80年代がティーンと重なっているギターキッズにとっては神といっていい存在でした。エディことエドワード・ヴァン・ヘイレンが亡くなりました。65歳。
数年前から舌がん、後に喉頭がんで闘病中だったということはニュース記事などで知っていましたが、まさかこんなにも早くこのような報を目にする日がくるとは。
あちこちに追悼記事が出ていますし(主要各紙の訃報記事については末尾でふれます)、音楽業界からは大変な数の追悼コメント(こちら;ファンは落涙必至、要注意!)も寄せられていますから、ここでは個人的に思い入れの深い作品にふれるだけにしておきます。
(エドワード・ヴァン・ヘイレンは、ロックギター史上の最重要人物であるだけでなく、当方のようなアラン・ホールズワースのマニアにとっても、実は重要な存在だったりします。エディと、エディが敬愛してやまなかったアラン・ホールズワースとについては、稿をあらため、いつかふれたいと思います。)
エドワード・ヴァン・ヘイレン、衝撃のデビューは、1978年。パンクの嵐が吹き荒れ、ニューウェーブへと移行。『サタデー・ナイト・フィーバー』に端を発したディスコブームも続いている。そんな時代で、音楽シーン的には、ハードロックには必ずしもいいタイミングとは言えない時期でした。そんなシーンの逆境や知名度の低さにもかかわらず、デビューアルバム『炎の導火線』は、ミリオンを売上げ、プラチナディスクを獲得します。ロケットスタートだったわけですね。
ヴァン・ヘイレンが登場したときにはぼくはまだ小学生で、洋楽にまもなく目覚めるかどうか、というころ。出会うのはまだ数年先のことです。リアルタイムでヴァン・ヘイレン登場の衝撃を受けたのは、ぼくよりも少しだけ上の世代でしょう。ファーストアルバムを予備知識なしで聴いた人は、そりゃあ驚いたろうし、衝撃を受けたろうなあ、と後から聴いてもそう思います。うらやましいなあ。
しばらく前に、エディ登場時の衝撃がいかほどのものであったのかを特集テーマにしたこんな雑誌も出ています。
- 『ギター・マガジン・レイドバック』Vol.3(リットーミュージック)
エディ登場時のことがいろいろわかりますし、エディがキャリア初期に使っていた、あの一度見たら忘れられないギターたちについてもくわしく紹介(にとどまらず、あのペイントのギターを造っちゃおうみたいな記事まであります)されていますから、ファンは必見でしょう。
ぼくの世代だと、最初のアルバムが『1984』だという人が多そうです。タイトル通り、1984年(ぼくは中学生でした)の作品で、全米でチャート2位となる、言わずとしれた大ヒットアルバム。当時、長く1位についていたのはマイケル・ジャクソン『スリラー』ですから、他の時期であれば、なんなくチャートトップをとっていたことでしょう。ちなみに、『スリラー』収録の「今夜はビート・イット」にエディはギターソロで客演していますから、チャート1位、2位作品でエディのギターが、それも最高のギターが聴けたわけですね。
ヴァン・ヘイレン衝撃の洗礼は、ファーストから何年も経ってから受けることになったわけですが、でも、今あらためて聴いても、『1984』でのギタープレイも、ファーストのそれになんの遜色もないレベルのもので、初めて聴いた中学生を失神させるには充分ですよね。
ヴァン・ヘイレン、ぼくが愛聴しているのは、デイヴ・リー・ロス在籍時の初期6枚。
うち、いちばん最初に聴いたアルバムは『1984』ですが、いちばん衝撃を受けたアルバムは、というと、やはり、後から遡って聴いたファースト『炎の導火線』です。邦題も中身をよく表した感じで、いかしてますよね。
もちろん、タイトルだけでなく、中身も最高です。最初に聴いたときはアナログでしたが、アナログでA面の流れ、とくに冒頭3曲がやはりすばらしい。オープニングナンバーの「悪魔のハイウェイ」。単に歪んでいるだけではない、歪みの分厚さが独特で、後に「ブラウン・サウンド」と呼ばれるようになる、リフのプレイでのぶわーっとした音。いきなり度肝を抜かれます。
次が「暗闇の爆撃」。おそらく、最初、ふつうに聴いただけだと、何をどう弾いているのかわからないという人がたくさんいたのではないでしょうか。エディの名を天下に知らしめ、ギター弾きを驚愕させた戦慄の1分42秒。最後のアームダウンとエコーの発振音と反響音が消えていくと、いきなり「ユー・リアリー・ガット・ミー」のイントロ。キンクスのそれよりもずっとワイルドでざくざくな感じがめちゃくちゃかっこいいリフが始まります。もう最高としか言いようがありません。これらの曲は必ずこの流れで聴きたくなるんですよね。
