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陳従周先生生誕百周年(4)

上海郊外住宅の橋庁

 9月14日から本格的な活動が始まった。報告書『上海農村伝統住宅調査』の著者、朱保良講師(当時)のご指導により、上海市内の赤峰路・邯鄲路・朱家巷、上海県の梅隴公社・杜行公社・陳行公社などで伝統的な民家を視察したのである。とくに印象に残ったのは「両目竈」と呼ばれる伝統的なカマド(図01)と屋根付きの橋「橋庁」である。カマドは引き続き浙江・江蘇の調査でも重要な調査対象となり、1987年に二編の論文として発表した。今でも大学の講義「地域生活文化論」の一コマを割いて学生に講義している。
 上海県で見学した「橋庁」は中国において屋根付き橋をみる初めての体験になった。後に貴州省の黔東南ミャオ族トン族自治州で「風雨橋」と呼ばれる長大な屋根付き橋に度肝を抜かれることになるが、上海県の場合、貴州のように村の入口にあるのではなく、大型住宅を貫くようにして流れる水路の上に架かる小ぶりの屋根付き橋であった。それは水路を跨ぐ「廊」でもあり、人の集まる「庁」でもあるのだが、「庁」というにはやや素朴であり、むしろ「亭」のような休憩施設と言える。
 日本の場合、屋根付きの橋は数少ない。一般的には庭園の中に設けられる。最もよく知られているのは修学院離宮(京都)の千歳橋である。それは中島と万松塢をつなぐ「廊」であるが、池上に浮く「亭」としての趣きをつよく誇示している。中世禅宗庭園の礎となった夢窓疎石開山の虎渓山永保寺(岐阜)では、本堂正面の土岐川に呉橋「無際橋」をかけ、その中央に檜皮葺き屋根の「亭」を置く。豊臣秀吉と正室を祀る高台寺(京都)の観月台も対岸から開山堂に至る橋の中央に「亭」を設けるが、前後の通路部分にも低い屋根をかけて「廊」に近い姿にみせる(図02)。その「廊」は開山堂からさらに山の斜面をのびて霊屋に通じている。これを「臥龍廊」という。
 中国では蘇州庭園の代表格である拙政園の「小飛虹」が思い起こされる。ただし、文徴明の描く古絵図をみるとその小橋に屋根は架かっていない。明代には「橋庁」の類でなかったことが分かる。というわけで、いつの時代に庭の内部で屋根付き橋が出現したのかは判断しかねるものの、おそらく庭池上で営まれた「亭」的な屋根付き橋の応用として、住宅の外部でも水面上に屋根付きの橋が設けられるようになっていったのだろう。それはまず、福建省永春県の東関橋(図03)のように漢族の世界で登場し、後に貴州トン族などの南方少数民族に波及していくのだろうと推定している。

大和棟に似た山東の古民家

 浙江省調査に先んじて、9月末に山東省の済南と曲阜を訪れた。済南では千仏山公園と柳埠古跡、曲阜では孔府・孔廟・周公廟・顔廟・魯国故城遺址などを見て回ったが、そうした名勝古跡以上に民家に興味をもった。その主屋は、日本の高塀づくりに近い外観をしている。木構造から独立する妻壁(山墻)は切妻造茅葺きの屋根面よりも高くせり上がり、日本のうだつ(卯立)に似た高塀となっていて、葺材は異なるが、奈良の大和棟民家と姿が似ている(図04)。その妻壁を済南では石積みとし、曲阜では版築としていた。こうした高塀づくりに似た民家は雲南省の滇池周辺や、広西チワン族自治区の雷州半島などでも後にみることになる。



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パンドラの箱

 ヒマなどあるはずもなく、興味もなかったはずなのに、新潟の問題があまりに大きくなっていくので、ついついネットで情報を漁り、ことの本質をだいたい理解できたつもりになっています。ここで、その知識をひけらかす必要はなくて、たとえば、「枕営業」と団体名をクロス検索させれば一定の情報が得られるでしょう。とりわけ小林よしのりという漫画家がずいぶん吠えてくれています。

