数日前、親しくさせてもらっているジュンク堂書店新宿店のYさんの取り計らいで、ジュンク堂書店新宿店の書店員のみなさん数人との飲み会を設定してもらいました。つい先日も、吉祥寺で書店員のみなさんと大変楽しい時間を過ごしたばかりですが、いやあ、こちらの会も実に楽しい会でした。新宿店のみなさん、ありがとうございました!
ジュンク堂書店新宿店と言えば、このブログでも紹介した通り、大規模増床をしたばかり。ちょうどふた月になるところですが、売り場や棚の様子も落ち着いたようで、リニューアルオープン当時は相当にへばっている様子だった担当のみなさんも、ようやくひと息つけるようになった、という感じでした。本というのは、自分の部屋で少し棚の整理をしたって、へとへとになるほど、重いわほこりっぽいわで大変なもの。あの規模、あの量の本を動かす作業がいったいどんなものだったのか……いやはや、素人には想像もつきませんが、すさまじいものであったことはまちがいありません。ほんと、新宿店のみなさん、お疲れさまでした。みなさんのがんばりで、お店は、ものすごく充実した「本の森」になってますよ!
さて、昨年の『書店繁盛記』に続き、そのジュンク堂書店関係者の書店論新刊が出ました。
著者は、しばらく前までは池袋店の副店長、今年4月から大阪店の店長。著書もあり、講演(ぼくも聞いたことがあります)などもあり、メディアへの露出も少なくないようですから、有名書店人のひとり、と言っていいかもしれません。
まず何より、書名がいいではないですか。昨年からこのブログでたびたび紹介してきていることですが、いま、書店(業界)がメディアに取り上げられると、たいてい苦しいだの、縮小だの、何店廃業だの、そんな「希望」を感じさせないようなことばかり。それに対する、書店現場からの異議とも言えるような書名になっているのが、書店好きにはまず単純にうれしいです。池袋店副店長、田口氏の『書店繁盛記』も、3/21の日記で取り上げた『書店ほど楽しい商売はない』もそうでしたが、やはり、書店論・書店本のタイトルはこうでなくっちゃ、と思わせます。
内容がこれまたいい。印象的なところ、気になるところに付箋を立てながら読んでいたら、あっというまに付箋だらけ。下手な要約を許さない中身でもあるので、目にとまった、気になった記述をいくつか紹介してみます。
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全部単行本で読んだか持ってるかなのに、文庫になると買ってしまう、のです。
- 池内紀『作家の生き方』(集英社文庫)
- 佐藤正午『ありのすさび』(光文社文庫)
- 金井美恵子『目白雑録 』(朝日文庫)
- 車谷長吉『贋世捨人』(文春文庫)
池内本、単行本は『生き方名人』という書名でしたね。百鬼園なら「借金」、吉田健一は「飲み助」、太宰は「心中」、安吾は「退屈」、井伏は「借用」、長谷川四郎は「おかし男」、植草甚一は「雑学」、寺山は「ホラ」といった具合で、取り上げられている作家は池内好み全開、つまり空犬好みだし、その作家の生き方を象徴する絶妙のひとことが付されているしで、作家ものエッセイとしては絶品です。
文章もいいが、添えられた写真もまたいい。知り合いの年若い女性書店員さんにこの本をすすめたら、吉田健一の写真をいたく気に入っていたようでした。気になる方は立ち読みで20ページを見てください。即買いさせずにはおかない、実にいい顔ですから。
その吉田健一の食がらみのエッセイ集『酒肴酒』、いかにも講談社文芸文庫から出てそうな本ですが、これ、光文社文庫なんですね。乱歩全集や戦前探偵雑誌シリーズ、綺堂、風太郎などで探偵者を驚喜させまくった光文社文庫、文芸ものでもときどき意外なの、気になるのが混じってますが、『ありの』がこの文庫から出たのはけっこうびっくり。親本、岩波ですからね、これ。
この著者、小説のほうはあまり熱心な読者ではないのですが、エッセイは、なんとも言えず肩の力が抜けた感じで、いい味わいです。タイトルもいいし、カバーも単行本よりもこちらのほうがいい。地方(佐世保)在住ゆえ、文壇バーの話も、文壇ゴシップも、派手な交友録もまったく出てきません。そういう“作家の生き方”「も」、というか「だからこそ」いいんですよねえ。
佐藤氏のエッセイの魅力が、“日曜午後の昼寝のような心地よさ”だとしたら、『目白』はそれとは対極的な作風でしょう。金井言うところの「マッチョ作家」のバカぶり、オヤジ言説をあげつらいまくる本書は、おもしろいところは多分に含みながらしかし読後はけっこう疲れます……。こういう“作家の生き方”もあるのだなという意味ではいいけれど、この手の「世情をメッタ斬り!」タイプには、自分がそんなに惹かれないらしいことを、あらためてはっきり確認させてくれる1冊となりました。
【“作家の生き方……最近買った本たち。”の続きを読む】
