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Never let me go

 2020年度最後の一日であり、数名の職員から「退職のご挨拶」メールが届きました。すべてが非常勤職員もしくは再雇用職員の女性からのメールです。非常に丁寧な挨拶ばかりで、定型化した文面ではあるとはいえ、頭が下がります。私たち教員も、大学という組織も、こういう方々のおかげで存立しえている。大学当局はもっとこういう人材を大切しなければならないと思うのだけど、毎年度末こういうことになる。辛い別れの一日であるとともに、男女格差の問題を考えさせられる一日でもあります。


新刊書の広報と感想続々

 大学HPのTUESレポートに新刊書『能海寛と宇内一統宗教』の広報がアップされました。

http://www.kankyo-u.ac.jp/tuesreport/2020/20210330001/

 すでに献本や割引購入が各地に届き始めており、結構な数の御礼メールと感想を頂戴している。いちばん驚いたのは中国留学時代の同窓(某国立大学名誉教授)がこの一年間大病を患って闘病生活をしていたことであり、慌てて電話して症状等を話してもらった。浜松の蹴友の死因に近い大病であり、本人は遠くない将来の死を意識して、文筆活動に集中し始めている。著作集を出すのか、と問うと、昔のことに関心はない、新しい論文を書くだけ、という。見倣わなければいけませんね。長生きしてほしい。以下は闘病中の同窓や私より一年早く中国に渡った考古学者にして某国立大学研究所長からのメール。

能海寛についてはほとんど知識がありませんでしたが、かれとその時代
をめぐる論説だけでなく、宝塔をめぐるご高論やキリスト教との関係など、
きわめて多角的な内容に驚いています。編集作業、ご苦労さまでした。
しっかり勉強させていただきます。明日でようやく所長退任です。(後略)

 次に、以前本学の教員だった某国立大学准教授(近代建築史)からのメールの抜粋。

明治期文献の現代口語訳、とても興味深い方法だと思います。(卒論を書いた)森彩夏さん、
面識はありませんが、かなり優秀な学生が研究室におられたのだと推察する次第です。
現役の学生が明治の文献、世界観、ひいてはグローバルな宗教観を学ぶ機会になっていること、
素晴らしい教材ですね! 私の研究室では次年度、明治期のジャポニスムを追う予定ですが、
まずこの本を学生に示して、研究意欲を喚起したいと思います。また、著者の中に、足利先生
と磯野先生が入っていたのに驚きました。あいうえお順でお声がけされたのかな…とか
思いましたが…そうではなく、科学、経済、宗教に通底する問題群を取り出そうという試みだ
と理解しました。ジネンとシゼンの間、万物流転の事態、数学者兼哲学者のラッセルや
ウィトゲンシュタイン…色々と連想させられます。






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雨の日の訪問者たち

 3月28日(日)。雨が一日中降った日曜の昼下がり、息子の指導で老夫婦はマイナンバーカードの登録に時間を費やしていた。スマホにメールの着信あり。送信者の名前をみて驚いた。雑用にかまけている場合ではない。

  ご無沙汰しております。
  『能海寛と宇内一統宗教』の本、届きました。
  素晴らしい本に仕上がっていてびっくりです!
  早速家族や友人に報告して自慢しました。
  ありがとうございました。(後略)

 勇気を出して電話してみることにした。2年ぶりの対話である。嬉しくて、恥ずかしいぐらいいろんなことをしゃべってしまった。一昨年のロスが激しかったことも吐露した。以前と同じように、なんでも明るく受けとめてくれた。じつは、今年の卒業式でもいろいろあって難儀な思いをしたんだけれども、おおいに癒された。感謝の言葉しかありません。
 まもなく引っ越すという。理由にも納得した。じつは、そうなるんじゃないか、否、もう引っ越してるんじゃないか、と想像していたのだが、滑り込みで『能海寛と宇内一統宗教』が届いたのは幸運だったと思う。あるお願いをしたが、それはヒミツ・・・

 余韻に浸っていると、夕方にまた別人からメールが入った。大学の同窓である。

  今日『能海寛と宇内一統宗教』受け取りました。
  ありがとうございました。前に梅里雪山に行った話を聞きましたが、
  こういう所につながっているのですね。ちょっと驚きました。
  頑張って読んで見ます。

 彼は某博物館(独立行政法人)の幹部であり、今年で退官と思っていたところ、館長の職が舞い込んできたとのこと。気を引き締めている。館長職にふさわしい人材だと思います。じつは、奈良の研究所(独立行政法人)でも旧知の元同僚が所長に内定した。みんな偉くなりますね。某広報官ぐらい給料がもらえるなら羨ましい限りだが、雑用が増えるのはヤだな。鴨長明の方丈記や兼好法師の徒然草のほうがいい。外国に行ってぼっとできるだけの時間がほしいの、ぼくは。



