先日、しばらく前の記事でご紹介しました、人文会のシンポジウムに参加してきました。
- 「人文会45周年記念シンポジウム」(人文会)
当日のプログラムは以下の通り、2部構成でした。
第一部 『町と書店と人と 神保町で人文書を売る』
講師:柴田信さん(岩波ブックセンター)
第二部 『人文書をどう売り伸ばすか? 私の取り組み』
パネリスト:伊藤稔さん( 紀伊國屋書店)、久禮亮太さん(あゆみBOOKS) 森暁子さん(ジュンク堂書店)
第一部の講演も、第二部のシンポジウムも、どちらも聞き応えのある内容で、いろいろ刺激になりました。いずれも非常に内容の濃いもので、とてもこのblogの記事に簡単にまとめられるようなものではありません。ですので、以下は、当日の雰囲気が多少わかれば、という程度のごく簡単なレポートだと思ってお読みください。
まず第一部の、岩波ブックセンター・柴田信さんのお話。レジメによれば、テーマは「書店の危機」「書店の危機感から取次店を見る」「書店の危機感から出版社を見る」の3つ。「危機」の話といっても、本が売れない、書店が毎年何店閉店しているといった、メディアで出版不況が取り上げられる際によくある単純な悲観論ではありません。「危機」の内容を、「経営の危機」「現場の危機」「スタッフの危機」に分けて何がどのように問題なのかを、自店の例を紹介しながら解説。柴田さんは、そうした「危機」が共有されていないのが問題であることを指摘します。海文堂書店のことにも言及され、書店が閉店するというのは、(本を売る)「現場」がなくなるという危機であること、そのことを出版社もきちんと認識すべきであることを強調されていました。(以上は空犬の解釈で、実際には、柴田さんはこんな単純にまとめられたわけではもちろんありません。)
非常に示唆に富む、とても興味深い話でしたが、書店の問題から、取次・出版社の話に移る予定のところ、取次の話に入ったあたりで時間切れ。最後の取次に関するところと、版元に関するところが駆け足になってしまったのが残念でした。とくに版元の危機に関連してふれられた「直取引」の問題は、書店にも版元にも関心の高い人が多いでしょうから、今回の講演で話しきれなかった部分について、人文会のみなさんには、柴田さんにお話いただく機会を別に作っていただきたいなと思います。(さすがに、柴田さんをbeco talkにお呼びするわけにはいきませんからね(苦笑)。)
書店の危機と言えば、わたくし空犬も『本屋図鑑』を一緒に作った、夏葉社の島田氏とこんな会を立ち上げて、町の本屋さんの問題に、これまでやってきたことからさらに一歩踏み込んだかたちで取り組みたいと考えていたところでしたので、まさに、いまいちばん聞きたいテーマの話を、業界の大先輩から聞くことのできたかっこうで、とても貴重な機会になりました。
第二部は、書店員によるトーク。座談会形式ではなく、1つのテーマにつきお一人がメインスピーカーとして話をし、それについて、司会の方が他のお二人にも話を聞くというスタイルのトークでした。レジメを引用すると、当日のテーマと、それぞれのメインの話し手は以下の通り。
『人文書の読者にとって魅力のある品揃えとは?』
第1テーマ フェア(紀伊國屋書店伊藤稔さん)
第2テーマ 仕入・棚作り(ジュンク堂書店森暁子さん)
第3テーマ 顧客分析(あゆみBOOKS久禮亮太さん)
タイプの違うお店・役割の方がうまく人選されていたこともあり、同じテーマで話しても似たような感じにはならず、お店や立場の違いがよく出ていたように思います。また、3人が30代というのも大正解で、昔はよかった的な感じが一切なく、いままさに書店の現場でどんな取り組みをしているかという「現場感」がよく出たトークになっていたように思いました。実際に書店で人文書に取り組んでいる方には、参考になる部分が多かったのではないでしょうか。
ちなみに、人文プロパーでない空犬がなにゆえこのような会に顔を出しているのかというと、先の記事にも書きましたが、今年1月に行われた研修会に出演した縁で声をかけていただいたからです。(まったくの余談ですが、当日参加者の名簿では、ぼくの名前は「報道関係」のところに入ってました。肩書きのないのは全参加者のなかで二人だけで、もう1人は『「本屋」は死なない』の石橋毅史さん。全参加者のなかで、漢字2文字の名前はもちろんぼくだけです(笑)。胸につける名札も「空犬」で用意されていました。)
本業や『本屋図鑑』の取材などでお世話になっている書店員さんや仲良しの書店員さんも参加されるようでしたし、何より、講演とシンポジウムの内容に興味もありましたので、勉強のつもりで寄せていただいたのですが、当日、会場を見渡して、また、参加者名簿を見て、自分の図々しさにちょっと青くなりましたね。だって、会場には、講演される岩波ブックセンターの柴田さん以外にも、東京堂書店の深谷さん(店長)、あゆみBOOKSの鈴木さん(社長)、紀伊國屋書店の西根さん(新宿本店店長)、丸善の小松原さん他、書店業界で名を知られる方があちらにもこちらにも……。そんな会場で、「空犬」って名札を胸に独り座っているのって(苦笑)。
ただ、いいなあと思ったのは、そういうえらい方々で会場が埋められていたわけではなく、参加の書店員さんには予想よりもずっと若手・中堅ぐらいの感じの方が多かったことです。こういう話はやっぱり若い層にこそ聞いてほしいですからね。
聞いてほしい、といえば、今回の講演・シンポジウムは、人文書の担当ではない方にも参考になったろうと思うのです。ジャンルの担当は、ごく一部の書店をのぞいて固定ではありませんから、いま人文書に縁のない方でも、将来いつ担当することになるかわかりません。また、ある程度のキャリアの方であれば、フロアマネージャーや店長の立場で、複数または全部のジャンルを見なければならないこともあるでしょう。ですから、今回のような、中身の濃い、多くの書店関係者の参考になりそうな会の場合は、人文関係者に限らず、広く、いろいろな担当・立場の方の書店員さんが聞けるようなシステムになるといいのになあ、と思いました。
実際、第二部の書店員さんのトークでも、各店の取り組み例として、岩波書店の本とコミックを組み合わせたり、人文書のフロアにビジネス書を持ち込んだフェアをしたり、人文書とそれ以外の本の組み合わせた購買記録を店頭展開に活かしたり、といった話が出ていました。ああいう話を聞くと、よけいにそんなことを思わされます。
シンポジウム後は、懇親会があり、そちらにも参加させていただきました。研修会以来の方にもお会いできましたし、出演者のおふたり(久禮さんのみ、以前から面識ありました)をはじめ、初対面の書店員さんとごあいさつすることができ貴重な、そして楽しい機会となりました。あらためて、声をかけてくださった人文会の関係者のみなさんにお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。