書店仲間&飲み友だちで、本ブログにもたびたび登場のブックスルーエ花本氏が、『新文化』Web版の連載「ルーエからのエール」に、
第18回 「吉祥寺、書店共闘計画私案」
第19回 「『吉祥寺、書店共闘計画私案』思案中」
なる記事を寄せています。
ルーエのみんなとはしょっちゅう吉祥寺で飲んでいるのですが、そのたびに、書店&書店業界活性化のアイディア……かなり現実的なものから妄想に近いものまで……をやりとりしまくって、大いに盛り上がっているのです。書店と言えばこの人、という感じのライター、永江朗氏はぼくも大好きな書き手ですが、『恥ずかしい読書 』(ポプラ社)のなかで、書店員とお酒を飲むのはつまらない、書店のおかれた現状や業務の愚痴ばかりだからだ、という主旨のことを書いている箇所があって驚いたことがあります。永江さんの書店ネットワークとは比べものにはならないものの、書店員さんたちと飲む機会の少なくないこちらには、そのような愚痴を聞かされてうんざりさせられた経験などほとんどないからです。それどころか、書店員さんたちとの飲み会は、個人的にはもっとも楽しい時間の1つになっています。
吉祥寺の飲み会は、まさにその典型です。毎回、こんなフェアがあったらおもしろい、こんなフェアをしかけたい、こんな帯を作りたい、こんな有名人を巻き込みたい、こんな書店があったらおもしろい……そのような前向きな話がほとんどで、時間が足りないぐらい。日常業務を愚痴ったり、大手版元や取次の悪口を言ったりする時間なんてもったいない。そして、ここから出てきたのが、花本氏も書いている「吉祥寺書店共闘計画」なのです。
そもそも、ぼくはこの書店の「共闘」という考えに、以前から興味がありました。このブログでも報告したことがある他書店の書店員さんたちを誘って飲み会を開いたりしたのは、そういう横のつながりが生まれたらいいのに、おもしろいのに、という思いから出たものです。それに賛同してくれる人たちが、書店員のなかにも決して少なくないことがわかってきたわけです。
これまではブックスルーエに空犬が加わるかたちの、内輪な会だったのですが、ここにきて大きな動きがありました。吉祥寺を代表する書店のひとつ、弘栄堂書店さんが加わってくれたのです。この2店に、吉祥寺以外の地域の書店員の方々まで加わって、先週、まさに花本氏が書く「決起集会」としか表現のしようのない飲み会が開かれたのです。いやはや、その盛り上がりようといったら! 書店業界が大変だ、苦しい、などとご親切にしょっちゅう取り上げてくださる大手メディアの方々に、彼ら書店員のエネルギーを伝えたい、見て欲しいと本気で思いました。この会については、花本氏も「ルーエからのエール」で報告してくれるはずなので、ぜひチェックしてください。
この計画は、参加者がようやくスタートラインにそろったような状態です。これから具体的なことが動きだすはずなので、今後も、このブログで報告していきたいと思います。ぼくは書店員ではないですが、でも、幸運にも立ち上げに関わることのできたメンバーの1人として、全面的に関わっていくつもりです。ブログでの報告はその一環ですね。「ルーエからのエール」を読んだ弘栄堂の人たちが反応してくれたことで、吉祥寺会が一気に動き出したように、これを読んだ書店さん、それこそ、吉祥寺にかぎらず、中央線沿線にかぎらず、いろいろなところから反応があったりするとうれしいなあ、などと、それこそ妄想のようなことを考えたりするわけです。
というわけで。この件、もしもご興味をお持ちの吉祥寺および近くの書店の方がいらっしゃったら、ブックスルーエ花本氏か、本ブログのコメント欄にてご一報ください。
【“「吉祥寺書店共闘計画」進行中です”の続きを読む】
またまた間が空いてしまいました。そんなところに、この訃報……。
「米作家のカート・ボネガット氏が死去」(朝日新聞)。
奇しくも、復帰第1回でも紹介したエッセイの、最後の数十ページを読んでいるところでした。
カート・ヴォネガット。大好きな作家で、一時期は本当に熱心に読んでいました。日本では村上春樹の、そして最近では爆笑問題の太田光のお気に入り作家として、SFファン以外にも割にその名前が知られているようですね。代表作は、映画にもなったこれでしょうか。
Amazonには文庫のカバーが挙がっていませんから、手元のを原作ペーパバックとともにあげておきます。もちろんハヤカワは和田誠さんです。
【“シニカルでやさしきユモリストの死……さよなら、ヴォネガット”の続きを読む】
早川書房の「異色作家短篇集」が完結しましたね。最後の3冊はアンソロジーです。
- 若島正編『18 狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』(早川書房)
- 若島正編『19 棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』(早川書房)