三次もののけ まちづくり

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しもたやです

 広島県山間部の三次(みよし)は、天正19年(1591)、三吉氏が築いた比熊山城の城下町に端を発する。関ヶ原の後、領主は毛利、福島、浅野と変わる。藩政期城下町~明治・大正時代の風情をよく残すのが本町通り(歴みち石畳通り)で、北端に近い三勝寺の駐車場に車をとめ中央南寄りにある菓子店舗「風季舎 昌平本家」まで往復で町を歩いた。3月17日(水)午前のことである。
 町並みはおそらく「街環」で整備したものであり、「伝建」系ではないけれども、なかなか質の高い景観を維持・形成している。伝統的な町家も少なくない。ただし、ごらんのとおり(↑)、人影はない。人はいないが、もののけが跋扈している(らしい)。歩き始めてまもなく町家の縁台にパンフ類が置かれていたので、手にとってみていると、内側からマダムがあらわれた。珍しい旅客に目を輝かせて質問される。

  「どちらからお出でですか?」
  「・・・奈良です」
  「えぇっ、そんな遠くから、よくまぁこんなところまで・・・」


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 醤油醸造の古めかしい看板を目にしたので、「醤油を作っておられるのですか」と訊ねると、

  「いいえ、しもたやです」

とお答えになった。「しもたや」とは「仕舞うた屋」、つまりすでに閉業した店棚のことをいう。京都にいた学生時代にこの言葉を学び、今は学生に教える身分に変わったが、鳥取県内の旧市街地・街道筋で「しもたや」の語を聞いたことはない。否、京都時代から今に至るまで旧町人層の方が「しもたや」なる言葉を使うのを耳にしたのは初めてのことである。新鮮な驚きがあった。


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人形ともののけの世界

 本通りを歩いていると人形の店棚が多いことに気付く。広島県北部では、三月の初節句に子どもの誕生・成長への願いを託して、三次人形を贈る風習がある。三次人形は粘土を型にはめて成形・素焼きし、色づけしてニカワを塗ったものである。三次は人形操作師の辻村寿三郎(1933-)が青年期を過ごした町でもある。辻村は満州に生まれた。11歳で日本に引き揚げ、広島市内に1年ほど住んでいたが、原爆投下の3ヶ月前に母の郷里にあたる三次に疎開していた。本通りの南端近くに辻村寿三郎人形館がある。辻村といえば、NHKの『新八犬伝』(1973)や『真田十勇士』(1975)などの人形劇がただちに思い起こされるが、よくできた人形には魂がこもると言われるように、どこか神秘性や不気味さがつきまとう。
 三次には、こうした人形の性格と通じる物怪(もののけ)伝説がある。江戸時代中期の三次に実在した稲生(いのう)武太夫が16歳のときにさまざまな怪異に巻き込まれた。その経験を集成した『稲生物怪録』がよく知られている。これをまちづくりに取り入れ、尾関山公園の入口に「三次もののけミュージアム」があり、本通りの低い街灯群に物怪の絵をあしらっている。


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『能海寛と宇内一統宗教』の出版

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 桜も五分咲きといったところでしょうか。皆様、ご健勝のことと存じます。
 コロナの年度が過ぎようとしています。海外調査にでられなくなった時間を使って単行本や論文・報告書等をまとめようという研究者が増えているようですが、私もこのたび以下の編著を上梓しました。

チベット仏教求法僧
能海寛と宇内一統宗教 -明治の国粋とグローバリズム-
発行: 同成社(A5判・386ページ・定価 3,800円+税)
発行日: 2021年3月20日 ISBN 978-4-88621-861-2

 本書は令和2年度本学学長裁量経費特別助成(出版物)によるものです。内容は三部構成になっており、第Ⅰ・Ⅱ部は令和元年度本学特別研究の成果報告書を再構成したものであり、第Ⅲ部「仏教の土着と宇宙――遺産から自然(じねん)まで」は仏教遺産に係る既発表論文の転載、及び本学教員による書き下ろし論文を集成したものです。
 文末に特別割引セールのチラシを貼り付けています(税込4180円→3344円:4月末まで)。これは著者割引に相当するものであり、わたしにご連絡いただければ幸いです。

【目次】
前言――本書に寄せて(今枝由郎)
序論 能海寛の風景と思想(浅川)

第Ⅰ部 能海寛の風景――山陰からチベットへ
  第一章 仏教と欧米知識人(浅川)
  第二章 能海寛と『世界に於ける仏教徒』(森彩夏) 
  第三章 チベット仏教憧憬―白い金色の浄土(森・岡﨑・眞田廣幸・浅川)
  第四章 古都京都の近代化をめぐる仏教とキリスト教(山田協太)

第Ⅱ部 能海寛の思想――『世界に於ける仏教徒』を読む
  第一章 『世界に於ける仏教徒』口語訳(浅川・森)
  第二章 キリスト教批判―宇内一統宗教の構想(浅川)
  第三章 批評としての大内青巒序(浅川) 
  第四章 仏教と国粋―明治維新と能海寛(浅川)

