しばらく前の朝日新聞に、「カポーティ、文庫続々 9月からの映画公開を機に」なる記事が載ってたけど、なるほど、映画『カポーティ』公開直前ということで、あちこちの書店でカポーティ文庫が平積み。ジョージ・プリンプトンの伝記は原書を買ったものの積ん読状態だったので、これを機に、文庫のほうで読んでみるつもり。なお、今回の映画はプリンプトンのではなく、ジェラルド・クラーク版の伝記がベースとのこと。
店頭でカポーティの文庫群を眺めているうちに、久しぶりにカポーティを読みたくなって、新訳で話題の『冷血』ではなく、『草の竪琴』を手に取った。
《僕がはじめて、草の竪琴のことを聞いたのはいつのことだったろう。あの秋をむかえるずっと前から、僕たちはムクロジの木に住んだことがあったけれど、あれはたしか夏が終わってまもないころだった。もちろん教えてくれたのは、ドリーをおいて他にはいない。誰もその呼び方を知っている者はいなかったのだから。草の竪琴というその名を。》
ああ、やっぱりいいなあ。作品世界がわずか数行に凝縮された見事な書き出し。
この作品は映画にもなっている。『グラスハープ 草の竪琴』と原題をカタカナにしたタイトルで、叙情的で内容にぴったりの邦題は副題扱い。その点はともかく、映画としては悪くない。
主役コリンにエドワード・ファーロング、老姉妹にパイパー・ローリーとシシー・スペイセク(偶然にも、先日の日記でふれたデ・パルマ版『キャリー』の親子コンビだ)、脇もウォルター・マッソーにジャック・レモンとうれしい配役で、さらに監督はチャールズ・マッソー、ウォルターのジュニアである。いいキャスティングだと思う。思うけれど、原作で「老嬢」などとはされているものの、振る舞いや雰囲気に年齢不詳の童女的というか妖精的なところがあるドリーは、読む人によってずいぶんイメージが違うはずで、パイパー・ローリー(この人も十分に不思議で童女的な雰囲気の人ではあるが)のドリー役が是か非かで、作品の印象はずいぶん変わるだろう。個人的にはいいと思う。たまに見直したくなる、静かないい映画です。
『草の竪琴』の次は、「ミリアム」「無頭の鷹」も読みたいなあ(いずれも『夜の樹』収録短篇)。
- ジョージ・プリンプトン『トルーマン・カポーティ』上下(新潮文庫)
- ジェラルド・クラーク『カポーティ』(文藝春秋)
- George Plimpton『Truman Capote: In Which Various Friends, Enemies, Acquaintances, and Detractors Recall His Turbulent Career』(Doubleday)
- トルーマン・カポーティ『草の竪琴』(新潮文庫)
- トルーマン・カポーティ『夜の樹』(新潮文庫)
- 『グラスハープ 草の竪琴』
映画『カポーティ』は、監督ベネット・ミラー、主演フィリップ・シーモア・ホフマン。ホフマンはMI3よりもやっぱこういう映画の人なんでしょう。顔が、というよりも雰囲気が、クリソツらしい。日本公開は9月30日から。
◆今日のBGM◆
- サラ・ヴォーン『マンシーニ・ソングブック』
今日はカポーティつながりでこれを。『ティファニーで朝食を』は映画としてとりたてて好きというわけではないけれど、「ムーン・リヴァー」の歌唱シーンはいい。