはなくて、安心しました(コラムの、出版業界情報発信に関するくだりでの登場でした)。
というわけで、この『ベスト珍書』、へんてこ本が好きな人、『本の雑誌』のハマザキさんの連載を楽しみにしている人、珍書プロデューサーの編集術をのぞいてみたい人は、ぜひ。
吉祥寺の特集雑誌が出ましたね。
特集は「大吉祥寺圏を遊ぶ」。版元の内容案内を引きます。
《自然豊かな公園、個性的な商店が集う横丁、味わいのある居酒屋、ジャズ喫茶……。「住みたいまちランキング」1位で有名な吉祥寺は、いつの時代も人でにぎわい、たくさんのカルチャーを生み出してきました。そしていま、駅周辺を中心に、大規模な再開発が進んでいます。まちの新しい楽しみ方、散歩ルートを提案します》。
雑誌の吉祥寺特集自体は、『Hanako』や『OZ magazine』といった情報誌ではおなじみのもので、それほど目新しいテーマではありませんが、今回の特集が目を引くのは、「大吉祥寺圏」ということで取材対象を、吉祥寺を中心に、三鷹や武蔵境などを含む近隣のエリア「半径3キロ」ほどに拡大していること。吉祥寺の中心エリアにある人気店の紹介という、よくある吉祥寺特集の枠を大きくはみ出した、ユニークな切り口の特集になっています。
特集全体からすると、それほどのページが割かれているわけではありませんが、本・書店に関係する文章も掲載されています。書き手がたまたま知り合いの方だったこともあり、吉祥寺の書店事情に関して取材に協力させていただきました。本・書店の話が出てくるのは3本。児童書のトムズボックス、古書店では藤井書店、吉祥寺の一人出版社夏葉社などが取り上げられている、岡崎武志さんの「ブックカルチャー 本が生きている街」。《本と読書に起きている“共有のための試み”を追ってみた》という北條一浩さんの「読書をシェアする、さまざまなカタチ」。吉祥寺が舞台の小説『書店ガール』がある作家・碧野圭さんの「吉祥寺が育てた小説」。この3本に、吉祥寺の書店と、吉祥寺書店員の会「吉っ読」(きっちょむ)のことが出てきます。
その他の記事にどんなものがあるかやどんな書き手の方がいらっしゃるかなど、掲載内容の詳細はこちらをご覧ください。
ところで。昨日、阿佐ヶ谷で行われた「夏葉社まつり」昼の部の会場に行ったら、写真家のキッチンミノルさんと、『本屋図鑑』イラストの得地直美さんがいたので、しばしおしゃべり。ぜひ紹介したい方がいるからと、キッチンさんに紹介されたのが、なんと、今回の特集に寄稿している金丸裕子さん(「チョッピングモール 個性が光る個人商店へ」、「回遊魚のごとく、バーを巡りたい」)と、野村麻里さん(「吉祥寺パルコ 街とともに歩み、三十五周年に向けた未来へ」)。ちょうど、夏葉社まつりに出かける前も、『東京人』をぱらぱら読みながら、この原稿の下書きをしていたところだったので、あまりの偶然にびっくりしてしまいました。
というわけで、今回の『東京人』の吉祥寺特集、従来の雑誌の吉祥寺特集はカバーエリアやお店の紹介の仕方など、雰囲気の異なる独自のものになっていますので、吉祥寺好きのみなさんはぜひ手にとってみてください。
さて、吉祥寺の書店と「吉っ読」が登場する、といえば、これもあります。
【“『東京人』が吉祥寺特集……そして、『書標』と『BOOK5』にも吉祥寺の書店が”の続きを読む】
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