先般、溜池山王駅構内にできた無人本屋「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」。日販が手がける無人書店ということで話題を呼び、新聞やWebのニュースでもよく取り上げられていましたね。
先日、仕事の用事で溜池山王乗換の用事があったので、これはいい機会と、訪ねきました。
公式サイトには「1分でトレンドがわかる無人本屋」「ニュースアプリのホーム画面のような空間」などとあありますが、さて、どんな感じでしょうか。
入店はLINEアプリを使った認証制。手続き自体は非常に簡単で、店頭に掲示されたQRコードを読み取り、LINEの友だち登録をするだけ。1、2分もあれば完了。ふだんLINEを使っている人なら迷うことはまずないでしょう。
店内は十数坪といったところでしょうか(後で調べたら、約15坪)。在庫点数は少なめで、什器のサイズ(高さ)も抑えめ。4面のうち2面がガラス張りなので、小さなスペースではあるものの圧迫感はありません。
ごちゃごちゃといろいろなものが並んでいるのが好みのタイプには物足りなく感じられるかもしれませんが、品数が多いと探せない、見せ方もシンプルなほうがいいというタイプにはちょうどいいのでしょう。
今回は仕事の移動のついででしたので、訪問したのは平日の日中(午後)。店内にはぼくのほかに20代とおぼしき女性が二人いました。平日日中だとこんなものなのでしょうか。行き帰りの通勤時間、とくに帰りの通勤時間以降の様子がどんなものなのか、ちょっと気になりました。
本や雑誌の並べ方に奇をてらったところはなく、面陳多用で整然と商品が並べられています。ふつうの書店なら、午後のこの時間ともなれば、それなりに商品や棚が乱れているところですが、店内の商品、棚の様子はきれいなものでした。オペレーション的に、途中で人の整理の手が入っている感じではないので、利用者が少ないからなのか、こういう店舗だとそもそも商品の並びも乱れにくいのか。
本は少なめだろうと事前に目にした記事などから想像はしていましたが、実際の店内は、想像よりもさらに本が少ない印象でした。肝心の品ぞろえはというと、単行本はビジネス書が中心で、これは当方には良し悪しや適否はよくわかりません。文芸やノンフィクションも少し。メイクなど女性を意識したとおぼしき本が並ぶ一角も。
コミックは映像化作品(『推しの子』とか『薬屋のひとりごと』とか)などが目立つ陳列で、それ以外は主要レーベルの新刊が中心。
文庫は低めの棚2段両面で、片方は新刊が面陳で並べられ、片方は既刊が背差しになっていました。著者の五十音順になっていて、レーベルもジャンルもばらばらですが、売れ線エンタメ中心かと思ったら、新潮文庫の川端康成が混じっていたりもします。
端のほうに、海外ものも少しだけ並んでいました。全部で10冊ほどで、ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ハヤカワ文庫SF)、デボラ・インストール『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(小学館文庫)、サン・テグジュペリ『星の王子さま』(レーベル失念)など。
雑誌も並んでいましたが、種類は少なく、すべて面陳になっていました。文具も少し置いてありました。
どのジャンルもかなり思い切って絞り込まれている感じで、最新刊ばかりというわけでもないので、どういう基準でセレクトされたものなのか、個人的にはちょっと気になりました。
セルフレジ機は2台並んでいました。新しいお店を訪問した際は、買い物をして、書皮があればそれをかけてもらったりするのですが、今回は買い物をせずに離脱。退店時も会員証をかざすシステムになっていました。店内の壁面、2面がガラス張りということもあり、什器のレイアウト的にも死角はなさそうで、防犯対策は問題なさそうでした。
「ほんたす」、ちょっと意地悪な書き方になってしまうかもしれませんが、まあ、こんなものかなあ、という印象でした。ものすごく期待していたわけではないので、特段がっかりはしませんでしたが、公式サイトがうたっているような「入りやすく、使いやすく、選びやすく、買いやすい」店で、「ストレスフリーでスマートな本屋体験」ができるのだとしたら、一本屋好きとして、ぜひそのようなすてきな体験をしてみたいものだと、皮肉でもなんでもなく、心から思っていたのですが、そこまでの満足感や発見感は得られませんでした。
でも、これは、ぼくがすれた本屋利用者だからなのかもしれません。店内のチェックを終えて店外に出るとテレビの取材の人がいて、感想を聞かせてもらえないかと声をかけられました。上につらつらと書いたようなことをしゃべっても良かったんですが、次の用事が迫っていたのと、テレビの取材ということで、仕事の移動時に顔出しでというのもどうかと思い、お断りしたのでした。
こちらは出版関係者で、しかも本屋についての本を出したり、こういうブログを書いたりしている身ですからね。そういう客ではなく、一般のお客さんがこういう店をどう思うのか、どう使うのか(あるいは使わないのか)は、ちょっと聞いてみたいなあ、などと思ったのでした。