かつては夏冬の定番催事だったデパートでの古本市。デパート古本市がまたひとつ姿を消します。
- 「第29回 渋谷大古本市」(東急百貨店)

↑渋谷大古本市のポスターやチラシに使われてきた、古本好きにはおなじみのイラスト。もう目にすることはなくなるのかと思うとやはりさびしいものですね。


↑入り口の様子と会場内のレイアウト。
時節柄、外に出るのは、それも人混みに出るのは不安もありましたが、こればかりは次の機会に、というわけにはいきませんから、この連休に、のぞきに行ってきました。
会場内は、外出自粛ムードにもかかわらず、本好き客でにぎわっていました。新型肺炎騒ぎがなければ、もっとたくさんの人が集まっていたのかもしれないことを思うと、その意味では、同古本市の最終回としては、ちょっと気の毒なタイミングになってしまった感じです。
「渋谷大古本市」については、昨年夏の回の紹介記事で東急東横店の閉店に伴うものであることなどにふれましたので、ここでは繰り返しません。その記事に《大規模な古本催事を目にする最後の機会になるかもしれ》ないと書いたのですが、今回が最後とのことです。
ふだんはなかなか店舗を訪ねることのできないお店が出店していたり、多くの古書店の品揃えを一度に楽しむことができたり、古本市はやはりおまつり感があって楽しいものですよね。古書会館などで開催されているもの(玄人・強者が集うイメージが強いのでしょうか)に比べると、入場や買い物のハードルが低いのもデパート古本市のいいところでしょう。実際、デパート古本市の会場では、古本市目当てで来たわけではないお客さん、デパートに来たらなんだかなつかしい古い本をたくさん集めた催しものがあった、ならば寄ってみよう、という感じで立ち寄ったとおぼしきお客さんがけっこういます。古本マニアではない人たちにも古本の魅力を広げる、そんな役割もけっこうあったのではないかと思います。
かつて(といっても、もう十年二十年前の話になるわけですが)は、あちこちのデパートで開催されていた古本市。夏休み時期などは、複数の古本市をかけもちで回ることができた時代もあったのになあ。いまや、どれくらい残っているのでしょうか。
「日本の古本屋」の「古本まつりに行こう」を見ると、全国でいろいろな古本市が今でも開催されてはいるものの、古書会館でのものが多いようですね。都内だとデパートでのものは、都内だと松屋の「銀座松屋古書の市」くらいでしょうか。
デパート内の、けっこうな広さのある催事場を使って開催される催しものですから、当然それなりの集客や売上がないと成立しないでしょう。その意味では、もう役割を終えた、ということなんでしょうか。いまや、古本どころか、デパート内には書籍売り場自体がないというのが当たり前になっていますからね。それに、デパート業界の苦戦が伝えられて久しく、業界の調査資料などを見ても、マイナス成長が続いているようですし、先頃も元禄時代から続いてきたという山形の老舗が閉店などと報じられていましたし、開催側に余裕がないというのも大きいのでしょう。いずれにしても、さびしいものです。
デパート古本市のことを調べていたら、ひと昔前に自分で書いた記事が出てきました。こちら。2011年のものですので、なんだか、文章の感じが今と違っていて、読むに耐えないというかはずかしいというか……。まあ、こんな時代もあったということで。
さらにその前、2006年に書いた記事では、《都心デパートの古書市、はたしていつまで残るものやら》などと書いていますから、それを考えると、十数年後の2020年に「渋谷古本市」が開催されたこと自体、もう奇蹟といっていいレベルのことなのかもしれませんね。
規模的にはデパートの催事場を使ったデパート古本市に比べると小ぶりではあるけれど、中身が充実していて楽しい、調布と吉祥寺のパルコの古本市には、これからもがんばってほしいものだなあ。
というわけで。終了前日(会期は2020年2月25日まで)の記事になってしまいましたが、間に合いそうな方はぜひ最終日に駆けつけてみてはいかがでしょうか。
以下、最後の戦利品たちの一部です。

三月書房の函入り小型上製本のシリーズから、 内田清之助『鳥たち』(三月書房)。書名は知っていたのですが、なかなか出会えずにいたもの。著者は明治生まれの鳥類学者ですね。二部構成で、前半が野鳥に関する文章、後半がそれ以外となっています。

↑北宋社の「イメージの文学誌」全5巻の1冊、埴谷雄高監修『幻想飛行記』。このシリーズは知っていましたが、本書は初めて見る本です。「幻想」好き兼「飛行機」好きにはたまらない組合わせの書名ですね。というのもめずらしいか。中身は、飛行や空に関する作品を幅広く集めたもので、八雲、独歩、朔太郎、八木重吉、吉田一穂、基次郎、百鬼園、久作、足穂、安吾、乱歩、牧野信一他と、幻想好きの目を引かずにおかない、好みの名前がずらり。レアな本ではないでしょうが、こういうのに出会えるとうれしいものです。偶然にしてはできすぎなんですが、表1の装画(ダリの絵)、ツバメが描かれているのも野鳥好きにはうれしいところ。

↑成田亨『特撮美術』(フィルムアート社)。
追記(2/27):最後の古本市の様子を取り上げた記事がありました。
- 「東急東横店で「最後の」古本市 営業終了前の全館企画で、古書店18店」(2/26 シブヤ経済新聞)
昨年夏に開催された回にふれた記事で、それが最後かもとしていたのが、この2月にも開催されたのは、《全館イベント「85年分の東横総決算」の第3弾の一環。同イベントでは、東横店の「人気催事」を営業終了前に再び開催している》からだったんですね。《22年前に始まった大古本市は、一時年に2回開催していたが、会社員の男性の来場が多かったことから長期休暇時期に合わせ8月に行っていた》と、最後の回と過去の経緯についてもふれられています。