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諸般の事情から大変遅くなりましたが、2月9日(水)のオンライン卒業研究発表会の内容を報告させていただきます。卒業研究にご協力いただいたすべての皆様に厚く御礼申し上げます。(滅私)
題目: 日本海側過疎地の活性動態を探る-北陸の地域振興例と因幡・但馬へのフィードバックInvestigate the active change of the depopulated areas along the Sea of Japan
-Examples of regional development in Hokuriku and feedback to Inaba and Tajima districts ー[
中間報告2]
研究の背景と目的 2019年以来、昭和49年刊行の報告書『鳥取県の民家』の追跡調査に研究室全体で取り組み、指定解除や撤去など衝撃的な事実に驚かされた。過疎地の民家集落が持続可能な状態にあるとは到底考えられず、自治体そのものが「終活」の時代を迎えつつあるとの思いを強くしている。ところがあるとき、山間部に店を構える蕎麦屋が繁盛し、客を集めている事実に気付いた。2020年度から「山中の蕎麦屋はなぜ繁盛(持続)しているのか」という問題について考察した結果、古民家再生型の蕎麦屋は、市街地から通うミニツアーの対象としては人気があるものの、その場所に「住みたい」わけではないことを知った。結局、集落としての持続は不可能かと思っていたところ、新潟の限界集落「竹所」に25年以上住みながら古民家を再生し、人口を倍増させている建築家の存在を知った。その人物は旧東ドイツ出身のカール・ベンクスさんである。昨年秋の北陸調査では、カールさんが拠点とする新潟県十日町市や、「ごちゃまぜのまちづくり」を実践する社会福祉法人佛子園などを訪問した。
本研究は、同じ日本海側の過疎地にあって、活力ある取り組みをしている石川、新潟、長野の例に学びながら、大学近隣の因幡・但馬地域へのフィードバックを提言しようとする試みである。
スライド2+追加1枚
ベンクス氏の古民家再生手法 新潟県竹所に住みながら画期的な古民家再生に取り組んでいるカールベンクスさんの仕事を紹介する。カールさんは父の影響で小さいころから日本文化に関心があり、最初は空手や柔道を学ぶため来日した。そこで、日本の木造建築と職人技術の素晴らしさを知り、日本建築をヨーロッパに移築する仕事などを手掛けていた。51歳の時、竹所で撤去間際の古民家を買い取って再生し、「双鶴庵」と命名する。現在も新潟周辺で古民家を再生しながら、奥さんのティーナさんと竹所に暮らしている。私は、NHKの番組「カールさんとティーナさんの古民家村便り」を視聴してからカールさんの存在を知った。
ベンクス氏の古民家再生手法は、文化財修復型とはまったく異なる。和風の小屋組・軸組は古材を再利用するが、内装には積極的に西洋風のインテリアをとりいれ、ときに民家の外観までカラフルなハーフティンバー式に改変するところに特徴がある。壁には厚さ10㎝の断熱材を入れ、ドイツ製のペアガラスを窓に嵌め込み、床暖房を施しているので、寒さ対策も万全である。「新旧融合・和洋折衷の暮らしやすいデザイン」をモットーとした再生古民家は移住者を呼び込む役割を果たしており、内閣総理大臣賞を受賞している。現在カールさんは竹所で古民家など10軒を再生し、12世帯25人が暮らしている(近隣地域も含めると60軒以上再生済)。決して多いとは言えないが、数年前には、村では18年ぶりとなる赤ちゃんも誕生し、これからも移住者が増えることが期待されている。
スライド3+追加2枚
カールさんをめざして 竹所から車で20分ほどのところにある松代ほくほく通りには、明治後半の旅館を改装した「まつだいカールベンクスハウス」がある。1階をフレンチ料理のカフェレストラン、2階を設計事務所として再生したものである。1階の古民家カフェ「澁い-SHIBUI-」は、大胆に欧風の家具や骨董が取り入れられており、日本にいるとは思えない居心地の良い空間であった。2階はけやき材を多用する明治の古風な構法をあらわにした開放的なアトリエに変貌している。カールさんご自身に案内していただいた時間はとても貴重なものとなった。松代ほくほく通り商店街はかつて宿場町として栄えていたが、町並みが乱れ始めている。そこでカールさんが一枚の修景パースを描き、これをきっかけに商店街の再生事業として十日町市に景観再生の助成制度ができた。現在、ベンクス氏が外装をデザインし、修景・塗装するプロジェクトが進んでいる(スライド3追加図)。
スライド4+追加2枚
ごちゃまぜのまちづくり 次に佛子園とJOCAによる地域創生事業を紹介する。研究室では2012年からブータンの調査活動を継続しており、2020年より佛子園ブータン事務所長、中島さんと情報をやりとりしている。社会福祉法人「佛子園」は石川県白山市に本部を置き、ブータン高地寒冷地域の貧農支援のため、ソバの実を輸入し、その製粉・製麺を障がい者を雇用して国内でおこなっている。
佛子園では、速水代表による講義を受け、「ごちゃまぜ」というコンセプトを学んだ。ごちゃまぜは「障害の有無、性別、年齢、国籍、文化、人種や宗教、性的指向などあらゆる人が認め合い、つながること」を意味する。ここでは、特殊な人々を排除しない「ごちゃまぜのまちづくり」が実践されている。そんな「ごちゃまぜ」を具体的に実践しているのが、佛子園本部にある「B‘s・行善寺」である。B’s・行善寺には、保育園や介護サービス、ジムやプールなど様々な施設があり、全体の中央にはブータン蕎麦を主要メニューにした蕎麦屋「行善寺やぶそば」がある。蕎麦だけでなく、お酒や丼・総菜なども提供しており、仕事終わりに一杯、蕎麦を食べながら昼から一杯やれる。昼から呑むことで、とくに年配者のコミュニケーションが高まるとのことだ。そんな「行善寺やぶそば」は、子供からお年寄りまであらゆる人が集まるため、佛子園のごちゃまぜを象徴する場所となっている。
また、B‘s・行善寺以外にも佛子園の施設が複数あり、その一つとして、能登半島先端の輪島KABLET(カブレ)も紹介しておく。これは輪島市中心部に点在する空き家や空き地を、カフェ、ジム、身障者向けの施設などにリノベーションする再生事業計画である。この再生事業計画は佛子園とJOCAの連携により進められている。
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