*追記(7/11):TIBFの入場者数について、「新文化」と「文化通信」の記事が訂正されている旨、読者の方から指摘をいただきました。
確認してみたところ、「新文化」は、見出しが「第19回「東京国際ブックフェア」など4イベント、総来場者数は前年比13%増の7万4616人」で、本文は《7月5日から8日まで4日間、東京・有明の東京ビッグサイトで行われていた同フェアと、第16回「国際電子出版EXPO」、第2回「ライセンシングジャパン」、第1回「クリエイターEXPO東京」の総来場者数は、前年比12.8%増(7527人増)の7万4616人だった。》となっていました。記事の日付は7/9のままで、訂正された旨の断りはありません。
「文化通信」は見出しは同じで、記事冒頭は、《東京国際ブックフェア(TIBF)と国際電子出版EXPOの来場者は、合計で7万4616人となり、両会場が一緒だった昨年の4日間に比べて7527人増加【訂正】した》となり、訂正された旨の記載があります。
以下の記事は、入場者数が25%減という、大幅減に終わったという報道と、その数字に対する反応をもとに書いたものなので、数字がこれだけ大きく変わってしまうと、本来であれば意味がなくなってしまいます。でも、ブックフェアのありようについての意見や危機感のようなもの、改善できそうな点などについては、数字が変わっても、大きく変わるわけではないので、入場者数について、数字が変わっているということを明記したうえで、あえて、そのまま残しておくことにします。これからお読みになる方は、そのような文章だと思っていただけると幸いです。
ところで。当サイトのような個人blogの記事はともかく、業界紙の「新文化」が、一度発表した数字を、訂正して、そのことに関するアナウンスなしで、日付などもそのままにしておく、というのはちょっとどうかなと、個人的には思います。(*追記ここまで)
前回は、ブックフェアの個人的な印象を記しただけのレポートを書きました。あちこちにブックフェアの感想やレポートが上がり始めたので、拾い読みしてみましたが、WebやTLを見ていても、ぼくの周りでも、今回のブックフェア、総じて、あんまり評判がよろしくないみたい……(*追記あり)。(気になる記事をいくつかリストアップしてみようかと思いましたが、やめておきますので、気になる方は、ぜひ「ブックフェア」と「評判」「感想」「レポート」などの組み合わせで検索してみてください。)
まずは、業界紙2つの記事で、入場者の数を見てみましょう。
- 「第19回「東京国際ブックフェア」、総来場者数は前年比25%減の6万6115人」(7/9 新文化)
- 「東京国際ブックフェアと電子出版EXPO7万4000人余が来場」(7/9 文化通信)
新文化によれば、入場者は《前年比25・5%減(2万2652人減)の6万6115人》、文化通信によれば、《東京国際ブックフェア(TIBF)と国際電子出版EXPOの来場者は、合計で7万4616人となり、両会場が一緒だった昨年の4日間に比べて1万4151人減少した》とあります。
会期中の、日別の数を、両誌の記事を合わせた形でまとめると、このような感じ。
4日(水) 8501人(国際電子出版EXPOのみ)
5日(木)2万1687人(前年初日2万6034人)
6日(金)2万1618人(同2日目2万7752人)
7日(土)1万2010人(同3日目2万1310人)
8日(日)1万 800人(同4日目1万3760人)
前年比で4分の3になってしまったわけです。これは、数字だけで見ると、イベントとしては「失敗」と言われてもしかたないですね、ふつうに考えて。少なくとも、同じ規模で、同じ要領で、同じかたちで、さあ来年もやるぜ!と言える数字ではない気がします。
この記事、この数字を受けて、たしかにつまらないからしかたない、といった意見が目につきました。おもしろくない、見どころがない、つまらない……たしかにそうかもしれません。一般のお客さんにそう感じさせてしまったのだとしたら、それは真摯に受け止めないといけないと思います。でも、出版・書店業界の、少なくない人が、そのように口にしたり書いたりするのを見聞きしていると、では、つまらないからと、業界唯一の国際ブックフェアがなくなってしまったり、なくならないまでも規模が大幅縮小したりしてしまったら、それでいいのだろうか、と、そんなことを考えてしまうのです。
別に、ぼくはブックフェアを擁護する立場にもないし、そのつもりもありません。でもね、一方で、こうも思う。いいじゃないの、別に何の役にも立たないお祭りみたいなイベントが、業界に1つぐらい、1年に1回ぐらいあっても。
