非書店ネタが続きます。しかも、探偵に特撮にと、趣味に走り過ぎの本の話題で、すみません……。
なんか、モンスターの本が続けて出ましたね。
『突撃! モンスター映画100』は、書名の通り、狼男にヴァンパイアからエイリアンにロボットまで、(広義の)モンスターが出てくる映画をずらりと紹介した、異形好き怪獣好きにはたまらない1冊。最初から最後まで、全編これ、大好きな映画と、みんなが大好きなモンスターたちでいっぱいです。リック・ベイカー、レイ・ハリーハウゼン、フィル・ティペットら、このジャンルの映画好きにとっては神様のような職人たちを取り上げたコラム「モンスター映画偉人伝」もgood。このコラム、もっとたくさん載っていたら、なおよかったなあ。それにしても秘宝のムックはすごい勢いで出てますね。
『ユリイカ』の特集はなんと「ゾンビ」。副題には「ブードゥー、ロメロからマンガ、ライトノベルまで」とあります。平成仮面ライダーのときもびっくりしたけど、今度は、ゾンビがきましたか(笑)。同誌が本格的にこの種の異形を扱った特集となると、「モンスターズ!」(1999年5月号)以来、ということになるのかな。
中身のほうは、ゾンビマンガにゾンビ映画にゾンビノベルにゾンビラノベにゾンビ文化にと、もりだくさん。くわしくは、上の書名リンク先で目次が見られるので、そちらをどうぞ。そういえば、ゾンビと言えば、先に紹介した洋泉社のムックで、こんなのも出てますね。ゾンビ者はこちらも要チェックでしょう。
3冊目は、まだ購入していないのですが、モンスターものの新刊ということで、一緒に紹介しておきます。『モンスター大図鑑』。副題に「SF、ファンタジー、ホラー映画の愛すべき怪物たち」とあります。こんな本です。
《本書は、マイケル・ジャクソン『スリラー』のショートフィルムや『ブルース・ブラザーズ』、『狼男アメリカン』などで知られる映画監督ジョン・ランディス氏の初の著書となります。 古今東西の映画から、吸血鬼、ミイラ、オオカミ人間、ゾンビ、宇宙人などなど、多彩なモンスターたちを、ハリウッドの特殊メイク・SFX事情を知り尽くした氏ならではの独断と偏見でビジュアル豊かに紹介。約900作にものぼる映画作品のモンスターたちを総覧でき、資料性も高い1冊となっています。また、クリストファー・リー、デヴィッド・クローネンバーグ、サム・ライミ等々モンスター映画の巨匠たちとの対談も見どころです。》
著者はなんと、我らがジョン・ランディス監督(!)。その筋の人にはあらためて説明するまでもありませんが、モンスター・特撮系では、上の内容紹介に出てくる作品のほかに、吸血鬼ものの『イノセント・ブラッド』、TVシリーズの「マスターズ・オブ・ホラー」などもある、「飲み屋で好きな映画の話をしたら楽しそうなタイプ」の監督さんです。
本書は、意外にも初めての著書だとか。それにしても、初著書が「モンスター」で、しかも「大図鑑」。すてきなおやじだなあ(笑)。『ブルース・ブラザーズ』1本で、勝手に心の殿堂入りしていただいている監督なんですが、こういう幼稚、もとい、純真(ちょっと違うか)な著作を出されると、ますます好きになりますよね。
↑追記(1/31):結局、買ってしまいました……。
ちなみに、いまいちばん楽しみにしているモンスター本はこちらです。
↑カラーチラシ。
《創立50周年を迎える円谷プロが「ウルトラマン」や「ミラーマン」などの特撮作品で作りだした怪獣約2,500体を、すべて収録した日本初の大図鑑。細かいヴァージョン違いや宇宙人の円盤などの詳細な情報まで掲載》とあります。2500体! 400頁超!しかもオールカラー! これは滅茶苦茶楽しみですよねえ。3/8ごろの発売だそうです。
以前に、渡辺温『アンドロギュノスの裔(ちすじ)』(創元推理文庫)を紹介したことがありました。こちら。その末尾に、こんなふうに書きました。
《ところで。薔薇十字社の本で、探偵関連で、アンソロジーなどでは読めるけど文庫など単独本がなくて、と、いろいろ共通点の多い作家といえば、大坪砂男ですよね。これも、けっこうな値段出して、全集、買ったんだよなあ。結局、読み返すのは「天狗」一作だったりするんだけど、それでもやっぱり全集で持っておきたかったんだよなあ。東京創元社さん、ま、まさか、これは文庫にしたりしませんよねえ……。》
