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空犬通信

本・本屋好きが、買った本、読んだ本、気になる本・本屋さんを紹介するサイトです。

川本文庫を読むと、東京散歩がしたくなる

このところ、2冊の東京本を持ち歩いています。


  • 小林信彦『昭和の東京 平成の東京』(ちくま文庫)
  • 川本三郎『東京の空の下、今日も町歩き』(ちくま文庫)


2人とも複数の東京本の著書があり、うち複数がちくま文庫に収められているという共通点があるのですが、本の中身のほうは、同じ東京本でもずいぶんテイストが異なります。



小林のほうは、言わば小言爺のような書きっぷり。東京の街なみを節操のないものにしてしまった(小林は「町殺し」という言葉を使っています)お役所や田舎者、べらんめえ調を東京弁だと思いこんでいる輩、その東京弁や下町情緒など「東京」に勝手なイメージを作り上げてしまうマスコミなどなど……こうしたものものに小林は大変きびしい。昔の東京を知る、東京ネイティブとしては当然なのかもしれないのですが、余所から来た若造が読むとちょっと厳しすぎる気がすることもしばしばです。


この本は、ぼくのような「田舎者」が知らない東京の面を見せてくれるし、いろいろと勉強にもなるし、そういう意味で東京本としてはいいのですが、どうも読後感は楽しいとは言いにくい感じです。なんだか、自分たちがいま歩いている東京が、「お役所」や「マスコミ」や「田舎者」たちによってしっちゃかめっちゃかにされたハリボテの街みたいな気がしてくるのです。この3悪のうち2つに該当し、現在の東京にもこれはこれでいいところもあると、それなりの愛着を持っている当方のような読者は、手放しでおもしろい本だと認めにくい感じがします。


同じ東京の今を書かせても、川本本はまったく違う印象。町歩きをしながら、川本さんは、昔の面影が残る路地、商店街を抜けた先に飛び込んでくる川のある風景、都電や東武線から見える風景、商店街にある庶民的な居酒屋、これらを本当に楽しそうに紹介してくれるのです。いい店だ、いいところだ、といった表現が頻出します。やはり、好きな物、好きなことを伝える文章というのは読むほうもついいい気分にさせられてしまうものです。あとがきに、「遠足」というキーワードが出てくるのですが、まさに、川本さんの町歩きはそんな感じ。ここにもおもしろいのみっけ、あっちにもみっけ、またみーっけた……そんなことを言いながら「少年おやぢ」がほくほくと歩き回っているのが伝わってくる文章なのです。


この違いは別に良し悪しの問題ではなく、好みの問題なんでしょうが、どちらが町歩きをしたくなる本か、どっちが散歩のお供に向く本か、というとやっぱり川本本だと思います。


あと、川本本で好きなのは、川本さんがさんざん町を歩き回ると、必ずビールが飲みたくなっていることで、そのあたりも同じ側の人、という感じがして読んでいてうれしくなります。あとがきに、こんなふうに書かれています。
《普通の大人の男と違ってゴルフもマージャンもやらない。スポーツ、賭けごととも縁がない。》
ああ、ビール好き、ということだけじゃなくて、生活スタイルのようなものに共通点があるのかもしれません。川本さん、ぼくもそうなんですよ。この後、川本さんには「時間がたっぷりあ」って、「要するに『暇人』なのである」という文章が続くのですが、ここだけは貧乏暇なしのサラリーマンと違うところでしょうか。


ところで、この2冊、別に意識して選んでこの組み合わせになったわけではなく、なんとなく抜き出したものなんですが、ちょっとした偶然も。川本本を読んでいたら、小林本、それもまさにこの『昭和の東京』の一節を引いている箇所がありました。で、今度は小林本を読んでいたら、解説が川本さんでした。単なる偶然の一致ですが、こういうふうに、本がつながっていく感じって、けっこう好きだったりします。


◆今日のBGM◆

  • ジミー・ロジャース『シカゴ・バウンド』

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