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2026-04-23

お伽草紙

太宰治


「あ、鳴つた。」

 と言つて、父はペンを置いて立ち上る。警報くらゐでは立ち上らぬのだが、高射砲が鳴り出すと、仕事をやめて、五歳の女の子に防空頭巾かぶせ、これを抱きかかへて防空壕にはひる。既に、母は二歳の男の子を背負つて壕の奥にうずくまつてゐる。

「近いやうだね。」

「ええ。どうも、この壕は窮屈で。」

「さうかね。」と父は不満さうに、「しかし、これくらゐで、ちやうどいいのだよ。あまり深いと生埋めの危険がある。」

「でも、もすこし広くしてもいいでせう。」

「うむ、まあ、さうだが、いまは土が凍つて固くなつてゐから掘るのが困難だ。そのうちに、」などあいまいな事を言つて、母をだまらせ、ラジオの防空情報に耳を澄ます

 母の苦情が一段落すると、こんどは、五歳の女の子が、もう壕から出ませう、と主張しはじめる。これをなだめる唯一の手段絵本だ。桃太郎、カチカチ山、舌切雀、瘤取り、浦島さんなど、父は子供に読んで聞かせる。

 この父は服装もまづしく、容貌も愚なるに似てゐるが、しかし、元来ただものでないのである物語創作するといふまことに奇異なる術を体得してゐる男なのだ

 ムカシ ムカシノオ話ヨ

 などと、間まの抜けたやうな妙な声で絵本を読んでやりながらも、その胸中には、またおのづから別個の物語が※(「酉+榲のつくり」、第3水準1-92-88)醸せられてゐるのである

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瘤取り

ムカシ ムカシノオ話ヨ

ミギノ ホホニ ジヤマツケナ

コブヲ モツテル オヂイサン

 このお爺さんは、四国阿波剣山のふもとに住んでゐたのである。(といふやうな気がするだけの事で、別に典拠があるわけではない。もともと、この瘤取りの話は、宇治拾遺物語から発してゐものらしいが、防空壕の中で、あれこれ原典を詮議する事は不可能である。この瘤取りの話に限らず、次に展開して見ようと思ふ浦島さんの話でも、まづ日本書紀にその事実がちやんと記載せられてゐるし、また万葉にも浦島を詠じた長歌があり、そのほか、丹後風土記やら本朝神仙伝などといふものに依つても、それらしいものが伝へられてゐるやうだし、また、つい最近於いては鴎外の戯曲があるし、逍遥などもこの物語舞曲にした事は無かつたかしら、とにかく、能楽歌舞伎芸者の手踊りに到るまで、この浦島さんの登場はおびただしい。私には、読んだ本をすぐ人にやつたり、また売り払つたりする癖があるので、蔵書といふやうなものは昔から持つた事が無い。それで、こんな時に、おぼろげな記憶をたよつて、むかし読んだ筈の本を捜しに歩かなければならぬはめに立ち到るのであるが、いまは、それもむづかしいだらう。私は、いま、壕の中にしやがんでゐるのである。さうして、私の膝の上には、一冊の絵本がひろげられてゐるだけなのである。私はいまは、物語の考証はあきらめて、ただ自分ひとりの空想を繰りひろげるにとどめなければならぬだらう。いや、かへつてそのはうが、活き活きして面白いお話が出来上るかも知れぬ。などと、負け惜しみに似たやうな自問自答をして、さて、その父なる奇妙の人物は、

ムカシ ムカシノオ話ヨ

 と壕の片隅に於いて絵本を読みながら、その絵本物語と全く別個の新しい物語を胸中に描き出す。)

 このお爺さんは、お酒を、とても好きなのである。酒飲みといふものは、その家庭に於いて、たいてい孤独ものである孤独から酒を飲むのか、酒を飲むから家の者たちにきらはれて自然孤独の形になるのか、それはおそらく、両の掌をぽんと撃ち合せていづれの掌が鳴つたかを決定しようとするやうな、キザな穿鑿に終るだけの事であらう。とにかく、このお爺さんは、家庭に在つては、つねに浮かぬ顔をしてゐるのである。と言つても、このお爺さんの家庭は、別に悪い家庭では無いのである。お婆さんは健在である。もはや七十歳ちかいけれども、このお婆さんは、腰もまがらず、眼許も涼しい。昔は、なかなかの美人であつたさうである若いから無口であつて、ただ、まじめに家事にいそしんでゐる。

「もう、春だねえ。桜が咲いた。」とお爺さんがはしやいでも、

「さうですか。」と興の無いやうな返辞をして、「ちよつと、どいて下さい。ここを、お掃除しまから。」と言ふ。

 お爺さんは浮かぬ顔になる。

 また、このお爺さんには息子がひとりあつて、もうすでに四十ちかくになつてゐるが、これがまた世に珍しいくらゐの品行方正、酒も飲まず煙草も吸はず、どころか、笑はず怒らず、よろこばず、ただ黙々と野良仕事、近所近辺の人々もこれを畏敬せざるはなく、阿波聖人の名が高く、妻をめとらず鬚を剃らず、ほとんど木石ではないかと疑はれるくらゐ、結局、このお爺さんの家庭は、実に立派な家庭、と言はざるを得ない種類のものであつた。

 けれども、お爺さんは、何だか浮かぬ気持である。さうして、家族の者たちに遠慮しながらも、どうしてもお酒を飲まざるを得ないやうな気持になるのであるしかし、うちで飲んでは、いつそう浮かぬ気持になるばかりであつた。お婆さんも、また息子の阿波聖人も、お爺さんがお酒を飲んだつて、別にそれを叱りはしない。お爺さんが、ちびちび晩酌をやつてゐる傍で、黙つてごはんを食べてゐる。

「時に、なんだね、」とお爺さんは少し酔つて来ると話相手が欲しくなり、つまらぬ事を言ひ出す。「いよいよ、春になつたね。燕も来た。」

 言はなくたつていい事である

 お婆さんも息子も、黙つてゐる。

「春宵一刻、価千金、か。」と、また、言はなくてもいい事を呟いてみる。

「ごちそうさまでござりました。」と阿波聖人は、ごはんをすまして、お膳に向ひうやうやしく一礼して立つ。

「そろそろ、私もごはんにしよう。」とお爺さんは、悲しげに盃を伏せる。

 うちでお酒を飲むと、たいていそんな工合ひである

アルヒ アサカラ ヨイテンキ

ヤマヘ ユキマス シバカリ

 このお爺さんの楽しみは、お天気のよい日、腰に一瓢をさげて、剣山にのぼり、たきぎを拾ひ集める事である。いい加減、たきぎ拾ひに疲れると、岩上に大あぐらをかき、えへん! と偉さうに咳ばらひを一つして、

「よい眺めぢやなう。」

 と言ひ、それから、おもむろに腰の瓢のお酒を飲む。実に、楽しさうな顔をしてゐる。うちにゐる時とは別人の観がある。ただ変らないのは、右の頬の大きい瘤くらゐのものである。この瘤は、いまから二十年ほど前、お爺さんが五十の坂を越した年の秋、右の頬がへんに暖くなつて、むずかゆく、そのうちに頬が少しづつふくらみ、撫でさすつてゐると、いよいよ大きくなつて、お爺さんは淋しさうに笑ひ、

