音楽好き兼野鳥好きにはまさにぴったりの本で、実におもしろく読みました。
- ライアンダ・リン・ハウプト『モーツァルトのムクドリ 天才を支えたさえずり』(青土社)
版元の内容紹介を引きます。《モーツァルトがたった34クロイツァーで購入したペットのムクドリ 当日の支出簿には、ムクドリのさえずったメロディと「Das war schon!(美しかった!)」というコメントが記されていた。筆者がモーツァルトにならい、実際にムクドリを飼いながら書かれた愛ある一冊》。
音楽は大好きですが、モーツァルトに関しては、代表曲は知っているという程度で、熱心なリスナーからはほど遠い身。野鳥は大好きで、それもめずらしい鳥ではなく身近な鳥を愛してやまない愛鳥家のつもりではありますが、ムクドリはとくに思い入れのある鳥ではありません。つまり、書名のキーワード2つに、それほど思い入れがないということになるんですが、それでもおもしろく読めたのですから、本の力はすごいなあとあらためて思います。
タイトルにあるムクドリは、日本でふつうに見られるムクドリとは別の種の、ホシムクドリ。図鑑によれば、日本では九州南部や南西諸島に飛来するが数は少ないとのことですから、本州ではふつうには見られないようですね。日本野鳥の会のサイトの、ホシムクドリ紹介ページはこちら。ムクドリについてはあらためて紹介するまでもないでしょうが、愛鳥活動がさかんなことで知られるサントリーのサイトからこちらを。
ムクドリ(ここでは、本州でふつうに見られるムクドリのこと)は、1羽でいるところ、とくに、とことこと歩いている姿などはけっこうかわいいんですが、群れる習性があるのと、しばしば街路樹など、人間の居住エリアのすぐそばにねぐらを定めたりするものですから、その鳴き声(かなりにぎやかです)や糞で、人間とのあいだに軋轢が生まれやすいんですよね。人間の居住エリアでは「害鳥」扱い、なのです。ムクドリで検索するとこういう記事がいくらでも見つかります。
それは北米におけるホシムクドリも同様、というか、あちらのほうが事態はさらに深刻なようで、そのものすごい数(北米だけで数億とされています)から、積極的に駆除が行われていたりまでするようです。
本書では、そのような、「駆除されて当たり前」の野鳥と著者とのくらしと、書名にあるモーツァルトが飼っていたとされるムクドリについて調査とが、行ったり来たりしながら語られています。どちらのエピソードも大変におもしろくて、本書を読み終えるころには、近所の公園にムクドリに会いに行きたくなったり、モーツァルトの曲を聴きたくなったり、そんな気分になっていること請け合いです。
参考に、昨年、全国紙に出た書評を紹介しておきます。
- 「『モーツァルトのムクドリ』 ライアンダ・リン・ハウプト著 評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)」(2018/10/29 読売新聞)
- 「『モーツァルトのムクドリ 天才を支えたさえずり』 ライアンダ・リン・ハウプト〈著〉」(2018/12/8 朝日新聞)
評者、読売新聞は植物学者の塚谷裕一さん、朝日新聞は音楽家の寺尾紗穂さん。読売新聞の書評の末尾に、《本書はクラシックファンでも、またナチュラリストでも楽しめる内容となっている》とありますが、二紙の書評が、片方がナチュラリスト、片方が音楽家となっているのも、この本のユニークさを示しているようでおもしろいですね。
いずれも、ぼくの駄文と違って、本書の魅力を簡潔に伝えてくれる紹介文になっていますから、本書に少しでも興味を引かれた方は、読んでみるといいでしょう。