本と本屋さんについて書かれたすてきな文章に出合うと、その書き手が知らない人でもうれしいし、知っている人だと、もっとうれしい。
- 「出版社として、客として、沖縄で思う「町の本屋さん」のこと(上)」(3/11 沖縄タイムス+プラス)
- 「出版社として、客として、沖縄で思う「町の本屋さん」のこと(下)」(3/17 沖縄タイムス+プラス)
書き手はボーダーインクの喜納えりかさん。那覇の本屋さん、ブックスおおみね、『本屋会議』にも登場する金武文化堂にふれられています。でも、ただの本屋さん紹介文ではなく、読み手に本屋さんのことを考えさせずにはいられないものになっています。
『本屋会議』にも登場する金武文化堂の新嶋さんは、町本会に参加したあと《一念発起して、本屋開業を目指す人向けの講座に申し込んだ。週1回の講座で、会場はなんと横浜だった。毎週、金武から那覇まで行って飛行機に乗り、ホテルに泊まって全ての回を受講した》のだそうです。那覇から横浜に通うって……驚くほかありません。
書き手の喜納さんは、《町本会が終わってからしばらくは、「町の本屋さん」にばかり行ってい》て、《とても久しぶりに本を注文》したそうです。《わたしはネット通販はぜんぜん使わないのに欲しい本はすぐ手に入っていたのだから、知らないうちに便利な世の中を生きていたんだな、と気づく》。
新嶋さんさんも喜納さんも、おそらくは、自然にそのようなことになってしまった、というか、そうせざるを得ないような、そんな気持ちになったのではないかと思うのです。町本会に参加したり、『本屋会議』を読んだりしてくださった方が、何かしら行動を起こしてくださること。町本会と『本屋会議』に関わった身にとって、これほどうれしいことはありません。
喜納さんは、昨年、東京・阿佐ヶ谷で開催した本と音楽のイベント「ブックンロール」にはるばる沖縄から駆けつけてくれました。さらりと書きましたが、沖縄からですよ。有名なフェスに参加するために上京されたのではありません。ぼくが交通費を出して招待したわけでもない。たった一晩の、わずか数時間の、素人が企画・主催したイベントに、わざわざ那覇から駆けつけてくれたのでした(さらに言うと、会場のいちばん前の席で楽しんでくれました)。
これまで、ぼくが企画・主催し、東京の会場で開催したイベントに、北は東北から、西は大阪や四国や岡山や九州からわざわざ駆けつけてくれた人はいましたが、沖縄からというのはほんとにびっくりで、言うまでもなく、過去のすべてのお客さんのなかでいちばん遠方からの参加者でしょう。お会いするのはそのときの2次会が初めてだったんですが、本のこと、本屋さんのこと、イベントのこと、音楽のこと、楽器のこと……初対面とは思えぬほどの共通の話題が次々に飛び出して、いきなり仲良しになってしまったのでした。
掲載前後のメールのやりとりで、喜納さんは「 原稿にはうまく書ききれなかったのですが、本と本屋の将来において、「子供たち」というのが、わたしのやれることのような気がしています」という主旨のことを書いていました。これまでにも子どもの本や子どもの読書をめぐる文章はいくつか書いていますし、最近もこんな記事を書いているぐらいで、ぼくも子どもたちと本屋さんのことを、未来の読者のことを、常に忘れないようにしたい、大事にしたいと考えている一人です。沖縄のような遠く離れた地に、同じように本屋さんのことを、そして未来の読者である子どもたちのことを真剣に考えている人たちがいると知ることができたのは、そしてそのような人と知り合うことができたのは、とても幸せなことだと、今回喜納さんの文章やメールを読んで、あらためて思ったのでした。
喜納さんの文章から脱線しまくってしまいました。喜納さんの文章は全文を読んでほしいので、安易に一部を引くことは、本来ならば避けるべきことなのかもしれないのですが、(下)の後半に出てくる、このくだり、この文章だけは、どうしても引いておきたいな、と思ったのでした。
《だけど、わたしはもうひとつ気になることがある。届くのに時間がかかることは、お店の人が申し訳なく思わないといけないことなのだろうか。どんな本でもすぐに手に入るのは、とても重要なことなのだろうか》。
《「本はいつでもわたしを待っているのに、わたしの方は本を待たない」。ものすごく感覚的だが、そんな感じすらする》。
《きっと誰もが「なければ生きていけないもの」を持っているけれど、多くの人にとってそれが本と本屋であってほしいと願う》。