「こりや、いい孫が出来た。」と言つたが、息子の聖人は頗るまじめに、

「頬から子供が生れる事はござりません。」と興覚めた事を言ひ、また、お婆さんも、

いのちにかかはるものではないでせうね。」と、にこりともせず一言、尋ねただけで、それ以上、その瘤に対して何の関心も示してくれない。かへつて、近所の人が、同情して、どういふわけでそんな瘤が出来たのでせうね、痛みませんか、さぞやジヤマツケでせうね、などとお見舞ひの言葉を述べる。しかし、お爺さんは、笑つてかぶりを振る。ジヤマツケどころか、お爺さんは、いまは、この瘤を本当に、自分可愛い孫のやうに思ひ、自分孤独を慰めてくれる唯一の相手として、朝起きて顔を洗ふ時にも、特別にていねいにこの瘤に清水をかけて洗ひ清めてゐるのであるけふのやうに、山でひとりで、お酒を飲んで御機嫌の時には、この瘤は殊にも、お爺さんに無くてかなはぬ恰好の話相手である。お爺さんは岩の上に大あぐらをかき、瓢のお酒を飲みながら、頬の瘤を撫で、

「なあに、こはい事なんか無いさ。遠慮には及びませぬて。人間すべからく酔ふべしぢや。まじめにも、程度がありますよ。阿波聖人とは恐れいる。お見それ申しましたよ。偉いんだつてねえ。」など、誰やらの悪口を瘤に囁き、さうして、えへん! と高く咳ばらひをするのである

ハカニ クラク ナリマシタ

カゼガ ゴウゴウ フイテキテ

メモ ザアザア フリマシタ

 春の夕立ちは、珍しい。しかし、剣山ほどの高い山に於いては、このやうな天候の異変も、しばしばあると思はなければなるまい。山は雨のために白く煙り、雉、山鳥があちこちから、ぱつぱつと飛び立つて矢のやうに早く、雨を避けようとして林の中に逃げ込む。お爺さんは、あわてず、にこにこして、

「この瘤が、雨に打たれてヒンヤリするのも悪くないわい。」

 と言ひ、なほもしばらく岩の上にあぐらをかいたまま、雨の景色を眺めてゐたが、雨はいよいよ強くなり、いつかうに止みさうにも見えないので、

「こりや、どうも、ヒンヤリしすぎて寒くなつた。」と言つて立ち上り、大きいくしやみを一つして、それから拾ひ集めた柴を背負ひ、こそこそと林の中に這入つて行く。林の中は、雨宿りの鳥獣で大混雑である

はい、ごめんよ。ちよつと、ごめんよ。」

 とお爺さんは、猿や兎や山鳩に、いちいち上機嫌で挨拶して林の奥に進み、山桜大木の根もとが広い虚うろになつてゐるのに潜り込んで、

「やあ、これはいい座敷だ。どうです、みなさんも、」と兎たちに呼びかけ、「この座敷には偉いお婆さんも聖人もゐませんから、どうか、遠慮なく、どうぞ。」などと、ひどくはしやいで、そのうちに、すうすう小さい鼾をかいて寝てしまつた。酒飲みといふものは酔つてつまらぬ事も言ふけれど、しかし、たいていは、このやうに罪の無いものである

ユフダチ ヤムノヲ マツウチニ

ツカレガ デタカ オヂイサン

イツカ グツスリ ネムリマ

オヤマハ ハレテ クモモナ

アカルイ ツキヨニ ナリマシタ

 この月は、春の下弦の月である。浅みどり、とでもいふのか、水のやうな空に、その月が浮び、林の中にも月影が、松葉のやうに一ぱいこぼれ落ちてゐる。しかし、お爺さんは、まだすやすや眠つてゐる。蝙蝠が、はたはたと木の虚うろから飛んで出た。お爺さんは、ふと眼をさまし、もう夜になつてゐるので驚き、

「これは、いけない。」

 と言ひ、すぐ眼の前に浮ぶのは、あのまじめなお婆さんの顔と、おごそかな聖人の顔で、ああ、これは、とんだ事になつた、あの人たちは未だ私を叱つた事は無いけれども、しかし、どうも、こんなにおそく帰つたのでは、どうも気まづい事になりさうだ、えい、お酒はもう無いか、と瓢を振れば、底に幽かにピチヤピチヤといふ音がする。

「あるわい。」と、にはかに勢ひづいて、一滴のこさず飲みほして、ほろりと酔ひ、「や、月が出てゐる。春宵一刻、――」などと、つまらぬ事を呟きながら木の虚うろから這ひ出ると、

オヤ ナンデセウ サワグコヱ

ミレバ フシギダ ユメデシヨカ

 といふ事になるのである

 見よ。林の奥の草原に、この世のものとも思へぬ不可思議光景が展開されてゐるのである。鬼、といふものは、どんなものだか、私は知らない。見た事が無いかである。幼少の頃から、その絵姿には、うんざりするくらゐたくさんお目にかかつて来たが、その実物に面接するの光栄には未だ浴してゐないのである。鬼にも、いろいろの種類があるらしい。××××鬼、××××鬼、などと憎むべきものを鬼と呼ぶところから見ても、これはとにかく醜悪性格を有する生き物らしいと思つてゐると、また一方に於いては、文壇鬼才何某先生の傑作、などといふ文句新聞新刊書案内欄に出てゐたりするので、まごついてしまふ。まさか、その何某先生が鬼のやうな醜悪の才能を持つてゐるといふ事実暴露し、以て世人に警告を発するつもりで、その案内欄に鬼才などといふ怪しむべき奇妙な言葉使用したのでもあるまい。甚だしきに到つては、文学の鬼、などといふ、ぶしつけな、ひどい言葉を何某先生に捧げたりしてゐて、これではいくら何でも、その何某先生も御立腹なさるだらうと思ふと、また、さうでもないらしく、その何某先生は、そんな失礼千万醜悪綽名をつけられても、まんざらでないらしく、御自身ひそかにその奇怪の称号を許容してゐるらしいといふ噂などを聞いて、迂愚の私は、いよいよ戸惑ふばかりである。あの、虎の皮のふんどしをした赤つらの、さうしてぶざいくな鉄の棒みたいなものを持つた鬼が、もろもろの芸術の神であるとは、どうしても私には考へられないのである鬼才だの、文学の鬼だのといふ難解な言葉は、あまり使用しないはうがいいのではあるまいか、とかねてから愚案してゐた次第であるが、しかし、それは私の見聞の狭い故であつて、鬼にも、いろいろの種類があるのかも知れない。このへんで、日本百科辞典でも、ちよつと覗いてみると、私もたちまち老幼婦女子の尊敬の的たる博学の士に一変して、(世の物識りといふものは、たいていそんなものである)しさいらしい顔をして、鬼に就いて縷々千万言を開陳できるのでもあらうが、生憎と私は壕の中にしやがんで、さうして膝の上には、子供絵本が一冊ひろげられてあるきりなのである。私は、ただこの絵本の絵に依つて、論断せざるを得ないのである

 見よ。林の奥の、やや広い草原に、異形の物が十数人、と言ふのか、十数匹と言ふのか、とにかく、まぎれもない虎の皮のふんどしをした、あの、赤い巨大の生き物が、円陣を作つて坐り、月下の宴のさいちゆうである

