今回で、5回目だそうです。もっと前からやってたような気がしてしまうほど、もうすっかり「定番」のフェアになりましたね。往来堂書店のフェア、「D坂文庫 2012・夏」。
以下、店頭の様子を紹介します。ちなみに、前回、冬のフェアの様子はこちら。(店内の写真は、すべてお店の許可を得て撮影したものです。)
↑お店に入るとすぐに目に飛び込んでくる、Hさんの手になる、かっこいいポスター。写真撮ってくるのを忘れてしまったんですが、店頭の看板もこのポスターです。
↑全体はこんな感じ。共通帯が視覚的にとても効いているのがわかります。
点数は、60点ほどかな。1人1点のセレクトなので、作家のかぶりもなく、テーマもレーベルも新旧も適度にばらけていて、バラエティに富んだものになっているんですが、全体を眺めると、なんとなく、往来堂らしい、というか、D坂らしいというか、ある種のテイストに貫かれている感じが伝わってきます。
前回に続いて今回も、選書に参加させてもらいました。選書をされた方のお名前を見ると、D坂でよく見かける常連の方、お会いしたことはないけれど、ツイッターやブログでお名前をお見かけする方もけっこういらっしゃいます。本のセレクトや選書のコメントを見ていると、きっと本の好みが近いんだろうなあ、本の話をしたら楽しそうだなあ、なんて思われる方もいて、なんだか一方的に親近感がわいてしまいます。
↑今回は、この本を選びました。種村季弘『徘徊老人の夏』(ちくま文庫)。自分が好きなもので、往来堂の客層やD坂文庫のノリに合ったもの、さらに季節感も考慮して、など、いろんなものを考えてセレクトしたつもりなんですが、さて、売れ行きやいかに。
↑D坂文庫の小冊子。フェアの本、全点に、選者のコメントが載っています。どういう順序なのかわかりませんが、偶然、表紙に載ってしまいました。
(ここで、修正とお詫びを。帯と冊子では、選書コメントの見出しが
「知の海とノンシャランを徘徊する粋な老人」
となっていますが、正しくは、
「知の海をノンシャランと徘徊する粋な老人」
です。これはお店ではなく、わたくし空犬のミスです。文字を入れ替えちゃうなんて、「めだまやき」が「めだやまき」になっちゃう子どもみたいで、ちょっとはずかしい……(涙)。自己申告しておきます。)
↑選書に参加したら、こんなすてきなバッヂをもらえました。往来堂のトートバッグでもおなじみ、ミロコマチコさんのイラストをあしらった缶バッヂです。お店で販売もしています。下は、2冊買うともらえるメモ帳。
ちなみに、この缶バッヂ、ぼくが作った往来堂書店の冊子『千駄木の本屋さん』の完成祝いを、往来堂のみなさんとしたときに、飲みながら出てきた案なんですよね。まさか実現するとは、それもこんなに早く、こんなにすてきなかたちで実現するとは思いませんでした。
いいなあと感じるフェアの困るところは、自分が持ってる本、読んでる本との重なりが多くなってしまうことでしょうか。今回も、すごく好みのセレクトになっていて、7割ぐらいは所有本、既読本という感じかなあ。フェアから何か買い物をしたいんですが、選ぶのにとても困ってしまいました。お店にいたHさんとOさんと一緒におしゃべりしながら、これはどうか、これは読んだか、これはおもしろぞ、などと、さんざんあれこれやって選んだのがこちら。
↑『つげ義春の温泉』(ちくま文庫)は先月の新刊なのでさすがに未読。D坂らしいセレクトですよね。選者は写真家の尾仲浩二さん。選書コメントの、「がっかりすることも旅の醍醐味なんですよね」に惹かれて決定。
もう1冊は、テオプラストス『人さまざま』(岩波文庫)。選者は往来堂の近くのお店、ブーザンゴの羽毛田顕吾さん。岩波文庫の青帯。このようなフェアで出会いでもしないかぎり、まず自分では手に取らなさそうな本です。古代ギリシアの市井の人々の姿を描いたものなんですが、人々の美点ではなく、ダメなところを並べ立てたもので、目次には、「けち」「いやがらせ」「とんま」「へそまがり」「しみったれ」「悪態」と、マイナスワードがこれでもかと並んでいます(苦笑)。
