コロナ禍以外にも精神的につらいことがしばらく続いているもので、しばしばちょっとしたことで、めげそうになっているのですが、そんなとき、いちばん効くのは、子どものころ、学生のころに親しんだ本や音楽たちなのだなあ、ということを、実感させられる日々です。
いつ読んでも楽しめる作品ですが、ちょっとしんどいなあ、というときに読むのに、ぴったりの1冊かもしれません。
- Arnold Lobel『Frog and Toad: The Complete Collection』(Harper Collins)
アーノルド・ローベル『がまくんとかえるくん』シリーズ原書4冊が1冊にまとまったもの。版元のHarper Collinsからはおなじみのサイズの元版4冊をセットにしたものも出ていますが、こちらは合本で、サイズもひと回り大きいものになっています。
大判の上製本でしっかりした造り。緑を基調にした継ぎ表紙風の装丁がいい感じです。手に取りやすい元版ももちろんいいけれど、大人がゆっくり楽しむにはこのサイズもいいかもしれません。老眼の身にもやさしい版面になっていますしね(笑)。
文化出版局から出ている日本語版もロング&ベストセラーですよね。三木卓さんの名訳で親子二代で親しんできたという方も多いでしょう(訳者、三木卓さんのインタビューが絵本ナビで読めます。こちら)。
ぼくも日本語版で、原書で、もう何度も何度も読んできて、内容もあらかた頭に入っているのですが、それでも、こうして手にとると、あちこちで笑い、そして、あちこちで泣けてしまいます。この、1冊わずか64ページほどの絵本が大人も含む読み手をひきつける力にはあらためて驚かされます。
一般的には幼年童話に分類されるような、かえるが主人公の絵物語ですから、50男がうるうるになっている絵というのは、まあ、一般的には控え目に言ってとても気持ち悪いものであろうことは充分わかっているのですが、それでも、すぐれた本の力にはあらがえませんよね。本が子ども向けか大人向けか、テキストの字数がどうとか字の大きさがどうとか、そんなことは関係ない、ってことですよね。
『Frog and Toad Are Friends(ふたりはともだち)』の「The Story(おはなし)」での、
「かえるくん、きみ、ものすごく緑だよ!」
「でも、いつも緑だよ。だって、ぼくかえるだもの」
というふたりのやりとりとか(訳文は原文からの適当訳で日本語版の訳文とは異なります)。
『Frog and Toad』(ふたりはともだち)の「The Letter(おてがみ)」で、かえるくんががまくん宛の手紙を、よりによってかたつむり(!)に渡しちゃうところとか。
『Frog and Toad All Year(ふたりはいつも)』の「Ice Cream(アイスクリーム)」で、溶けたアイスクリームやら草やら何やらでからだを覆われ、なんだかよくわからないものと化したがまくんがやってくるくだりとか。
もう、ほんと、何度読んでも笑ってしまいますからね。こうして引用のために原文にあたるたびに楽しい気分にさせられています。
教科書に採用されているそうで、シリーズでもっとも有名なのは1冊目に収録されている「おてがみ」でしょうか。『Frog and Toad(ふたりはともだち)』の最終話ですが、読み返すたびにいいなあ、と思うのは、ここに出てくるかえるくん、同じ巻で先に収録されているエピソード「A Lost Button(なくしたボタン)」で、がまくんにもらったボタンだらけの上着を着ているんですよね。お話自体もいいんですが、ちょっとした絵の書き込みにふたりの関係性がとてもよくあらわれていて、いいんですよね。
このようなすばらしい関係を描いたすばらしい本に出会って長く親しんできたのに、自身ではこのふたりのようなすばらしい友人関係を築くことができなかったのが、自分の限界であり人生最大の失敗なのかもしれないなあ、そんなことも思わされます(苦笑)。この裏表紙のイラストだけで、ぐっときますよね。とくに大人は。
子ども向けですから、原書の英語も平易なので、英語で読むもよし、三木卓さんの名訳の日本語で楽しむもよし。超のつく有名シリーズなのであえて紹介する必要はないかもしれませんが、念のため、日本語版のリストもあげておきます(原書との関係がわかるように原題を添えておきました)。
- 『ふたりは ともだち(Frog and Toad Are Friends)』(文化出版局)
- 『ふたりは いっしょ(Frog and Toad Together)』(文化出版局)
- 『ふたりは いつも(Frog and Toad All Year)』(文化出版局)
- 『ふたりは きょうも(Days With Frog and Toad)』(文化出版局)
追記(11/16):来年、こんな展覧会が開催されるそうです。「“がまくんとかえるくん”絵本作家「アーノルド・ローベル」展が東京・広島で、原画など約200点」(11/16 Fashion Press)。
記事によれば、今回の展示は、《「がまくんとかえるくん」を中心とする約30冊の絵本を、約200点もの貴重な原画やスケッチを通して紹介する》というもの。来年1/9〜3/28は東京・立川のプレイ ミュージアムで、4/3〜5/23は広島で、その後、関西、東北に巡回予定とのことです。
ローベルの日本での人気を考えると意外な感じもしますが、《貴重な原画やスケッチ、アニメーションを紹介する、日本初の展覧会》なのだそうです。ファンは見逃す手はありませんね。