第Ⅲ部 仏教の土着と宇宙――遺産から自然(じねん)まで
  第一章 東大寺頭塔の復元からみた宝塔の起源
       ―チベット仏教の伽藍配置との比較を含めて(浅川)
  第二章 大雲院宝塔厨子と徳川将軍家墓所(岡﨑滉平・眞田・浅川)
  第三章 浄土真宗、近江から因伯へ―尾崎家仏間と安楽寺(眞田)
  第四章 「賽の河原」の風景―摩尼山地蔵堂の考証と復元(浅川・岡垣 ・宮本)
  第五章 居住地の形成と宗教―マレーシア移民社会の事例(張漢賢)
  第六章 仏ほっとけ―車寅次郎と御前様、そしてひとの生き死に(中山実郎)
  第七章 仏教とマーケティング(磯野誠)
  第八章 般若心経と現代科学の宇宙観(足利裕人)
  第九章 業・廻向・菩薩・無我・輪廻―仏教主要教義間の自家撞着(今枝)

跋文 奇跡の雪山(浅川) 


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↑著者割引購入のチラシ(クリックすると画像が拡大します)

中国道蕎麦競べ(24)

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くれ竹
広島県三次市布野町横谷1126-1
0824-54-2653  
営業時間 11:30~20:00(予約不可 不定休) カウンター+小上げ
新築食堂型(郊外) 民芸キッチュ系 星0.9★☆☆☆☆

 3月16日(火)は安芸高田から三次まで移動して一泊。翌17日(水)は三次の「歴みち石畳通り」を視察して後、市街地から20kmばかり北行し、奥出雲に近い峠の蕎麦屋をめざした。その数日前から何度か電話したのだが、何度かけても不通の連続で、ようやくつながって質問したところ、なんだかしらないが、機嫌がよくない。店にたどり着いて、いつもように、もりそばの 大 を注文すると、この店の最初の客には 並 をだすことにしている、と言ってまた機嫌がよくない。喧嘩を売っているような口ぶりである。


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 出てきたのが、ごらんの並である(一番上の写真)。さすがに驚いた。大ならば、これの倍だというから、たしかに残してしまうだろう。しかし、そば好きならこの程度の 並 の量をぺろりとたいらげる自信はある。そう思って箸を進める。なんだこれは・・・そばは手打ちと銘打っているが、まったくコシがなく、ゆるゆるの麺で、喉ごしなどという食感はまるでない。乾麺を茹でても、これだけ軟らかくはないであろう。極端な話、これだけゆるゆるだと、細麺にする必要はなく、そばがきにしたほうがまだマシだと思った。そばを食べて「不味い」と思ったのは生まれて初めてのことかもしれない。駅や駅前の立ち食いソバの方が百倍美味い、というのが正直な感想である。少々我慢して、奥出雲まで足をのばすべきだった。
 一方、家内が注文したとろろ蕎麦(温)は意外にもおつゆがいい味をしている(↑)。これはもうとっかえるしかないと判断し、ざるの麺を温麺のどんぶりにぶちこんで、なんとか二人で食べきった。


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中国道蕎麦競べ(23)-やぶ月

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日本のなかのブータン(8)

 庄原を離れ、三次東インターから中国道に乗り直して数十キロ西行し、1時間ばかりで安芸高田に着いた。目的地はJOCAの運営する月ヶ瀬温泉「やぶ月」である。温泉は市街地を再開発した大きな広場の一画にあった。こちら側がたぶん正面玄関(↑)であるのだろうが、じつは背面側にも玄関があって街道に面している(↓)。建物は土蔵造っぽいが、純粋な木造建築なのか、新築のRC造で内装を木造風にみせているのか、微妙ですね。いずれにしても、普通の居酒屋風である。
 なによりブータン蕎麦粉を使ったソバの味に期待が膨らむ。


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 まずは入浴。一人450円、有料タオル300円。「ゆららの湯」のような大浴場を期待していたのだが、ごらんのとおり(↓)、家族風呂程度の規模である。室内風呂と露天風呂の両方があるけれども、我らが「日の丸温泉」の1/3規模というところだろうか。入浴者は私の前に1名、後に1名。これでお金儲けをしようというのは無茶であり、地元住民にフリーで提供する以外、あまり需要はないのではなかろうか。じつは杖歩行者の家内も入浴したい、というので、有料で入浴したのだが、「福祉のまちづくり」をモットーとしているにも拘わらず、身障者の入浴に対して介護なし。バリアーフリーの補助具やスロープなどもない。身障者割引もない。あとで聞いたところ、結局、危険なので湯には浸かれず、かけ湯だけにしたそうだ。そういうことになっても、いっさい文句を言わないのが彼女の凄いところなんです。代金を負担した私の方はせつないところもありましたが・・・温泉そのものには少々不満が残ったけれども、湯に浸かったおかげで、体の疲れは一気に回復した。長距離運転の神経性疲労には風呂が効果的なんだ。


