天国への階段(ⅩⅥ)
バタッ村
昼食を終え、車に乗り込んだ。めざすはルートマップ⑨番のバタッ(Batad)村である。マンガーンから2キロばかり引き返すと、V字に折り返す山道があり、そこに Rice Terraces の文字を含むサインボードを確認した。山道は勾配がきつく曲がりくねっている。再びギアをローに落とす。ゴトゴトガタガタ車は進み、20分ばかりしてサドル(Saddle)と呼ばれる地点に到達した。英語のサドルは「鞍」。そうか「馬の背」、尾根だね。サミット(山頂)ではないが、そのあたりではいちばん高い地点である。ルートマップによれば、バンガーン村の標高が1000m、バタッ村が1100mとある。サドルの標高はおそらく1500mを超えているだろう。めざすバタッ村は俯瞰しても見えない。サドルには駐車場とともに、いくつかの店がある。そして、「バタッ棚田活用プロジェクト」の大きな看板を発見した(↓右)。国家的プロジェクトとして、この棚田の活用を図ろうとしている。
店の脇に階段の降り口がある。石とセメントでできた階段で比較的楽に歩けはした。その階段は長い。段を下りきったところに標識があり、「412段」あることが示されている。そこから下り道が続く。下り道の歩行は足が棒になって膝が嗤う。上り以上に苦手とする人も少なくないが、私は苦にならない。スロージョギングで降ると膝が自ずと屈伸し、負担がかからない。38歳のジュンジュンは私についてこれなかった。村に至るまで休憩小屋が2~3ヶ所あって、1ヶ所で休憩した。「まだ40分はかかる」と言われうんざりしたが、ジュンジュンはお手上げ状態だった。サドルから1時間ばかり歩いて、ようやくバタッ村の看板を目にした。目の前に急峻な棚田がたしかにある(↑左)。しかし、棚田の範囲は狭いし、周辺にムラはみえなかった。
そこからまたしばらく歩いてようやく巨大な棚田と集落が眼前にあらわれた。ただし、そこもまた一種のサドルであり、休憩所が軒を連ねる眺望ポイントであった。いちばん奥の休憩所に腰を据え、棚田の景色を一望。これが「天国への階段(Steps to Heaven)」か。世界文化遺産「コルディレラの棚田」の最も代表的な景観をようやく探し当てたのだ。気分は爽快。店の女性が3人いて、声をかけてきた。端正な顔立ちをしている。
「今夜はここに泊まるんでしょ?」
「バナウエのホテルをとっているから、帰りますよ」
「いつまでバナウエにいるの?」
「明日マニラに戻らないといけないんだ。マニラには行ったことある?」
「えぇ、行くけど・・・マニラは好きではないの」
時刻は3時を過ぎている。時間が足りないことに気づくのが遅すぎたようだ。