 お爺さん、はじめは、ぎよつとしたが、しかし、お酒飲みといふものは、お酒を飲んでゐない時には意気地が無くてからきし駄目でも、酔つてゐる時には、かへつて衆にすぐれて度胸のいいところなど、見せてくれるものである。お爺さんは、いまは、ほろ酔ひである。かの厳粛なるお婆さんをも、また品行方正の聖人をも、なに恐れんやといふやうなかなりの勇者になつてゐるのである。眼前の異様の風景に接して、腰を抜かすなどといふ醜態を示す事は無かつた。虚うろから出た四つ這ひの形のままで、前方の怪しい酒宴のさまを熟視し、

「気持よささうに、酔つてゐる。」とつぶやき、さうして何だか、胸の奥底から、妙なよろこばしさが湧いて出て来た。お酒飲みといふものは、よそのものたちが酔つてゐるのを見ても、一種のよろこばしさを覚えるものらしい。所謂利己主義者ではないのであらう。つまり隣家の仕合せに対して乾盃を挙げるといふやうな博愛心に似たものを持つてゐるのかも知れない。自分も酔ひたいが、隣人もまた、共に楽しく酔つてくれたら、そのよろこびは倍加するもののやうである。お爺さんだつて、知つてゐる。眼前の、その、人とも動物もつかぬ赤い巨大の生き物が、鬼といふおそろしい種族のものであるといふ事は、直覚してゐる。虎の皮のふんどし一つに依つても、それは間違ひの無い事だ。しかし、その鬼どもは、いま機嫌よく酔つてゐる。お爺さんも酔つてゐる。これは、どうしても、親和の感の起らざるを得ないところだ。お爺さんは、四つ這ひの形のままで、なほもよく月下の異様の酒宴を眺める。鬼、と言つても、この眼前の鬼どもは、××××鬼、××××鬼などの如く、佞悪の性質を有してゐ種族のものでは無く、顔こそ赤くおそろしげではあるが、ひどく陽気で無邪気な鬼のやうだ、とお爺さんは見てとつた。お爺さんのこの判定は、だいたいに於いて的中してゐた。つまり、この鬼どもは、剣山隠者とでも称すべき頗る温和な性格の鬼なのである地獄の鬼などとは、まるつきり種族が違つてゐるのである。だいいち、鉄棒などといふ物騒なものを持つてゐない。これすなはち、害心を有してゐない証拠と言つてよい。しかし、隠者とは言つても、かの竹林賢者たちのやうに、ありあまる知識をもてあまして、竹林に逃げ込んだといふやうなものでは無くて、この剣山隠者の心は甚だ愚である。仙といふ字は山の人と書かれてゐから、何でもかまはぬ、山の奥に住んでゐる人を仙人と称してよろしいといふ、ひどく簡明の学説を聞いた事があるけれども、かりにその学説に従ふなら、この剣山隠者たちも、その心いかに愚なりと雖も、仙の尊称を奏呈して然るべきものかも知れない。とにかく、いま月下の宴に打興じてゐるこの一群の赤く巨大の生き物は、鬼と呼ぶよりは、隠者または仙人呼称するはうが妥当のやうなしろものなのである。その心の愚なる事は既に言つたが、その酒宴の有様を見るに、ただ意味も無く奇声を発し、膝をたたいて大笑ひ、または立ち上つて矢鱈にはねまはり、または巨大のからだを丸くして円陣の端から端まで、ごろごろところがつて行き、それが踊りのつもりらしいのだから、その智能の程度は察するにあまりあり、芸の無い事おびただしい。この一事を以てしても、鬼才とか、文学の鬼とかい言葉は、まるで無意味ものだといふことを証明できるやうに思はれる。こんな愚かな芸無しどもが、もろもろの芸術の神であるとは、どうしても私には考へられないのである。お爺さんも、この低能の踊りには呆れた。ひとりでくすくす笑ひ、

「なんてまあ、下手な踊りだ。ひとつ、私の手踊りでも見せてあげませうかい。」とつぶやく

ヲドリノ スキナ オヂイサン

スグニ トビダシ ヲドツタラ

コブガ フラフラ ユレルノデ

トテモ ヲカシイ オモシロ

 お爺さんには、ほろ酔ひの勇気がある。なほその上、鬼どもに対し、親和の情を抱いてゐるのであるから、何の恐れるところもなく、円陣のまんなかに飛び込んで、お爺さんご自慢の阿波踊りを踊つて、

むすめ島田年寄りやかつらぢや

赤い襷に迷ふも無理やない

嫁も笠きて行かぬか来い来い

 とかい阿波俗謡をいい声で歌ふ。鬼ども、喜んだのなんの、キヤツキヤツケタケタと奇妙な声を発し、よだれやら涙やらを流して笑ひころげる。お爺さんは調子に乗つて、

大谷通れば石ばかり

笹山通れば笹ばかり

 とさらに一段と声をはり上げて歌ひつづけ、いよいよ軽妙に踊り抜く。

オニドモ タイソウ ヨロコン

ツキヨニヤ カナラズ ヤツテキテ

ヲドリ ヲドツテ ミセトクレ

ソノ ヤクソクノ オシルシ

ダイジナ モノヲ アヅカラウ

 と言ひ出し、鬼たち互ひにひそひそ小声で相談し合ひ、どうもあの頬ぺたの瘤はてかてか光つて、なみなみならぬ宝物のやうに見えるではないか、あれをあづかつて置いたら、きつとまたやつて来るに違ひない、と愚昧なる推量をして、矢庭に瘤をむしり取る。無智ではあるが、やはり永く山奥に住んでゐるおかげで、何か仙術みたいなものを覚え込んでゐたのかも知れない。何の造作も無く綺麗に瘤をむしり取つた。

 お爺さんは驚き、

「や、それは困ります。私の孫ですよ。」と言へば、鬼たち、得意さうにわつと歓声を挙げる。

アサデス ツユノ ヒカルミチ

コブヲ トラレタ オヂイサン

ツマラナサウニ ホホヲ ナデ

オヤマヲ オリテ ユキマシタ

 瘤は孤独のお爺さんにとつて、唯一の話相手だつたのだから、その瘤を取られて、お爺さんは少し淋しい。しかしまた、軽くなつた頬が朝風に撫でられるのも、悪い気持のものではない。結局まあ、損も得も無く、一長一短といふやうなところか、久しぶりで思ふぞんぶん歌つたり踊つたりしただけが得とく、といふ事になるかな? など、のんきな事を考へながら山を降りて来たら、途中で、野良へ出かける息子の聖人とばつたり出逢ふ。

「おはやうござります。」と聖人は、頬被りをとつて荘重に朝の挨拶をする。

「いやあ。」とお爺さんは、ただまごついてゐる。それだけで左右に別れる。お爺さんの瘤が一夜のうちに消失てゐるのを見てとつて、さすがの聖人も、内心すこしく驚いたのであるが、しかし、父母の容貌に就いてとやかくの批評がましい事を言ふのは、聖人の道にそむくと思ひ、気附かぬ振りして黙つて別れたのである

 家に帰るとお婆さんは、

「お帰りなさいまし。」と落ちついて言ひ、昨夜はどうしましたとか何とかいふ事はいつさい問はず、「おみおつけが冷たくなりまして、」と低くつぶやいて、お爺さんの朝食の支度をする。

「いや、冷たくてもいいさ。あたためるには及びませんよ。」とお爺さんは、やたらに遠慮して小さくかしこまり、朝食のお膳につく。お婆さんにお給仕されてごはんを食べながら、お爺さんは、昨夜の不思議出来事を知らせてやりたくて仕様が無い。しかし、お婆さんの儼然たる態度に圧倒されて、言葉が喉のあたりにひつからまつて何も言へない。うつむいて、わびしくごはんを食べてゐる。

