研究課題名 : 倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査
-「歴史まちづくり法」による広域的景観保全計画にむけて―
研究期間: 平成25~27年度
学校・学部学科・職・研究者 : 公立鳥取環境大学・環境学部・環境学科・教授・浅川滋男
研究成果の活用状況 倉吉市河原町・鍛冶町2丁目の歴史的風致の維持と向上に係わる「小川財団」と東地蔵周辺の「小川家住宅」「大鳥屋」の保全に関して、
昨年度の報告以降、大きな変化があった。
(1)
小川財団と5軒長屋の問題: 小川家当主の急逝により、小川財団そのものの継承・存続の可否が親族等関係者で協議されてきている。これに関連して昨年末、地元住民は倉吉市教育長宛で小川家住宅・庭園(県指定)の修復・公開について問い合わせをしたが、なんの返事もないため、今年6月になって「河原町の文化を守る会」有志と親族等関係者の間で直接話し合いの席がもたれた。来たる10月23日には今年度の修復に係わる説明会が催される(行政側から住民に対する説明会はまったく予定されていない)。
地域住民との軋轢の種になっていた小川家対面の
5軒長屋については、小川財団の開発を主導する倉吉市教委文化財課が5軒を取り壊して大型バスの駐車場にする計画を練り上げ、撤去の見積りまでしていたが、河原町の八橋往来は道幅が狭く、一方通行の旧道であり、大型車両進入禁止の道路であることから、大型車輌の駐車場にできないことが判明した。また、撤去の理由について、文化財課は長屋建築の構造的安全性の欠如を声高に主張していたが、昨年10月に発生した県中部地震において長屋群はまったく損傷を受けていない。周辺には壁が崩れ落ちたり、ガラスが割れたり、屋根瓦がずれたりしている家屋が少なくないが、5軒長屋にはブルーシート1枚掛けてないという風景が長屋群の構造的安定性を証明する格好になっている。
(2)
小倉家・大鳥屋の登録文化財申請: 地蔵盆の舞台となる五叉路に近接して建つ小倉家と大鳥屋については、登録有形文化財への申請へ向けて昨年度上半期にわれわれが調査を進めていたが、県中部地震により一部の建造物が被災し、調査研究はいったん頓挫した。とくに
小倉家土蔵(明治中期)の破損が激しいので、われわれはさまざまな講演会のたびごとに「
未指定・未登録文化財に支援!」を訴えて募金活動を繰り返し、すでに一部の募金を直接被災者に手渡している。今後もこうした支援活動を継続していく。肝心の登録文化財申請については、まずは小川家住宅・土蔵から準備を再開している。なんとか年内に申請を終えたい。
登録後の活用については「河原町の文化を守る会」を中心に議論されてきており、最近「
磯野長蔵記念館」へのコンバージョン構想が萌芽し始めている。磯野は明治7年(1877)倉吉市河原町に生まれ、大正8年(1919)に麒麟麦酒株式会社を立ちあげた。キリンビールの生みの親が河原町出身であり、この夏の地蔵盆でも小川家土蔵でキリンビールが販売された。今後は「河原町の文化を守る会」が中心となって企画書を作成する予定である。我々も登録文化財申請のための報告書の作成だけでなく、「磯野長蔵記念館」への改修案についても積極的に提言していきたい。
今後の課題・展開 われわれが平成25~27年度の研究で提言した理想形は、倉吉市河原町・鍛冶町2丁目を打吹玉川重伝建地区とは独立した「打吹鉢屋川重伝建地区」として新規選定を実現することだが、その前提となる小倉家・大鳥屋の登録有形文化財申請をできるだけ早く進める必要がある。そのためには、小倉家土蔵の修理を終えることが望ましいので、今後も各種イベントで修理のための募金をつのる予定である。われわれが「キリンぐら」と仮称する磯野長蔵記念館の構想にもより積極的に係わっていく。
一方、小川家対面の長屋群が、一時的にではあるかもしれないが、撤去の危機を回避できたことは「打吹鉢屋川重伝建地区」の新規選定にとっては朗報である。中部地震によって長屋群の構造的安定性も確認されたところであり、地域住民の意向をくみ入れた財団の再構想を促すべく努力していきたい。
要望事項 行政は小川財団ばかりに偏向せず、地域住民の意向を吸収して、小川家住宅・庭園の修復整備と町並み保全の両立したまちづくりを構想し、実施してください。