MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店の件、続きです。
後述の立地の件をのぞけば、これといって弱点の見あたらない印象を受けた同店ですが、閉店時間の21時は、商業施設内の店舗だから合わせるほかなかったのか、それとも近隣店への配慮なんでしょうか、やや早めですね。渋谷の既存店のなかには、24時間営業までありますから、夜の遅い街で、大型店が比較的早めに閉まるというのは、周囲の既存店にとっては安心材料かもしれません。
そのほか、何か、不満とか足りないサービスとかについて書いている人がいないかと、ツイッターで、他の方の感想を眺めていたら、本と文具とカフェしかなくておもしろみがない、という主旨の感想があったりして、驚きました(苦笑)。書店さんに、あれだけの本と文具があって、しかも、どこにでもふつうにあるわけではない店内ブックカフェが併設されいて、それでおもしろくないとは……いったいあと何を求めるんだろうと、ぼくなどは思ってしまうんですが、世間には、書店に、ものすごくたくさんのものを求めている人がいるんでしょうか。ヴィレッジヴァンガードのように雑貨やCDもというのはまだわかるけど、それって、別にジュンク堂書店に求めるものではないと思うし……まさか、宮脇書店の観覧車みたいな、文字通り「おもしろい」ものを求めているとか?!(苦笑)
冗談はさておき。この稿では、出店の既存店への影響のようなものについて、ちょっと思うところを書いておきたいと思います(吉祥寺のことがあるので、冷静にまとめにくく、いつも以上にぐだぐだな文章になっていますが、ご勘弁を……)。
MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店は、ある意味予想通りのジュンクらしい品揃え。この圧倒的な品揃えと在庫数……周囲の既存店にとっては、これ以上の脅威はないでしょう。周囲のお店にとっての救いは、同店が、坂の上にある商業施設の、上のフロアに位置していること、つまり、駅側から見て既存店の多くより「奥」にあるという立地的にやや不利な点でしょうか。
その意味で、距離的にいちばん近く、いろいろな意味で影響を受けるのは避けられないであろう、リブロ渋谷店をあらためて見ておきなくなったので、帰りがけに行ってきました。
今日は知り合いのAさんの姿も見えないし、MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店にかなり長くいて、棚もしっかり見てきたから、数店回った分ぐらいへとへと、ざっと一周する程度にしたんですが、店内を眺めながら、いろいろとちょっとフクザツな思いにかられてしまいました……。
リブロの方が、こんなつぶやきをされていました。すみません、勝手ながら引かせてもらいます。《今日を皮切りに、渋谷、吉祥寺、広島等で某大手書店との厳しい競争が始まりますが、私たちは「いちばん大きな本屋」でなくても「いちばん好きな本屋」といっていただけるような店舗作りに励みたいと思います。》
大型出店による影響という問題の核心にふれていますよね。続けてお店を見てみるとあきらかなんですが、やはり規模の問題はどうしようもない。そこで争うことにはほとんど意味がないと思うのです。リブロ渋谷店も、かつてフロアの多くを占めていた時代からすれば、少し小さくなりはしたものの、今だって、決して「小さい」お店ではない。それでも、やはりMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店を見た目で見ると、どうしても小さく見えてしまう。
でもね、別にそれが悪いわけではないと思うのですよ。ぼくは、本に囲まれてる感じが好きなので大型店も好きですが、中規模・小規模店にも好きなお店はたくさんあります。吉祥寺ならBOOKSルーエがまさにそうだし、少し前にこのブログでも紹介した往来堂書店やブックスアイは、いわゆる「街の本屋さん」規模の小さなお店ですが、どちらも長居したくなる、すばらしいお店です。「いちばん大きな本屋」さんは、床面積と在庫数で、つまり数字で決まってしまうものだから、お客が選ぶものではありません。でも、「いちばん好きな本屋」さんは、数字じゃないんですよね。「いちばん好きな本屋」さんは、お客が選べるものなんですよね。
