今年はほんとに書店関連本の当たり年で、次から次に、広義の「本屋本」が刊行されています。「本屋本」に目がなく、片端から手にしてきた身にはうれしいんですが、あんまり続くと、買うのも読むのも大変で、いたしかゆしですね。最近の「本屋本」を、雑誌の特集も含め、いくつか紹介します。
- 室井まさね『漫画・うんちく書店』(メディアファクトリー新書)
- 伊達雅彦『傷だらけの店長 街の本屋24時』(新潮文庫)
- 内堀弘『古本の時間』(晶文社)
- 『kotoba コトバ』2013年秋号(No.13)(集英社)
- 古田一晴『名古屋とちくさ正文館 シリーズ名 出版人に聞く11』
- 広瀬洋一『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』(本の雑誌社)
- 山崎ナオコーラ『昼田とハッコウ』(講談社)
『漫画・うんちく書店』。新書で漫画でうんちく……書名・作りからして何やら妙な感じですが、こういう内容です。《青年が本屋で立ち読みをしていると、トレンチコートの男が声をかけてきた。「知っているか? その本に挟まれた二つ折りの紙の名を――」。これを皮切りに、男の薀蓄が怒涛のように炸裂。書店員の習性や業界用語、誰もが知る大型書店チェーンや本の街・神保町についてまで、蘊蓄紳士「雲竹雄三」が語り倒す、うんちくコミック第2弾!》。
読んでみると、まさに本と書店に関する「うんちく」だけで成り立っている、なんだか不思議な漫画でした。ほぼ100%、本好き本屋さん好き向けの本だろうと思いますが、「本好き本屋さん好き」に多く含まれる書店関係者は、ここに書かれているようなことには知っていることも多いだろうし、書店関係でなくてもコアな書店好きには言わずもがなっぽいこともけっこうある感じ。おもしろく読めはするけれど、いったいだれに向けた本なのか、読者対象がどうなのか、いろいろ気になる本でもありました。
『傷だらけの店長 街の本屋24時』は、親本刊行時に、書店に関心のある人たちの間で(いろいろな意味で)大変な話題になった1冊。文庫化にあたり、田口幹人さん(さわや書店)「そういう書店員にわたしはなりたい」、長谷川仁美さん(ブックエキスプレス)「わが輩は、小売である」、笈入建志さん(往来堂書店)「本屋という場所」の3編を巻末に収録。単行本を持っているので購入は見送りましたが、書店員さんたちの解説は読みたいです。
『古本の時間』については、いろいろふれたいことがありますので、稿を分けます。
『kotoba』の特集は「読書人のための京都」。目次には、豪華な執筆陣による、京都+本をキーワードにした文章がいくつも並んでいます。書店的におもしろそうなのは、グレゴリ青山さんの「京都個性派古書店案内」と付録の「読書人のための京都マップ」。後者は、《創刊3周年を記念する特別付録として、おすすめの書店、喫茶店、執筆者おすすめの「京都で居心地の良い場所」、文学スポットなどを掲載した》というもの。こちらのページで、地図の紙面が見られます。
『名古屋とちくさ正文館』は、『本屋図鑑』にも登場する名古屋の名店、ちくさ正文館の店長、古田さんのインタビュー本。《学生時代から映画の自主上映にかかわった著者は、1974年、ちくさ正文館にバイトで入社、78年社員。それ以後40年にわたり、文学好きな経営者のもと、〝名古屋に古田あり〟と謳われた名物店長となる》。
大好きなお店だし、古田さんも尊敬する書店人のお一人なので、喜んで手にとった1冊なんですが、内容については、ちょっと感想を申し上げにくい感じ。というのも、古田さんの書店人人生の話は大変に興味深いもので、そういう部分はおもしろく読めるのですが、今どきの書店のありようについては、ちょっと厳し過ぎるようなところがあるし、どうしても、昔は良かった的なところが目についてしまうし、本屋大賞や『本の雑誌』についても、ここまで書かなくてもなあ、というところがあったりもするし……。勉強にはなる本ですが、読後感的にはやや複雑な思いをさせられる1冊。現役の書店員さんの感想を聞いてみたくなる本です。
この7月には、沖縄の古本屋さんの本、『那覇の市場で古本屋』が出て、しばらく前の記事で紹介しましたが、今度は、空犬通信的にも縁の深い町、東京・西荻窪の古本屋さんの本が登場です。お店は、JR西荻窪駅から徒歩数分、バス通りを少しはずれた、住宅街のなかにある音羽館。この空犬通信でたびたびご案内している、空犬企画・主催のトークイベント、beco talkを開催しているブックカフェ、beco cafeのすぐそばでもあります。