 さて、被害者を襲った人物は反社会系芸能プロダクションと密接にかかわる青年です。これがただの半グレではなく、総選挙の票を動かすだけの情報と力をもっていることで事件は深刻になっていった。元を正せば、一昨年(2017)の第9回総選挙の速報で新潟の某アイドルが全国1位をかっさらったあたりから不審な風が吹き始めた。その無名のアイドルは最終的に総合5位にくいこんだが、あきらかに分不相応な勝利でした。他にも2名が新潟から10位以内に入っていたはずでして、たしかに票の伸び方は異常としか言いようがない。当該の人物は昨年(2018)の第10回総選挙でさらに順位をあげ総合4位に輝いている。こうした順位の上昇が不法な投票行為の反映であり、半グレ集団と無関係ではないからこそ、今年から総選挙が中止になったとも考えられています。
 ご存じのように、アイドル集団は「恋愛禁止」を原則としていますが、集票に執着する一部のアイドルとそれを支援する運営組織内外の権力者や太客の間には「握手」どころではすまない「風紀の乱れ」が発生しており、それを憂えた被害者が運営幹部に注意喚起を促した。しかし、運営側は意に介さない。そして、被害者の行為に怒った4位らが被害者の住所や帰宅時間を半グレに教えて襲わせたことで被害者が告発し事件化したものの、ちかごろ不起訴が確定したため、運営側は一切を不問に伏すことに決めてしまった。その結果、アイドルの貞操を守ろうとした純潔者が集団から排除され、風紀違反の活動によって集票した不届き者が体制と結託して地位を確保することになったため、ネットはおおいに炎上しているというわけです。

 わたしは、被害者が純粋であるが故に自分が「パンドラの箱」をあけてしまったことに気づいてらっしゃるのか、その点が気になって仕方ない。ある意味、都知事になったころの小池百合子の状況に似ている。豊洲市場の土壌汚染を防ぐ盛土や土壌改良はまったくなされていなくて、地下にあったのは巨大なコンクリートのボックスであり、その内側に汚染水がたまっていた。それは都庁の関係者ならだれでも知っていて隠蔽していたことなのに、新知事はこの情報を公開して、豊洲の問題を「改善」しようとした。その行為そのものは非難されるべきではないけれども、結果として、ニッチモサッチモいかない蟻地獄に陥って、築地から豊洲への移転は大幅に遅延しながら実行されたのはご存知のとおりであります。