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お食事処「やぶ月」
広島県山県郡安芸太田町加計3505-2
新築(疑似)木造市街地型 民芸キッチュ系 星3.8★★★★☆
営業時間 11:00~21:00(日曜営業) 畳座+椅子座

 ごったがえすというほどではないけれども、客はよく入っていた。運良く、街道に近い椅子座に坐ることができた。蕎麦屋というよりも「お食事処」であり、丼物や居酒屋風のメニューがかなりある。「ブータン産の蕎麦を使って」というようなアピールはまったくなかったように記憶する。
 おろし(冷)ときつね(温)を注文した。麺には太麺、細麺の両種あり、太麺を選択した。硬めの茹であがりで、ざる系の場合、少し硬すぎるとして苦手な人もいるかもしれない。わたしには好みの食感であったが、こちらは細麺にしたほうが良かったかも。大山や奥出雲系のざらざらした無骨さではなく、機械製粉・製麺特有の一律の硬さで、断面は正方形か。断面の形はたんなるイメージなのか、本当に正方形だったのか記憶が曖昧ながら、「正方形の極太パスタ」という印象がある。ざるやおろしなどの冷麺よりもむしろ暖かいスープ麺にあう。


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中国道蕎麦競べ(22)-みのり

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 広島県の庄原まで鳥取から3時間半かかる。奈良までとほぼ同じ距離なので少々憂鬱だった。車の運転が堪える齢になっている。3月16日(火)、広島県山間部の蕎麦屋を訪ねる旅にでた。庄原はそば処であり、蕎麦屋が多い。ネットで検索すると、最も評価の高いのは、そば処「みのり」であることが分かった。かなりの人気店だというので、売り切れが心配になり、道中電話するも、予約は「なし」とあっさり断られた。ミシュランガイドでビブグルマンに選ばれたことがあるというが、ビブグルマンというのがよく分からないので調べてみると、「星は付かないが、コスパが高く、良質な料理を提供する飲食店・レストラン(3,500円以下で良質な料理を楽しめる」とある。要は、安価なお値段で、値段不相応の美味しい店のことなんだろう。

そば処 みのり
〒727-0023  広島県庄原市七塚町59−1
営業開始: 11:00~15:00(売切次第終了)
古民家改修型 数奇屋系 畳座
星2.5 ★★☆☆☆


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 みのりは県道に面する大きな敷地に建っている。ぱっと見、あまり洗練されていない工務店設計の和風レストランのようにみえるが、周辺の集落に展開する民家に目をやると、ほぼ同形式の建物ばかりであり、みのりは民家の改修であることが分かる。この中二階のタイプの民家は茅葺き民家の改修系であり、円通寺(本堂が重文)に向かう山道周辺では多くの茅葺き民家をみた。それにしてもおかしな配置をしている。車道側に大きな看板があるのだが、それは中国の照壁や影壁、あるいは沖縄の屏風(ヒンプン)のような目隠し塀であり、それは「裏口」を視界から遮断するものであった。入口はその反対側にある。いわば裏庭側が正面であり、その正面側の前方に同形式の古民家集落が展開している。


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 座席は畳座のみである。障碍者にはややきびしいところもあるが、玄関からいちばん近い席をとってくれた。内装は外観より洒落ていて、モダンな数奇屋という感じ。ただし、わび・数奇や禅に傾斜しすぎているわけでもないし、キッチュな民芸風に落ちているわけでもない。ちょうどよい中道のセンスである。ただし、椅子席がないのは良くないと思う。縁側のほうに2~3席も受けてくれればいうことはないのだが・・・・。
 ちなみに、広島はあきらかに鳥取よりコロナ対策が厳重であり(というか、鳥取が甘すぎる:昨日の卒業式もリスクが結構あり、いたずらに時間を消費していた)、各席のパーティションには明り障子の屏風を使っている。手の消毒やマスク着用についても注意書きが随所にみられる。
 

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もうひとつのリキ・チャンネル




八百長と fixed game の違い

 長州力のチャーシュー・リキが貴闘力部屋のチャンコに入ることになった、なんて冗談言ってる場合じゃないですよ。半年ばかり前から始まったユーチューブ・チャンネル「貴闘力部屋-大相撲再生計画」がネットを席巻しております。大相撲の八百長と利権を告発・暴露し続けているのですが、相撲協会はいまのところ静観の構えを崩しておらず、TVや新聞・雑誌等のメディアも(相撲協会を怖れて)これを取り上げていません。
 八百長ならプロレスだって同じだろ、という意見もあるかもしれませんが、ちょっと違う。プロレスの場合、英語の fixed game という表現がよりふさわしく、業界用語ではアングル(筋書き)とかブック(勝敗の結果)が決められているスポーツ風エンタメであり、ガチンコを売りにしたUWFやリングスも同様の fixed game だということが今はよく知られています。この問題については、もう30年以上前になるでしょうか、ミスター高橋や佐山聡が著書で露わにしたとおりです。しかしながら、カール・ゴッチが説いているように、「プロレスの勝者は試合に勝った者ではなく、会場をいちばん盛り上げた者」なんですね。会場を盛り上げて、客を集めるレスラーが偉い。いくら負けても、ブッチャーやシンは偉大だったのです。村松友視流にいうと、プロレスはジャズに似ている。テーマは決まっているが、各ミュージシャンに与えられる即興演奏の部分でどれだけ盛り上げれるか、だれがいちばん受けるか、そこが問題なわけです。






