昨日に続き、東京創元社の文庫の話です。ディックの新刊文庫が出ましたね。
- フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』(創元SF文庫)
以前はサンリオSF文庫から出ていたものの新訳です。手元のサンリオ版と比べてみると、訳はずいぶんすっきりして、読みやすくなっており、冒頭の数頁を読み比べただけで、印象がずいぶん違います。既読の方も、ぜひこの版での再読をおすすめします。
思えば、創元SF文庫でディック作品の刊行が始まったのは1989年。初回は、『去年を待ちながら』『ザップ・ガン』の2点でした。初回を飾るタイトルとしては、ある意味、なんじゃそりゃ?なセレクトですが、代表作でなかっただけに、よけいに「その後」がありそうな感じが強く出ていて、ファンは否応なく期待させられたものでした。新刊が出るたびに、巻末の著作リストに付された「創元文庫・近刊」の文字が増えていくのを見て、これって、未刊のSF作品、サンリオで埋もれてしまったSF作品をカバーしようとしているってことじゃん!と気づいたときは、狂喜しつつも、一方で、その壮大な計画にくらくらしながら、「だいじょうぶ、創元さん?」と不安になったりもしたものです。
あれから約20年。これまでに出たタイトルにはすでに品切れのものも出ていますが、こうしてゆっくりではあるけれど、着実に刊行自体は進んでいるわけです。『中井英夫全集』だってずいぶん時間はかかったけど、ちゃんと完結したもんなあ。
『最後から…』には著作リストがついていないけれど、2005年刊の『ドクター・ブラッドマネー』の解説によれば、サンリオSF文庫が刊行したディック作品21作の中で、再刊されていない作品は5冊のみ、うち1冊がこの『最後から…』だから、あと4冊だ。未訳作品も、SF4冊、主流小説5冊と、わずか10冊ほどを残すのみ。ディックの邦訳がすべて読める、という事態が近い将来訪れるかもしれないのです。えええーっ! 自分で書いててなんだけど、そりゃすごい!
というわけで、ファンのみなさん、東京創元社という、このすばらしい版元の努力に応えるには、とにかく「新刊が出たら買う」、それしかありません。ディック作品にはたしかに出来不出来のムラがあります。そんなことは百も承知。でも、たいした作品じゃないからととばしちゃったり、昔は読んでたけど、なんて途中であきちゃったりやめちゃったりせずに、ディック新刊の発売日には全速力で書店にかけつけていただきたいと思います。そして、版元の東京創元社にも、残り数冊を残して力尽きる……なんてことにならぬよう、あと少し、ぜひぜひがんばっていただきたいものであります。空犬通信は、全面的に応援する所存です。
◆今日のBGM◆
- The Fatback Band『Yum Yum』