↑こちらが音羽館。
同店について版元の案内には、《2000年にオープンした音羽館は、その後の大きな流れとなりました「ニューウェーブ古書店」の牽引役であり、いま20代、30代で古本屋さんをオープンさせようとしている若者達の憧れのお店》《何かに偏った品揃えでなく、誰が行っても居心地よく本を選べる、まさに「本屋」さんであり、穂村弘さんがおっしゃるとおり必ず「好きな棚」を見つけられるお店》とあります。
《『西荻窪の古本屋さん』では、その音羽館の店主・広瀬さんにどのようにしてお店を作ってきたのか、古本屋さんの日々の仕事について、そして西荻窪の街について語っていただきました》。中央線沿線在住の古本屋さん好きにはたまらない内容ですね。早速読んでみましたが、西荻窪の話、音羽館の話、(著者の広瀬さんがかつて勤務していた)高原書店をはじめとする、あちこちの古本屋さんの話、古本・古本屋に関わる人の話……この分野とエリアに興味のある身にはおもしろい話ばかりで、あっという間に読んでしまいました。
↑本は音羽館で購入しました。
最後の『昼田とハッコウ』は、山崎ナオコーラさんが初めて(で、良かったかな)手がけた書店小説。あらすじは、版元の内容紹介によれば、このような感じ。《彼らはここを選んだ──。家業の「アロワナ書店」で、三代目のハッコウと従兄弟の昼田がとりくむ「町の本屋さん」のお仕事。若者に人気の町・幸福寺にある本屋さん「アロワナ書店」。地域密着型のこの書店で、三代目・ハッコウは名前ばかりの店長となった。その頃、ハッコウのいとこの昼田は、六本木ヒルズのIT企業に勤めていた。店内でぶらぶらするだけのハッコウと、店から距離をおいて会社勤めをする昼田だったが、書店の危機に際し、二人でゆっくり立ち上がる》。帯の《それでも本屋は続いていく》がいい感じです。
↑写真は、BOOKSルーエの棚。発売前ですが、ご覧の通り、早くもPOPとペーパーが並んでいました。
↑『昼田とハッコウ』フリーペーパー。ルーエで作ったものではなく、版元作成のもの。往来堂書店の店長・笈入さんが稿を寄せているほか、作品の登場人物紹介や、山崎ナオコーラさんのインタビューなどが読めます。
この本に関して、山崎ナオコーラさんのツイッター(@naocolayamazaki)で、こんな呼びかけをしているのが、書店関係者の間で話題になっていました。
コルク(@corkagency)のツイートも引いておきます。《「『昼田とハッコウ』という書店小説を、9月24日に刊行致します。 東京ではないところにある書店さんで、トークイベントやフェアなどを開いてくださる方は、 いらっしゃいませんでしょうか? 」山崎ナオコーラさんからメッセージが届きました。nao-cola.cork.mu/news/1164/》
山崎ナオコーラさんの公式サイトにもご本人による案内が出ています。「トークイベントやフェアのために訪問させていただける書店を募集します。」(9/1 読んでくださるあなたが大好きです)。
作家さんが書店を訪問する機会は、ひと昔前に比べるとほんとうに増えました。首都圏ではめずらしいことではなくなっている感もあります。ただ、それはあくまで東京他、いくつかの大都市圏の話で、地元でない作家さんが、それ以外のエリアに足を運ぶのは、費用的にも時間的にも大変なことで、なかなか難しいでしょう。
今回、山崎さんは、交通費は自腹で、としています。書店を舞台にした作品の刊行に合わせた書店回りを、作家さんが自ら申し出て、しかも自腹で回ろうというこの取り組み。あちこちの書店で、作家さんと文芸担当のみなさんとのすてきな出会いや、トークやサイン会などのイベントなどが実現するといいですね。
この本関連では、こんなイベントもあるようです。下北沢の書店B&B(@book_and_beer)のツイートを引きます。《【10/19 SAT 】 山崎ナオコーラ× 笈入建志×村田沙耶香 〜本を出す理由、本を売る理由 〜 『昼田とハッコウ』 (講談社)刊行記念 bookandbeer.com/blog/event/201… 町の本屋さんが舞台の新作小説をめぐる、著者と本物の街の本屋さんと小説家のトークです!》
こちらも豪華な組合せで、気になりますね。
『昼田とハッコウ』、引用したツイートでは9/24とありますが、版元の案内によれば、9/27発売予定とのことです。