- 若島正編『20 エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』(早川書房)
この選集、実はわたくしの読書人生において、もっとも大事な、かつ、もっとも好きなシリーズなんです。全集・選集のたぐいで1つだけ挙げろと言われたらこれ、というぐらい。このシリーズは、もとは昭和30~40年代に全18巻のシリーズとして刊行されたもの。後に、新装版として昭和49、51年に12巻シリーズとして刊行されています。旧版は新装版にない巻があることもあって、マニアの間では根強い人気があり、それなりの古書価になっていたようですから、今回の復刊は旧版の古書価値的には残念に思う人もいるでしょうが、ぼくは単純に、このすばらしい短篇選集がオリジナルに近いかたちで、しかも入手しやすいかたちで読めるようになったことをうれしく思っていました。
ちなみに、ぼくが持っている旧版と言われる最初のシリーズ。なんといっても装幀・造本が格好いいんですよねえ。こんな感じです。
箱は、印刷の網点をあしらったモノトーンのデザイン。本体は、最初の6巻が赤、次が黄、残りが緑で、本体の背を向けて並べてもきれいです。Tales of M\menaceという欧文シリーズ名も格好いい。
ところで、このシリーズ、今も書いたように、もとは全18巻のシリーズ。最後の18巻は、旧版シリーズのキキメとされるアンソロジー『壜詰めの女房』です。新装版で落ちた6巻は、いずれもそれなりに高い古書価がついていて、入手も困難だったのですが、なかでもこの18巻は特別で、レア度において突出していて、古書目録やヤフオクでは2万円を超える値段がついていたのを見たこともあります。全18巻、じゃなくて、単体の値段で、ですよ。
ぼくは幸い、そんな法外な値段を出さずに入手できましたが、そんな事情なので、今回の復刊で、この1冊を楽しみにしていた旧版ファンの方もいたかもしれません。ところが、新版の18巻には、別の題名がついているではありませんか。旧版ファンが店頭でこの事実を知ったときの驚きと言ったら。ぼくも相当驚かされたくちです。
なにゆえ18巻が別のものになったか、また、アンソロジーの巻が2冊増えたのはなぜか、については18巻の若島氏による訳者あとがきにくわしいのでそちらをどうぞ。
【“早川の異色作家短篇集、新版シリーズ完結”の続きを読む】
これ、いい書名だなあ。
この書名に惹かれて手にした方が目次を開くと、こんな小見出しが並んでいます。
「読書の「特等席」」
「「ツン読」しかありえない」
「書斎は男の戦場だ」
「いまほど古本が安い時代はない」
「「乙女系」の古書店の隆盛」
「人に本を薦めないし、人から薦められても読まない」
「自分が溶けたら、本だけが残る」
……などなど。読書人なら興味を惹かれずにはいられないテーマばかりですね。。
岡崎ファンなら即買い必読は言うまでもないですが、岡崎本が初めての方にもおすすめです。というか、本好き、古本好きで岡崎本を読んだことがないという人にとっては、入門としては最適の1冊かもしれません。読書論ということで、古本のディープな話はこれまでの岡崎本に比べると抑え気味ですし、それでいて全編が岡崎節に満ちていることは変わりないですし、新書というフォーマットのせいもあってか、いつも以上に全体に読みやすく、話題のバランスもとれた1冊になっているからです。
そういえば、意外な感じもしますが、これ、岡崎氏としては初めての新書。文庫関連の著書が多く、文庫王、それも均一文庫王のイメージの強い氏ですが、著書のなかでたびたび昭和30年代の新書への偏愛を語っているのは、ファンならご存じの通り。そんな「新書」に自分の著書が加わるのは、さぞやうれしいことでしょうね。
【“「読書」の「腕前」とはこれいかに”の続きを読む】
ふだんはあまり行かない店ですが、店頭の「閉店セール」の貼り紙が気になって、久しぶりにのぞいてみました。さくら通りにある古書店ブックパワーRB。神保町好きには説明不要の店でしょうが、簡単に紹介しておくと、雑誌のバックナンバー、とくにスポーツ、音楽、映画、芸能関連分野の充実で知られるお店。以前は近くにRBセカンドやRBワンダーなどもありました。
店頭およびサイトの告知によれば、5月下旬でいったん閉店、時期・場所は未定ながら、《スポーツ専門店「RBスポーツ(仮)」として再出発の予定》なんだそうです。
同店では、現在、閉店セール開催中。スポーツ以外のジャンルの雑誌・書籍が半額です。
「どうせ空犬のことだ、また特殊映画関連文献でも買ったんだろう」
「いやいや、ぼくは雑誌より書籍派ですから、そんなに買うものはないんですよ。まあ、日本版ファンゴリア、とか、スターログとか、***とか、○○○とか(以下、その手の雑誌名、続く)、ほんとにちょっと買っただけですってば」
(↑やっぱり買ってるじゃねえか!)