「瘤が、しなびたやうですね。」お婆さんは、ぽつんと言つた。

「うむ。」もう何も言ひたくなかつた。

「破れて、水が出たのでせう。」とお婆さんは事も無げに言つて、澄ましてゐる。

「うむ。」

「また、水がたまつて腫れるんでせうね。」

「さうだらう。」

 結局、このお爺さんの一家於いて、瘤の事などは何の問題にもならなかつたわけである。ところが、このお爺さんの近所に、もうひとり、左の頬にジヤマツケな瘤を持つてるお爺さんがゐたのである。さうして、このお爺さんこそ、その左の頬の瘤を、本当に、ジヤマツケなものとして憎み、とかくこの瘤が私の出世のさまたげ、この瘤のため、私はどんなに人からあなどられ嘲笑せられて来た事か、と日に幾度か鏡を覗いて溜息を吐き、頬髯を長く伸ばしてその瘤を髯の中に埋没させて見えなくしてしまはうとたくらんだが、悲しい哉、瘤の頂きが白髯の四海波の間から初日出のやうにあざやかにあらはれ、かへつて天下の奇観を呈するやうになつたのである。もともとこのお爺さんの人品骨柄は、いやしく無い。体躯は堂々、鼻も大きく眼光も鋭い。言語動作は重々しく、思慮分別も十分の如くに見える。服装だつて、どうしてなかなか立派で、それに何やら学問もあるさうで、また、財産も、あのお酒飲みのお爺さんなどとは較べものにならぬくらゐどつさりあるかいふ話で、近所の人たちも皆このお爺さんに一目いちもく置いて、「旦那」あるいは「先生」などといふ尊称を奉り、何もかも結構、立派なお方ではあつたが、どうもその左の頬のジヤマツケな瘤のために、旦那は日夜、鬱々として楽しまない。このお爺さんのおかみさんは、ひどく若い。三十六歳である。そんなに Permalink | 記事への反応(0) | 18:24

2024-05-04

「虎に翼」を面白いと言ってる人って他にはどういう作品がが好きなの?

「虎に翼」を評価してる人って普段どういう作品を楽しんでいるの?

好きなドラマ映画漫画ゲーム演劇、なんでもいいから教えて欲しい。

なんでかって?

「虎に翼が好き」という感覚理解したいからだ。

私は虎に翼が面白いとは全く思えない。

正々堂々とハッキリ言っておくのがフェアだろう。

私が朝ご飯リビングで食べる時間母親が毎朝見いるから一緒に見せられているが、全然面白くない。

出勤日には食堂や休憩室のテレビで同僚と一緒に見ることもあるが、全然面白くない。

なんでこんなのを見せられなきゃいけないんだろうと思ってる。

正直、朝ドラは全部苦痛だ。

まらない。

虎に翼だけは特別面白いとも思えないし、それ以前にやっていた作品と差があるようにも思えない。

そして、虎に翼は正直言って他のドラマよりもある意味レベルが低いと思っている。

扱っている題材が単なる恋愛モノに留まっていない分、出来の悪さがより如実にやすくなっているように感じるからだ。

なんでこんなこんな作品評価されているのかが知りたすぎる。



「じゃあ逆に、虎の翼が好きじゃない人はどんな作品が好きなんだろう」と感じた人もいるだろう。

それに先に応えるのがフェアだろうから回答する。

国産ドラマなら「dele」「民王」「おいしい給食」が最近(もう結構古いな・・・)だと好きだった。

海外ドラマ場合は本当につい最近配信された「フォールアウト」を推したい。

小説だとミヒャエルエンデ、劉慈欣、恒川光太郎村上春樹といったファンタジー系の作家を好んでいる。

映画ならファンタジー作品だと「チャッピー」のようなSF人間は愚か、実話系でも「イミテーション・ゲーム」のようにサスペンス寄りなものが好きだな。

全体として、手間暇をかけて世界観空気感を構築する作品を好んでいるようだ。


さて、じゃあ私は「虎に翼」に対して丁寧な世界観空気感の構築を感じていないということなのではという仮説が立つな。

うん。そうなんだと思う。

「この時代はこんなにも男女不平等だったんですよ~~~~」と視聴者に語りかける時の説明台詞っぽさは本当になんとかならないのかと感じてしまう。

説明することにばかり意識が言っていて、その中に不自然さが溢れているんだよ。

まれから今日まで当たり前のように男女不平等世界に生きてきた人々であるという感覚そもそもないとういか、突然あの時代に転生してしまった現代人が必死にあの時代人間のふりをしているかのような語り口なのはなんとかならないのか。

脚本を作っている人たちの中に、男女の生き方についての「常識」が違ったという前提がすっぽり抜け落ちているようにさえ見えてくる。

「男(女)が~~~なのは当たり前でしょ?」という感覚の当たり前感が薄っぺらい。

劇中でそれをわざわざ再度強調する時の

「女~~~~!!!女ごときが~~~~~!女め~~~~!!!

「え?女だから駄目なんですか」

やれやれとんだ差別主義者がいたものだな」

「女ごときが~~~俺が間違っているというのか~~~~~」

法律ではこのようになってますな」

「それは法律が間違っているんです」

「女~~~~まだ言うか~~~~~~!!!!」

みたいな流れも見ていていい加減うんざりするというか、アレを作劇的に意味があるものだとして監督ディレクターOKを出している、というよりも後押しをしてより安っぽい作りにしようと頑張っているんだろうなということに程度の低さを感じて目眩がしてくる。

男女平等啓発のための30分程度の教育ビデオならともかく、30時間も尺があるドラマで「物語を通して薄っすらと見えてくる現代とは違う男女観」を浮かび上がらせることを放棄して、露骨でっち上げた憎まれ役に「女ごときが~~~~」と何度も言わせているのは稚拙と言わざるを得ない。

なぜ、こんなもの評価されているのか、私には本当に不思議でならないんだよなあ。





追記

皆さんの好きな作品

闇金ウシジマくん」「そこをなんとか」「少しだけ生き返る」

ドラマだと「白い巨塔」「PICU」「Nのために」

国産ドラマは「最愛」「vivant」、海外ドラマは「グッドファイト」「トッケビ」、アニメは「PSYCHO-PASS」、本は小説より宇宙物理が好き、映画ネイチャードキュメンタリーが好き。

朝ドラだと「あまちゃん」「ゲゲゲの女房」「エール大河だと「鎌倉殿の13人」「いだてん」「西郷どん」「真田丸」辺りが好き。

北村薫推理小説白石加代子の一人舞台劇「百物語」、柿本人麻呂長歌、スーシェのポアログールドバッハグルダモーツアルトジョージ・セルの「ハーリ・ヤーノシュ」。

漫画課金勢ワイ、この一年で見てるドラマは虎に翼だけ。こんな私が漫画で好きなのは、違国日記、君の心に火がついて、隠密お局、明日カノ、薬屋、町田くんの世界平和の国の島崎へ、繕い裁つ人、銀太郎さん等

同じくカーネーションが飛び抜けてるという感想だが今回のも秀作。光る君へ、鎌倉殿、拾われた男、エルピス、大豆田十和子、カルテット大奥nhk)、MIU404他野木脚本など

