久しぶりの乱歩ニュースです。神保町、すずらん通りの東京堂書店で、「銅版画家多賀新と江戸川乱歩の世界」なるフェアが開催中です。
乱歩ファンにはおなじみ、春陽文庫の表紙を手がけた多賀新さんですね。本はこちら。
春陽文庫の乱歩も全点されているわけではないし、オリジナルプリントなどが飾られているわけでもありません。ごくごく小規模のフェアです。でも、まあ、乱歩者はのぞいてみてください。1階エレベータ前にて開催中。
↑この通り、春陽文庫は表紙が妖しくてすてきなんですが、本文に誤字が多い、との声も……。ぼくはふだん読むときは、やはり決定版的内容の光文社文庫全集派なんですが、春陽文庫も、このシリーズではなく、文庫版なのに2段組の、昔の春陽文庫、長編全集全7巻を持ってます。専用の箱があって、いい感じなんですよねえ。
仕事で関係がないわけではないので、新刊案内のたぐいは、紙の本のそれだけではなく、一応、電子のもチェックしています。で、この前、ダ・ヴィンチ電子部を見ていたら、乱歩があがっているのを発見しました。「ミステリーの父・江戸川乱歩のベスト作品集。これであなたも乱歩中毒に!」(11/4ダ・ヴィンチ電子部)。書き手は、朝宮運河さん。本は、創元推理文庫版の『D坂の殺人事件』ですね。お値段は315円なり。
先の春陽文庫、それに光文社文庫の全集のほか、単発の作品集も含めると文庫だけでも数種の版が出ている乱歩文庫。創元推理文庫版の特徴といえば、連載当時の挿絵が掲載されていることですね。
電子版ではその挿絵はどうなっているのかな、と思ったら、《レトロ感たっぷりの挿絵も多数掲載。作品の妖しいムードをさらに引き立てます》という紹介文付きで、ちゃんと挿絵入りのページがサンプルとして紹介されていました。
この短編集、「D坂の殺人事件」「火星の運河」「虫」「お勢登場」など、「ベスト」かどうかはともかく、乱歩入門にはなかなか悪くないセレクトなんですよね。だから、この電子版で乱歩を初めて読んでみよう、なんて方がいたら、入り口にはいいのかも、とは思うんですが、でも、一方で、乱歩のような、昔の探偵ものを電子で読んで、楽しいのかなあ、という気も。
自分が電子で乱歩を読みたいかと言うと、やはり微妙というか、むしろ積極的にそのような読書はしたくない気もします。でも、一方で、300円ほどで、常に自分のiPhoneに乱歩の代表作を常駐させておけるというアイディアには魅力的な面もあります。日常的に必ず複数の本を持ち歩くタイプなので、よほどのことがないかぎり、外にいるときに読むものがなくなってしまうということはまずないのだけれども、万一そのような事態が出来したときにも、乱歩の代表短篇のいくつかが我がiPhoneに入っているというのは、ちょっといいかもなあ、と思ったりするのです。
……まあ、それを言うならば、我が家に山とある乱歩の本のうち、薄い短編集、たとえば新潮文庫版を1冊、常に鞄に入れておけばそれでいいのではないか、と言われれれば、まったくその通りなんだけどね(苦笑)。
ちなみに、同サイトでは、ほかに探偵者の興味を引きそうなものとして、こんなのも紹介されていますよ。「電子書籍でよみがえった、背筋も凍る怪奇実録ノンフィクションの名作!」(11/13)。牧逸馬の『浴槽の花嫁 世界怪奇実話』ですね。紹介者は同じく朝宮運河さん。
「都会の類人猿」「浴槽の花嫁」「肉屋に化けた人鬼」「海妖」と、穏やかでないタイトルが並ぶ作品集、こんなのがiPhoneに入っているってだけで、その異次元な感じがなんだかうれしい気がしますが、まあ、これも作品と容れ物がもう自分のなかでセットになっちゃっているので、やっぱり教養文庫版で読むのがいちばんいいよね(苦笑)。
そうそう、乱歩がらみと言えば、これを本来ならすぐに紹介せねばならぬところだったんですが、すみません、さぼってて、ぜんぜん読めてないもので……。
乱歩だけを取り上げた本ではないのですが、戦前探偵が好きな向きは必読の1冊でしょう。書評も出ているようですので、東京新聞のこれを紹介しておきましょう。「<昭和十年前後>を足場に」評者・川村湊(11/14東京新聞)。