雷龍の彼岸(Ⅴ)-ブータン仏教紀行
民家のモデル(1)
入国検査の時から同じ列に並んでいて、たぶん韓国人のカップルだろうと思っていた。男は賢そうなメガネ君、女はお人形さんのような美人で、ひょっとしたら整形かもしれない。となれば、韓国だろう。パロの国立博物館で、3人組らしいことに気づいた。男女二人のまわりを、もう一人の男がうろちょろしている。
かれらは博物館の先客だった。クローク棟にカメラやバッグを預けていたので、展示をみたあと取りにいくと、3人組もそこにいた。厠に行きたくなって、係員に場所を訊ねると、リーダー格のメガネ君もついてきた。トイレに行く道で、恐るおそる国籍を訊ねる。香港だという。韓国もやばいが、香港も同じだ。尖閣問題のねじれが先鋭化し始めた時期だったので、自分の国籍を名乗るのがためらわれた。再び恐るおそる「君たちの嫌いな日本人だよ」と自己紹介した。かれは、「香港人は日本が嫌いじゃない。日本料理も漫画も大好きなんだ」とフォローしてくれた。
美女はブータンの民族衣装を纏って、いっそう艶やかになっている。おそらくリーダー格のガールフレンドなのだろう。中国語で3人に別れ告げ、パロ城(ゾン:いちばん上の写真)に向う。凄い建築。木造化したチベット建築に酔いしれた。
そして、待ちにまった民家の見学へ。バター茶と地酒を振る舞っていただけると予め聞いていた。うきうきしないわけはない。民家に着くと、すでに香港の3人組がいて、附属舎の屋根の上で茶を飲んでいた。オモヤの内部には別の外国人観光客もいるようだ。後発の私たちは、オモヤ周辺の施設から見学することになった。まず通されたのは浴室棟である。ストーン・ボイリングの板風呂だ。石を焼く小屋がある(一番下の写真)。ここで石を真っ赤になるまで焼く。隣が浴室。中に蒸籠組の浴槽が8つ整然と並べられている。浴槽は約1:5の比率で二分されており、まず水を張って、境に穴の開いた板を嵌め込む。そして、狭い方に焼け石を放り込むのである。これで湯が沸く。北米先住民のストーンボイリング調理と同じ原理だ。家族用の大きな浴室以外に、新婚夫婦用の浴室もある。よくできているではないか。
↑石焼き小屋 ↓浴槽