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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

「地方の書店は自助努力が足りない」のだろうか

さて、昨日の件。なんだか、ふだん以上に焦点の定まらない文章になってしまっていました。補足のため、関連の新聞記事をあげておきますね。「アマゾン:日本上陸10年 送料無料で攻勢」(11/1毎日新聞)。「アマゾン:通常配送料金を無料に ご当地グルメのコーナーをオープン」(11/1毎日新聞)。「アマゾン、無料配送を本格展開 日本進出10周年で攻勢」(11/1 MSN産経ニュース)。毎日の記事では、アマゾンの予想売上高や楽天の比較、無料化にいたる背景、他の大手通販業者の対抗策などにふれられています。


あと、もう1件、店頭でバーコード読み取り云々の件について、大事な記事を紹介するのを失念してしまいました。もともとは、これを紹介するために、この問題を取り上げたようなものだったのに……。「アマゾンの「ポチ買い」は書店を滅ぼす?」(10/21 マガジン航)。書き手は大原ケイさん。この問題が書店、とくに独立系書店にとってどれほど、そしてどのように脅威なのか、がわかりやすくまとめられています。


で、そのアマゾン。日本のオンライン書店のなかでは、ダントツの売上をほこっているわけですが、書籍およびCD・DVDなどのパッケージメディアを中心に扱う、広義の「オンライン書店」の売上げをランキングで紹介している記事がありましたので、ご紹介します。「ネット書店の売上ランキングと売上金額」(10/27 日本著書販促センター)。書き手は、「出版流通コンサルティング」の冬狐洞隆也氏。


このお名前、当blogをお読みくださっている方なら、ピンとこられた方もあるかもしれません。いつだったかの記事で紹介した、「書店の減少傾向はいつまで続くのか」の書き手の方です。


前回の記事も、書店と関係者の方々に対してやたらにとげのある書き方で、内容も実に不用意なものだったので、批判的に取り上げたのですが、今回も、一読、びっくりしてしまいました。だって、またしても、ずいぶんな書き方がされているのですよ。


(以下、やや批判的な書き方をしています。書店事情にご興味のある方で、そのような文章でもいい、という方だけお読みいただければと思います。)


このようなデータ自体は有用なものだし、これがきちんと分析・解説されていれば、有益な一文として広く紹介したいところなのになあ……。アマゾンの売上にふれた最初の段落に続いて、いきなり、こんなことが書かれています。


《2)ネット書店の顧客は首都圏4県に集中している。次が大阪・神戸・京都を中心とした関西圏である。地方圏で出版物が売れなくなったのはネット書店の影響が大との発言もあるが全くのウソで、自助努力が足りずに他人に責任を押し付けているだけである。》


……。ひどい書き方だなあ。書店員のみなさん、とくに「地方圏」のお店のみなさんは、これを読んでどう思われますか? オンライン書店の売上を数値で比較してみせるのに、背景の説明も何も抜きで、いきなりウソだの、努力が足りないなど、なんでこんな書き方になるわけ?


オンライン書店の主力商品である「書籍」にかぎらず、生活必需品でない嗜好品などの買い物は、都市圏のほうが件数も多く、金額も大きくなる傾向にある。そんなことは、別に流通のプロでなくても、ふつうに教育を受けてきた人なら想像がつきますよね。


そのうえで、ネット書店の顧客の地域差を論じるのであれば、何を根拠に、何を比較し、その比較で何をあきらかにしたいのかを、はっきり示すべきでしょう。だって、首都圏に顧客が集中って、あたりまえでしょう。もともとの人口が違うのだから。そういう、都市部と地方の人口の差も計算に入ってるの?


オンラインショッピング利用率が都市部で高くなるのは、地方の小売店の「自助努力」と無関係だとまではもちろん言わないが、そういう個々の努力で云々できるレベルとはまったく別の要因だってたくさんあるでしょう。先に書いた、もともとの人口の違いがまず大きいわけだし、それからオンラインショップにアクセスするためのネットワークなどインフラの問題、電子機器類の普及や入手しやすさの違いもある。もともと書店の、軒数も総床面積も、都市圏と地方圏ではぜんぜん違うのだ。


朝日新聞、先週の夕刊に連載された「出版サバイバル」だったかな? 今手元に記事がないので、正確に引用できないけれど、朝読の取り組みが紹介されてましたよね。そのなかに、村内に書店のない地域での例が、たしか取り上げられていましたっけ。


記事では、学校の先生の努力によって、こうした読書環境が生み出され、読者が生まれる様子が紹介されていました。地域に書店がなく、学校・公立図書館の蔵書もかぎられているようなエリアに暮らす子どもたちに、読書を根づかせようと思ったら、それなりの努力が要る、という好例でしょう。地域の主たる産業が漁業や林業だったりするところ、山間部など流通的に不利な立地にあるところ、そのような街だってあるわけです。で、そのような地域で、本にふれないことが当たり前の環境で育った人が、ネットワークやクレジットカードを手にしたからといって、オンライン書店でぽんぽん本を買うようになるわけがないじゃないか。


