久しぶりに映画の話題です。「エロチック乱歩」と題された、乱歩者必見の映画2本が渋谷で上映中です。
- 『人間椅子』(監督:佐藤圭作)
- 『屋根裏の散歩者』(監督:三原光尋)


公式サイトはこちら。上映館は、シアターN渋谷、上映期間は、『人間椅子』が7/14(土)~7/20(金)、『屋根裏』が7/21(土)~7/27(金)。週替わりでレイトショーのみと、作品を観るチャンスは非常に限られています。乱歩者は全速力で渋谷にかけつけてください。
以下、感想をごく簡単に記します。ほめる、持ち上げるが原則の本ブログですが、敬愛する乱歩の関連作品ゆえ、評価も少し厳しめということで、多少辛口のコメントが含まれます。また、内容の一部にふれていますので、これからご覧になる予定の方は、続きはお読みにならないでください。
正直な感想を言うと、2本とも期待はずれでした。「エロチック乱歩」と題されている割に、2本とも乱歩的なエロスが決定的に欠けている気がしたのです。いろいろ原因はあるでしょうが、大きくは主演女優の問題でしょう。
『人間椅子』の2人、宮地真緒(文芸誌の編集者役)、小沢真珠(作家役)、『屋根裏』の嘉門洋子(美術誌の編集者役)、いずれも美醜がどうとか、こちらの好みの問題がどうという以前に、乱歩映画の主演は荷が重い感じです。小沢真珠は観る人によっては合格点かもしれませんが、宮地真緒なんてどう考えても「乱歩的」かどうか以前の問題、雰囲気も色気もまったくなく、画面で浮きまくっています。
嘉門洋子も、ルックスが乱歩的でないだけでなく、それ以上に、声がダメです。声、とくに叫び声が汚くて、スクリーミングクイーンには不向きとしかいいようがありません。
その嘉門が、寝ている間に、屋根裏からロウソクをたらされ、身もだえするというシーンがあるのですが、そのイメージシーンの嘉門の姿が、全裸で、胸や股間が花びらで覆われているというもの。ロウソク、全裸に花びら姿で身もだえ、って……あまりにも短絡的なイメージではありませんか。はっきり言って失笑ものでしょう。これが乱歩のエロスだと作り手が考えたのだとしたら、あまりにも乱歩の世界への理解と愛情が欠けていると言わざるを得ません。それに、このような安易なシーンに、「これぞ“エロチック乱歩”だ」だなどと、観客が満足するのだと作り手が考えたのだとしたら、乱歩ファンをなめているのだとしか思えません。
どちらも、物語自体は現代に置き換えても十分におもしろいものなりうるものなだけに、とても残念でした。辛口コメントのようなものはこのブログではしたくないのですが、愛する乱歩の映画化ということで、ちょっときびしい評価をさせていただきました。
ところで、2作とも、本の世界に関係のある設定になっていました。上に書いた通り、『人間椅子』の主演女優2人は文芸誌の編集者と女流作家、これに板尾の編集長がからみます。作中、出版社の社内の様子が何度か映るのですが、中央公論新社の社屋が使われたようです。最後に作家のサイン会の場面があるのですが、ジュンク堂書店池袋本店の1Fのようでした。『屋根裏』のほうは、出版社や書店など具体的なものは出てきませんが、やはりこちらも編集者が主人公でした。作品の出来や個人の感想とは別に、本と書店の世界のトリビアのような点では興味深く観ることができたことを付け加えておきます。