今年、2016年はロンドン・パンクが生まれて40周年。記念イヤーということで、イギリスでは、「Punk London」が開催されていること、それを不快に思ったマルコム・マクラーレンの息子ジョー・コーレンが、抗議のために、8億円(!)にのぼるパンク・コレクションを、セックス・ピストルズがファーストシングル「Anarchy in the UK」をリリースした11月26日に行うと発表したりして、いろいろと話題になっていますね。
『ロッキングオン』が6月号で、40ページのボリュームのパンク特集を組んでいましたが、関連書籍は出ないのかなあ、と思っていたら、こんな本が出ましたね。
- 大鷹俊一編『パンク・レヴォリューション』(河出書房新社)
版元の内容紹介によれば、こんな本です。《パンクが生まれて40年目、その巨大な影響をトータルに検証する。そのはかりしれない力はどこからうまれ、何をもたらしたのか。バンド論、ディスクガイドなども付す》。
パンク&ニュー・ウェーブに絶大な影響を受けた身としてはこのような本が出ると買わざるを得ないのでした。一気に読んでしまいましたよ。
編者の大鷹俊一さんのほかにも、サエキけんぞう、鳥井賀句、行川和彦、三田格各氏といった方々が稿を寄せています。内容的には、パンクとはなんだったのか、その後にどんな影響を与えたのかといった観点でまとめられていて、研究書のような感じのテイストになっていますが、当時このジャンルの音楽を聴いた人ならば、すらすらと読めるでしょう。
読んでいると、文中に名前の登場するアーティスト、バンドの音楽を聴きたくなるので、手元に音源を用意しておくと、読むのに時間はかかるでしょうが、本書をより深く楽しめるかもしれませんね。
全体におもしろく読みましたし、勉強にも参考にもなったのですが、「必聴パンク・ディスクガイド50」にダイナソーJr.やニルヴァーナまで入っているのはどうなのかなあ、というのが、オールドタイマーとしてはちょっと気になってしまいました。オルタナやグランジがパンクの影響下、パンクからの流れにあるのはいいとしても、「パンク」の50枚を選ぶときにそれらまで入れるかどうかは話が別だと思うんですよね。ニルヴァーナの『Nevermind』なんて、2千数百万枚、アルバム売れてますしね。今さら「パンク」の50枚にあげるようなアルバムではないような気がするんだけどなあ。余談ですが、ちょっと気になりました。
さて。パンク&ニュー・ウェーブの関連本、別に集めているわけでもなんでもないのですが、書棚を見てみたら、けっこういろいろありましたので、手元にあるものをちょっと引っ張り出してみました。(ザ・ジャムやクラッシュなど、特に思い入れのある個別のアーティストについては、本もいくつか持ってますが、それらは除いてあります。)
↑『パンク・エクスプロージョン1977』(JICC出版局、1993)、『ルーツ・オブ・パンク・ロック』(シンコー・ミュージック、1988)。
↑『レコード・コレクターズ』は、2005年8月号で「UKパンク」を、2004年3月号で「UKニュー・ウェイブ」を特集しています。右は同じくミュージック・マガジン社、1997年刊の『MUSIC MAGAZINE増刊 パンク・ロック・スピリット』。
↑『ニュー・ルーディーズ・クラブ』Vol.26(シンコー・ミュージック、1999)。特集は「パンク・ロックの横顔」。
↑そうそう、これも挙げておこう。『20世紀エディトリアル・オデッセイ 時代を創った雑誌たち』(誠文堂新光社、2014)。本書は、《数多くの雑誌を蒐集し、雑誌をとりまく文化にも詳しい著者が、20世紀に刊行した雑誌のなかから、独自の切り口とビジュアルで多くの読者に支持され、他のメディアにも影響を与えた雑誌を選び解説する》という内容の1冊で、書名とこの説明だけ見ると、パンクなんてまったく関係なさそうですが、「パンクス・プリンテッド」という章があり、1章まるごと、パンク&ニューウェーヴの雑誌・ファンジンなどの紹介・解説にあてられているのです。
『Rock Magazine』など、ごくごく一部を除き、ぼくなどは聞いたことも見たこともないものばかりですが、パンク&ニューウェーヴを雑誌文化がどのように扱かったのかを知るには大変貴重な情報になっていますし、驚くべきことに、当時のファンジンの関係者へのインタビュー取材が載っていたりもします。
ところで。長々とパンク文献の紹介をしてきましたが、そもそも、お前にとってパンクってなんなんだ、って話ですよね。ぼくは1968年生まれなので、1976年時点ではまだ小学生。パンクにリアルにふれたわけではありません。どちらかというと、ニューウェーヴと呼ばれるようになってから、それもけっこう後になってから出会ったくちです。完全な後追いなんですが、それでも、その衝撃は強烈でした。
ぼくの10代はほぼ1980年代と重なっているんですが、80年代はぼくのようないさか古い趣味・感性の持ち主には(文化的に・趣味的に)やや生きにくい時代でした。今では別に当時の音楽もきらいなわけではなく、どころか、けっこう好きなものもたくさんあったりするのですが、当時は、アリーナをいっぱいにするような音楽とか、MTVに毒された(と思っていた)音楽や、きんきらきんの格好の浮わついたちゃらい音楽にはまったく感情移入できなかったのでした。