いちばん好きな曲は、アルバム『戒厳令』のオープニングナンバー「ミーン・ストリート」。
これ、曲の本編が始まる前に長めのギターイントロがついているんですが、これがすごい。映像観るまで、どうやって弾いているのか謎でした。続くメインのリフも、難しいことは何もしていないのにかっこいい。サビのリフで聴ける、ピッキングハーモニクスを混ぜたプレイもエディ印としか言いようのない音で、音列は単純なのに、プレイがものすごくカラフルなものになっています。
曲全体も、ファンクなどのブラックなノリとはちょっと違う、独特のはねた感じ。ヴァン・ヘイレンはリズムの感じなどにツェッペリンの影響を感じさせますが、この曲などもそのようなイメージです。
そしてギターソロ。エディは、それまでのブルースがバックボーンのギターヒーローたちと違い、(ライヴの見せ場として用意されたソロパートは別として)楽曲のなかでは延々と長尺のソロを弾いたりはしません。ギターソロだけでなく、曲自体がコンパクトですからね(アルバムも30分台で終わってしまったりがふつう)。
この曲もソロは8小節ですが、(音列的にと指板上での両方の意味で)上下左右の動きが多いプレイで、印象に残ります。
いちばん好きなソロは、というと、名演が多すぎて選ぶのに困りますが、1つだけを選ぶなら、バンドの作品ではなく客演ものですが、「今夜はビート・イット」かな。このギターソロはほんとうにすばらしくて、しかも挑戦しがいのある難曲なので、動画サイトを見ると多くのアマチュアが挑戦しているほか、プロもカバーや自分の解釈を披露したりしているのがたくさん上がっています。
こちらもわずか8小節ですが、アーミング、各種のタッピング(トリル、ハーモニクス、スライドなど)、ワイドストレッチを駆使した高速フレーズ、ピッキングハーモニクス、ピックスクラッチ、ハミングバードピッキングなどなど、短いソロのなかにエディ節がぎゅっとつめこまれています。当然、技術的な難易度も高い。全米1位を長く獲得したアルバムのシングルの1つで、PVも含めて大ヒット・大人気の曲にこんなものすごいギターソロが入っているなんて、ふつうに考えると不思議なことだし、それを言うなら、そもそもマイケル・ジャクソンとエドワード・ヴァン・ヘイレンの組み合わせ自体がもう奇跡ですよね。
アームダウンの戻しから始まり、さまざまなテクニックを織り交ぜながら、指板の上を飛び回り、最後は得意のハミングバードピッキングで高音部を駆け上がっていき、高音チョーキングからのスクラッチダウン。構成も見事としか言いようがありません。完璧なギターソロの見本の1つだと思います。
エディ・ヴァン・ヘイレン。神の腕の持ち主なのに、こんなにも人なつこい笑顔が、それも全開の笑顔が似合うギタリストが、ほかにいるでしょうか。ギターを弾きながらものすごく笑ってるのに、その間のギタープレイはものすごくて、そして、ものすごくかっこいい、という、この奇跡。エディ、あなたのようなギタリストは二度と現れないと思います。
今晩(10/7)は、ヴァン・ヘイレンの音楽(とくに初期6枚)を聴きながら、偉大なギタリストに杯を捧げたいと思います。
余談。音楽業界のみならず、あちこちに激震をもたらしたギターの神様の訃報。日本の新聞でも扱いを見てみます。
主要新聞の訃報を見てみると、分量も中身もふつうのおくやみ記事という感じのものが多いなか、なつかしい写真を複数掲げ、タッピング(ピックで弦をはじくかわりに、右手の指で指板の弦を押さえたりたたいたりはじいたりする奏法)にまでふれている日経新聞の充実ぶりが目立ちます。
タッピングは後の呼称で、登場当時は「ライトハンド奏法」などと呼ばれていましたが、この用語を記事にあげているのは、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、朝日新聞、と意外に多い。朝日は、6日朝の時点でチェックしたときにはWebに上がっていませんでしたが、後発のせいか、他の全国紙よりも厚めの内容になっています。
誤記・誤情報などは(誤りではないがちょっと変のレベルも含め)さすがに見当たりませんが、日本ではゴッホの例があるせいか、本来はそこでは切らない「ファン/ヴァン(Van)」を省略して、「ヘイレン氏」などとしているニュースメディアもあり、ちょっと気になってしまいます。東京新聞の見出しがそうでした。
厚めの内容といえば、やはり本国での扱いはぜんぜん違いますね。ニューヨーク・タイムズの記事なんて、分量もくわしさも、もう音楽誌なみの扱い。読んでいるだけで涙が出てきますから、英語が苦手な人はともかく、ファンはぜひ読んでみて。