ところで、みなさんは、最近、雑誌は読むだろうか。愛読する雑誌ってあるだろうか。雑誌と言えば、「雑誌愛読月間」、が今日8/20で終わる(7月1日~8月20日)。
この企画、雑誌を読もうよ、という主旨自体はもちろんいい。全面的に賛同だ。出版関係者としてはやはり雑誌は売れてほしいし、雑誌を買いに書店にもいってほしい。もちろん一読者としても、全面的に応援したい立場だ。そうなんだけど、どうも、ちょっと気になるのである。いろいろなことが。
まずは、ポスターと、コピーをご覧いただきたい。
ポスターには、
《恋と雑誌は、必ず私にやって来る。》
とでっかくコピーが載っていて、その横に、
《たとえあなたが、大好きな雑誌の発売日を忘れていたとしても。定期購読なら、あなたの「好き」が、必ずやって来ます。》
とあるのがご覧いただけるだろう。
気になるのは2点である。まず、どうして「定期購読」のすすめなんだろうか、ということ。もうひとつ、どうしてああいうポスター&コピーになるのかなあ、ということ。
定期購読の件だけど、これはご存じの通り、出版社から読者に直接本が送られるシステムで、つまり、書店を通さない売り方だ。雑誌や出版社によって多少の条件の違いはあるが、読者は1年など決まった期間の分の購読料を先払いする。一種の予約販売だ。出版社側は、購読料を先払いでもらう分、たとえば12か月のところをサービスで13冊にしたり、送料を無料にしたり、付録などで特別定価になった場合も追加料金なしとしたり、といった付加価値をつける。
このシステム自体は別にいい。ぼくも利用することはあるし、雑誌を確実に売る手段の1つとしてもちろんあっていいと思う。でも、雑誌を売ろうというキャンペーンで、まず定期購読を、とするのはちょっとどうだろう。書店さん通さないでいいですよ、どうぞ、うちと直でやってくださいよ、って代表的な雑誌版元がみんなして言ってるわけだから。やはり、書店で雑誌を買おう!とするのが筋じゃないだろうか。
この空犬通信でも何度かとりあげているが、いま、街なかの書店さんは苦戦を強いられていて、それにはいろんな理由や事情があるだろうが、雑誌の不調も大きいと思う。雑誌の不調と書店の苦戦は根っこを同じくする問題のはずで、だからこそ、こうしたキャンぺーンも両者ががっちり手を組んで、お互いの利益に結びつくよう、工夫すべきではないのだろうか。
もう1つ、ポスターの件。ご覧の通り、アイドルらしき女性が雑誌のようなものをかかえている。だいたい、ぼくはアイドルとかタレントに弱いので、この女性(安田美沙子さん、だそうです)がほんとに本好き、雑誌好きなのかどうか、よく知らないんだけど、この人、雑誌をかかえてはいるのだが、雑誌目線ですらないじゃん。読んでないじゃない、って。
この人がアイドルとしてどの程度の人気なのか知らない当方には想像もつかないような「読者惹きつけ効果」が、この人には、このポスターには実はあるのかもしれない(実際、このポスターをほめていたり気に入っていたりするコメントもネットでいくつか目についた)。でも、これ見て、ああ私も雑誌読みたい、などと思う人がそんなに多いとはとても思えない。だって、本を読んでる感じも、読ませたい感じも、ぜんぜん伝わってこないもの。
しかも、このコピーである。《恋と雑誌は、必ず私にやって来る。》どうですか、みなさん、これ。日本語表現としてどうか、という点はさておくとして、なんで「恋」? 「やって来る」? 誰に向けて雑誌の魅力を訴えたいと思ったら、このような素敵なコピーができあがるのだろうか。しかも、くどいようだが、書店さんをすっとばせ、というメッセージ付きである。
ぼくは、本好きなので、人が本を読んでいる姿も大好きだ。という話は以前にも書いた。すてきな女性がカフェで独り本を読んでたりする姿は(その方の美醜にかかわらず)とてもいいし、この季節、図書館や書店にたくさんいる子どもたちが本にのめりこんでる絵なんて、遭遇するたびに落涙しそうで、児童書コーナーに行けないほどだ。娘はまだ読んでもらう専門の年齢だけど、ときどき、自分で本を手にして、声に出して読んだり、じっと食い入るように見つめていたりすることがある。そういう姿って、ほんと、いいものです。たとえば、小学館、講談社、学研、福音館書店といった、幼児誌、学年誌、幼児コミック誌などを出している版元なら、子どもたちが雑誌を熱心に読んでいる姿や、買ってもらった雑誌をうれしそうに抱えている姿といった子どもたちの写真を自社資料として持ってたりするんじゃないだろうか。
そう、どうせ写真を使うなら、やはり、本を読む姿をこそ見せなくてはならないのではないだろうか。ふり、じゃなくて、ほんとに読んでいる姿を。本や雑誌に没頭している姿、その人がその雑誌を本当に楽しんでいることがありありと伝わってくる姿、そのようなものこそが人を読書に向かわせるのではないだろうか。読んでるんだか読んでないんだかわからない、グラビアアイドルの姿では少なくともないと、ぼくはいささか小言爺めいているのは承知の上で思うのである。
たとえば。子どもが学年誌かマンガ誌などを熱心に読んでいる姿を写したひと昔前のセピア調の写真の隣に、今どきのカフェか電車の中などでファッション誌を熱心に読んでいる女性の姿を写した写真を並べて載せる。で、コピーは、《今も、昔も、雑誌に夢中。》とかさ。いま、書きながら自動筆記状態で考えているので、アイディアもコピーも、ものすごーく適当です。それとかさ。この企画に参加しているたくさんの雑誌、それをたーくさん、それこそ小山のように積み上げ、その山の周りに、座り込んだり、寝転がったりして、雑誌を読みふける子どもたち(大人もいてもいい)。そんな写真に、こんなコピー、《これ、ぜーんぶ本屋さんにあります。》こんなのもどうか。《書店でできる「山登り」、あります。》……思いつきの適当なものばっかりで、もしもプロが読んでいたら失笑を買いそうなものばかりだけど、でもさ、こんな感じのほうが、ずっとずっと「雑誌を読もうよ! 雑誌っておもしろいよ!」っていうメッセージが多少なりとも伝わる気がするんだけど、みなさんはどうでしょうか。
楽しいことばかり書く、の空犬方針にいささか抵触していますが、前々からひとこと書きたいテーマだったもので、あえて書きました。それにしても、長くなりすぎました。反省。
◆今日のBGM◆
- マッチング・モウル『そっくりモグラ』