そういうさまざまな問題を論ずることも、きちんとした数字をあげることもせずに、自助努力が足りないだの、他人の責任にしてるだの、流通のプロがそんなことを書いていいの? たとえば、『旬刊 出版ニュース』の2010年10月下旬号には「2009都道府県別書店販売実績」が掲載されているけれど、こういうデータはきちんと見ているんだろうか。そして、地域ごとの販売の実態を、過去のそれと比較したり、都市圏と地方圏で比較したりといった、基本的な分析を行っているんだろうか。


《地方圏で出版物が売れなくなったのは……自助努力が足りず》などと、雑ぱくな書き方をしているけれど、では、「努力」をしている書店の例は、どれぐらい調べたんだろう。『LOVE書店』の連載「離島の本屋」を読んだことはあるんだろうか。圧倒的に交通の便に恵まれない山間部にありなりがら、訪れる人が必ずびっくりするような「すごい」お店を維持しているイハラハートショップのような例を、いったい、どれだけ知っているというのだろう。離島や山の中の話は極端だ、というのなら、たとえば、しばらく前に新文化「本屋の歩き方」にも取り上げられた、熊本の老舗、長崎書店のような、地方の街で努力をかたちにしている例はどうだろう。反証としてあげたい「自助努力」に満ちたお店の例は、いくらでもあげられる。


こういうblogをやってるぐらいだから、毎日、メディアで取り上げられる書店関係の記事はできるだけ目を通すようにしているし、ぼくのツイッターのTLも書店関係の人でいっぱいです。Amazon他オンライン書店に関する言及も多く見かけるけど、「うちの本が売れないのはオンライン書店のせいだ」などと、はなから「他人の責任にしている」論なんて、そんなに見かけないよ。そういう意見や思いや実態がゼロではないだろうけれど、それが、地方圏の書店員さんたちの総意のように書くのは乱暴すぎる。プロの書き手(なのかどうかもよくわからないけれど)、「流通のプロ」を名乗る人がこんな書き方でいいのだろうか。


とにかく、このような乱暴な文章を、あえて世に問う意味がよくわからない。ここには、綿密な分析も、関係者への提言も、何もない。続く段落を見てもそれはあきらか。


《ネット書店はその商品の大半を取次から仕入れている。取次経由の書籍の売上が8,492億円であるので如何にネット書店が読者に支持されているか理解できる。》……「であるので如何に」といった、文章がいささか舌足らずなのはおくとして、商品の仕入れ先が取次、取次の売上げがこれこれ、だからネット書店が支持されている、という論法はどうか。


《中小専門出版社の売上の2割~3割はネット書店の売上との声が多くなった、この傾向は今後も続くであろう。後はどのように読者への告知・宣伝を仕掛けるか知恵比べとなる。》……ご存じの通り、出版界というのは中小の集まりなので、4000社強の多くが中小だ。専門性の高い版元でネット書店の売上げ比率がそれなりに高いことは想像はされるものの、想像は我々素人にもできるわけで、ここはデータを示すべきでしょう。流通のプロが、このような文脈で《声が多くなった》で片づけるのはいかがなものか。告知・宣伝の重要さは、ぼくがこの業界に入ったころにもすでに言われていたし、その前に出ている出版関係の本にもたいがい書いてあったし、むしろ、出版史上、宣伝・告知の知恵比べが必要でなかった時代などはたしてあったのか、と思う。まるでいいまこの時代に初めて重要となったような書き方だ。


《CD・DVDの通販はネット配信に変化しており売上の減少は続くだろう。》……HMVの閉店、電子書籍関連の騒ぎで、パッケージメディアの凋落について、いろいろな意見・数字・予測を目にしたが、ここまで当たり前のことを今さら流通のプロがまとめのように書いてしまうことに、驚かざるを得ない。これはほぼ何も言っていないに等しい。


この調子で書いているときりがないので、やめておくけれども、これらからも明かなように、とても、緻密な分析のもとに書かれた文章だとは思えない。同じように、データを示し、そしてときに辛辣な文章が付されたまとめでも、このようなものもあるのだ。「出版状況クロニクル」。状況を分析して、それを世に問う、というのはこういうことなのではないだろうか。


適当な書き方で、ただでさえ苦しい状況におかれている書店の人たちを貶めるようなことはしないでほしい。


……この空犬通信では、楽しいことしか取り上げたくないのだけれど、前回の『古本屋名簿』といい、今回といい、自分の大事にしている世界がないがしろにされているようなものを目にしてしまうと、大人げないとは思いつつ。つい反論、批判したくなってしまうのです……。不愉快な思いをされた方がいらっしゃったら、お詫びします。


それにしても。この件、書店の人たちから声が上がらないのは、先の文章が関係者の方々の目にあまりふれていないからなのかなあ。それとも、こんなこと気にするの、ぼくだけなんだろうか……。


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