↑収穫物の1つ。この表紙では、空犬が買わないわけにはいかないでしょう。
音楽・映画・芸能・ファッション・サブカル好きで、とくに雑誌のバックナンバーに探求本がある方は、全速力でブックパワーRBに駆けつけてください。
ところで、毎日のように見ているので、気がつきにくいのですが、古書店の閉店といえば、神保町もここ数年でずいぶん様変わりしましたね。
【“雑誌古書店まもなく閉店……変わりゆく神保町”の続きを読む】
昨年、7/9、8/14と二度ほど取り上げた札幌の書店、くすみ書房が、またまたおもしろいことをやってくれたようです。「いじめから守る45冊 札幌の書店発、全国200店に」(朝日新聞)。
記事によれば、《札幌のまちの本屋さんが、いじめに苦しむ中高生に読んでほしい本を集めたフェア「本屋のオヤジのおせっかい 君たちを守りたい」を始めた》のだとか。ここまでならふつうの書店発のフェアの話だけれど、《書籍の取次会社も後押しし、この春休み、全国の約200書店で開かれている》のだというから驚きます。
いじめで苦しむ子どもたちに本を、というと、おそらく「本に何ができる、本屋に何ができる」などと辛口の意見を言う人が出てきそうです。たしかに、本には即効性はありませんから、効果を数値や目に見える結果でしかはかれない人には無意味な試みに見えるかもしれません。
でも、本読みは、本が遅効性のメディアだからこそ、本当に苦しんでいる人たちに届きうるかもしれない、それも、時間をかけてゆっくりじっくりしみこむように届くかもしれないことを、たぶんそれぞれに読書体験を通して知っているのではないかと思うのです。ぼくもそうです。だから、本には人を動かす力があることを体験的に知る者として、本の力を割にナイーブに信じている一人として、こういう試みは大歓迎なのです。ひとつの店の独自フェアが大手取次を動かし、200店にまで広がっているなんて、うれしい話ではないですか。くすみ書房にも、そして、フェアの主旨に賛同した書店さんたちにもぜひがんばってほしいし、たくさんの中学生が全速力でそれらの書店にかけつけてくれるといいなあと心から思います。
リストには現在40数冊ほどが並んでいますが、今後、100冊ほどに増やしたいと同店のサイトにありますから、まだ進化を続けそう。その「君たちを守りたい リスト」はこちらでどうぞ。
最後に、くすみ書房のサイトから、男気あふれまくる店主の熱い言葉を引いておきます。
《マチの本屋として小学生のころから見守ってきた君たちがいじめに苦しんでいる。/そんな君たちの助けになる本を集めようと決めた。苦しくて袋小路に入りこんだ君たちに/大きな海に出るような本との出会いをしてほしい。おせっかいだろうが、/本屋のオヤジも君たちを守りたい。》
どうですか、この直球、ぼくは本気でシビれました。おやじ、ちょっと格好よすぎます。くさい、という人もいるでしょう。いいんです。くさいぐらいに本気でなきゃ、こんなフェア、組めませんから。発信側に照れがあるようじゃあ、子どもたちにも届きませんから。
新聞に書店がらみの記事が載ると暗い話が多くて、へこまされますが、今回のはいい記事だなあ。くすみ書房、いま、宮脇書店総本店(例の観覧車のお店です)と並んで、地方の書店のなかでもっとも行ってみたい書店です。
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