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パイレーツ、屍る




 すでにご存じのこととは思います。3月12日(金)の最終戦において、我らがパイレーツは2着(石橋)+2着(小林)と健闘しましたが、6位のチーム雷電を上回ることができず、mリーグ2020のレギュラーシーズン敗退が決まりました。昨年の優勝チームであるだけに本当に残念です。2年連続で、前年度優勝チームが予選で敗退したことになりますね。
 昨年優勝を最後まで争ったフェニックスも8位に沈んだまま、敗退。近藤・魚谷というスーパーエースを2枚も抱えながら、こういうことになる。コナミや雷電より上にいて当たり前のチームが最下位なんだから、麻雀というゲームが「運7分、実力3分」であることを改めて思い知らされました。結果、前にも述べたように、応援したいと思うチームがいなくなりました。4月のセミファイナル以降も Abema TV を見続けるでしょうが、卒業のシーズンでもあり、淋しさ倍増です・・・
 
 12日の決戦を控えた11日の前哨戦も熾烈を極めました。初戦はラスの佐々木寿人(ファイト倶楽部)が南3局で倍満(リー即ツモ、三暗刻、ウラウラウラ)で上がり、大逆転のトップを獲得。その反動として雷電の瀬戸熊がラスに落ちて、パイレーツには最良の結果になったのですが、第2戦は、3位に沈む直前の黒沢咲(雷電)が南4局でフリテン七筒を自模って奇跡的な勝利を飾り、パイレーツとの点差を元に戻してしまったのです。黒沢はすでに七筒を2回切っており、ラス牌を引き返すとは思えなかったのですが、「2回も来てくれたんだから、また来る」と信じてテンパイを崩さなかった。この戦う姿勢が勝利を呼んだばかりか、パイレーツに引導を渡したわけです。これはもう、敵ながらあっぱれ、の一言。寿人や黒沢のトップを取る執念が彼らをセミファイナルに導いた。「二着を目指して打っています」というパイレーツの哲学にはない信念です。





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中国道蕎麦競べ(21)-井田農園

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 3月11日(木)、曇り後雨。メンテナンスのため蓮の鉢を倉吉に届ける必要があり、ついでに伯耆町にまで足を伸ばし、また蕎麦をたくった。めざすは伯耆町のそば処「井田農園」。先日学生と訪れた「八郷の里」は職場の知り合いが教えてくれた穴場であり、古民家再生という点では最良の素材であったが、ネットでさらに情報を集めたところ、「八郷の里」以上に高い評価を集めている蕎麦屋が2軒あることを知った。2軒とも、ミシュラン鳥取2019のミシュランプレート★に選ばれている。


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そば処「井田農園」
鳥取県西伯郡伯耆町吉長223-15
営業: 11時~15時(売切れ次第閉店) 水曜+第1・3木曜定休
軽量鉄骨・疑似木造  椅子座+小上げ座(40席)
星3.9 ★★★★☆

 前回と同じく、山陰道米子東インターで高速を下りた。そこから数キロ県道53号線を南に下ると平野部の道路沿いに定食屋風の建物があらわれる。ぽつんと一軒屋。新しい軽量鉄骨の建物なので、古風な「蕎麦屋」の匂いはしない。が、「そば」を印字した数本の旗が鯉のぼりの陣旗のように風にはためいてよく目立つ。木造でない蕎麦屋は、このシリーズでは初めてかもしれない。中に入ると、普通の和風食堂であり、椅子座と小上げを併用している。明らかに「和」を意識しているが、他の店舗で感じるような数奇・侘び・禅などへの意識はまったくない。聞けば、昭和の大衆食堂が閉店して、その家主さんから借家しているのだそうである。創業8年。7~8年前に開業したという蕎麦屋によく出会うような気がする。


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 女将さんに言われて気付いたのだが、小上げのガラス張りの窓の向こうに冠雪した大山の全景がみえる。なるほど、これか。この建物のオーナーは大山を借景としてインテリアに取り込むことを主題にして、この場所を選び、この建物の設計の軸としたのだろう。


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崖っぷちのパイレーツ




 ついにmリーグもレギュラーシーズンの最終週を迎え、3月8日(月)~9日(火)に前半戦がおこなわれた。我らがパイレーツはまたしても4着(瑞原)+3着(小林)に終わり、一時は最下位に沈みましたが、翌日にライバルのフェニックスがまさかの4着(近藤)+4着(茅森)のダブルラスを引いてしまい、パイレーツは7位に上昇したものの、この両チームは非常に厳しい状況にあると言わざるをえません。以下、現状のポイントと順位です。