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2018年度学内特別研究費実績報告

登録記念物「摩尼山」の景観整備に関する基礎的研究
  -賽の河原と地蔵堂の復元を中心に-


 鳥取市覚寺に所在する霊場「摩尼山」については、2009年以来、摩尼寺「奥の院」遺跡での発掘調査や境内建造物の調査研究等に取り組み、2016年に国の登録記念物(名勝地関係)に登録された。面積約37万k㎡に及ぶ日本最大の登録記念物が県内に誕生したわけだが、信仰の核心に係る鷲ヶ峰「賽の河原」周辺についての調査研究が手つかずのまま放置されていた。そこで2018年度前期より、①鷲ヶ峰一帯のドローン撮影、フォトスキャンによるCG作成、地形測量等を進めるとともに、②すでに遺跡化している地蔵堂等建造物の復元に取り組み、その成果を③登録記念「摩尼山」リーフレット(2018年11月刊行)に盛り込んだ。「摩尼山」リーフレットはこれまでの研究成果をほぼ網羅し、英訳もつけている。プロのデザイナーが腕を振るい、デザイン的にも質が高い。報告書的なリーフレットとして今後の活用整備の基礎となるばかりか、一般向けの概説書としても有効に機能するだろう。2017年度より登録記念物「摩尼山」活用整備事業が3年計画で進められているが、鷲ヶ峰「賽の河原」周辺については基礎研究がなされていなかったため、修復整備の方針を立てられないでいた。今回の調査研究、とりわけ地蔵堂周辺の景観復元によって今後の整備方針を固めることができるであろう。
 また、④江戸期まで遡る「賽の河原」信仰については摩尼寺に残る「西院の河原」和讃本を翻刻して、死んだ子どもと鬼・地蔵の関係を再確認し、その内容を再現する摩尼山鷲ヶ峰「賽の河原」石積みトレック大会を11月10日に開催した。摩尼川源流域を遡行して小石を集め、それを「賽の河原」に積み上げて供養塔をつくるイベントは、子どもを含む家族や高齢者など約50名の参加者があり、活気あるものとなった。門前の山菜料理茶屋との連携も上手く運び、今後のイベント運営の手ごたえを得た(二軒の茶屋のうち高齢化のため老舗の一軒が店を畳んだことは大きな問題であり、この「再開」については多くの部署との協議を要する)。
 こうした山陰の密教系霊場の信仰や祭場の調査研究活動を進める一方、⑤同じ密教系山岳信仰の聖地であるチベットの霊場や巨岩崇拝と比較するため、西北雲南(旧チベット領カム地方)を訪問し、チベット仏教寺院や民家を視察するとともに、チベット族の神の山「梅里雪山」の遥拝に成功した(普段は悪天候が多く山容を露わにしない)。西北雲南の仏教遺産・霊山・巨岩の視察については、さっそく環境学部の広報本(浅川「奇跡の雪山-ブータンとチベットの七年間-」『こちら公立鳥取環境大学環境学部です!』今井出版、2019)に成果を反映させた。今後もチベット、ブータン、雲南、四川などでチベット仏教に係る調査研究を進め、山陰の密教霊場を考察する糧としていきたい。


[関係サイト]
環境大学地域連携事業報告会(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2021.html
2018年度 公立鳥取環境大学学内特別研究費に新規採択!
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1824.html

アヤックス快進撃!

 アヤックスがCLの16強戦でレアルを計5-3で粉砕(H1-2;A4-1)したというニュースを聞いたとき、CR7の抜けた影響はそこまで深刻かと憐れになったが、続く8強戦ではそのCR7を補強したユーベを計3-2(H1-1;A2-1)で倒したとの報に接し、これはもうレアルやユーベが弱いのではなく、今のアヤックスがとてつもなく強いチームだということに遅まきながら気がづいた。
 オランダのアヤックス・アムステルダムは1971~73年、UEFAチャンピオンズカップの3連覇を成し遂げた名門である。当時のリーダーがヨハン・クライフであり、かれはアヤックスにおいてトータル・フットボールをほぼ完成させ、ベッケンバウアー率いるバイエルン・ミュンヘンなどを寄せつけぬほどの強豪に成長させた。その後、バルセロナに移籍し、アヤックスとバルセロナの両チームに対してつねに強い影響力を持ち続けた。二つのチームはクライフ流サッカー観を共通の基盤にしているが、バルサがスターを集めた銀河系高年俸集団であるのに対して、アヤックスはユースの育成に主眼をおいているところが対照的である。アヤックスはユース世代によって強いチームを作りあげ、将来性豊かな人材を欧州四大リーグに送り込む資源庫のようにして財政を潤してきたのである。





