先日紹介したこの本、いやあおもしろいなあ。好きだなあ、このノリ。
- 北原尚彦『発掘! 子どもの古本』(ちくま文庫)
ポプラ社の児童探偵物だの、学研や小学館の図鑑だのを取り上げて、やれ格安本を見つけたの、箱欠けだったの、驚きの中身だったの、って、なんだかうれしそうに書かれているのです。ノリの合わない人には、いい大人がなにしとんねん!って怒りの関西人化しそうな感じなのかもしれませんが、好きな人にはたまりません。古本にかぎらず、映画だの本だの音楽だのを、そのジャンルをこよなく愛している人が、好き好き好き、楽しい楽しい楽しい、って、ただそれだけの感情に突き動かされて書いてるこういう本ってけっこう好みなんです。
この本、のっけから、乱歩の少年探偵シリーズ、ホームズシリーズ、ルパンシリーズの話ですよ。昭和30年代~50年代ぐらいに小学生時代を過ごした本好きの少年(少女)で、このいずれにもふれたことのない人っているだろうか、っていうぐらい、当時の(とくに)男の子読書のマストアイテムですよね。
乱歩といえばポプラ社のシリーズ。ぼくもこのシリーズで小学校3~4年生のときに全巻読破しています。いまのぼくの読書傾向を決めた、我が読書歴のなかでも最重要アイテムの1つです。ところが、この本で取り上げられている乱歩は、同じ少年向け乱歩でも、ポプラ版ではなく、講談社のリライト版6巻シリーズ。子ども時代には読んだことなかったシリーズですが、長じて古本道に手を染めてからゲットしたのが2冊手元にあります。こんな表紙です。
ね、こわいでしょう。今、児童向けの探偵物、というかミステリでこんな装丁案だしたら、確実に却下ですよね。こわいもん、これ、今の大人の目で見ても。きゃー。
そのほか、珍奇な虫ばかり集めた小学館のレアな昆虫図鑑とか、宇宙探検なのに、科学物寄せ集めのでたらめ(で楽しい)図鑑だとか、造りがでたらめ(で楽しい)講談社のウルトラ怪獣図鑑だとか、仙花紙の少女小説とか、とにかく、“そういうノリ”が好きな古本者にはたまらない本の話が次々に出てきます。残念ながら、後半、企業が出している絵本なんかの話になると、こちらの興味と合わないせいか、ちょっとトーンダウンしてしまうのですが、前半はたっぷり楽しませてもらったので、まあいいでしょう。
著者の北原尚彦という方、ぼくよりも少し上の世代の方ですが、なつかしどころがけっこうかぶっているのと、長じても、子ども古本の世界をバカにしたり、忘れてしまったりしないで、なつかしくおもしろがれるところがすごくgood。お酒を飲みながら、乱歩少年ものとか、SF映画の話とか、怪獣図鑑の話とかしたら、とっても楽しそうな方です。ちくま文庫からは、ほかに、こんなナイスな著作があります。
- 北原尚彦『新刊! 古本文庫』(ちくま文庫)
- 北原尚彦『奇天烈! 古本漂流記』(ちくま文庫)
◆今日のBGM◆
- Funkadelic『One Nation Under a Groove』