クールアニメ「ウィンドブレーカー」「転生貴族、鑑定スキルで成り上がる」見てる。/ 一番好きな漫画は「ワールドトリガー

鎌倉殿野木亜紀子と坂本裕二が好き…。ごめんね、ど定番で。。マンガ萩尾望都吉田秋生小説恩田陸村上春樹が好き

虎に翼みたいに、主人公ペラペラよく喋るドラマは掛け合い漫才みたいでわりと好き。逃げ恥とか、ミステリと言う勿れとか、大豆田とわ子とか。

なるほど、色々あるな。

虎に翼以外の朝ドラも見てる人が多くて、大河も見てる人が多いっぽいがそもそも視聴率が高めだからなんともだな。

大河だと鎌倉殿が人気っぽく見えるし、全体として味付けの濃いキャラがたくさん出てきてガヤガヤしてるタイプが好きって傾向が強そうに思える。

朝ドラ説明台詞は画面を注視せずに分かる作りで仕方ない

朝ドラ」というものそもそも分かってないみたいだね。

アレは映像がついてるけど基本的にはラジオなんだよ。

それも家事をやりながらでも聞けるようなラジオイメージしてる。

なるほど。そもそもの前提として適当に見るような作品として作られているのか。細かい機微表現することを最初から捨てているとああいった大雑把な演技・脚本になるんだなあ。

「男女の生き方についての「常識」が違ったという前提がすっぽり抜け落ちている」その常識に疑問を抱き戦った女性達の話なのでああなるのは作劇上必然。当時の常識に従い耐え忍ぶ話が見たいなら別の話をどうぞ

ちょっと話が噛み合ってないかな。前提としている常識の違いを台詞によって表現する際の微妙機微が出せていないという話なんだが。まあこれもそもそもながら見前提の大味演技のせいで削ぎ落とされてしまった部分ということなのかな。だとしても、それを出せない癖にこういった題材を扱うのはなんというか・・・失礼な気がするんだがな。

この人がちむどんどんをどう乗り越えたのかが気になる。

乗り越えられなかった。「ちむどんどんする!ちむどんどんする!」の声を聞きたくなくて別の場所で飯食ってたよその時期。

母親とか職場の人に聞けばいいのに

N=1とか2とかじゃなくて幅広く情報を集めたかったので。

なんとなく色々分かった気がするので増田で聞いて良かったと思う。

2022-03-25

最近読んだBLと非BLとがんばって読んだ耽美

海辺エトランゼ』(紀伊カンナ

あらすじ

 小説家志望の駿は、沖縄離島で親戚のおばさんの営む宿に間借りして住み三年になる。彼は、毎日独りで海を見つめている男子高校生が気になって仕方がない。男子高校生の実央(みお)は孤児で、いまはよその家に世話になっているというが、その家には帰りたくなくて海を眺めて時間を潰しているらしい。

 駿は実央に一目で惹かれてしまったのだが、実央は駿が自分憐れみの目でみないところに惹かれていた。

 だが、実央は本島の施設に移り、そのままほぼ音信が途絶えてしまった。ところが三年後、大人になった実央は駿のもとに帰ってきたのだった。

増田感想

 以前、続編の『春風のエトランゼ』を前提がよくわからないままなんのこっちゃと思いつつ読んだけど、こういう話だったのか。なるほどねー。

 『春風の―』を読んだ時にも思ったが実央が攻めで駿が受けなのが意外だ。でも、商業BLでは年下攻めというのは案外多いらしい。攻めが未成年場合はとくに。

 絵が隅々まで綺麗でいいけど、絵に誤魔化されている感があるというか、素敵なシーンばかり見せられている感があるというか。ゲイの苦悩葛藤がなんか取って着けたように見えて仕方がない……。実央の「ノンケだけど駿のこと好きになっちゃったから大丈夫!」っていう能天気さが、ファンタスティック過ぎて私は着いていけないのかもしれない。

 それに、北海道出身という設定の駿が家の為にゴリゴリに古風な祝言上げるところだったとか、元婚約者桜子さんの大正浪漫昭和レトロ中間的なお嬢様ぶりなところとかなー。北海道ってそんな旧態依然としたお土地柄なの? そうとは聞いたこと全くないのだが。結婚式は会費制くらいのことしか知らんけれども(そのさばさばした印象がつよいのか)。

 個人的にはあまりハマれないなこれ。絵は綺麗でかわいいけど。(だがむしろ作者は百合の方が描きたいのでは? というくらいに脇役がめたくそ百合百合していた。メインのBLが霞むくらいに。そこもハマれない原因のひとつかもしれない)

 今ならシーモアで丸々0円で読めるよ!


『鳩の栖』(長野まゆみ

概要

 短編集。男子中学生たちを主人公にした、耽美レトロ物語。ちなみに、『紺碧』と『紺一点』は単行本『紺極まる』に続いている。

増田感想

 長野まゆみ先生持ちネタが詰まっている。水琴窟とかバードベルとか義兄に恋しちゃう義弟とか。同じネタを使って毎度似ているようで違う話を作り出すのすごい。ストーリーの内容がどうとかいうよりも、物語バリエーション文章構成の素晴しさに感動してしまった。

『栗樹ーーカスタネア』の冒頭に、

瓜はめば子等思ほゆ栗はめば況して偲はゆ

と、山上憶良長歌の出だし部分が引用されているのを見て、『左近の桜』の『瓜喰めば』の章を思い出したので、再読してみた。↓

左近の桜』(長野まゆみ)の第5章『瓜喰めば』とついでに第4章『骨箱』を再読。

左近の桜』のあらすじ。

 主人公の桜蔵(さくら)は、男と男の忍び逢う宿〈左近〉の長男高校2年生。彼はゴシックな体質を持っている。というのは、彼はこの世ならざる者を拾い、交わることで相手成仏させてしまうようなのだ。そんな彼のことを、父の柾(まさき)や〈左近〉の常連客の浜尾は〈女〉と呼んでからかう。桜蔵は年上の女ともだちがいて男には一切興味がないので、〈女〉呼ばわりは不本意だと憤るのだった。

 これは桜蔵がこの世ならざる者達に引かれ、此岸彼岸の境目を彷徨う、妖しくで耽美短編連作集。

『瓜喰めば』のあらすじ。

 夏休み、父の柾に連れられて弟の千菊(ちあき)と共に池畔の別荘地にやって来た桜蔵。父との夏休み満喫する千菊。一方、桜蔵は柾に雇われ高額のバイト代目当てに雑用をこなす

 柾と千菊が出かけている間、バンガロー掃除に勤しむ桜蔵。彼の前に不器用西瓜を売り歩く男が現れて……。

増田感想

瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ 

いづくより来りしものそ目交にもとなかかりて安眠しなさぬ

銀も金も玉も何せむに優れる宝子にしかめやも

 山上憶良長歌とその返歌だ。

 章のタイトルにこの歌を冠した通りに、柾が息子を可愛がる話なのだが、ただし柾がかまう相手は実子の千菊ばかりだ。柾の実子ではない桜蔵は柾から息子を息子とも思わぬような扱いをされているが、桜蔵も柾とは血縁関係のないことをわきまえ雑用アルバイトに徹している。……という、そのわきまえっぷりが地の文に長々~と書かれているんだけど、これだけわきまえてますから! とばかりに書かれると、負け惜しみに読めるw 桜蔵が実際に弟にやきもちを焼いて当たったり父に文句を言うような場面は、シリーズ中に一度も出てこないのだが。