「書店:「MARUZEN&ジュンク堂」渋谷店が開店」(9/2毎日新聞)の記事中に、こんなくだりがあります。《岡充孝ジュンク堂書店社長は「読者の視点に立った店づくりを進めるため、書店同士が協調してやっていくべき時代に入ったと思う」と話す。》
おっしゃっていることは、まさにその通りだと思います。規模もやり方もぜんぜん違うから、違うだの一緒だの言われること自体あちらは嫌かもしれないけど(苦笑)、「吉っ読」を始めたのも、書店同士が協調する「べき」、というよりは、協調したほうがおもしろいんじゃないか、同じようにそう考えたからでした。
岡さんの言う書店同士は、残念ながら、ここでは同じ地域、同じ商圏の同業者ということではなく、経営的に手を組んだ書店のことのみを指しているのでしょう。実際に、MARUZEN&ジュンク堂書店が渋谷に出店したことで、渋谷の既存店は、同店と協調どころか、ヘタすると、駆逐されかねないわけですから。
それでも、渋谷の場合、まだ大型書店を受け入れる街の力があると思うのです。なにしろ、数年前まで、ブックファーストの渋谷店が、またその数年前までは、「本のデパート」大盛堂書店があった街です。商圏も広いし、日中人口も夜間人口も多いし、客層の極端な偏りもないし、映画館・ミニシアターが多いなど文化的な素地もできている。学校も複数あり、NHKなど他のメディアもそばにある。もともと書店を複数抱えられる街だし、そして、そのなかには大型店が含まれていてしかるべき街だと思うんです。
でも、吉祥寺の場合は、話がぜんぜん違うと思うのです。渋谷とは商圏がぜんぜん違うもの。圧倒的に狭い。渋谷には、リブロを含め、(数え方にもよりますが)駅周辺に新刊書店が複数あります。吉祥寺も、リブロを含む数店がある点は同じですが、過去に、千坪超はもちろん、600坪超の大型店が存在したことはもちろんありません。そもそも、吉祥寺に、渋谷と同じ1100坪クラスの書店を作ろうと考えること自体、やっぱり無茶だと思うのです。どう考えたって、そこには、「書店同士の協調」という考えは、一切入っていない、としか思えない。
ジュンク堂書店は大好きな書店の1つだし、仕事のうえで大変にお世話になっているお店でもある。吉祥寺のこと1点をとって、それで批判をするつもりも、悪く言うつもりもありません。商売でやっている以上、それはしかたないことですからね。
でもね、これだけは機会があるごとに言ったり書いたりしていきたいのです。トップの方が《書店同士が協調してやっていくべき時代に入った》という考えの持ち主であるのだとしたら、そのようなチェーンの書店が、吉祥寺のような街に千坪超のお店を出すのは、やはりどこかおかしいし、不自然なことに思える、と。ただでさえ書店がきびしい、苦しいときに、その書店同士が争って疲弊したり、最悪の場合消えていってしまったりするのは、もう見たくないんですよ……。
でもね、もうジュンク堂書店が吉祥寺に来ることは決まったことですからね。別にぜったい買い物はしないとか、そんなつもりはもちろんないし、吉っ読のブログやツイッターにも何度か書いてますが、吉祥寺店に来られるジュンク堂書店関係者の方がこの駄文をお読みなら、ぜひ吉っ読の会に来ていただきたいとも、本気で思っています。いま吉祥寺にある書店には1店もなくなってほしくないので、《書店同士が協調してやっていくべき時代》に後からくる大型店と既存店で何ができるのかを、ぜひ話してみたいと思うからです。
そして、リブロ(渋谷も吉祥寺も)やBOOKSルーエには、地域に「いちばん大きな本屋」さんが入ってきても、それであきらめちゃったり、へこんじゃったりすることなく、ぜひ、地域で読者が「いちばん好きな本屋」さんを目指してほしい。「いちばん好き」は、お金をかけなくても、勝ち取れる可能性があるもんね。
……すみません、書きたいこと、言いたいことがありすぎて、文章がわやわやだ……。ずっと書きたいと思っている「既存店が複数ある地域への出店問題」について、中途半端にふれてしまったので、この稿、全面的にあらためるかもしれません。明日以降、見直して、書き直したり、削除したりするかもしれませんが、とりあえずこれでアップします。読みにくい文章にお付き合いくださった方、ありがとうございました。また、ここで言及したお店の関係の方や利用者の方で、もし不快に思われる部分がありましたら、どうぞあくまで個人的な思いということでご容赦ください。