テーマ・内容的にはどんぴしゃなのですが、ちょっと値が張るので、迷っていたのを、えいやと買ってしまいました。
- 垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』(国書刊行会)

同趣向の『英国怪談珠玉集』に続く1冊と言っていいでしょうか。2018年刊の『珠玉』もそうでしたが、今回も、このジャンルの愛読者には、このような本が刊行されること自体がうれしい驚きですよね。本が売れないなどとされる、とくに翻訳ものには厳しいとされるこのご時世に、こんな美しい函入本を出してくるからなあ。いやはや。
内容紹介を引きます。《ドイツが生んだ怪奇・幻想・恐怖・耽美・諧謔・綺想文学の、いまだ知られざる傑作・怪作・奇作18編を収録。《人形》《分身》《閉ざされた城にて》《悪魔の発明》《天国への階段》《妖人奇人館》……6つの不可思議な匣が構成する空前にして絶後の大アンソロジー。ほとんど全編が本邦初訳!!》
幻想好きは章立てだけでわくわくさせられることでしょう。収録作品などの詳細は版元の内容紹介ページを。
これで、手元に国書刊行会の怪奇系アンソロジーが3冊そろいました。となると、この3冊、やはり並べたくなるんですよね。
- 南條竹則編訳『英国怪談珠玉集』(国書刊行会)
- 種村季弘訳『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)

前者は《英国怪談の第一人者が半世紀に近い歳月を掛けて選び抜いた、イギリス怪奇幻想恐怖小説の決定版精華集。26人におよぶ作家の作品32編を一堂に集める》、後者は《吸血鬼小説からブラックユーモア文学、ナンセンス詩まで、種村季弘が遺した翻訳の中から、単行本未収録を中心にした小説・戯曲・詩を集大成》という1冊。
いずれもA5判函入の上製本。書店の棚に並んでいるときもそうですが、個人宅の本棚に収めてみると、この3冊、本棚での存在感が書店の棚にあったとき以上に半端でないんですよね。サイズの問題だけではなく、本が醸し出すオーラの違いというかなんというか。
『種村』だけが角背で、『骨董』『珠玉』は丸背。装丁は『種村』が間村俊一さんで、『骨董』『珠玉』の2冊は柳川貴代さん。函のデザインもいいのですが、本体がこれまた美しい。とくに、柳川貴代さんが装丁を手がけた『骨董』『珠玉』の2冊は本当にすばらしいので、ぜひ函から出し、パラフィンをとって、本の見た目や質感を含めてじっくり愛でたいものです。
柳川貴代さんといえば、我々のような怪奇・幻想好きが愛する作品群を、そのような形でしかありえないと感じさせる、ふさわしい器に毎回奇跡のように収めてくれる、ただの装丁家というよりは、魔術師に近いとでも言うべき存在でしょう(大げさではなく、ほんとにそのように思っています)。
そんな装丁の魔術師のインタビューが雑誌に掲載されています。
- 『ミステリーズ!』96号(東京創元社)
特集は「怪奇・幻想小説の新しい地平 幻想短編の共演」で、全体の3分の一におよぶ70ページの大特集になっています。
この手の特集は、短篇があり、作品ガイド的な記事があり、実作者・翻訳者などのインタビューがあり、というのが定番ですが、今回の特集でうれしいのは、柳川貴代さんのインタビュー「怪奇・幻想小説の装丁を語る」が掲載されていること。
怪奇・幻想などの関連特集雑誌は目につくと手にとるようにしていますから、それなりに読んできたほうだと思いますが、装丁家・デザイナーのインタビューが掲載されたケースは、(ちゃんと調べたわけではありませんのであくまで印象ですが)あまりないのではないでしょうか。というか、このジャンルの装丁家といえばこの人、という存在が、これまでにいなかった、ということなのかもしれません。

↑購入以来、寝る前に少しずつ読むのが毎晩の楽しみになっている、この美しい本、皆川博子『彗星図書館』(講談社)も柳川貴代さんの装丁です。
余談。書名を見るに、訳者(もしくは担当編集者?)の頭には、やはりこれがイメージにあったのかな。
- ジェネシス『怪奇骨董音楽箱』

ひと昔前の邦題のセンス、ですよね。それが、ジャケットのアートワークとあいまって、実にいい味を出している例。いいなあ。好きだなあ。中身も含めてお気に入りの1枚です。原題は『Nursery Cryme』。ぼくはアナログ盤で所有しています。