著者と版元のご厚意で、こんなすてきな本をいただいてしまいました。
- 村山早紀『シェーラ姫の冒険 愛蔵版』(童心社)
版元の内容紹介を引きます。《フォア文庫版刊行から20年、多くの読者に支えられた、剣と魔法の冒険ファンタジー。村山早紀の原点とも言える代表作を、装いも新たにお届けします。物語を読む喜びが味わえる、世代を超えて読み継がれる名作です》。
刊行から20年……そうか、そんなに経っていたのかなあ、と思って調べたら、『シェーラひめのぼうけん』(当時はひらがな表記でした)、シリーズ初巻の刊行は1997年。
長く子どもたちに愛読されてきた人気シリーズで、子どもと一緒に読んだという親世代の方も多いでしょうから、物語の紹介は不要かもしれませんが、念のため、版元の内容紹介を引いておきます。
《石に変えられた故郷を元に戻すべく、伝説の魔法の杖を求めて、七つの魔法の宝石を探す旅に出たシェーラ姫とファリード、ハイルの子どもたち三人は、大切な人々との出会いを重ねて冒険を続けます。仲間と力を合わせてさまざまな苦難を乗り越えていきます。そしてついに、七つの宝石が揃い、魔法の杖を手に入れるのですが、さらに大きな試練が襲いかかります……。生きること、それは、大切な人を愛すること。仲間を信じること》。
この内容紹介にもあきらかですが、姫に魔法に冒険に仲間にと、まさに王道のファンタジーですね。
本作はシリーズもので、フォア文庫版は全10巻でした(さらに、『新シェーラひめのぼうけん』全10巻もあります)が、今回の愛蔵版はシリーズ全10巻を上下2巻に収めたもの。著者のインタビュー(後述)によれば、《小学校高学年以上から大人の読者を対象にしており、当時小学生で読み、今大人になった読者たちも読みやすいよう、漢字を多めにしてい》るとのことです。
フォア文庫版で読んでいる者としては(しかも親子で)、このような立派なかたちになったものを手にすると、なんというか、感慨深いですね。
実際に手にする前に、入手したファンの喜びの声や、入手できずにいる愛読者のじりじりの声などをツイッターのタイムラインで眺めていたのですが、現物を手にしてみて、なるほど、シリーズの愛読者のみなさんが興奮するのもわかるなあ、と、しみじみそんなことを感じたりしたのでした。
というのも。このようなかたちで残る本はそんなには多くはないであろうからです。
児童文庫で長く愛されている作品は、ほかにもたくさんあるでしょう。(この記事で紹介した『若おかみは小学生!』もまさにそのような作品の代表的存在の1つでしょう。)でも、愛蔵版のようなかたちで残るものはほんのひと握り、というか、ほとんどないのではないかと思います。
子どもたちにどんなに人気の作品でも、児童文庫のものは、ターゲットの読者(と、せいぜいその親)以外に存在が認知されにくいため、大人の読者がつきにくい。必然的に、本の作り手も大人向けにあらためて仕立て直そう、別のかたちにしようとわざわざ考えたりしにくい、ということになります。(その意味では、映画化やアニメ化された作品(先の『若おかみは小学生!』がまさにそうですね)は本のターゲット以外の層にもアピールできる機会が広がりますので、幸運だと言えるかもしれません。余談ですが。)
この『シェーラ姫の冒険 愛蔵版』は、作者にとって、本にとって幸運なケースであり、また、新旧の愛読者にとって、とくに、古くからの愛読者にとっては最高のプレゼントなんだろうなあと、そんなふうに思ったのでした。
童心社のサイトには、各地で行われたサイン会やトークイベントの様子や、村山早紀さんのインタビュー記事などがあがっています。ファンはぜひそれらも合わせてチェックを。