ぼくはミステリ読みではありませんので、新刊ミステリを本日記で取り上げることはまずないのですが、先日の日記で紹介した大崎梢『配達あかずきん』(東京創元社)は、「書店もの」ということですので、書店好きとしては取り上げないわけにはいきません。
駅に隣接のファッションビルの6階にある成風堂書店。そこで起こった本をめぐる事件の数々を、店員の杏子とアルバイトの多絵の探偵コンビが解決していくという、本の紹介文によれば「初の本格書店ミステリ」、それが本書です。短編集で、5編収録されています。
書店好きとしては、やはり書店がどのように描かれているかが気になるところです。この「駅に隣接のファッションビルの6階にある」という設定だけで、都内の書店好きならば、たとえば、昨日紹介した新宿の有隣堂はルミネの6階で雰囲気もぴったりだな、恵比寿のはアトレの5階だっけ6階だっけ、とか、東京駅の三省堂書店大丸東京店は大丸のたしか6階だけどファッションビルとは言えないなあ、とか、立川のオリオン書房はルミネの何階だっけ……などなど、いろいろと思い浮かぶ店があることでしょう。
全編書店が舞台ですから、店内の様子や書店さんの日常業務の描写もかなり出てきます。なるほど、さすがに元書店員が書いただけあって、こまかいところまで「リアル」に描かれている感じがします。読んでいると、どうしても知っている書店の店内や書店員の方の様子が思い出され、本の世界と頭の中でイメージが重なるので、なおさらリアルな感じでした。
どの程度「本格」なのかは当方にはよくわかりません。くわしい内容紹介やミステリとしての出来については、他のミステリ読み巧者のみなさんにおまかせしたいと思いますが、小道具としての本の使い方もうまく、主人公のふたりも魅力的で、本好き・書店好きとしては楽しく読めたことを報告しておきます。
さて、ひと通りほめたところで、素朴な疑問もふたつ。ひとつは、こんなにも登場人物がみな非常に記憶力がいいのって設定としてフェアなんだろうか、ということ。全編にその傾向はあるのですが、特に2編目の「標野にて 君が袖振る」では、客(依頼者)は20年も前のことを事細かにいろいろと思い出すし、探偵ふたりも万葉集の歌や作者や解釈をすらすらと口にしたりします。不自然な感じとまではいかないので、ふつうに読めはしたのですが、なんとなく気になってしかたありませんでした。こういうのはミステリ読みのみなさんにとっては別に気にならないものなんでしょうか。
もうひとつは、書店員のみなさんって、こんなにも客と交流があるものなんだろうか、ということ。ぼくは客としては複数のお店に出入りしていて、おそらく平均よりはかなり頻繁に通っているほうだと思います。なかには、学生時代から10数年(20年?)も通っている店があるほど。それでも、客として通っているうちになんとなく店員さんと懇意になった店など1軒もありません。今知っている書店員さんは、仕事でこちらから名乗って初めて知り合った方ばかりです。いつもの店で、いつも決まった本や同じような本を買う、という習慣がないからだ、と言えばそれまでかもしれませんが、レジでのあの短時間のやりとりのなかで、こんなふうな人間関係が生まれるとはなかなか思いにくく、なんだか気になった次第です。
このあたり、別に本作品集のキズであるとはまったく思わないのですが、ミステリ好きのみなさんや、書店員のみなさんが読むとどんなふうに感じるものなのか、他の方々の感想をぜひとも知りたいところであります。
あとがきは、書店人のみなさんの座談会形式になっています。個人的にはおもしろい試みだと思うのですが、Amazon.co.jpのレビューなどには批判的な意見もあがっているようで、やはり、あとがきにこういう「身内ノリ」っぽい感じを望まない人はいる、ということなのかもしれませんね。警察小説で、元&現役警官の座談会があとがきになってたりとか、聞いたことないですからねえ(あったらあったで、ものめずらしくていいけれど、おもしろいかどうかはちょっと疑問かも)。
◆今日のBGM◆
- Albert King『I wanna get funky』