1位 アベマズ 626.3pt
2位 サクラナイツ 457.9pt
3位 ドリブンズ -22.9pt
4位 風林火山 -76.9pt
5位 ファイト倶楽部 -166.1pt
6位 雷電 -225.1pt
7位 パイレーツ -281.1pt
8位 フェニックス -312.1pt

 まずは明日=11日(木)、ドリブンズ×風林火山×ファイト倶楽部×雷電の最終2試合がおこなわれます。ボーダーにいる雷電とファイト倶楽部がどうなるのか、に注目が集まります。両チームともトップを1回でもとれば予選通過の可能性が高くなるでしょう。ただし、雷電は1回ラスをひくと、どんでん返しがおきないとは言えません。
 明後日=12日(金)は、アベマズ×サクラナイツ×パイレーツ×フェニックスの最終2試合ですが、パイレーツはフェニックスとの順位争いだけでは済まなくて、少なくとも1着+2着(もしくは3着?)が必要になる。否、雷電のポイント次第では、2着2回でも6位に滑り込めるかもしれない。2着と言えば、小林の専売特許であり、小林の連投以外勝ち上れるとは思えません。明日、ファイト倶楽部と雷電が好成績をおさめた場合、パイレーツとフェニックスの今季は事実上終焉を迎えるでしょう。



ドローン墜落

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 年度末のせわしい時期に、大きな失態をしでかしてしまい、研究室に多大な損害と迷惑をかけてしまった。私は、今年開山1300周年を迎える倉吉の打吹山長谷寺(天台宗)のパンフレット作成に関わっている。その関係で、卒業予定の4年生二人に研究室のドローンによる空撮をお願いした。ところが、3月4日の撮影中に突然プロペラの回転が止まり、ドローンが墜落・大破してしまった。現段階で修理が可能か不明である。

国英神社と長谷寺

 長谷寺の空撮を思いついたのは、研究室が1月27日のゼミ活動で鳥取市河原町片山に鎮座する国英神社での演習を見学したときまで遡る。全面オンライン授業に揺れ戻ったなかで唯一回おこなわれた全体ゼミであり、(密を避けた)屋外での開放的な場所で、4年生が3年生に測量機材やドローン等のスキルを伝授するため敢えて実施したものである。
 国英神社と倉吉の長谷寺には因縁がある。国英神社に伝わる梵鐘(県保護文化財・県博所蔵)の銘文に「正安三年(1301)」の紀年銘と「伯州久米郡長谷寺鐘」などの銘文が刻まれおり、もとは長谷寺の梵鐘だったことがわかっている。長谷寺から国英神社に移動した経緯や時期は不明ながら、長谷寺の歴史を考えるうえで欠くことのできない第一級の史料と言える(↑右)。
 国英神社は、霊石山(標高326m)の南裾部に位置し、最勝寺(真言宗)とも近い位置関係にある。神社のすぐ前には八東川が流れ、境内地は狭い。立地環境から神社の全景を画像におさめるのは不可能に近い状況だったが、ドローンによる空撮は神社の全景を撮影できるとともに地形の特徴なども把握でき、その有用性に改めて感心した。演習を見学していた私は、打吹山の中腹、急斜面に立地する長谷寺をドローン撮影すれば、建物配置や立地環境など、地上からの観測では見えないことも見えてくるのではないかと思った。また、梵鐘での接点しかない長谷寺と国英神社であるが、空撮画像をとおして得られる情報は多く、そこから見えてくるものもあるのではなかろうかとも考えた。


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長谷寺本堂周辺の空撮

 長谷寺の本堂(県保護文化財)は、急斜面を造成した平地と法面に建つ懸造(かけづくり)で、瓦葺き寄棟の五間堂である。平面的には中世仏堂の特徴をもつが、幾度か修理されており、建立年代や変遷について不明な部分が多かった。この問題にメスを入れたのがASALABだった。2013~14年度に大学および県環境学術研究費の助成を受けて「近世木造建造物の科学的年代測定に関する基礎的研究」に取り組み、その一環として長谷寺本堂の建築部材の年代を測定している。その結果、本堂は15世紀に再建され、天保年間(1830~43)に大きな改修を受けていることが判明したが、寺に一点だけ残る巻斗の古材の年代が国英神社所蔵梵鐘の年代を含む13世紀末~14世紀前半であることも明らかになった。この巻斗は杉材であり、現本堂部材(主に広葉樹)の材種とはまったく異なり、サイズも小さめなので、常識的には、現本堂の古材ではなく、前身建物の材と考えるべきである。


長谷寺本堂web


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mリーグ終盤の奇跡




デジタルの彼方

 パイレーツおよびそのファンを奈落の底に落とした4日(木)のmリーグ第2戦南4局1本場が早くもユーチューブにアップされました。著作権をもっているABEMA TVは滅多にこういうことをしないので、いかに凄まじい試合だったか、分かろうというものです。最終局の開始時点で、順位とポイントは以下のとおり。