 桜蔵にとっては柾は単なる父親というよりは父性あるいは大人の男という概念が具現化したような存在であって、血の繋りがない事なんて大した問題ではないらしい。だが、血の繋りがないだけに、父性への憧れがなんかこう、恋心めいているように見える。

 この章でもまた、桜蔵はこの世ならざる者に魂を抜かれて危うく死にかけたが、彼は窮地を柾によって救われたのか、桜蔵の欲求がそんな幻覚を見せただけのかは曖昧だ。

「(死人に)喰われたくなかったら、蛙のふりでもしてろ」

 と桜蔵に言う柾。これは、

人来たら蛙となれよ冷やし瓜

 という、小林一茶俳句から引用。これを私は、さすが風流なことを言いますなぁ、くらいにしかずっと思っていなかったのだが、今回再読して思った。瓜にそんな事を言い聞かせるのって何故? →自分が食いたいからに決まってるじゃん。

誰かが来たら蛙のふりでもしてろ。あとで私が食ってやるからさ(^_-)

 え、そういう!? そういう意味だったのかぁーーー!?!?

 激しく萌え散らかした。(だが、送られた当の桜蔵がそういう意味で受け取りときめいたかキモがったか、あるいは意味わからんと首を傾げたかは謎のまま、物語は終わってしまった)

 後に、何章だったかで柾は選ぶ権利は〈男〉ではなく〈女〉にある(柾ほどの男でも〈女〉から選ばれなかったこともある)と言う場面が確かあった。選ぶ権利は〈女〉である桜蔵にあるからといって、俳句なぞ送ってアッピールしたろというのが柾の魂胆なのか、単に桜蔵をからかっただけなのかは不明だが、個人的には前者に賭けたい。

次はついでに読んだ第4章『骨箱』。

『骨箱』あらすじ。

 第3章にて謎の男の手により背中一面に蝶を転写されてしまった桜蔵だが、いまだに蝶を消すことが出来ないでいる。学期末となり秋の修学旅行費用を支払わなくてはならないので、桜蔵は背中の診察もかねて柾の診療所を訪れる。旅費を出すことを二つ返事で了承した柾が桜蔵に手渡したのは、現金ではなく〈骨箱〉という銘の徳利と手書き地図。柾は桜蔵に、〈骨箱〉を質屋〈八疋〉に売って金を工面しろと命じる。桜蔵は地図を頼りに〈八疋〉を探すが、たどり着いたのは「望月」と表札のある民家で……。

増田感想、というより反省

 この章に登場するチャラ男幽霊は桜生(さくらお)じゃないか。桜生かもしれないと思ってはいたが、かもしれないじゃなくて明らかに桜生だった。なんでそんな事も読み取れなかったの過去の私……。

 桜生とは、桜蔵の戸籍上の伯父であり、過去に柾と付き合っていた人でもある。『左近の桜』の続編『咲くや、この花 左近の桜』で初めて名前が登場する(その時は高校生時代容姿で桜蔵の目の前に現れる)。柾がちょっとひねくれた男を好んで愛人にしがちだということが他の章で書かれていたが、桜生もまたちょっと、いやかなり癖のある人物だ。後に、桜生に男を寝とられた〈女〉(生物学的には男性)が、桜生への報復として柾を寝とり返すというエピソードがあったりするくらい。

 桜生のもとへ桜蔵は柾から預かった「桜生の形見の品」を持って訪ねて行くことになったので、桜蔵は柾の差金で桜生と出会わされたと読んでもいいのだろうか。

 なんの為に桜生に会わなければならないのか? 単に修学旅行費を稼ぐためばかりじゃなくて、桜蔵の背中に転写された蝶を消してもらうためだろう。

 桜蔵が桜生のもとを訪ねたとき望月家の界隈では水神祭が催されていた。また、望月家の庭には水神井戸がある。『左近の桜』シリーズに登場する〈男〉と〈女〉が水神に関する何かだというのは『その花の名を知らず 左近の桜』で書かれていたので、水神祭の日に桜生が現れるのは偶々ではなさそう。

 ということに気づかず読み流していた私の読解力やばすぎ。もっと落ち着いて丁寧に本を読もう、と反省。これまでの人生で読んで来たその他の本も大いに誤読してたり理解してなかったりしそうだから、あとで再読してみようと思った。

 桜蔵は桜生と出会言葉を交わしてそれ以上のこともするが、桜生のほんとうの相手である柾は桜生を見ることも出来ないらしいというのが、切なくていい。

長野まゆみ偏愛耽美作品集』より『狐』(泉鏡花

概要

 浮気者若旦那とその新妻の両方を狐が美女美少年に化けてだます話。


増田感想

 泉鏡花文章って私にとっては古文範疇なのだが、古文というほどに現代語とかけ離れてはいないせいで現代語訳がないので、調べながら読むのが難しい。だからとても苦手。それで、『長野まゆみ偏愛耽美作品集』のページをめくる手は『狐』のとこで数週間止まっていたのだが、せっかく買ったものを積んでおくのもなんだから、頑張って読んださ。七ページしかなくてよかった。『海神別荘』みたいにくっそ長かったら辛かったから短くてよかった。

 ちなみに、『海神別荘』を辛い辛いおめきながら読んだのは、『シャングリラの鳥』(座裏屋蘭丸)のなかで語られるおとぎ話元ネタがそれだったから。あーなるほどと思った。

 『狐』に話を戻すけど、耽美からすごいというよりはオチ面白い話だった。




その他に『僕らの地球の歩き方』(ソライモネ)も読んだけど、これはあとで気が向いたら感想を書こう。Kindleプライム0円で読めるよ!

2020-08-02

おすすめマンガ一覧

anond:20200729213114

これが見にくいから読みでソートした。元増田のもトラバブコメも混ぜて作品名のみ。

iショウジョ

青のオーケストラ

青のフラッグ

アシガール

アオアシ

アクタージュ

アゴなしゲンと俺物語

あさひなぐ

亜人

ADAMAS(皆川亮二)

アニマル横町

アニメタ!

アリスと蔵六

淡島百景

暗殺教室

アンダーカレント

アンデッドアンラック

市場クロガネは稼ぎたい

嘘食い

うそつきリリィ

映像研には手を出すな!

ǝnígmǝ

衛府の七忍

大奥(よしながふみ)

王様達のヴァイキング

王様はロバ

推しの子

おはようサイコパス

開演のベルおやすみ

顔がこの世に向いてない

かぐや様は告らせたい

輝夜姫

学園アリス

かげきしょうじょ

彼氏彼女の事情

彼女カメラ彼女の季節

彼方のアストラ

累(かさね)

ガラスの仮面

かんかん橋を渡って

ガンバ!Fly high

キスアンドネバークライ

鬼滅の刃

奇面組

キャノン先生トばしすぎ

吸血鬼すぐ死ぬ

キングダム

薬屋のひとりごと

クズの本壊

海月姫

クレイモア

クロガネ

群青にサイレン

ケンガイ

絢爛たるグランドセーヌ

こいつら100%伝説

ここは今から倫理です

寿エンパイア

この音とまれ

殺し屋

ザ・ワールドイズマイン

斉木楠雄のΨ難

psyren

早乙女選手たかくす

坂道のアポロン

サマータイムレンダ

左門くんはサモナー

3インチ

三月ライオン

四月は君の嘘

シグルイ

7人のシェイクスピア

じみへん

灼熱カバディ

シャドーハウス

しゃにむにGo

じゃぱん

sugar

シュガシュガルーン

重版出来!

