本好き翻訳文学好きの間では刊行前から話題になっていた1冊で、ぼくも発売を楽しみにしていました。
- ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(講談社)
版元の内容紹介を引きます。《2004年の逝去から10年を経て、2015年、短篇集A Manual for Cleaning Womenが出版されると同書はたちまちベストセラーとなり、The New York Times Book Reviewはじめ、その年の多くのメディアのベスト本リストに選ばれました。本書は、同書から岸本佐知子がよりすぐった24篇を収録》。
作家については《2013年にノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローや、短篇の名手レイモンド・カーヴァー、日本で近年人気が高まっているリディア・デイヴィスなどの名だたる作家たちに影響を与えながら、寡作ゆえに一部のディープな文学ファンにのみその名を知られてきた作家》と紹介されています。
生前に刊行されたルシア・ベルリンの短編集3冊はいずれも絶版。2004年の没後、長く忘れられたかっこうになっていたようだったのが、2015年に作品集が出たことで「再発見」され、読書界から再び注目されるようになったということのようです。
2015年の原書刊行時は、『ニューヨーク・タイムズ』にこんな記事が掲載されました。「Lucia Berlin’s Roving, Rowdy Life Is Reflected in a Book of Her Stories」(2015/8/16 The New York Times)。
↑2015年刊の原書。リディア・デイヴィスが序文を寄せています(翻訳版にも収録)。
この記事を目にしたとき当時、ルシア・ベルリンは知らない名前(それこそ、「ルシア」か「ルチア」か、「ベルリン」か「バーリン」かもわからなかったくらい)だったんですが、この記事で興味を引かれたのでした。しかも、リディア・デイヴィス(個人的に好きな短篇作家の一人です)が序文を寄せていること。ならばと、原書を手にしてみたのです。早速読んでみると、最初の一篇(翻訳版でも冒頭に収録されている「エンジェル・コインランドリー店(Angel's Laundromat)」)から強く引き込まれてしまいました。こんな文章を書く人が長く埋もれていたとはなあと、ちょっとうれしい驚きであり、うれしい出会いだったのでした。
これ、いい本だけど、翻訳は出ないだろうなあ、などと、『ニューヨーク・タイムズ』の記事をあきらめ半分のコメント付きでツイッターで紹介したりしていたのですが、それから4年後に翻訳版を手にすることになるとは。日本の翻訳文学市場はなかなか厳しい状況にあるとも言いますが、こういう作品が新刊として大手版元から刊行されるのだから、そして、それが刊行前から話題になったりするのだから、まだまだ捨てたものじゃないなあと、そんなふうにも思えますよね。
翻訳版刊行に合わせ、『群像』2019年8月号にも関連記事と短篇が掲載されています。記事は、川上未映子さんと本書の翻訳を手がけた岸本佐知子さんによる「ルシア・ベルリン作品集刊行記念対談」。短篇は本書からの4編。
カーヴァーほか、日本語版の内容紹介に引かれている作家たちの名前に関心がある方、アメリカの短篇文学が好きな方には、おすすめの1冊です。