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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

流水書房広尾店、最後のフェアは、実にすてきなフェアでした

まだいろいろ気分的に引きずっているものはあるのですが、この件は今日紹介しないとタイミング的に意味がなくなってしまうので、性懲りもなく、今日も書店の話を書くことにします。


さて、昨日は、港の人さん(@minatonohito)に閉店の情報を教えていただいた、流水書房広尾店を訪問してきました。


広尾ガーデンの2Fにある同店、以前は青山ブックセンターでしたよね。調べてたら、2004年に流水書房に変わったようです。回数こそ多くはないものの、ABC時代から利用したことのあるこの店、前回の記事にも書きましたが、中央線沿線族には広尾はちょっと敷居が高くて、あんまり用事もないものですから、ここ最近はちょっとごぶさたでした。


久しぶりに見る店内は、通路が広くて明るくて、以前と変わらぬ感じのいい雰囲気……なんですが、記憶にあるお店の様子に比べ、なんだか棚の数も、本の数もずいぶん少なくなってしまった感じがします。


『ブック・ナビ東京』(2005年刊)には、同店の特徴として《絵本、児童書を中心に揃えている。》と書かれています。ぼくの記憶でも、棚も本ももっと多くて、絵本・児童書が今よりも多かっただけでなく、ファッション系の雑誌や洋書もたくさん置いていた、全体にもっと棚の見た目の印象が華やかだった印象があります。しばらく見ないとお店は変わってしまうものなんですよね……。




今年の1月には、店長の山加奈さんが、「あらたにす」の「書店員さんのおすすめ」に、登場されていましたが、その記事には、《土地柄、幅広い世代のビジネスマンのお客様がみえますので、ビジネス書やノンフィクションものを多く揃えています。》とありました。《絵本、児童書を中心に揃えている》とはまったく逆といっていい品揃えですよね。店内がなんとなくがらんとした感じになってしまって、見た目から受ける棚の印象も違っているのは、もちろん閉店直前ということもあるのでしょうが、それだけではない、いろいろな変化がぼくがしばらくごぶさたしている間にあったということなのでしょう。


でも。今のお店が、ではダメなのかというと、そんなことは決してなくて、棚を見ていくと、このお店らしさを出そうとする工夫を随所に発見することができるのです。たとえば。


文芸書、とくに文芸書は海外のも日本のも量こそ少ないのですが、最近のエンタメ系話題作だけで埋めることも可能な棚数なのに、あきらかに「セレクト」されたことがわかる本がたくさん並んでいます。レギュラーの棚だけではありません。レジ前の平台には、芥川賞受賞作の赤染さんの本と並んで、多和田葉子さん(!)の本がずらりと並んでいました。


少し前の新刊『尼僧』が評判のようですから、それが平積みということなら別にめずらしくはないんですが、『尼僧』だけでなく、『容疑者の夜行列車』や『アメリカ』(『ボルドーの義兄』だったかも)や、さらには10年以上前の刊行の『ふたくちおとこ』まで並んでいます。いくら『尼僧』が話題を呼んでいるとはいえ、賞や映画化などに関係のない純文学作家の本を、これだけ複数一緒に平積みにしているところは、文芸書の充実した大きなお店でもあまり見かけません。こういうのは、ちょっとうれしいですよね。




そして、今日のメインはもちろん、港の人さんがブログの記事「流水書房広尾店、最後の「読書」フェア」で紹介されていた、本と読書のフェア。背のあまり高くない棚2本ほどのフェアです。でも、そこに「読書」をキーワードに、ゆるめに集められた本たちがぎゅっと詰まっています。




想像とおり、というか、想像以上にすてきなフェアでした。今日はこの棚から必ず何か買うぞと決めていたんですが、テイストの合う書店・フェア・棚にありがちなことなんですが、好きな本・作家がかぶり過ぎていて、なかなかすぐに買えるものがない。うんうん迷ったあげく、最終候補に残ったのは、この2冊。


  • 藤富保男『評伝 北園克衛』(沖積舎)
  • 石内徹編『雪の宿り 神西清小説セレクション』(港の人)




どちらも3千円を超える本。このお店で最後の買い物となる本です。悩みます。これで、閉店とフェアの情報を教えてくださった港の人さんの本を買えば、きれいに話が落ち着く(笑)ところですが、すみません、フェアを組まれたお店の方に敬意を表するのを優先ということで、北園さんの本のほうにしてしまいました(港の人さん、ごめんなさい!)。というのも、2冊のうち、北園本のほうが面になっていたからです。


ぼくが購入したこの北園本の隣には、国書刊行会のビジュアル北園本が鎮座し、逆の隣には、VOUつながりの詩人、高橋昭八郎の、タイポグラフィの実験が楽しい『ペ/ージ論』が並んでいます。数冊置いて、上の神西清の美しい本が並び、近くには、編集工房ノアの本が何冊も並んでいます。で、その下の段には……とやり始めると、棚を見る人の楽しみを奪ってしまうことになりますね。




出たばかりの本も、最近の刊行本も、まだ生きてたのかと驚くような古い本も、単行本も文庫も大型本も、仲良く同居しています。ジャンルも、詩があり、デザインがあり、ジャズがあり、映画がありで、「読書」のフェアといっても、いわゆるストレートな「本の本」だけでまとめられたフェアではありません。一歩離れて棚を眺めると、つながりがゆるやかで細過ぎないか……そんなふうに感じる人もいるかもしれません。でもね、棚を端から見ていくと、これがおもしろいように、本同士がつながっているのがわかるんですよね。


こんなすてきなフェアを展開できるお店が閉店だなんて……。いいフェアにあたってうれしいんだか、さびしいんだか、棚の前でなんだかフクザツな気分になってしまいました。


閉店前にぜひ駆けつけてください、とみなさんにお伝えするにはあまりにもタイミングがぎりぎりになってしまいましたが、この駄文と、港の人さんがブログで紹介されている写真や文章とで、少しでも興味を引かれた方がいらっしゃたら、ぜひこの週末、広尾にお出かけください。書店が本との出会いの場であることを確認できる、そんな棚を見ることができますので。


同店に関わっていらっしゃったみなさん、おつかれさまでした。すてきなお店をありがとうございました。まだ閉店まで日があるのに、少し早いですが、お店のことを紹介したこの記事中でと思い、ひと足先にお礼を述べさせていただく次第です。広尾店のみなさんが、流水書房や青山ブックセンターの他のお店で、今回のようなすてきなフェアや棚作りを手がけられる機会があることを、心から願っています。



流水書房カバー

↑流水書房自体はほかにもありますから、別にこのカバーがなくなるわけではないですが、でも記念にと、ふだんは断るカバーをかけていただきました。右は、流水のRを」かたどったしおり。

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