1位: 園田(ドリブンズ) 34,600点
2位: 小林(パイレーツ) 33,000点
3位: 前原(ファイト倶楽部)17,600点
4位: 近藤(フェニックス) 14,500点

 この劣勢から、近藤は高め7萬をつもり、「リー即ツモ、タンピン一盃口、アカ、ウラ(六筒)」の倍満に仕上げ、大逆転のトップとなった。一発ツモ後の裏ドラをめくる近藤の手の震えに注目されたい。翌5日の2試合をあわせた総合順位は以下のようになっている。

1位 アベマズ 548.4pt
2位 サクラナイツ 387.7pt
3位 風林火山 -41.3pt
4位 ドリブンズ -87.7pt
5位 ファイト倶楽部 -115pt
6位 フェニックス -205pt
7位 パイレーツ -224pt
8位 ライデン -263.1pt

 メンバーの実力からみて、予選敗退ゾーンにいる現状の7位と8位は妥当な2チームだと思う。ただし、運勢がどう転ぶかは分からない。麻雀は運7分、実力3分と言われるゲームであり、だからこそ、2月のパイレーツは5位にまで上昇したのである。フェニックスは4日の近藤の奮戦(2着+1着)が大きな転機になるだろうし、他にも魚谷や茅森などの実力派が控えているので、おそらくセミファイナルに勝ち上がるだろう。むしろ、パイレーツと似た状況にあるのは現状5位のファイト倶楽部であり、ヒサト以外の3名が不調であり、ヒサトまで負けてしまうと、ボーダーの6位を超えて7位以下まで落ちる可能性もあるだろう。
 レギュラーシーズンは残り4日。来週の月・火・木・金に2試合ずつ、最後の16試合がおこなわれる。パイレーツの登場は8日(月)と12日(金)である。最後の最後で、近藤のような逆転大物手を積もって6位に滑り込んでほしい。鍵を握るのは瑞原さんだと思っている。



この配牌を大三元で和了できる人はほかにいないでしょうね。流石、最高位(4期)にして最強位(1期)の雀士。飯田正人に私淑しているところもいいね。歴代最強と言われる飯田の直径ということです。

リキ・チャンネルに嵌まる日々




 昨年の春ごろから、○○チャンネルと称する雀士のユーチューブ番組が増え始めた。思い起こせば、それは一度目の緊急事態宣言のころである。雀荘は閉鎖状態になり、mリーグをはじめとする各団体のトーナメントも休止になって、有名な雀士たちはやることがなくなった。○○チャンネルを開設する以外に仕事がなくなってしまったのであろう。しかし、残念ながら、面白いと思えるチャンネルはありませんね。麻雀のユーチューブ番組でけらけら楽しめたのは老舗の「おしえて、パイレーツ」です。わたしはデジタル派などと称する鳴き麻雀は好きではなかったが、おしパイのおかげで、すっかりデジタル派の旗頭パイレーツのファンになってしまったのです。間の抜けた雀士たちの会話に笑い、瑞原さんという神聖な人妻に見惚れてしまいました(笑)。



長州力もPCR検査をしたのです。


 3月になってヒマな時間が増え、昔好きだったプロレスのユーチューブ番組を漁っていると、この業界でもイベント中止のため、有名レスラーが雨後の筍のように○○チャンネルを開設していることが分かった。レスラーは雀士の10倍くらいアクセスを集めているのだけれども、やはりそんなに面白くない。プロレスを話題にしてもつまらないんですよ。ところが、唯一、長州力のチャンネルだけは別格で、ついつい嵌まってしまいますた。あの革命戦士が、今は孫に目がないおじいちゃんになってしまって、娘婿の慎太郎をいじくりまくる番組なんだけど、プロレスの話題はほぼありません。あまりに面白いので、神奈月というモノマネ芸人が長州のリキ・チャンネルを完コピして、またアクセスを集めている。わたしゃ神奈月のモノマネはあんまり似ていると思いませんね。松村邦洋の方がはるかに上だ。松村を国宝レベルとすると、神奈月は神奈川県指定だわ(誉めすぎかも?)。





