ジュンク堂書店新宿店が、3月2日、増床してリニューアルオープンしましたね。
約1.5倍の広さ(1,650坪!)となり、蔵書数で池袋本店を抜いたと聞きます。……1.5倍、池袋本店を抜いた、などとさらりと書きましたが、もともと広かったあの新宿店が1.5倍になり、在庫で抜かれたのはあの巨大な池袋本店です。その広さや品揃えを知る人ならば、この増床がいかに途方もないものであるかがわかるでしょう。池袋本店増床のときも、あまりの規模のすごさに本気で驚かされたものですが、そのとき以来の衝撃です。
これまで2フロアだったのが、3フロアになったため、ジャンルによっては大幅に棚が増えています。これがもうとにかく圧巻。まさに「本の森」、いや、「本の迷宮」といっていいでしょう。店内の様子がサイトに写真入りで少し紹介されています。よくジュンクの棚や品揃えをさして「図書館のような」などと形容したりしますが、こんなものすごい棚や品揃えの図書館はそのへんにはまずありません。超図書館的空間になってます。
ここまですごいと、大喜び派と、どん引き派にわかれてしまうかもしれません。ぼくのように本に囲まれている感じが大好きなタイプには遊園地みたいなもの、ジャングルを探検する気分でわくわくなんですが、逆に、苦手な人には広すぎ、多すぎで、本の森で迷子になり、本の海で溺れる人も出てくるでしょう。
たしかに、探している本・欲しい本が1冊に決まっていて、他は興味なしといった、よく、新聞のサンヤツ(広告)の切り抜きを手にして新刊書店にやってくるタイプの方が、この森の中で目指すものを探しだそうと思ったら、ひと苦労、ふた苦労ありそう、というか独力では探せない可能性も高そうです。「書名買い」ならば新刊中心の中規模店のほうが探しやすいし、ネット書店で検索するほうがさらにラクでしょう。
そういう買い方が悪いというつもりはもちろんないのですが、でも、それは、本来的な意味での書店の楽しみ方ではないように思うのです。少なくとも、「ジュンク堂書店」という場所の魅力は、本の書名買い・1点買いでは前面に出て来ない気がするのです。
ジュンクのすごさを堪能するには、やはり本の森で迷ってみるのがいちばんだと思います。本の森で迷子……いいじゃあないですか、これ。お目当ての棚を探してうろうろしているうちに、ふと気がつけば、自分には縁がないジャンルの棚に囲まれている。周りは見たこともない本、聞いたこともない作家の名前だらけ、見覚えのある表紙や背は1つもない……大型店苦手派にとって悪夢でしかないこういう事態こそが実は、ネット検索では出会えないような本に出会う最大のチャンス。ジュンクはフロア中にそんなチャンスが満ちているお店なのです。ぼくもそうやって、お目当ての棚に向かう途中でふと目を奪われて手にした本を買うことになったりは何度も経験しています。思いがけない本との出会いは、サンヤツ片手に、質問した書店員さんに出してきてもらった本に出会うよりもずっとうれしく楽しいものです。
出会いは、縁のないジャンルの棚でだけではもちろんありません。ぼくはジュンク堂新宿店カルトQがあったらぜひ出場したいぐらい、以前の棚の様子、とくに自分の担当ジャンル、自分の好きなジャンル、文庫・児童書などは相当に熟知しているほうだと思っていました。そういうよくしっているはずの棚でさえ、のぞくたびに発見があります。「こんな本まで……」「こんな本が……」というのにしょっちゅう出会うのです。今回のリニューアルでようやく頭に入った棚配置や品揃えの知識もリセット、スタートに逆戻り。でも、それでいいのです。またしばらくは、探検気分にひたれますからね。
そういうわけで、ジュンク堂は大好きな書店ですが、個人的にはいくつか困ることがあって、たとえば、つい長居をしてしまうことが1つ(見るべき棚、本の数が多いから)。つい散財してしまうことも1つ(しょっちゅう「発見」があるから)。よかった、神保町とか吉祥寺になくて。あったら大変だ(苦笑)。
ところで、
朝日新聞の土曜版別刷り3/10付「be」の「フロントランナー」でジュンク堂の工藤社長が取り上げられていましたね。「退路を断たれ「本の森」広げる ジュンク堂書店社長工藤恭孝さん(56歳)」。インタビューの最後に、将来の展開について聞かれ、こんなふうに答えています。
《売り上げはもう十二分で売り上げ競争はしたくない。新規出店はできるだけ控えています。地元からどうしてもという声には応えますが。数字より喜んでもらえる店がいいです。》
「喜んでもらえる店」、単純だけどいい表現です。社長がこのような店をのぞんでいるかぎり、ジュンク堂は読書人に愛される店であり続けてくれることでしょう。
まだまだ棚は未完成の様子。お店のスタッフのみなさんは、これからしばらく大変な日々が続くことでしょう。未完成の棚を客に見られるのはプロとして気になることなのかもしれませんが、書店の棚が完成していくまでの過程が見られる機会なんて滅多にあるものではありません。書店好き・本好きにはむしろ貴重な機会かもしれません。なので、他店から応援の方が来られたり、時間外の作業も相当に出るほど大変だと聞いていますが、あんまり無理せずに、棚作りを楽しみながらがんばってください。空犬通信も、全面的に応援しています。
そして、都内近郊の本好きのみなさんは、ぜひぜひこの「本の森」あらため「本の迷宮」探検に出かけていただきたいものです。
◆今日のBGM◆
- ジェイムズ・ブラウン『アイム・バック』
ブログ復帰にふさわしいBGMにしてみました。創刊『Rolling Stone』日本版でもJB、フィーチャーされてましたしね。でも、あれれ、品切れだ。じゃあ、これはどうだ。
- スライ・ストーン&ザ・ファミリー・ストーン『ウェル・アイム・バック』
こちらはジャケなし。原題は、"Heard Ya Missed Me, Well I'm Back"。「なになに、俺がいなくてさびしかったって、よしよし、もどってきてやったからさ」みたいな俺様チックなタイトルで、自分でBGMにあげておいてなんですが、空犬的にはもう少し謙虚に静かに復帰したいものであるなあ、などと思いました。