fc2ブログ

空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

静岡・掛川の「走る本屋さん 高久書店」を訪ねてきました

ずっとずっと訪ねたかった、静岡・掛川の「走る本屋さん 高久書店」。先日、ようやくという感じで訪ねることができました。想像通り、というか、想像していた以上にすてきなお店で、2時間強の滞在がほんと、あっという間でした。



「走る本屋さん 高久書店」(以下、高久書店)は、静岡県掛川市にある新刊書店。売り場面積は10坪ほど。サイズといい立地といい品ぞろえといい、まさに街の本屋さんという感じのお店です。


なぜ「走る本屋さん」なのか、については、ここでふれると長くなりますし、店主の高木久直さんがサイトのトップページでふれているので、そちらをご覧ください。


以前から「走る本屋さん」の取り組みは気になっていましたので、固定店舗を立ち上げたと聞いたときには、ぜひお店を訪ねたいなあ、『定本 本屋図鑑』でも取り上げたいなあ、などと思ったものでした。


夏葉社島田さんの取材・執筆で、2022年刊の『定本 本屋図鑑』で取り上げることはかなったのですが、肝心のお店訪問の機会がなかなかつくれません。お店のオープンが、コロナの感染拡大と重なってしまったためです。


現在も完全に収束したわけではありませんが、少し落ち着いてきたこともありますので、今回、思い切って訪ねることにしたという次第です。


お店には2時間強、いたと思いますが、高木さんにいろいろ話をうかがったり、2階(後述しますが、秘密基地っぽい、すてきなスペースなのです)も含めて、お店を隅々まで見せてもらったりで、気がつけば2時間、という感じで、ほんとにあっという間でした。帰りの電車のことがなければ、もっといられただろうと思います。


そんな、すてきな本屋さんの様子を、気軽に訪ねるのが難しい遠方在住の本屋好きにも伝わるよう、簡単に紹介したいと思います。以下、お店の写真は店主の高木さんに断って撮影したものです。


2308 高久書店 掛川駅

↑JR掛川駅。メインは観光案内などがある南口側になるんでしょうか。写真は高久書店がある北口側。掛川城も同じ北口側です。


2308 高久書店 外観12308 高久書店 看板2308 高久書店 外観2

↑お店の外観。同店のツイッターで毎日目にしていますが、実際に目にするとやはりうれしいものです。明るい青が印象的で、少し離れた場所からでも目に入ります。


一歩店内に入ると、決して大きいとは言えないスペースに、街の本屋さんの棚にこういう本が並んでいたら地元の人はうれしいだろうなあ、と思えるような本がぎっしり。


2308 高久書店 児童書2308 高久書店 ラノベ

2308 高久書店 郷土書2308 高久書店 歴史書

↑棚の配置を見ると、店内のスペースをうまく、無駄なく使っているのがわかります。このサイズにこの冊数が並んでいても、圧迫感はありません。


特徴的なのは、入り口入ってすぐの、一等地と言っていい場所に、最近ではめずらしく、学参が並んでいること。同規模どころか、ここよりも大きめの店の学参売り場でもここまでは並べられないかも、というくらい、けっこうな数の平積みがされているのも目を引きます。


学参や児童書の棚を一目見ただけで、地元の利用者、とくに子どもたちのほうをしっかり向いた品ぞろえになっているのが伝わってきて、うれしくなってしまった。というのも、少子化もあって以前ほどには学参は売れなくなってしまったせいか、棚を減らされていたり、棚はあっても奥の目立たない場所に追いやられていたり、というのを目にすることも多いからです。独立系(高久書店も独立系ですから、ここは「いわゆる」とすべきかもしれませんが)だと、学参はそもそも置いてないところも多いですよね。いい悪いの話ではありませんが、高久書店がどのようなお店なのかがよくわかる品ぞろえの例としてふれておきます。


学参だけだとなんだから、というので、コミックの新刊をあえてすぐ隣に置いてあるのもいいですね。ちなみに、同店のコミックはどれもシュリンクがかかっていません。


2308 高久書店 文庫おすすめ

棚にはよく選ばれた本が並んでいます。最近の受賞作話題作、アニメ化もされている人気のコミック最新巻なども、いずれも平積みにできる数が並んでいます。店主が自分の好みやセレクトを押しつけるようなものではなく、客層やバランスがよく考えられているのがわかる品ぞろえになっています。取次の見計らいを利用せずに、店主自らが注文しているとのことで、これらの人気作をきちんと確保しようと思うと、情報収集や発注のタイミングなど、いろいろ大変なはずです。どの商品がどのように売れるかの経験則や自店の客層の把握があってこそ可能なのでしょう。


立地的にもリピーター、常連客をどれだけ確保できるかは当然重要なはずですが、定期購読の数を聞いて、ちょっとびっくりしてしまいました。この規模でその数?! お客さんとの距離の近さや、自店の客の購買傾向の把握の仕方には、大阪の隆祥館書店のやり方と通じるものを感じました。


2308 高久書店 レジ脇2308 高久書店 小出版社

↑レジ脇には数こそ多くはないものの、岩波書店やみすず書房などの本も並んでいます。下の段には直取の小出版社の本なども並んでいました。


2308 高久書店 色紙

↑お店のあちこちに色紙が。小さな店をわざわざ訪ねる作家やマンガ家がいかにたくさんいるかがよくわかります。もう貼る場所に困るくらい色紙があるそうですが、お店がまだ4年目であることや、それがばっちりコロナ禍と重なっていたこと、誰もが気軽に来られるような立地では必ずしもないことなどを考えると、この色紙の数は驚きです。