 その代表例は1994-95シーズンのCLで優勝したメンバーたちである。ブリントとライカールト以外は二十歳前後の若者たちばかりであったが、ユース年代から1軍と同じサッカーを教育されており、当時世界最強と言われたミランを倒し欧州覇者となった。ファン・デル・サール、ライツィハー、デ・ブール兄弟、ダーヴィッツ、セードルフ、クライファート、オフェルマウス等は、アヤックスからユーベ、ミラン、バルサ、マンUなどのビッグクラブに買われて離散しつつ、ナショナルチームでは同窓会のようにして再会し、世界有数の強豪であり続けた。1998年のフランスW杯ではヒディンク監督に率いられて四強に進出し、準決勝ブラジル戦でPK負けしたものの、優勝したフランスより強かったのではないか、と絶賛されたチームでもある。
 今年のアヤックスは1994-95シーズンの再現を成し遂げそうな勢いをみせている。その中心にいるのが、キャプテンマークを腕にまくマタイス・デ・リフトというセンターバックである。若干19歳だが、すでに世界最高レベルのディフェンダーと評価されている。破壊的な攻撃力も備えており、トリノでのユーベ戦ではコーナーキックから見事なヘディングをゴールに叩きこんだ。まぁ、大谷翔平がサッカー選手になったような逸材だと思ってもらえればいいかな。もちろん移籍の噂は絶えない。チームの同僚MF、フレンキー・デ・ヨングはすでにバルサへの移籍が確定している。デ・リフトの移籍先もバルサになるのではないか、というのがもっぱらの噂である。移籍したらしたでレギュラー争いは熾烈をきわめるだろうが、中盤よりはディフェンスのほうが定着が早いような気もする。





 準決勝は、アヤックス対トッテナム、リバプール対バルセロナに決まった。ここまでバイエルン、レアル、ユーベを蹴散らしてきたアヤックスがトッテナムを下す力は十分にあると言わざるをえない。トッテナムとしては、ユーベやレアルがアウェイで善戦する一方、ホームで完敗している点に注目すべきように思われる。すなわち、ホームにおいても、アウェイと同様の守備的戦術で臨めば活路を見出しうるかもしれない。
 一方のリバプール対バルセロナは微妙だ。名前だけみれば、メッシのいるバルサに分がありそうだが、リバプールは昨年のファイナリスト(準優勝)であり、今年はさらに強くなっていて、やや弱体化しているバルサの守備陣に風穴をあけそうな勢いを感じ取れる。クロップの采配にも注目したい。
 決勝はアヤックス対バルサの同門対決になって、若いアヤックスが優勝し世代交代を誇示する、という筋書きがいちばんおもしろいが、アヤックス対リバプールもありえるだろう。いずれにしても、わたしはアヤックスを応援します。四半世紀ぶりに欧州チャンピオンに返り咲いてほしい。



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環境大学地域連携事業報告会(3)

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「賽の河原」の風景-摩尼山地蔵堂の考証と復元

 2018年度公立鳥取環境大学学内特別研究費地域連携事業成果報告会が近づいてきて、事務局は広報に尽力されているようです。と同時に、発表資料も23日までに送れとのこと。へい、がってんです。チラシを上に貼り付けておきます。

【平成30年度 研究報告会】 
 日時: 平成31年5月8日(水)13時30分~16時30分
 会場: 公立鳥取環境大学 学生センター2階多目的スペース
 定員: 200名
 参加料: 無料
 主催: 公立鳥取環境大学地域イノベーション研究センター
  (プログラム)  ☆報告時間 各20分/人 ※質疑含める
  13:30~13:35  開会挨拶 
  13:35~14:55  4演題  
   ①13:35~13:55戸苅 ②13:55~14:15山本 ③14:15~14:35重田 
  
④14:35~14:55 浅川
 演題: 「賽の河原」の風景-摩尼山地蔵堂の考証と復元
 概要: 摩尼山は平安中期に開山した天台宗の霊山で、18世紀まで境内は「奥の院」にあった。これまで「奥の院」の発掘や境内建造物の調査などに取り組み、 2016年に日本最大の面積(約37万k㎡)の国登録記念物になった。2018年度は 鷲ヶ峰「賽の河原」の復元研究を進めるとともに、摩尼川源流を遡行しつつ小石 を集め、「賽の河原」に石積み供養塔をつくるイベントを開催した。