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遅咲きの蝋梅

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眠気と散歩と梅の花

 数時間前まで意気軒昂にパイレーツのことを語ろうと思っていたのだが、今は少々気が重い。
 鳥取に20日間滞在して、奈良に戻ってきた。ともかく天気が良いので散歩しよう、一日1時間歩き続ければ、少しは痩せるだろう。それを3月の目標に据えていたのだが、帰宅してからの3日間、わたしは断続的に眠り続けた。どうしてこんなに眠るのだろうか、と思うほどに眠るのである。鳥取と奈良の往来が堪えるから、つまり運転の疲労がひどいから眠るというだけではどうやらなさそうだ。20日間の疲れの蓄積としかいいようがない。
 その間、何があったか。卒論の指導と発表会の準備(とくに文章校正)、新刊書の再校、入試業務・・・いつもこれぐらいの仕事はこなしている気もするのだが、ともかく体がへこたれていて、ソファに寝転べばまもなく眠りに落ち、目が覚めてmリーグをスマホのAbema TV でみていると、また眠くなる。結果、わたしの最初の散歩は帰宅後3日めの夕刻となった。その翌日(昨日)も別コースを歩いた。歩き始めると調子はよく、いくらでも歩いていられる。新しいスニーカが足によく合うのさ。まだ肌寒いけど、鳥取とちがって日差しはやわらかく、明るい。
 町並みには点々と花が増えている。なにより気になるのは梅だが、蝋梅も紅梅も白梅も盛りのシーズンだ。以前どこかで書いたように、わたしは桜よりも梅を好む。梅をみると心が躍る。寒気に打ち勝つようにして咲き乱れる梅の花。春は近い。


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丸亀製麺のサービス休止

 毎月1日は丸亀製麺のサービスデーなの、知ってますか。釜揚げうどんが半額になる。久しぶりに店まで出かけてみると、釜揚げ半額セールは休止中だという。コロナ対策である。半額デーには人が集まる。長い行列ができるのだ。昨年11月から「密」を避けるため半額セールは休止となり、来月以降に再開する予定だという。そもそも、丸亀製麺をフードコートに抱えるイオン自体、今年に入ってから初めての訪問になる。帰省等県外への移動の自粛を要請された年末年始、イオンは人出で溢れていたという。我が家は近くのコープで食品を仕入れ続けた。ほかのスーパーには行かなかった。

 今日現在の奈良県の感染者数は以下のとおり。

累計感染者数 3,295  回復者数 3,232  死者 48

 日々の新規感染者数は一桁に納まっている。毎日数十人の感染者が確認された一月と比べれば大きく減少したことは間違いない。


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そして誰もいなくなった

02熊さん


涙の空手道

 2月24日(月)、午後から出校した。卒論提出日にプリンターのバグなどが重なり、仮の卒論を提出するにとどまった学生の正式な論文を受け取るためである。提出が遅れたついでに南部町でのヒアリング成果も取り込んでもらった。演習室には二人の卒業予定者がいて、一人は論文提出の最後の処理に没頭しているし、もう一人は自分の机を中心に部屋の清掃に励んでいる。清掃が進めば進むほど研究室から生活感が失われてゆく。充実した2年を共にした現4年生たちの足取りが「空」にもどる直前の状態にあった。例年ならば、梅の切り花でミニ梅林をつくり、卒業の雰囲気を盛り上げるのだが、なにぶん切り花を仕入れていたトスクは廃業マルイは休業になってしまったので供給がままならず、飾っていた花々も朽ちてきて、撤去されてしまった。もっと切り花で部屋を盛大に飾りたかったのに。

 そんなこんなでバタバタしているところに、一人めの訪問者あり。今年度末で退職される某教授である。その先生は書き下ろしの分厚い論文を自主刊行され、「こんなもん書きましてん」と言って謹呈してくださった。タイトルだけ示そう。

  未来社会における空手道が輝くグランドデザインとは
   -ランドスケープアーキテクトの射程

 正直、わたしはついていけません(笑)。主題はいい。副題もいい。が、主題と副題の関係が理解できないのである。これを無理やり自分に置き換えてみると、

  未来社会における麻雀道が輝くグランドデザインとは
   -エスノアーキテクチュアの射程

とでもなるだろうか。わたしにはこの主題と副題の組み合わせでなにごとかを論理的に表現する能力はとてもない。しかし、某教授はこうしたタイトルで、じつに56頁の論文を仕上げられている。良くない、とは決していいません。が、良いとも言えない。まぁ、こういうところが、一部の学生から熱い支持を受ける一方で、プロの筋からは冷ややかな視線を集めかねないゆえんなのだろう。わたしは個人的に用意していた記念品を手渡した。すると、その教授は泣き崩れながら、こう仰った。
 
  「12年間、楽しかったわ、ほんま、ありがとうございます・・・」

 羨ましい。退職が4年後に迫っている自分を予想するに、心底「楽しかった」と回顧できるようには思えなかったからである。そもそもわたしは44歳で研究所を退いたとき、「あとは余生だ」と感じていた。それぐらい、研究所の後半7年間はタフなものであり、人生のなかであれほどの時期はなかったと今でも思っている。一方、生まれ故郷での研究人生がさほど豊かなものにならないであろうことは容易に想像できたし、教育者としてふさわしい人材でないことも分かっている。ただ、自由な時間が少しばかり増えたことが嬉しかった。そんな自分ではあるけれども、「楽しかった」と涙にむせびながら回顧する某教授を目の当たりにして反省せざるを得なかった。残りの4年で、少しでもいいからそういう境地に近づきたいと思う。


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プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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