扶桑社ミステリー、ですか。まったくのチェック対象外、でした。吉っ読仲間のAさんに教えられた1冊です。
- ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ 『ボルヘスと不死のオランウータン』(扶桑社ミステリー)
タイトルを見てわかる人にはすぐわかるでしょうが、このオランウータン云々はもちろんポーの「モルグ街」。作中人物としてボルヘス本人が登場、ポーの研究家たちが集う会で起きた事件について、作中人物たちが、ポー、ラヴクラフト、カバラ、神秘学、暗号、その他について、衒学的な会話を交わしまくるという、ブンガク趣味の濃厚なミステリーです。
たしかに語られている中身はこむずかしいんですが、行アキが多くて組がゆるく、全体で180頁ほどと少なめなので、このノリが苦手な人はともかく、この世界になじめる読者ならあっというまに読めるでしょう。
Aさんから本の存在を教えてもらったときには、いったい、どんなトンデモ本だろうと、そうとう斜に構えて読み始めたんですが、中身はけっこうまともです。少なくとも、ボルヘス、ポー、ラヴクラフトを多少読んでいて、こういうメタミステリ的な構造が嫌いでなければ、そこそこ楽しめるのではないかと思います。
それにしても。これが扶桑社ミステリー、ですか。ぼくはBorgesianなのでつるりと読めましたが、これ、いったい、どんな読者を想定したものなんでしょうか。別に扶桑社ミステリーのことを悪く言うつもりはなく、それどころか、探偵小説好きとしては、「昭和ミステリ秘宝」シリーズで、香山滋や朝山蜻一を出してくれたときには、なんと大胆なことをしてくれるのかと、大いに喜んだ1人ですから、その意味で、器としての扶桑社ミステリーにはそれなりに敬意をはらっているつもりなんですが、だからこそ、なぜこの作品が、という気はします。
これだけ濃厚な衒学趣味に彩られたミステリですから、けっ、と思う人もそれなりにいることでしょう。その意味では、どうなんでしょうね、ラインナップを見る限り、扶桑社ミステリーの読者層に合致した作品とは思いにくい気もするのですが……。