  14:55~15:05  (休憩/10分)
  15:05~16:25  4演題   
   ⑤15:05~15:25門木 ⑥15:25~15:45倉持  ⑦15:45~16:05磯野 
    ⑧16:05~16:25太田
   
  16:25~16:30  閉会挨拶           
 ※報告会に際して、概要を記した配布用資料(A4用紙1枚程度)を準備。

[参考サイト]
令和元年5月8日(水)「平成30年度 研究成果報告会」を開催します
https://www.kankyo-u.ac.jp/news/2019/20190412/
環境大学地域連携事業報告会(1)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1996.html
環境大学地域連携事業報告会(2)
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-2021.html
2018年度 公立鳥取環境大学学内特別研究費に新規採択!
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1824.html

太中画伯作品展-里山想望

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第59回 日本南画院展

 一昨年の青海~チベットツアーに同行された建築業の大先輩、太中誠さんから作品展のご案内が今年も届いた。お手紙によると、現在闘病中とのことであり、このたび出陳された「里山想望」は病棟の窓外の景色を写し取ったものだそうである。「里山が住宅開発により消えゆくのをなんとも憂いて」の作品と記されている。
 できればGWの初日あたりを利用して大阪会場を訪れたいと思っている。

 京都展: 2019年4月16日(火)~4月21日(日)
       入場時間 09:00~16:30 @京都市美術館別館等
 大阪展: 2019年4月24日(水)~4月29日(月・祝)
       入場時間 09:00~16:30 @大阪市立美術館地下展覧室(天王寺公園)
       ℡ 06-6771-4874 


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二つの新作

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 ささやかではありますが、昨年度の研究成果が2点刊行されましたので、お知らせします。

ラ・ジャ-天の鳥

 「ブータンの絵本」シリーズ(翻訳・内部資料)第4作で、編集・刊行のいきさつについては こちらを参照してください。図書情報と目次は以下のとおりです。
 書名: ラ・ジャ-天の鳥 【ASALAB報告書37集】
 編集: 浅川滋男+QTC
 発行: 公立鳥取大学保存修復スタジオ
 刊行年月日: 2019年3月31日
 装幀・印刷: 株式会社 実
 総頁数: 102ページ
 目次:
  1.ラ・ジャ-天の鳥 p.01-40
  2.ヤクと野牛の物語 p.41-66
  3.アケ・ゲム p.67-78
  4.カブはどのようにしてハにもたらされたのか p.79-92
  5.ブータンの宝塔-真実にむかう心のよりどころ p.93-95
  6.魔力と戦うフライング・ファルス p.96-98


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奇跡の雪山

 本学環境学部の広報用に出版された新刊書にエッセイを寄稿しております。

   浅川 滋男(2019)「奇跡の雪山-ブータンとチベットの七年間-」
     『こちら公立鳥取環境大学環境学部です!』今井出版:p.110-125

 以下の連載を圧縮しつつ改稿したものです。

奇跡の雪山-ブータンとチベットの七年間
(1)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1938.html
(2)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1939.html
(3)http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-1940.html

環境学部の本チラシ_s_01 アマゾン

トクタミシェワの誘惑




 最近感心したものに内田也哉子の謝辞(内田裕也葬儀)と上野千鶴子の祝辞(東大入学式)があるが、それらを雲散させてしまうほどの魔力をふりまいたのがフィギュアスケート国別対抗戦におけるトクタミシェワ(ロシア)の演技であった。
 まず第一に、トクタミシェワはショートとフリーの両演技において、3アクセルを完璧に決めてみせた。わが紀平はショートではそれを成功させ世界最高点を叩きだしたものの、フリーではあえなく転倒し、総合5位にまで順位を落としたのに対して、トクタミシェワは女子総合1位であり、2015-16シーズン世界チャンピオンの力量を存分に誇示したのである。
 トクタミシェワは、浅田真央の一度目の引退直後のシーズンから3アクセルに挑みはじめ、それを成功させた世界大会で優勝したのだが、あとからあとからうようよ湧いてくるメドベージェワやザギトワなどの新人の後塵を拝するようになり、まもなく世界の舞台からいちどは消えてしまった。平昌にも大阪にもトクタミシェワの姿はなかったが、このたびの国別対抗(福岡)で世界2位にあたる高得点を獲得し、日本代表の二人を寄せつけなかった。