将太の寿司

ショコラの魔法

少年ノート

少年荒野をめざす

食戟のソーマ

神童

Switch

スキップローファー

スケットダンス

昴(曽田正人)

スパイファミリー

高校生

背筋をピンと

せんせいのお人形

先生の白い嘘

選択トキ

セントールの悩み

SOULCATCHER(S)

大正処女御伽話

タテの国

ダブル(野田彩子)

ダンスダンスダンスール

チェンソーマン

地球

父とヒゲゴリラと私

ちはやふる

長歌

罪と罰

帝一の國

でぃす×こみ

ディスコミュニケーション

10DANCE

東京喰種

ドクザクラ

Dr.STONE

土星マンション

トモちゃん女の子

ドラゴンボール

ドリキャン!!

ドリフターズ

ドロヘドロ

とんがり帽子アトリエ

忍者極道

ねぎマ!

ねじまきカギュー

のだめカンタービレ

ハイキュー

バクマン

バタフライストレージ

バットマンズ

バトゥーキ

はなにあらし

はねバド!

バラ色の聖戦

HUNTER×HUNTER

パンプキンシザーズ

ピアノの森

ヒカルの碁

左利きエレン

ひとりぼっちの地球侵略

メゴト 〜十九歳の制服

百万畳ラビリンス

百鬼夜行抄

ピンポン

ファイアパンチ

ファンタジウム

BEASTERS

プライド

ふらいんぐうぃっち

フラジャイル

BLACK LAGOON

ブラッドハーレーの馬車

BLUE GIANT

ブルーピリオド

辺境警備

辺獄のシュヴェスタ

ボウイング

ボールルームへようこそ

宝石の国

忘却バッテリー

僕とフリオと校庭で

僕の地球を守って

舞妓さんちのまかないさん

魔入りました!入間くん

魔喰のリース

まくむすび

マチネソワレ

魔法が使えなくても

繭、纏う

ミステリという勿れ

ムーンランド

蟲師

ムヒョとロージーの魔法律相談事務所

メイドインアビス

めだかボックス

毛沢東

ものの歩

モブサイコ100

やがて君になる

約束のネバーランド

UQホルダー

よつばと

弱虫ペダル

落語心中

ラジェーションハウス

ラフ(あだち充)

ラブデスター

ランウェイで笑って

landreaall

龍と苺

連弾ノオト

六道悪女たち

路地恋話

ワールドトリガー

惑星のさみだれ

私の少年

わたしは真悟

ワンダーラビットガール

ワンダンス

ワンピース

2020-07-29

マイナーかもしれんが教えてくれ 追追追追記しました

好きな漫画メジャーじゃなくてつらい

というかジャンルとか出版社?がバラバラすぎてどういうのが好きなのか自分でもわかってない

有識者、下のリストを参考に俺の好きそうな漫画を見繕ってください…(タイトルうろ覚えもあるのは許してくれ)

…尽きた

思い出したら追記する。有識者よろしくお願いしま

ここまで追記、ここからは「記事への反応」で教えていただいた作品リスト

作者さん推し

ある有識者兼同志の好きな作品

熱いオススメ文→anond:20200730215107

7月30日13時30分の追記

遅めの昼〜と思って開いたら「人気エントリ」に載っててビビった。作品まとめようと思ったけど昼休みでは終わらなさそうなので途中だが投げさせてくれ。マイナーじゃないという指摘はごめんとしか言えない。まとめの続きと他のコメントへの返信はまた夜にします。たくさんの意見が集まってて感謝しかないし、俺と似た趣味の人、正反対趣味の人の役に立てればと思います

同日18時の追記

とりあえずブックマークコメントから作品リスト追記した。他のコメントの返信はまだ待ってください。重複あったらごめん、消してるつもりだが正直チェックしきれてない。

同日21時の追記

ほとんどのブックマークコメントに返信できたはずです。皆さんありがとうございます。こんなに有識者が集まってくださるとは思いませんでした。土日とか引きこもってるんで少しずつ教えていただいた作品を読もうと思います本当にありがとうございました。よければまだまだコメントしてください。

有識者名簿

b:id:tomasoon b:id:Bioegg b:id:reachout b:id:masaq55 b:id:synopses b:id:ruka98 b:id:right_eye b:id:heyjoe0123 b:id:moocc b:id:tomatopasta b:id:auto_chan b:id:kudoku b:id:syakepa b:id:ifttt b:id:kk255 b:id:kagecage b:id:camellow b:id:Tailchaser b:id:kiwamaru100 b:id:soraboby b:id:yamadadadada2 b:id:mini3mini3 b:id:augsUK b:id:AKIMOTO b:id:fusionstar b:id:Zephyrosianus b:id:mame_3 b:id:hak2407 b:id:tukanpo-kazuki b:id:marumusu10 b:id:ippeichangg b:id:aox b:id:hirarino b:id:namisk b:id:odakaho b:id:vndn b:id:zataku b:id:kurotsuraherasagi b:id:kohgethu b:id:ayumun b:id:hocopi b:id:mobile_neko b:id:Dr_Shibaitaroka b:id:fncl b:id:ustam b:id:gabill b:id:x100jp b:id:molbolmol 

おすすめ作品

その他おすすめ

有識者名簿

b:id:mionhi b:id:takeox b:id:fusionstar b:id:odakaho b:id:makopan b:id:watarux b:id:sds-page b:id:hetarechiraura b:id:onesplat b:id:nomitori b:id:kitayama b:id:pyiec

ジャンル

作者さん

雑誌

漫画じゃない

布教

きじゃなさそう

曽田さんが好み分かれるみたいですね。これは面白そうなので早めに読んでみるわ。

その他返信

b:id:go_kuma b:id:mutinomuti b:id:memorystock

趣味が逆だからこそ、このリスト活用してほしい。合わない人はとことん合わないと思うし。

b:id:nmcli b:id:tomoP b:id:tobaritooth

同志さんはどうぞこのリストを参考にしてくれ!!俺は俺が好きな作品好きな人が増えるのは嬉しいタイプなんだ!!

b:id:soraboby b:id:bloominfeeling

今、あなたSOUL CATCHER(S)の話をしましたね!?!?読み切りからずっと好きなんだよあれ!!周りに好きな人が居ないんだが俺は好きすぎて定期的に読み返してるぞ!!「春よ、来い」を聴くたびに泣きそうになるし読み返したくなる作品だ!!俺は吹奏楽知らんし音楽とか楽器ピアノちょっとかじってたぐらいだが、そんなど素人でも楽しめるぞ!!なんてったって主人公吹奏楽素人からスタートするから!!!専門用語楽器などについては説明入ってるし、曲名も明記されてるから俺的には漫画見ながら作中に登場する曲を聞いてみるのをおすすめする!!b:id:bloominfeeling さんも良かったら読んでくれ!!!1話だけでいいか!!!ジャンププラスだと3話まで無料!マワシヨミジャンプなら3巻まで無料!!とくに1巻はレア度Cだからすぐ見つかる!!2巻と3巻もレア度Bだから探せば見つかる!!!買うなら全11巻だからお財布に優しい!!ジャンプラでレンタルするなら総話数90!!つまりコインに換算するとボーナスコインも使えるうえにたった2610コイン!!でもジャンプラは1日1回限り動画視聴でコイン30が消費無しになるのでそれだと読むのに約3ヶ月かかるが実質タダみたいなもんだよ!!!良かったらぜひ!俺はこれきっかけで地域吹奏楽コンクール行くようになったぞ!どうでもいいが俺は去年の「エイプリルリーフ」って曲が好き!!とにもかくにもよかったらSOULCATCHER(S)を読んで欲しい!読めばSOULCATCHER(S)という不思議タイトル意味もわかるから!!SOULCATCHER(S)をよろしくお願いしま!!!!!!