これを見てると、なるほどなあ、今のギリシアが大変のもわかる気がするよなあ、なんて、よけいなことを思ってしまったりします。テーマ・内容はもちろん、ギリシャ哲学者である訳者が「森進一」さんと、演歌歌手と同名なのもなんだか妙におかしいし、その訳者による、ちょっと過剰なぐらいの註なども妙に熱くて、なのに、書名がなんだかなげやりっぽいところもよくて、全体に、愛すべき珍書の香りが濃厚に漂う1冊です。
前回のレポートにも書いたお願いの一部を引用しておきます。お店のサイトのフェアページでも、フェアの全貌や選書コメントは見られます。遠方で来られない方はそちらでお楽しみいただくとして、近隣の方は、サイトだけで済ませず、ぜひ店頭を見に行ってくださいね。本が実際に並んでいるのを見ながら、気になった本を手にとり、本をひっくり返して、帯の表4(裏表紙)側に載っている選者のコメントを参考にしながら、あれこれ選ぶ、これにまさる楽しみはありませんからね。
あと、店頭では、どの本がどこに並んでいるか、何と並んでいるかをチェックする楽しみもありますよね。同じ本でも、並びによって印象はずいぶん異なりますから。その意味でも、ぜひ店頭の様子を実際にご覧になることを強くおすすめします。フェアは、9/2まで。
↑レジの右斜め前のフェアスペースでは、「柴田元幸さん、サイン本百冊!夏祭り!」が開催中。「百冊」は間違いではないんですよ。この平台に並んでいる、柴田先生の著書・訳書・関係する雑誌など、すべてがサイン本なんですよ。
ご本人がしばらく前にお店にやってきて、お店でサインをされたそうなんですが、「書店でこんなにたくさんの本にサインするのは初めてだ」ともらされていたとか。オースターに、ミルハウザーに、ケリー・リンクに、トウェインに、ピンチョンに。主要訳書や著者がずらりですから、柴田元幸ファンは、ぜひぜひチェックをお忘れなく。
ぼくも柴田先生の大ファンなんですが、訳書・著書はほとんど読んでるからなあ。ここでもずいぶん選ぶのに苦労しましたが、著書からは、最初に読んだ記念すべき1冊(もちろん、当時は単行本で)ということで『生半可な学者』(白水社uブックス)を、訳書からは、単独の訳書としては最新刊になる『トム・ソーヤーの冒険』(新潮文庫)を選びました。
レジの後ろの壁に、見慣れない絵がかかっています。往来堂の店頭を描いたものなんだけど、「こどものとも」の表紙で埋め尽くされているのがなんだか妙な感じ。Hさんにきいたら、『おしいれじいさん』(「こどものとも」年中向き8月号、福音館書店)の作者で、お店にお客さんとしてもいらっしゃるという、尾崎玄一郎さん尾崎由紀奈さんご夫婦(?)の手になるものなんだとか。
往来堂が出てくるなら読んでみたいなあと思ったら、このような絵が作品のなかに出てくるわけではなくて、お店のために描きおろされたものなんだそうです。お店の壁をつかって原画展・作品展をすることはありますし、そういう展示やフェアなどに合わせて、絵の入った色紙やPOPを画家の方が用意したりする例もふつうに目にしてきましたが、お店の様子に自分の本をからめた作品をわざわざ描きおろすという例はあまり聞いたことがありません。お世辞にも、かわいいとかきれいとか、そういうタイプの絵ではないかもしれませんが、ひとめ見たら印象に残る絵なのはたしか。レジでの会計のときは、奥の壁をちょっと見上げてみてください。
↑見上げると言えば、これもありました。トキの紙ふうせん、というか、紙ふうせん製のトキ、というべきか。空犬通信でも紹介済みの、小野智美さん『50とよばれたトキ 飼育員たちとの日々』(羽鳥書店) の、がんも大二さん描くところのトキのイラストにそっくりですが、本とは関係なく、新潟産のものなんだそうです。扇風機の風にゆらゆら揺られている様子は、鳥好きには大変キュートなものに映るんですが、売り物ではないそうです。残念。