 トクタミシェワはソチ五輪で優勝したソトニコワの同級で、今年22歳になる。フィギュアの世界では「熟女」にあたる年齢と言ってもさほど非難をあびないかもしれない。ロシアのフィギュア界では、すでにザギトワやメドベージェワすら引退勧告がなされているという噂がある。彼女たちは女の子から大人の女性への成長期にあり、難度の高いジャンプが不安定になって、より高度な離れ技を望めない。日本の浅田にしても、少女のころは楽々飛べた3アクセルが大人になって失敗するパーセンテージが高くなっていった。紀平もこれからその途に踏み込んでいかざるをえない年齢になっている。一方、ジュニア世代の13~15歳の少女選手たちは4回転の着氷に成功しつつある。来たる北京五輪は、3アクセルから4回転の戦いになること間違いない状況にあって、ザギトワやメドベージェワは間に合わない、というのがロシア指導者たちの判断になりつつあるのかもしれない。
 そんななか、トクタミシェワの座標は異次元の不気味さを放ち始めている。少女時代には飛べなかった3アクセルが18歳をすぎて飛べるようになり、グラマラスな肢体を保ちながらジャンプの安定度が増してきている。3アクセル(以上)が飛べるなら、引退などする必要はない。今後も、すなわち北京五輪においても、若手たちと対等に戦う潜在力があるということだ。



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救急車に乗って

抗ヒスタミン副作用

 私生活ではありますが、とんでもない10日間を過ごしていた。
 キプロスからの帰国直後に睡眠時無呼吸症候群の検査のため奈良で1泊検査入院したのだが、「がんばって眠ってください」と言われても、生活時間を一気に変えられるはずもなく、時差調整もおぼつかぬ不調な状態のまま、病院で一夜を過ごしたあたりから、咽喉に異変を感じ始めていた。子どものころから扁桃腺の腫れが持病になっていて、その予防も兼ねてホームドクターからいつも余分に鎮痛剤・抗生物質・風邪薬等をもらっている。ストックは十分あった。4月になって咽喉の症状がひどくなっていくので、ストックした薬をやたらと飲むようになっていった。
 4月4日(金)に入学式があり、翌5日に担任(チュータ)となった新入生との初顔合わせがあって、いったん奈良に戻った。咽喉の症状は納まったかにみえた。じっさい奈良で短時間の花見もした。しかし、長距離運転の疲労からか咽頭痛が再発し、薬を飲み続けた。あらゆる薬を飲んだ。
 4月8日(月)の朝、わたしの体に大きなブレーキがかかった。尿がでないのである。尿意は十分あって下腹が苦しい。歩くのもつらいような状態だったが、なんとかホームドクターに駆け込み、そこで救急車を呼んでもらって、近くの総合病院の泌尿器科に運び込まれた。専門医は涼しい顔で言う。

  「風邪薬の飲み過ぎですね」

 風邪薬に含まれる抗ヒスタミン剤は鼻水などが出るのを防ぐと同時に尿を出にくくしてしまうんだそうだ。33歳のとき胆石を患い胆嚢摘出の手術をするにあたって、排尿の管をさしいれた。それ以来の処置がただちにおこなわれ、じつに700ccの液体がビニール袋にあふれ出た。そして、管は金曜日までつけたままにすることが決まった。強力な磁石式のキャップがついている。
 翌9日(火)には「住まいと建築の歴史」(2年以上)の初講義がある。できれば休みたくない。車を運転できないほどの状態ではないので、家内を補助者としてゆっくり慎重に運転し帰鳥した。このとき咽頭痛はほぼ消えていたが、どういうわけか後頭部などに神経痛があり、これにも数日悩まされ続けた。一夜あけて大学へ行き、履修者が120名以上になることを知って慌てふためき、大急ぎで資料を複写した。なんとかガイダンス用の講義ができると信じていたが、まもなくトイレで異状が発生した。開始30分前、休講を決断した。翌10日(水)は初ゼミであり、昨夜その報告をしたが、個人的には雨天はラッキーだった。体内に管を通した状態での散歩や花見は・・・地獄でしかなかっただろう。