文庫化の噂が出ていることをその後知るわけですが、それから待つこと1年以上。とうとう、刊行されましたね。BOOKSルーエで買ってきました。
版元の内容紹介を引きます。《高木彬光、山田風太郎らとともに、江戸川乱歩から“戦後派五人男”と称された不世出の天才・大坪砂男の作品を、旧全集二冊の全収録作に、単行本未収録作ほか随筆、著者にまつわる文章等を増補し、単独名義としては初となる文庫版にて全4巻に集成。本巻には「赤痣の女」をはじめとする、警視庁鑑識課技師・緒方三郎もの全短篇などの本格推理作品を収録した》。
全4巻ですか。1巻1300円ですから、全部買うとけっこうな額になりますが、薔薇十字社版全集の古書価を思えば、また、全集未収録作品がカバーされていることを考えれば、ファンにはぜんぜん高くはありませんよね。
『アンドロギュノスの裔(ちすじ)』のときに書いたことの繰り返しになりますが、薔薇十字社の全集を持っている身としては、今回の文庫化、悔しい気がまったくしないではないんですが、まあ、そこはやはり、手軽で読みやすい文庫になって、ふつうに買えるようになるのはうれしいことだと思わなくてはいけませんね。
大坪砂男と言えば、やはり「天狗」。もう何十回読み直したかわからない、大坪作品のベストというだけでなく、大正・昭和の探偵小説に範囲を広げてもベスト3に入れたいぐらいの、超偏愛作品です。同作については、過去にも、こんな記事やこんな記事でふれています(うち、後者では、西村賢太さんによるすばらしすぎる「天狗」評を引用しているので、ぜひ)。その「天狗」は、全4巻のうち、2巻に収録されるようで、2巻の表題にもなっています。別に全集でも、国書刊行会の探偵クラブでも読めるんだけど、でも、やっぱり楽しみだなあ。
↑国書刊行会の「探偵クラブ」の大坪砂男の巻「天狗」。1巻本としては最高の選集で、全集ではなくこちらのほうで、何度も再読してきました。
文庫になること自体、奇跡的なこと、探偵者としては、ただただ喜んでいるべきで、よけいなことを書くべきではないかもしれませんが、偏愛作家の文庫化なので、やっぱり気になったことも書いておきます。このすばらしい文庫全集に、1つだけ個人的に残念なことがあるとしたら、装丁がちょっとイメージと違う感じに思われたこと。「イメージと違う」などといっても、こちらが勝手に思い描いている「イメージ」ということで、別に正解があるという話ではないのですが……。
全体の赤を基調にした色使いとか、表1の書名回り、そして、とくに背の感じが、なんだか時代小説っぽく見えてしまうのが、個人的にはちょっと不満で……。同じく薔薇十字社の全集から奇跡的に同文庫入りした『アンドロギュノスの裔』の装丁が、シンプルでモダンで洒落ていて、最高にかっこよくて、作家にも作品にもぴったりの、実にすばらしい装丁だっただけに、(比べても意味ないことだとは十分に承知しつつ)よけいに残念に思えてしまうのかもしれません。今回も、『アンドロギュノスの裔』を手がけた柳川貴代さんの装丁だったらなあ……などと詮無いことを思ったり。
ただ、あくまで個人の好みにちょっと合わなかったというだけで、このすばらしい文庫全集の疵となるようなことではありません。大坪砂男の名前に思い入れのある探偵小説好きは全員必携でしょう。また、名のみ聞きながら読む機会がなかった、という、初めての読者にも(最初から全集で読むのが、入門としてどうかというのはありますが)最良の入り口となるかもしれません。おすすめです。
なお、初めての方は、この1巻を手にとってみて、どんな雰囲気なのか、のぞいてみるのもいいですが、やはり代表作を含む2巻の「天狗」を待つのがいいのではないかと、個人的には思います。
↑我が家の宝物本の1つ、薔薇十字社版全集、全2巻。けっこうな値段を出して買いました……。ご覧の通り、全集の装丁も赤と黒が基調になっています。文庫全集の装丁、色味は、この全集を意識したのかなあ。ただ赤と黒が共通する、というだけで、イメージはまったく違いますね。