小学生の頃に熱心に通った(といっても、実際に通えたのは半年に満たないくらいの期間だが)地域の児童館。先日、偶然にも仕事の用事が近くであったので、ちょっと足を伸ばし、訪ねてみた。40数年ぶりの再訪。
児童館がまだちゃんとあることは事前にサイトで確かめてあった。現在の外観もサイトの写真で目にしていた。それでも、目の前に建物が現れたときには、いきなり時間を巻き戻されたような、なんだか不思議な気持ちにさせられた。
子どもの背丈で目にしていたので、建物は、記憶の中にあるそれよりもこぢんまりして見えたけれど、入り口を入ると、中は記憶にある当時の雰囲気そのままだった。館の方に、大昔の元利用者であることを伝え、中を見せてもらった。
40数年ぶりに訪ねた児童館の図書室は、棚の配置などはもちろん当時とは変わっているのだが、あちこちに記憶の中のそれと重なるところがあった。図書室は2階にあり、とても陽当たりのいい部屋なので、書棚に並ぶ本の背はみな日焼けして青くなっている。子どもの本は定期的に入れ替えないといけないので、ぼくが利用していたころに並んでいた本の現物はさすがにないだろうが、当時と同じような本、まったく同じ本もたくさん並んでいる。定番の絵本たち、定番の読み物たち、(もちろん版は変わっているが)定番の図鑑や学習まんが。
当時はまだ存在しなかったゾロリやおしりたんていやサバイバルなどのシリーズが並んでいたり、当時は扱い自体がなかったコミックまで並んでいたりするのを眺めていると、ああ、場所はぼくが出入りしていたのと同じなのに、並んでいるものは今の子どもたちのためのものなんだなあ、と当たり前に過ぎることを思ったりした。何しろ、40年が経っているのだ。
この児童館についてはすでにこんな駄文を書いていたから繰り返さない。今回訪ねたのは、この駄文のなかに登場する児童館だ。
当時、小学生の足で通える距離には図書館がなかった(後に分館ができ、現在は近くに図書館がある)。通っていた小学校の図書室はお世辞にも充実しているとは言えないものだった。当時の本好き小学生にとって、この児童館の図書室がもっとも充実した図書空間だったのだ。
ドリトル先生、『木かげの家の小人たち』、アーサー・ランサム全集、ケストナー、少年探偵ブラウン、少年探偵キム……ここで手にした、たくさんの本たちは、今でも記憶に強く刻み込まれていて、表紙やおよその棚の位置まで思い出せるくらいだ。
毎日のように通っていたものだから、当時のスタッフのみなさんに顔を覚えられ、とてもよくしてもらった。この児童館にはいい思い出しかない。実際に利用することができたのは、小学六年生のごくわずかな期間だけなのだが、幸せな思い出がぎゅっと詰まっているのだった。
小さな施設であることを思えば、蔵書は少ないわけではないようで、書棚には空きがなく、本がぎっしり並んでいる。ただ、子どもたちの利用と日焼けとで、本のコンディションは万全とは言えなさそうだ。
資料費のやりくりに苦労しているのは学校図書館や児童館ではよく聞く話。本の寄付などを受け付けているか尋ねてみたところ、現金や図書カードではなく現物でもらえるとありがたい、とのこと。恩返しの意味も含めて、あれこれ本をみつくろって、まとめて贈りたいと申し出ると大変喜ばれた。
寄付と言っても、我が家の不要本を送りつけるのではない。ちゃんと新しいものを買って贈るのだ。
どの本にしようか、あれこれ考えるのがすでに楽しい。遠足のおやつ代みたいに、予算、上限を決めて、どんな組み合わせにするかを、工夫して選びたい。
立派な建物をつくって中身の本は寄付で、みたいな案件が、美談としてしばしばメディアに取り上げられる。
子どもたちに本と出会ってほしい、子どもたちに本と出会う機会をつくりたい、という思いは本物なんだろうと思う。でも、やり方としてベストだとは思えない。
大事なのは、容れ物ではなく、中身なのだ。
子どもたちが本と出会う機会を創出したいのならば、自分の出身校の学校図書館や、自分が子どものころに利用していた児童館、地域のコミュニティセンターの図書室など、子どもたちが本にふれられる場所がすでにある場合は、そういう施設に本を贈ればいいのではないかと思う。
本を贈るといっても、なんでもいいわけではない。家にある古い本を、というのは、読者が子どもの場合は避けるべきだろう。自分が子どものころに使っていた10年も20年も前の辞書や図鑑を送るなどもってのほか。我々の世代が子どものころの恐竜図鑑と最近のものがどれだけ違うか。少しでも子どもの本のことを知っている人ならよくご存じのことだろう。歴史や理科ものなら大丈夫か。そんなことはない。年号や分類や、いろいろなものが変わっているのだ。子どもの本は、新しいものを贈るのがいい。
本を贈るのは、もらうほうもうれしいが、贈るほうもうれしいものなのだ。だって、本を選ぶのって、楽しいからね。そのことを、本好きなら知ってるはずだと思うんだよなあ。
子どもたちに本を贈ることはしたいが、自分で図書施設を見つけて、本を見繕って送る、というのが個人では難しい、ハードルが高い。そんなふうに感じる人がいたら、そういう人には、こんな方法もある。子どもたちに本を届ける方法は、大きな建物を造る以外にもいろいろあるのだ。