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令和饅頭

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『鳥取県の民家』を訪ねて

 4月8日(水)は初ゼミで、新3年生と4年生以上の顔合わせとなりました。中国道のパーキングエリアで売りだしたばかりの「令和饅頭」を仕入れてきていたので、みんなで食べたんです。予定では、近くの重文民家まで歩いていって、ついでに脇道でお花見するはずだったんですが、空は花冷えの雨模様で断念したしだいです。
 令和饅頭はごくふつうの紅白まんじゅうです(月餅のような洗練さはありません)。赤が5つで、白が4つ。陰陽五行では、女が偶数で男が奇数だから、この場合、赤が男で、白が女か・・・今年度は男:女は5:5のイーブンです。昨年までの二年間は女子が男子を数で圧倒していましたが、ともかく対等の数に戻ってよしとしましょう。
 5限には人間環境実習演習Aのガイダンスを十分ほどやりました。昨年は能海寛の『世界に於ける仏教徒』で学内外を席巻?しましたが、今年の主題は「『鳥取県の民家』を訪ねて」にしようと思っています。シラバスを抜粋します。

  歴史的建造物のうち古民家に係わる授業をおこないます。昭和40~50年代の高度成長期に
  文化庁は開発に伴って消滅し続ける民家の状況に危機感を抱き、全国的な緊急調査を実施し
  ました。鳥取県でも昭和43年(1968)に調査が実施され、翌年に報告書『鳥取県の民家』
  (1969)が刊行されました。以来、50年の歳月が流れました。報告書に掲載された民家の
  うち国や自治体の指定文化財となって保存されたものももちろんありますが、この授業では
  未指定・未登録のまま保存の対象とならなかった民家に焦点をあてます。それらの民家は、
  なぜ保全されなかったのか、半世紀の間にどのような変容を遂げて今どのような状況にあるのか、
  その変動の社会背景は何なのか、について輪読と実習の両面からアプローチしていきます。

 こうした授業目的との関係からも、紙子谷の福田家住宅(重文)まで散歩したかったんですが、天候には勝てません。残された時間はテキストの資料製本の作業にあてたしだいです。さて、来週はどう動くか。十連休前の活動戦略はなかなか難しいですね。


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↑4年のバレーさんは就活中で欠席でした。

テセウスの家(1)

 入学式が今日(4日)終わった。今年度のキャンパスガイドや大学案内で強調したように、「大学は工学部だったが、高校時代の得意科目は世界史と英語で、大学在学中ずっと自分は文系なのではないか、という違和感を覚えていた。気がついたら文化財研究所で働いていて、いまはすっかり文系だと思っている。入学生諸君のなかにも自分は文系ではないか、と思っている人が少なからずいると思うが、人間環境プログラムには人文社会系の教員もちゃんといるので、無理して理系の卒論をやる必要はない。自分に素直になって文系の卒論に取り組んでください」という短いスピーチをした。