ブックフェア、たしかに、いろいろ問題はあるでしょう。でも、業界人と一般のお客さんが両方参加可能で、買い物するだけでもよし、セミナーや講演会だけをチェックするもよし、ふだんは紙派の人が電子のブースを、逆にふだんは電子派の人が紙のブースを、そんなにわざわざ感なくのぞけるような、本好きの人がシュリンクの機械や読書グッズだけを扱っている会社のブースをのぞけるような、そんな一緒くたのお祭りが1つぐらいあってもいいんじゃないの、と、ぼくはそんなふうに思うのです。
商談に役立つとか、何か特別なものが買えるとか、確実にこんなものが得られるとか、そういう場ももちろん必要だけど、そんな実利メインの集まりだけじゃつまらないじゃないですか。もともと、命に関わるような、日常生活品を扱っているわけじゃないんですから、我々の業界は。もうちょっと「遊び」があってもいいんですよ。
いったいなんの役に立つんだかわからないけど、でも、業界人と本好きが万の単位で集まるお祭り。そんな場を、1つも抱えておけないなんて、我々のいるこの業界は、いつのまにそんなに窮屈で余裕のないものになってしまったんでしょうか。もしそうだとしたら、ぼくは、この世界で仕事をしている者として、ほんとにさびしいと思います。
別に今のブックフェアがベストのかたちだとか、絶対に残さなくてはならないものだ、とか、そんなことが言いたいわけではありません。でもね、今、ブックフェアがなくなってしまったら、それでいいのか、という問いを、この世界で一緒に仕事をしているいろんな人に聞いてみたい気はしています。
前回のレポートにも書きましたが、業界唯一の大規模ブックフェアなのに、参加版元が減っているため、一般の人がよく知っている、有名な版元で参加していない社が実にたくさんあります。すると、お客さんの足が向かない。お客さんが来ないから本も売れない。また、出展をやめる版元が出てくる。悪循環ですよね。
参加している出版社にしても、本の割引販売「だけ」でお客さんにアピールするのはもう無理でしょう。新古書店も今ほどではなく、オンライン書店もなかったころならともかく、今は、新古書店やアマゾンのマーケットプレイスのように、新品かそれに近い本を安価で買える手段がいくらでもあるわけですから、交通費や入場料(を払っている人は少ないかもしれませんが)を払って、割引本を買いにいく、そんなお客さんでブースがあふれかえることを期待するのが、そもそも無理ですよね。
前回のレポートで、講談社のブースを見て、文庫だけか、みたいなことを言っていたお客さんを見かけたと書きましたが(もちろん、実際には講談社の展示は文庫「だけ」ではなかったわけですが、それはともかく)、たとえば、講談社学術文庫で生きているタイトルが全点そろっていて、しかも、在庫僅少本とか倉庫発掘本が放出される、となれば、反応する本好きはそれなりにいるかもしれない。昨年から今年にかけて図鑑のヒットが続き、新聞などでも複数回話題にのぼったことは空犬通信でも取り上げてますが、こんなときこそ、図鑑のライバル、小学館と学研が組んで、一緒に図鑑オンリーのブースを出して、土日には、「ふしぎ」や「くらべる」をキーワードにした親子向けの体験イベントを開くとか。
今年は辞書も話題になりましたよね。岩波書店と三省堂と小学館、それに光文社が組んで、辞書をメインにしたブースを出して、『舟を編む』に出てきたような辞書のゲラや用例カードの実物を展示したり、辞書の歴史がわかるような過去の名辞書たちを展示したり、三浦しをんさんと辞書編集者たちのトークイベントを開催したり。こんな地味なテーマでも、今年なら、確実に本好きの注目を集められますよね。
ライバルということで言えば、マガジンとサンデーの50周年のときのように、講談社と小学館が組んだり、文藝春秋と新潮社が組んだりして、ブースを出したり、共催イベントを実施したり。いずれも素人が駄文を書きながら練りだしたしょうもない案ばかりだけど、でも、出版各社がもう少し「社」とか「出展スペース」の枠にしばられないで、案を持ち寄ったら、一般のお客さんはもちろん、我々業界人にとっても新鮮なものが出てきそうな気がするんだけどなあ。
割引販売にしてもまだまだ工夫はできそう。せっかく安くなってても、単行本3冊も買ったら、正直、その後会場を回るのが嫌になるほどの荷物になってしまう。でも、送るとお金がかかって割引の意味がない。送料が無料になる(というサービスをそれぞれの版元がしているのかどうか知らないけれど)ほどは買えない。1500円買ったら送料無料なんて買い物になれているお客さんに、後でオンラインで、と思わせずにその場で買い物してもらうには、送料の点でもサービスできないか、考えるべきでしょう。版元に関係なく、会場内の出版社ブースで買った本の金額合計がある額を超えたら、送料を無料にするとか、宅配業者と組めば不可能ではないと思うのだが、どうだろう。
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