もう何度目になるかわからないぐらい目を通している、なぎら健壱『東京酒場漂流記』(ちくま文庫)を、ぱらぱらやっていると、先日の日記で、ルーエの人たちと飲みに行った店として紹介した、吉祥寺の「いせや」の記述が目にとまる。
ぼくがお酒、特にビール好きなのはこの日記にたびたび書いている通りで、家では毎日のように独りで飲むんだけど、外で独りで飲む習慣はない。この「いせや」は、そんなお酒に関してもインドア派のぼくが独りでもたまに飲みに行く数少ない店の1つ。
なぎら本から引いてみる。
《いつもどおりに「いせや」は、どっかりとして、飲もうか、それとも今日はこのまま律儀に帰って、家庭サービスに務めようかと、迷う人間を誘惑している。/そう言えばこの店は、映画なんかで見る昔の遊郭みたいだね。/本当遊郭だ。でも誘惑するのはご婦人じゃなくて、酒の方。》
遊郭、にたとえるあたりがこの書き手ならではのユニークな視点か。道行く人を誘惑するのはお酒だけじゃない。店先で焼かれるやきとりの煙の効果も相当に大きいはず。ね、行きたくなるでしょ。
この店では、やきとり片手にビールのジョッキを傾けながら、くたびれた文庫を読むのがいい。でも、今から行くわけにもいかぬので、今晩は、次はいつ行こうかなあなんて、考えながら家ビール。ビールのおともは、このなぎら本に、昨日のカポーティの続き、それに小林信彦『昭和の東京、平成の東京』(ちくま文庫)にしよう。
◆今日のBGM◆
- The J.B.'S / Doing It To Death