卒業

 話を少し巻き戻したい。キプロス出張と重なってしまい、3月20日の卒業式を欠席した。卒業式は、学生にとって意義深い通過儀礼であり、感傷的な時間でありうる(冷めた学生もいる)。女子学生にとっては、結婚式ほどではないにせよ、おしゃれな衣装をアピールする場であるかもしれない。
 一方、教師はどうかというと、毎年の定例行事であり、二十年近く同じ行動をリピートしているわけだから、特別な感情が湧いてくるほどではない。うんざりすることが一つある。冗長な祝辞だ。来賓の祝辞はありがたく拝聴しなければならないとしても、学内の幹部が独りよがりの長話をして、しばしば多くの聴講者を辟易させるのである。昨年はとくにひどかった。複数の教員が後でクレームを発した甲斐あって、今年はやや自重したらしいが、いくつかの情報筋によると、平凡な話だったそうである。その点、内田裕也の葬儀における娘(也哉子)さんの謝辞(弔辞)は素晴らしかった。プロの文筆家とは、あぁいうレベルの文章が書けないといけないんだ。とても敵わないね。
 卒業式の場合、そうした儀式が終わって、ようやくゼミ単位での記念撮影になる。数枚の記念撮影。それで教師の役割はおしまい。学生にとって、ゼミ単位での記念撮影はさほど重要ではなく、むしろ多くの同級生や下級生との記念撮影にやっきになり、その後、衣装替えの休憩があり、謝恩会に流れていく。一方、教師はどうか。私の場合、会場に近い寺町の喫茶店「」で昼をとり、食後に極道の打筋を学んでから下宿に戻る。まもなくシエスタの時間となり、夕方からゆっくり奈良に戻る。これがルーティーンである。
 毎年そんなものだから、つまり卒業式において教師の役割は希薄この上ないから、今年は式を回避し、キプロスに飛ぶことにした。関空からドバイまで11時間、そこからさらに4時間半飛行機にのってラルナカ空港に着く。情けない話だが、そうした移動のなかでも卒業式のことが頭の中で点滅を繰りかえしていた。洋梨には洋梨なりの存在意義があるのではないか、という後ろめたさに苛まれていたのである。


万引き家族


万引き家族

 長時間の飛行では映画鑑賞以外にほとんどやることがない。今回のエミレーツ便には800本余りの映画等が登録されていた。そのトップに日本映画が入っている。英語名 Shoplifters 。是枝裕和監督がカンヌ映画祭で最優秀賞を受賞した『万引き家族』である。一昨年の『君の名は。』は往復で5回、昨年の『関ヶ原』は2回、今年の『万引き家族』は4回みた。どの作品もDVD販売/レンタル前の視聴であり、有難いことである。
 『万引き家族』の英訳が Shoplifters(万引き者たち)となっている点、つまり family という訳語を使っていない点は重要である。同居家族にみえる6人の人物にはいっさい血縁関係はなく、家は梁山泊のようなアジールであることが、おばあちゃん(樹木希林)の死後あきらかになっていく。血のつながりがあるようでまったくなく、情でつながっているか、といえば、じつはその裏側には金と犯罪の関係があり、とはいいながら、やはり互いに情はきっちり芽生えていた、というとても複雑な「絆」による世帯がそこに自生していた。樹木希林の存在感は圧倒的というほかない。最も印象的な海辺のシーンで、希林さんが安藤さくらの顔をみつめながら、「おねえさん、よくみると綺麗だね」と呟くシーンはアドリブであり、そのセリフをもとに脚本が書き換えられていったのだそうである。また、海辺ではしゃぐ「家族」をみつめながら、「こんなの長くは続かないよ・・・」と口走る場面はその後の展開を暗示することがすぐに読み取れた。
 家族を研究室に置き換えようと試みた。絆をもって共同の研究目標に向かっていると思い込んでいるのは教師だけなのかもしれない。あれだけ良くしてあげたのに、一つの運命を共有したはずなのに・・・などと教師は思っている。しかし、実際に我々を結びつけていたのは「単位」であり、「金(飯や酒を奢ること)」であり、「卒業証書」であって、どこにも情などなかったのだろうかと勘繰りたくなるほど、ケジメのないばらばらの散開であった。その理由の疑念が拭えぬまま卒業式を回避し、キプロスに飛び立った。



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プロフィール

魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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