しばらく前の記事で紹介した絵本のガイドムック『子どもと読みたい絵本200』で、子どもの本を扱っているお店のセレクトと紹介記事の執筆の一部を担当させていただきました。
いくつかのお店については、取材も自分で担当しましたので、お店を訪問して店主の方からくわしいお話をうかがったり、店内の撮影をさせてもらったりしたのですが、ムックでは紙面の制約もあり、見聞きしたことを充分には書けず、写真も使えませんでした。そのままにしておくのはもったいないので、取材したお店の一部を何回かに分けて写真入りで紹介したいと思います。(写真は基本的には自分で撮影したものですが、一部、お店の方に提供していただいたものがあります。取材した内容と写真をblogにアップするにあたり、洋泉社とお店の両方に許可を得ています。)
3回目の今回は千葉の会留府。「えるふ」と読みます。店主の阿部さんにお話をうかがいました。(店内写真はすべてお店の方に断って撮影したものです。写真は2月中旬の様子で、お店の様子は変わっている場合があります。写真に一般の方が写っていますが、撮影時にblogで使うことを伝え、許可をいただいたものです。子どもたちの様子をお見せしたいので、いつもよりも写真が多めです。似たようなカットがたくさんありますが、ご了承ください。)

店主の阿部裕子さんが「ホビットの巣穴のような小さな店」(お店のブログより)だという会留府は、千葉県千葉市にある子どもの本の専門店です。お店の名前は、阿部さんが大好きな『指輪物語』からつけたもの。最寄り駅はJR外房線の本千葉駅または千葉都市モノレールの県庁前駅で、そこから歩いて少しの住宅街のなかにあります。千葉駅からバスも出ているそうです。


それほど大きくはない店内には、内外の絵本、読み物がぎっしりと並んでいます。店内中央には大きめの台が置かれ、そちらには新刊やおすすめの本が、平積みになっています。
まずは、店内を写真でご覧いただきましょう。















棚のあちこちにぬいぐるみや手作りの雑貨などが置かれていますが、それらは売り物ではありません。児童書専門店には雑貨・おもちゃを扱うところも多いので、むしろめずらしいぐらいかもしれません。さらにいうと、同店にはカフェサービスももなし。「本だけでやっているのは、うちぐらいになっちゃたわね」と、店主、阿部さんは笑いながら話してくれました。










取材時、ちょうど県内の大学生が小学生を連れて地元の商店を訪問するという「ウォークラリー」をしているところに居合わせました。子どもたちはお店で好きな本を選び、お店の人からシールをもらい、最後はその本と一緒に記念撮影をするという趣向のものだそうです。






「ああ、これ、なつかしい!」、店内の棚を見て回っている子どもたちや大学生からそんな声が聞こえてきます。阿部さんは、子どもたちや引率の大学生の口から、本の名前や作者名が出るたびに、すぐさま、本のところに案内しています。子どもに年齢・学年や、最近読んだ本を尋ね、その子の好みをさりげなく聞き出しては、これなんかどう?、これもおもしろいわよ、これも*年生には人気があるわよ、と次々に本をすすめています。考え込んだり調べたりする間がまったくない。自店の棚に並ぶ本が、すべて頭に入っているし、目の前の子どもの年齢や雰囲気を見れば、すぐに頭の中のストッカーからおすすめの本が魔法のように飛び出してくる。すごい。






お店を訪問していた小学生のなかに、一人、よく絵本のことを知っている子がいました。親御さんも本好きなのでしょう、家に絵本がたくさんあるといい、話を聞いていると、本好きのお母さんの影響なのか、絵本をよく読み、また読んでもらって育ったのであろうことが伝わってきます。子どものころ(といっても、その子自身、まだ小学生の中学年ぐらいですが)に読んだなつかしい本の話は次々に出てくるのですが、阿部さんに「最近は何を読んだの?」と聞かれると、それがぱたりと止まってしまいます。最近はあまり読めていないのだそうです。
「おもしろいのが見つからないの?」
「ううん……だって、忙しいから……」。






週に4日も5日も塾に通っているんですね。いかな本好きの子であれ、それでは、ゆっくり本を読む時間はとれないでしょうし、そもそも、新しい本との出会いもないでしょう。本屋さんを支えてくれるはずの未来の本好きの芽が、そんなこと(学業ですから「そんなこと」などと言ってはいけないのかもしれませんが)で摘み取られてしまうとしたら、なんだか惜しいことだなあと思ってしまいます。






それはともかく。子どもたちが棚に手を伸ばしたり、本を取り出したり、ページに吸い込まれそうな勢いで、顔をくっつけて一心に読み込んでいたりする様子はやはりいいものです。お店を取材させていただく機会があっても、ふつうは、お客さんが写り込まないよう、細心の注意をはらって、そういういい場面を避けて撮ることになるのですが、今回は、最初にOKをもらっていたので、すてきな場面をたくさん目にし、また写真に撮らせてもらうことができました。見ているだけで幸せな気分になれる光景でした。本屋さんというのは、本来、子どもたちと本の距離がこれぐらい近い場所なんですよね。

↑最後は、それぞれ気になる本を手にみんなで記念撮影。
ちなみに、お店のすぐそばには千葉県立中央図書館があります。この距離なら、選書やイベントなど、いろいろと連携なども可能なのかな、と思ったのですが、なかなかそうもいかないようです。阿部さんからは、図書館の問題や新刊流通の問題についていろいろお話をうかがったのですが、ここではふれず、それについてはまた別のかたちで取り上げたいと思います。
東京西部エリア在住者にはちょっと遠いので、気軽に寄れないのが残念ですが、近くにあったら、独りで、親子で、頻繁に通うことになっていたはずです。まだ訪ねたことがない方は、ぜひ本千葉まで足をのばしてみてください。きっと楽しい時間を過ごせるはずですから。そして、お店を訪ねたら、ぜひ店主の阿部さんに話しかけてみてくださいね。

↑会留府で発行しているペーパー「えるふ通信」。


↑会留府では勉強会などのイベントにも力を入れています。

↑「本屋さんを取材するたびに本を買ってたら、大変じゃないの(笑)」と、阿部さんに心配されました(笑)。でも、買います。