方法とかのコメ

b:id:yamapi33 b:id:auto_chan

そんなつもりはなかったが、結果としてツッコミつつも教えてくださる有識者方が集まってくださったので、これから意図的にそうしてみる。

「わざとツッコミどころや噛みつきやすい部分を用意すると有識者マイスター様が集まってくださり記事が伸びやすい」といったところか。

b:id:masayoshinym b:id:Baybridge b:id:TakamoriTarou b:id:lionsage b:id:yas-mal b:id:watarux b:id:morimori_68

b:id:ivory105 b:id:hatechan09 b:id:Silica b:id:watarux b:id:whirl b:id:mame_3 b:id:hirarino

受け付けない、こういうのは苦手、読んだけど合わなかった作品、何が好きかより何が嫌いか、嫌いな漫画

そういう情報があったほうがオススメやすいんだな、ありがとうからは気をつける

でも自分でわかってるのはグロは苦手、エロ恋愛ストーリー必要範囲だったら読めるけどそれメインだとあまり読まない、絵柄はあまりにも非現実的だと読みにくく感じる、ジャンル縛りは特にない…ぐらいなんだよな。アドバイスありがとう

b:id:fkatsya b:id:mujisoshina

趣味を狭めてるつもりはなくて、ただもっと自分の好きな作品が探しやすくなればいいなと思ったんだ。それに明確なジャンルとかあったほうが説明やすいから…。でもそうですね、ラベリングにこだわるのも良くないか。確かに絶対共通項があるわけじゃないし、俺は俺が好きだと思える作品を見つけ続けるようにする。ありがとう

俺が好きになりそうな傾向や要素

有識者名簿

b:id:nmcli b:id:fusionstarb:id:ippeichangg b:id:namisk b:id:odakaho b:id:kurotsuraherasagi b:id:kohgethu b:id:ayumun b:id:kitayama b:id:mobile_neko b:id:pptppc2 b:id:fncl b:id:wonfeipon b:id:x100jp

…わりと心当たりがある。確かに天才とか群像劇とかそういう話が多いかもしれない。指摘されて初めて気づいた。

ご指摘に関して

名簿

b:id:eriotto b:id:sys-cys b:id:hatechan09 b:id:fujifavoric b:id:totoronoki b:id:kamonyan1 b:id:iiko_1115 b:id:f84w1dqd60j

これはもう頭下げるしかない。メジャー/マイナー定義がしっかりできてなかったしあやふやな書き方をした俺が悪かった。今はもうアニメ観てないし、大賞とか売上情報とかそういうのをきっかけに読むタイプじゃないし、情報収集も疎かにしてるから知らなかったんだ。本当にごめんなさい。

個人的には b:id:pkoiri さんの

この漫とかの上位読みまくれば?メジャー作品が好きみたいですし

という皮肉コメが好き。心にダメージを受けた。ごめんなさい。

2018-11-24

長歌反歌みたいな増田

読みごたえのある長文増田に切れ味の鋭いトラバがついてたときなんか、

万葉集を見てるような気分になることがあるんだけど、

長歌反歌みたいな言い方って、増田にあるの?

2015-03-20

「帝」は「御門」にあらず―高畑勲天皇観を駁す

スタジオジブリかぐや姫の物語」のストーリー批判については既に玖足氏が記されているゆえ、ここにおいては多言はしない。

かぐや姫の物語 感想その二 高畑勲監督原作の良さを自己中心的に曲げたダメ映画

http://d.hatena.ne.jp/nuryouguda/20150316/1426441543

僕がここで記したいのは、高畑氏のあまりに32年テーゼに縛られたかの如き貧弱な反天皇である

例えば、高畑氏の擁護をするツイートまとめとして以下のようなものがある。

高畑勲かぐや姫の物語」についてのCDBさんのツイート

http://togetter.com/li/794657

この中でCDB氏は「帝の性暴力女性性の収奪」を描いたと言っている。しかしそれは高畑氏の平板な反天皇観をあげつらうことでしかない。

天皇は決して収奪暴力に結び付けられて語られる存在ではなかった。天皇もまた征旅に行くことはあったが、軍の最高司令官として赴くことはなかった(「我国の軍隊は世々天皇の統率し給う所にぞある」という軍人勅諭の出だしは山県閥の西周西洋歴史に準じた擬制に過ぎない)。例えば斉明天皇百済救援のために親征の途上、崩じられても軍はそのまま百済上陸している。天皇はむしろ巡狩(みそなはし、視察のこと)して各地を平定したのであり、軍隊中大兄皇子武内宿禰のような皇子臣下に統率されて敵を討ったのである天皇が自ら軍を指揮することは東洋古制の兵学から見ても邪道であった。東洋において軍の戦略を決定する軍師軍司令官の任免もできるゆえに、天皇がそのような地位に就かれることはあり得ないのである

では天皇とは何であるか。それは何よりも「社稷を祀る」存在である。具体的にいえば、五穀の豊穣を祈り天照大御神が宣らされた「斎庭の神勅」を奉じることであった。それゆえ自らは何も所有されないのが天皇原則であった(詳しくは保田與重郎の『述史新論』『鳥見ひかり』『方聞記』などを参照せよ)。作中で「御門」は支那趣味侮蔑意味を込めて使うのではない)の俗な人物として描かれているが、これなぞは共産党仕込みの「収奪する権力者」の図式に無理やり天皇をあてはめたものに過ぎない。何も所有されない天皇からこそ、天神地祇を祀り権力者を束ね日本を統らすことができるのである権力といえば外交権を一手に握った大宰府の方がよほど強く、「遠の朝廷」と呼ばれたほどだった。聖武天皇大宰府へ下る節度使たちに下された御製の長歌の冒頭「食す国の 遠の朝廷に 汝らが かく罷りなば 平らけく 我は遊ばむ 手抱きて 我はいまさむ」は権力や所有とはほど遠い天皇本来のあり方を示している。

明らかに反差別思想を有しているだろう高畑氏が「御門」の顔をわざと崩してかぐや姫生理的嫌悪感を催させ、それが月からの使者が来る原因となっているのも氏の醜悪な思想垣間見える。氏は容姿差別は良くて身分差別は悪とでも思っているのだろうか。先に述べたように、天皇は五穀の豊穣を祈る点で国民とつながっていたし、今もなおつながっている。明治大帝は「子等はみな 軍のにはにいではてて 翁やひとり 山田もるらむ」と詠まれているし、昭和帝と香淳皇后戦後まもなくの国内行幸啓されて国民暮らしぶりをみそなわした。今上陛下東日本大震災津波を被った田を心配されたのも記憶に新しい。天皇は宮闕の奥深くに居ましても農土を、漁場を、金山を離れてはいないのである高畑氏の浅薄思想はこの国史上の事実にどう応えるのか。

 
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