2308 高久書店 奥のスペース

↑奥のスペースは、駄菓子やラムネが売られていて、ちょっとした休憩スペースになっています。


階段をあがると、屋根の形状がそのままわかるような屋根裏部屋になっていて、子どもたちが自由に使えるスペースとして開放されています。


2308 高久書店 2階2308 高久書店 2階 2
2308 高久書店 2階 32308 高久書店 2階 4

大人だと背をかがめないといけないくらいのサイズですが、それがいい。全体が秘密基地っぽくて、木造の古びた梁などが見えていることもあり、児童文学に出てくる(子どもには憧れの)ツリーハウスっぽい雰囲気もあります。これはいいなあ。小さなテーブルが用意されていて、子どもたちはここで勉強をすることも、本を読むことも、単にごろごろすることもできます。ちょうどぼくがのぞいたときは、ノンタンのパネル展が展開されていました。ぼくが掛川の小学生なら、毎日来たい(笑)。写真に写っているのは高木さんのお子さん。許可を得て撮影しています。


このお店の魅力は、当方の下手くそな写真で伝えきれるものではありません。掛川は新幹線駅ではあるものの、のぞみ停車のない、こだまのみの駅で、関西からも関東からも、決してアクセスがいいというわけではないのですが、それでも、本屋好きなら、わざわざ行く価値のあるお店です。本屋好きはぜひ。


前述の通り、高久書店は『定本 本屋図鑑』(夏葉社)の掲載店でもあります。旧版『本屋図鑑』にはなかった、『定本』で新しく加わったお店の1つです。島田潤一郎さんによるやさしい紹介文と、お店の雰囲気をよくとらえた得地直美さんのイラストがとてもいいので、そちらもぜひご覧ください。


2308 高久書店 カバー、チラシ2308 高久書店 カバー、チラシ22308 高久書店 トート
2308 高久書店 ショップカード2308 高久書店 ショップカード2

↑同店のブックカバー、しおり、トートバッグ、ショップカード。


2308 高久書店 静岡麦酒

↑高久書店訪問の締めくくりはこのようなことに。



高久書店には、大人が子どもたちに代わって本を購入、それを子どもたちが無料で持っていくことができるペイフォーワード文庫という、すばらしい取り組みがあります。ペイフォーワード文庫がどのようなものかについては、リンク先をご覧ください。


以前から気になってはいたものの参加は掛川の人だけなのかな、と思っていたら、当方のようなよそ者でもOKだというので、参加させてもらいました。


当方が選んだ本は、高久書店のX(ツイッター)(@books_takaku)で紹介されていますので、そちらをご覧ください。一部、最近のものもありますが、なるべく、自分が若かりし頃に読んだもので、しかも空犬っぽい(超主観;笑)ものを選んだつもりです。対象は指定できるとのことでしたので、小中高のみなさんとしました。


2308 高久書店 店内 ペイフォーワード文庫案内2308 高久書店 ペイフォーワード文庫 棚2308 高久書店 ペイフォーワード文庫

↑ペイフォーワード文庫、店内に出ている案内と棚。右が空犬が選んだ本たち。


子どもたちが手にしてくれるところを想像しながら本を選ぶことの楽しさといったら!掛川の小中高生のみなさんが、当方のツイートやブログを目にする機会はないかもしれませんが、ぜひ高久書店の店頭で、本を手にとってくださいね。


このペイフォーワード文庫、とてもいい取り組みですよね。子どもたちに本を送りたい、手渡したいと思っても、周りに自分の子どもや甥っ子姪っ子でもいないかぎり、なかなかそのような機会自体がありません。まして、自分の住んでいる地域以外の子どもたち、地縁も血縁も何の関係もない子どもたちに本を届けるような方法は(この空犬通信でもいちおしのチャリティーサンタのような取り組みをきわめてわずかな例外とすると)ほぼありません。



ぼく自身、本を読みたい気持ちと自身の経済力が釣り合わない子ども時代を長く送ったタイプなので、同じ本屋さんを利用している大人(しかも、自分の保護者以外の大人)が、身銭を切って、本を買ってくれるだなんて、こんなうれしいことはありませんよね。


しかもこの取り組み、(地元のペイフォーワード文庫参加者には関係のないことではありますが)、よそから来た当方のような参加者にもとてもいいものなんですよね。


というのも、ぼくのように、旅先では必ず本屋を訪ねたい、訪ねたら買い物をしたい、という派には、棚に1冊しかない本を、自分のようによそから来た(しかも、ふだん東京の好きな店で好きに本を買える)者が買ってしまうと、そのお店本来の利用者が本と出会う機会を奪ってしまうことになるかもしれない、というのがいつも気になっていたのです。


ペイフォーワード文庫であれば、いくら買い物をしても本はお店に残るわけですし、しかも、最終的には子どもたちの手に渡るわけですから、(とくに、子どもたちに本を贈る気満々の)買い物をする大人側としたら、こんなに安心&満足してできる買い物もないくらいだ、そんなふうに思えるのです。


ペイフォーワード文庫、今のところ、高久書店以外で実施されているという話は聞きませんが、これ、子どもたちの利用者、子どもたちの本好きを増やしたいと考えているお店、(先日の記事に書いた通り、ぼく自身は、つながりの強調に関しては必ずしも全面的に賛同する者ではありませんが)お店に出入りする大人と子どもの客をなんらかのかたちでつなぎたい、と考えているお店は、導入を考えてみてはどうでしょうか。



コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する