そんなときに、パンク&ニュー・ウェーヴに出会って、初めて“こちら側”の音楽だと、自分に近い側の音楽だと思えたのでした。
……青臭い話をすみません。最後に、個人的に思い入れのあるパンクの曲を6つだけあげておきます。(ジャケ写は全部UK盤のシングルにしてみました。)
- The Clash / London Calling
- The Damned / New Rose
- Buzzcocks / Ever Fallen in Love (With Someone You Shouldn't Have)
- Joy Division / Love Will Tear Us Apart
- The Police / Roxanne
- The Jam / In the city
上の5バンド、5曲はほぼ迷わずにリストアップできました。(あくまでもぼくにとって、という意味で、ですが)これしかない、という曲だからです。こうしてリストアップして、ジャケを眺めているだけで、(これらのシングル盤で当時聴いていたわけではないんですが)初めて出会った中高生のころに戻ったような感じで、なんとも言えない気分になります。
ザ・ジャムは、ちょっと思い入れが強すぎて、1曲だけというのでは選べません。これは過去の記事に書いたことがあるんですが、ザ・ジャムがどれぐらい好きだったかというと、ポール・ウェラーに憧れて、ファッションや髪形のマネをしたり、高校生のときはザ・ジャムのコピーバンドを組んだり、初めての海外旅行先のイギリスでは中古レコード屋さんを回りまくって、ほぼ全部のシングル盤(もちろん、UKオリジナル、アナログ)を集めてきたり、それぐらい入れ込んでいたのです。今こうして書き上げてみると、はずかしいかぎりですが……。
ザ・ジャムのなかでもいかにもパンク然とした曲調とビジュアルイメージのデビューシングル「In The City」を上にはあげましたが、この曲が初期ジャムのなかでパーソナルベストというわけでもないのだなあ。
↑これも好き。「The Modern World」。サードシングル。
↑これもいいんだなあ。4枚目の「News of the World」。モッズルックでカーナビー・ストリートを歩くメンバー3人。こういうのに憧れて、初めてロンドンに行ったときは、当然ながらカーナビー・ストリートを訪れ、こんなような服を売っている店を探したりしたんだったなあ。
↑ザ・クラッシュの「ロンドン・コーリング」、上にはUK盤のジャケをあげましたが、これ、なんか曲のイメージと違い過ぎですよね(苦笑)。これは、アルバムジャケをそのまま使った日本盤シングルのほうがいいなあ。こちらのは、2012年に出た「ロンドン・コーリング」のremixシングル。
↑ジャケのイメージが違うということでは、ザ・ポリスもそうですね。「ロクサーヌ」、日本盤はメンバー3人の写真のふつうのジャケで、UK盤のほうがいい。サードシングルの「キャント・スタンド・ルージング・ユー」はなんと首つりジャケ。まあ、「きみを失うなんて、耐えられない」って歌なんですが、だからって、死んじゃうことはないかと……。
↑ロゴもメンバーのファッション(横縞)も、このころのポリスのイメージ通りのビジュアルになっている「Walking on the Moon」。
↑次点というか番外というかで、ザ・スペシャルズもあげておこう。
追記(3/17):「パンク&ニュー・ウェーブの関連本」をいろいろ挙げましたが、ぼくが高校生の頃に読んで大変に影響を受けたこれを挙げ損ねていました。
- 『宝島』1984年12月号(JICC出版曲)
なぜ漏らしていたかというと、本稿執筆時は手元になかったからです。神保町の古書店ではふつうに見かけていましたが、割にいい値段がついていたので、安く見かけたら買おうなどと思っていたのでした。先日、中野のまんだらけで、無事、手頃な値段で発見。
特集は「パンク・ロック白書」。ぼくの前後の世代にはなつかしく思い出す人も多いことでしょう。1冊まるごと大特集ぐらいのイメージに記憶のなかで勝手にふくらんでいたんですが、今見ると、20ページほどの特集なんですよね(巻頭の関連グラビアをのぞくと)。それでも、当時は新鮮だったし、充分過ぎる情報量だったんだよなあ。1冊の雑誌で、当時のことがいろいろ思い出され、なんだか得した気分になれました。
追記:これはパンクとはちょっと違うけど、関連するカルチャーの特集雑誌としては、こちらも忘れがたい1冊です。
- 『STUDIO VOICE』1995年11月号 Vol.239(INFAS)
特集は「The Kids Are Alright! モッズたちの宇宙」。表紙はザ・ジャム時代、それも初期のころのポール・ウェラー。約40ページにおよぶ、ファッション・音楽・映画などモッズ・カルチャーを幅広くカバーした読み応えのある特集で、ビジュアルも充実。このころの『スタジオボイス』は毎号、ほんとに楽しみだったなあ。
↑追記(2018/1/20):何か見つけるたびに追記することもないのですが(苦笑)、本棚からこんなのも出てきました。上と同じ、『STUDIO VOICE』1994年4月号(インファス)。特集は「パンク再生 もう一度、退屈を燃やせ」。ビジュアルやパンク人脈相関図なんかはおもしろいんですが、記事(文章)が、上のモッズ特集に比べ、今読むともうひとつな感じでした。