沈黙-サイレンス-
風景の違和感
マーティン・スコセッシ監督(原作:遠藤周作)の『沈黙-サイレンス-』(2016)を視た。関ヶ原の戦から大坂の陣を経て徳川が幕藩体制と鎖国制度を強化した17世紀前半、マカオでは聖ポール天主堂の建設が進められ、日本から逃れてきた切支丹が天主堂近くの茨林囲に移り住んで、天主堂の造営を補助していたころの物語である。3時間の長作。残念ではあるけれども、外国人が日本の歴史文化を描くには限界があると感じた。いくつか違和感がある。
まず言語。宣教師ばかりか、日本の百姓や代官まで英語を喋っている。宣教師はポルトガル語、日本人は日本語にして字幕をつけるのが最善だと思うのだけれども、それではアメリカで興行成績が上がらないのか。
(左)対馬桐谷家のコヤ(県指定)民家付属の蔵 (中)対馬の藻小屋兼船小屋:石垣壁に板石葺屋根 (右)整備された対馬峰町木坂の藻小屋(瓦葺きは新しい)
次に風景。17世紀の日本を再現できる場所が日本にない、ということで、台湾をロケ地にしているが、やはり「日本じゃない」と感じた。海岸線や山河の風景をみて、そう思う。現場に再現された離島集落のセットもちょっと違う。台湾先住民と日本の古民家がごっちゃになっている。いちばん気になったのは高床倉庫。脚の長い弥生時代風の高床倉庫で、壁を板校倉風にしていた。倉庫を造りたいなら、対馬のコヤ(↑左)のようにみせたい。床は低く、柱を平にして、壁は横板落込、屋根は板石葺とする。住まいは、壁を石垣にする。土間式で軒を低く、屋根は板石または杉皮(↓右)で葺いて石で押さえる。茅葺きの場合、必ず逆葺きとする。柱は掘立。台風の水平力に強い構造としたい。本州の広間型民家はまだ入ってきていない。あくまで中世型住居の環東シナ海離島バージョンを構想・復元したい。
(左)韓国済州島城邑民俗村の民家 *17世紀ころまでの漁民の住まいは藻小屋が大きくなって済州島の民家に近かったかも? (右)隠岐道後釜・佐々木家住宅(重文)の杉皮石置屋根
寺院や代官所の建築も重厚感を感じないセットである。日本の17世紀の寺院や書院で撮影して欲しかった。あるいは、映画村の建物でもいい。スコセッシの映画セットは日本の映画村のレベルより少し劣る。勝新の座頭市のような懐かしさを感じないのである。
マーティン・スコセッシ監督(原作:遠藤周作)の『沈黙-サイレンス-』(2016)を視た。関ヶ原の戦から大坂の陣を経て徳川が幕藩体制と鎖国制度を強化した17世紀前半、マカオでは聖ポール天主堂の建設が進められ、日本から逃れてきた切支丹が天主堂近くの茨林囲に移り住んで、天主堂の造営を補助していたころの物語である。3時間の長作。残念ではあるけれども、外国人が日本の歴史文化を描くには限界があると感じた。いくつか違和感がある。
まず言語。宣教師ばかりか、日本の百姓や代官まで英語を喋っている。宣教師はポルトガル語、日本人は日本語にして字幕をつけるのが最善だと思うのだけれども、それではアメリカで興行成績が上がらないのか。
(左)対馬桐谷家のコヤ(県指定)民家付属の蔵 (中)対馬の藻小屋兼船小屋:石垣壁に板石葺屋根 (右)整備された対馬峰町木坂の藻小屋(瓦葺きは新しい)
次に風景。17世紀の日本を再現できる場所が日本にない、ということで、台湾をロケ地にしているが、やはり「日本じゃない」と感じた。海岸線や山河の風景をみて、そう思う。現場に再現された離島集落のセットもちょっと違う。台湾先住民と日本の古民家がごっちゃになっている。いちばん気になったのは高床倉庫。脚の長い弥生時代風の高床倉庫で、壁を板校倉風にしていた。倉庫を造りたいなら、対馬のコヤ(↑左)のようにみせたい。床は低く、柱を平にして、壁は横板落込、屋根は板石葺とする。住まいは、壁を石垣にする。土間式で軒を低く、屋根は板石または杉皮(↓右)で葺いて石で押さえる。茅葺きの場合、必ず逆葺きとする。柱は掘立。台風の水平力に強い構造としたい。本州の広間型民家はまだ入ってきていない。あくまで中世型住居の環東シナ海離島バージョンを構想・復元したい。
(左)韓国済州島城邑民俗村の民家 *17世紀ころまでの漁民の住まいは藻小屋が大きくなって済州島の民家に近かったかも? (右)隠岐道後釜・佐々木家住宅(重文)の杉皮石置屋根
寺院や代官所の建築も重厚感を感じないセットである。日本の17世紀の寺院や書院で撮影して欲しかった。あるいは、映画村の建物でもいい。スコセッシの映画セットは日本の映画村のレベルより少し劣る。勝新の座頭市のような懐かしさを感じないのである。