そのお店のことは気になってはいたのですが、お店を訪問する機会をつくれずにいたところに、このような本に出会ってしまったため、実際にお店を見る前に、先に本でお店のことを知ることになるという、非常にめずらしいケースになりました。
- いしいあや『ニジノ絵本屋さんの本』(西日本出版社)
ニジノ絵本屋は、東京・目黒、駅でいうと都立大学にある絵本のお店。この小さな絵本のお店の成り立ちから現在までを、店主自らが綴ったのが本書ということになります。
お店のサイトから本の内容紹介を引きます。《1.5坪のお店からはじまったニジノ絵本屋。ひょんなことから「絵本屋」になるも、思うように絵本の仕入れができなかったので、「仕入れができないなら、絵本を自分で作ってしまおう! 」と出版社になる。自分のお店だけでは売り切れないことに気づき、絵本を背負って各地に行商に出かける。スタッフとはじめた絵本パフォーマンスがどんどん広がり「絵本×音楽」「絵本×食」など絵本にまつわるエンターティメントを国内外問わず興行。「絵本棚キャラバン」「7つの絵本プロジェクト」をはじめ、片時も目が離せない事業を次々に展開中。気が付いたら前に進んでいる(前に進むことしかできない)店主・いしいあやのスーパー絵本屋ふんとうき、おもしろいよ》。
著者本人が、絵本のことも書店のことも出版のこともまったく知らなかったと書いています。まさに、ゼロスタートで本に関わる仕事を軌道に乗せた事例が、本書には詳述されていることになります。本の販売や製作に関わってみたいと考えている「業界関係者ではない人」には、参考になる点が多いのではないかなあ、と、そんなふうに思わせる内容になっています。
本の業界の専門的な知識が得られるという意味では、内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』(NHK出版)のような1冊にはおそらくかなわないだろうと思います。でも、(どちらがいい悪いではなくタイプとして)本書『ニジノ絵本屋さんの本』のような本のほうが、というか、このような本こそが、より参考になる、より助けられる感じがする、という受け取り手も決して少なくはないだろうなあと、そんなふうに思ったのでした。
この本がユニークな点は内容だけでなく、そのつくりにもあります。本屋関連本は、いろいろなものを手にしてきましたが、こんなにたくさんイラストが入ったものを手にしたのは初めてかも。なにしろ、ほぼ毎ページにイラストが入っているのです。絵を手がけたのは、小林由季さん。通常であれば、本屋本にこんなにもたくさんのイラストは必要ないはずですが、あえてこのようなつくりにしたところに、ニジノ絵本屋さんの、というか、同店のオーナーのいしいあやさんらしいところ(などと、面識のない当方のような者が言うのもなんですが)が出ているのかもしれません。