このブログを訪問してくださるような、書店・本に関心の強いみなさんのなかには、昨日のこの記事には驚かされた方も多いのではないでしょうか。「丸善とジュンク堂、共同ブランドの大型書店 10店前後」(9/14朝日新聞)。短い記事なので、全文を引かせていただきます。
《大日本印刷の傘下で書店チェーンを展開するCHIグループは、丸善書店(国内41店舗)とジュンク堂書店(同41店舗)の共同ブランドを中心に、今後1年半で10店前後を出店する。売り場面積が平均3000平方メートル程度の大型店で、今月2日には共同ブランドの1号店を東京・渋谷の東急百貨店本店に出した。一方、小型店など数店は閉める計画。》
《1年半で10店前後》の出店で、しかも《売り場面積が平均3000平方メートル程度の大型店》と、ペース・規模ともに、にわかに信じられないような数字があがっています。3000平米は、坪換算で900少し(907.5ぐらい)。先日の渋谷や、来月の吉祥寺が1100坪ですから、これが全体でどれだけの規模の出店計画か、想像がつくかと思います。
実はこの件、昨日の記事で急にわかったことではなく、すでに既報があったのですが、タイミングを逸して紹介しそこねていました。「 既存書店は大型化で生き残り 丸善とジュンク堂、1年半で10店 共同ブランド店も」(8/28日本経済新聞)がそれ。
記事冒頭は《大日本印刷(DNP)の傘下にある書店チェーン大手、丸善書店とジュンク堂書店(神戸市)は共同で2012年1月までに売り場面積が3千平方メートル前後の大型店を10店出店する。共同ブランドの店を中心に首都圏や地方の県庁所在地を中心に新設する。同時に300平方メートル程度の小型店数店を閉める。電子書籍や書籍のインターネット通販の拡大で書店経営は厳しさを増している。このため販売効率の高い大型店で生き残りを目指す。》となっています。
ジュンク堂書店の出店については、年内に大阪への超大型店出店計画があることをつい先日、記事で紹介したばかり。この新しい大阪の店を含む既報の出店(広島、吉祥寺、郡山)は、10店にカウントされているんでしょうが、残りも、このような、既存競合店が複数ある地域への、超大型店の出店なのだとしたら、これは全国あちこちで、書店地図が大幅に、激烈に描き変えられてしまうことになりかねません。
実際、今日ツイートで知らされたニュースなんですが、八重洲ブックセンターの郡山うすい店の、9月末での閉店が決まったそうです。郡山といえば、ジュンク堂書店が10/29に700坪超の店を出店することが発表されている街。ジュンク進出ひと月前の撤退ということですが、この閉店開店にまったく影響関係がないとは考えにくい。今後も、大型店出店エリアでこのようなニュースが相次ぐことにならないとはかぎりません。
書店に関心のある者として気になるのは、こうした出店ラッシュが、CHIグループだけの動きでないように思えるような出店ニュースが最近多いような気がするからです。ごく最近報じられたものだけで、たとえば以下のようなものがありました。
- 「くまざわ書店グループ、大阪屋で新規3店が決定」(9/15新文化)
- 「コーチャンフォー 旭川店がオープン 書籍100万点 文具15万点」(9/14北海道新聞)
- 「大垣書店、京都駅北側の大手家電量販店に出店」(9/10新文化)
- 「文教堂GHD、2カ月間で5店舗の出店・増床」(9/13新文化)
ほかにも、ぼくが気づいていないものがあるかもしれません。これらは、CHIと違い、超のつく大型店は旭川のコーチャンフォー(施設全体が1730坪、書籍・雑誌を扱う書店部分は約900坪、という記事がありました)ぐらい。大型店が続くのも不安な感じにさせられますが、仮に中小規模だとしても、これだけ短期間にあちこちで、特定のチェーン/グループが出店を繰り返しているのを知らされると、大丈夫なんだろうか(そのチェーンが、出店対象地域の経済が、書店業界全体が、のすべての意味で)、という不安を覚えずにはいられません。
というのも、先の日経の記事にあるように、書店の数については、《書店は淘汰が進んでいる。出版社のアルメディア(東京・豊島)によると、2010年5月時点の全国の書店数は前年同月比3%減の1万5300。この10年で見ると3割減少した。》という状況にあるからです。同記事はこう続きます。《一方、店舗の大型化は進み、売り場面積は4678万9400平方メートルとこの10年で15%広がった。「経営基盤の弱い中小書店の閉鎖が増える中、品ぞろえが広く、効率的な店舗運営ができる大型店が増えているため」(アルメディア)という。》
新しい書店ができること。もちろん、それだけなら本好き書店好きには歓迎すべきことです。実際、これまでに、書店の新規出店に関する件をツイートやブログで取り上げると、必ず、「うれしい」「歓迎」「やっほー」「これで○○(大きな街)まで出なくて済む」といった声が複数あがっていました。街の利用者にとっては、新しくて、大きくて、品揃えのいい店の出現は、うれしいに決まっています。
でも、他の業種の話はともかく、書店の場合、取り扱い商品である「本」は非常にきびしい状況にさらされているわけです。売上は毎年下がり続け、今年は電子がらみの騒動に業界全体が大きく揺らされています。「電子は敵ではない」「電子も1つの商機である」「電子と紙の共存が重要だ」……いろんな言い方がされています。いずれにも、正しいところは含まれているかもしれません。でも、電子版の「もしドラ」やサンデルの「正義」を買った人は、同じ本を書店で買うことは(形態の違いを比較検証することが趣味だったり仕事だったりするマニアや関係者を除けば)まずないでしょう。これまでなら書店で売れたかもしれない本が、書店では物理的に売れなくなっているのは事実なわけです。
そんななか、はたして、競うように大きな店舗をあちこちに出していくことが、書店にとって、ほんとうに得策なのかどうか。少ない食い扶持をとりあって、お互いに疲弊させあうようなことになっていはしないでしょうか。
これは、やはり書店の出店についてふれた先日の記事でも引用したのですが、「書店:「MARUZEN&ジュンク堂」渋谷店が開店」(9/2毎日新聞)にこんなくだりがあります。《岡充孝ジュンク堂書店社長は「読者の視点に立った店づくりを進めるため、書店同士が協調してやっていくべき時代に入ったと思う」と話す。》
平均900坪の大型店をあちこちに10店も出店することを考えている方にとっての、「書店同士の協調」とはいったいどのようなものなのか。皮肉でも意地悪でもなく、一度うかがってみたい気がするのは、おそらくぼくだけではないでしょう。