稲常の町並み(3)
民家アウトラインのスケッチ
10月17日(火)、2年次実習・演習Aによる連続立面図スケッチの1回目が行われました。連日雨天のなか奇跡のように晴天がひろがり、大型バスで稲常橋に。そこから先は大型車通行止めなので、橋を渡って稲常集落をめざします。河岸に板船4艘を発見。鮎の町の風情を漂わせています。そこから見通す集落の遠景が見事でした。
毎年恒例の連続立面図作成ですが、今年は私の卒論にも関わってくる稲常の町並みが対象です。稲常は「寅さんの風景」プロジェクトで墓地等のロケ地再現撮影をし、夏休み直前と先週にも予備的な調査をおこなった豪農村落です。先生は山の斜面に形成されたS(南)区が最も古い群落だと推定されています。暴れる千代川の洪水を回避するためには平野部でなく、標高の高い山際の傾斜面を選択しただろうという考えです。
S01榎
S(南)区の次に開発されたE(東)区、その次はW(西)区、最も新しく形成されたのがN(北)区だと今のところ考えています。今回は、先週アヤカメ&小次郎で作成した家屋番付地図と家屋一覧表を基に、2年生27名にスケッチを担当する建物を割り振りました。E区・S区・W区がスケッチの対象です。
稲常は中世にまで遡る拠点的な農村集落であり、羽柴秀吉の侵攻によって衰退したとも伝承されています。中世の武士もしくは豪農が拠点とする地として出発し、藩政期にあっても有力農民が面積の大きな田畑を領有していたものと思われます。そのため、一軒一軒がとても大きく、多くの学生はスケッチに苦戦していました。今回は1回目ということで、建物全体のアウトライン(外形)を描き切ることを目標に取り組みました。天候にもよりますが、次回はアウトラインを基に建物の細部をスケッチする予定です。
↑S区の小径
みひろ・きびたろう・私の3名は、先生達のアシスタントをしつつ、フォトスキャンの材料となる建物の多重撮影をおこないました。町並みを少しずつ移動しながら、1棟につき20~30枚の写真を撮影します。そのさい地元の方から、先週お邪魔させて頂いた辻の向かいに位置する民家(S01=E01)についてお話をうかがうことができました。その方が仰るには、この辺りで一番古くて大きいお宅がS01(=E01)だそうです。「お庭も素敵よ」と、ご近所でも有名です。先生が仰っていた通り、この民家が位置するS区が稲常の中で一番最初にできた町並みであると思います。
川六の石燈籠
辻には一際目を引く石燈籠が鎮座しています。燈籠は切石で造られた人工的石造物が一般的なイメージですが、庭石を積み上げたように自然石ばかりを使用しています。基礎が船形になっており、火袋をのせる横にひろがった台座が立石にのり、その上に笠石を置いています。同行したN教授(造園学)によると、気高の石灯籠や狛犬に同類の表現がみられ、幕末の石工「川六」尾崎六郎兵衛の作品ではないか、ということです。石工の川六については、以下のサイトをご参照ください。
http://yz-t.com/bunbun/kawaroku/kawaroku.html
燈籠背面には「嘉永壬子(みずのえね)七月吉日」の刻名があります。燈籠は嘉永5年(1852)7月の完成ですが、尾崎六郎兵衛の没年は元治2年(1865)12月であり、稲常の石燈籠が川六の作である可能性は十分あると思われます。
日中は天気が良く、日射しも暖かかったのですが、日が暮れ始めると一気に寒くなりました。先生曰く、「秋の日暮れのつるべ落とし」と言うらしいです。アウター類を持ってきていない学生もいたので、風邪を引かない為にも次回は準備することをお勧めします。私も完全防備で臨みます。寒い中、皆さんお疲れ様でした。(ぱでぃ)
↑辻の石燈籠 ↓辻は演習ミーティングの場所として最適