しばらく前に買った雑誌の特集で、大事なのを紹介し忘れていた。
- 『ダカーポ』588(2006年8月2日)号 特集「ダカーポ読者の30代サラリーマンとOLは、この本を読め! 本好きの本屋さんからの直言」(マガジンハウス)
副題通りの中身で、全国の書店の文芸・ビジネス・新書担当の方々が、30代サラリーマンとOLにすすめる本をリストアップするというもの。八重洲BCやジュンクなどの大型書店、書肆アクセスやクレヨンハウスなどのユニーク書店のリストも、特別目新しいわけではないもののそれぞれに興味深いが、なんといっても、特集巻頭をかざる、くすみ書房の話がおもしろい。
この空犬通信でも7/9の日記で紹介しているが、このくすみ書房の「オヤジ」(敬意をこめてこう書かせてもらいます)、アイディアとそれを実行に移す馬力とが、ちょっとすごいのだ。朝日新聞でも取り上げられた中学生向けのリスト「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」500冊(!)もすごいが、売れない文庫ばかりを集めたフェア、その名もずばり、「なぜだ!? 売れない文庫フェア」がこれまたすごい内容だ。「すごい」「すごい」の連発でなんだか申し訳ないが、すごいとしかいいようがない。だって、こんな中身なんだから。
新潮文庫の売り上げランクはABCの3つに格付けされているらしく、Cランクは1500位まで。そのランク外、1501位以下の700点に、「地味だけど味のある」ちくま文庫の800点を取り寄せて、全社員の反対を押し切って、1500点のフェアに仕立て上げたのだという。いやはや。
しかも、思わず笑ってしまうぐらいさらにすごいことに、この1500点をすべて「面出し」(表紙が見えるように並べること)にしたのだとか。雑誌、サイトの両方に店内の写真が載っていて、展示の様子が一部確認できるが、実際に目にしたら、これはさぞかし圧巻であったろう。(「岩波文庫全点」フェアと並んで、「中公文庫ほぼ全点」フェアなるものも見えていて、この「ほぼ」がなんだか微笑ましい。)
「売れない文庫」だから、ふだんはふつうの新刊本屋さんでは目にすることのないものがたくさん含まれているはず。まして、平積み、面出しになっているところなど、まずお目にかかれない文庫ばかりが並ぶことになるはずだ。であれば、本好きならずとも、ちょっと見てみたくなるというものだ。
『ダカーポ』の記事によれば、新聞で紹介されたフェアの記事を見た人から問い合わせ電話が殺到、フェア初日、シャッターを開けたとたんに、近隣の読書ファンが「売れない文庫本」見たさに押し寄せた、そうである。売れない文庫に殺到する読書人たち……いい絵じゃないですか。ぼくもぜひ見てみたかったなあ。
「町の本屋の再生とレベルアップ。これが私のテーマです」、くすみ書房の「オヤジ」、もとい店主、久住さんの、そんな力強い言葉も紹介されている。中小書店の苦戦が新聞記事に何度もなったりするこのご時世に、このセリフ。頼もしいかぎりです。こんな書店、近くにあったらいいのになあ、そんなふうに思わずにはいられません。札幌を訪ねる機会があったらぜひ行ってみたい、というよりも、この店を訪れるためだけにでも札幌にいきたいような、そんな気にさせる書店です。
ところで、この特集掲載の『ダカーポ』はもう次の号が出ていて書店には並んでいませんが、サイトでも買えるほか、都内なら東京堂書店には今日(8/14)時点でまだ平積みになっていますので、近隣の方はどうぞ。
◆今日のBGM◆
- Tower of Power / Soul Vaccination: Tower of Power Live