さて、先日の神奈川書店回りのレポート、最終回の今回は横浜編ということで、3店、ご紹介します。すみません、今回も長いです(苦笑)。まずは、紀伊國屋書店横浜みなとみらい店から。
同店は、JR桜木町駅から徒歩少し、というか、ほぼ目の前にある商業ビルColette・Mareみなとみらいの5階にあります。建物の雰囲気や入っているテナント、館内のお客さんの感じからして、東京でいうとルミネのような感じのファッションビルになるんでしょうか。上に映画館が入ってるから、パルコかな。まあ、そんな感じです(ものすごく適当な印象です;苦笑)。したがい、平日午後ということもありますが、オヤヂ度はかなり低め。



↑入り口はこんな感じ。できてまだ1年ほどのおしゃれビル内にあるお店ということで、入り口の雰囲気も、什器の感じも従来の紀伊國屋書店の感じとはずいぶん違っていますね。店名を伏せて店内の様子を見せられたら、紀伊國屋書店のお店だとわからないかもしれません。
上のフロアガイドにある通り、お店は大きく3つのエリアに分かれていて、広さは400坪を切るぐらい。天井が高めで、棚間・通路もゆったりとってあるせいか、数字よりも広く見えます。


↑入り口を入った左脇や、正面の催事エリア、コミック・文庫エリアの境などに、上の写真のような、よく書店で見る台よりはちょっと高めの台が置かれていて、フェアや新刊のディスプレイに使われていました。おしゃれ家具屋さんにあるおしゃれ家具みたいな台です(頭悪そうな形容ですみません……)。台の下がストッカーになっているタイプのものと違い、ふつうのテーブルのように大きく下が空いていますので、大きさや高さの割に圧迫感がなく、店内を広く見せるのにも役だっているようでした。


↑上の写真にあるような台と、催事エリアにある売上ランキング上位本などをディスプレイしてある柱には、このように、ミニパネル、POP、色紙などの拡材が目立ちます。自店で用意したもの以外に、知り合いの書店員さんが作ったものをコピーして使わせてもらっているものもあるのだとか。そういう横のつながりはいいですね。


↑ツイッター書店員さんの間で話題の2冊は、このお店でも目立つところに展開されていましたよ。右はともかく、左は、このお店の雰囲気、客層(若い女性が多い)を考えるとだいじょうぶかな、という感じがしないでもないですが、展開する場所を変えて目につくようにしたところ、順調に動いているのだとか(売上ランキングにも入っていました)。お店の方にうかがった話では、同店の客単価は必ずしも高くない、というか低めなんだそうですが、そういうお店で、決して安価とは言えないハードカバーの、書名的にも内容的にもハードなこういう小説が売れるのだから、やっぱり本は売り方次第、ってことですね。おしゃれ書店でこれは売れないだろう、といった安易な先入観で売り逃してしまうのはもったいないですからね。


↑入り口から見て右奥、フロアガイドのCエリアに進むとちょっと雰囲気が変わります。洋書・文学・社会科学など、ちょっとかための本のコーナーになります。ご覧の通り、ジャンルの区分も棚の感じも、通路のゆったり感も、すべてがいい具合で、とてもゆっくり本を見られる、いいスペースになっていると思うのですが、残念ながら人がいない。平日の午後にしては店内はそれなりの数のお客さんでにぎわっているというのに、奥まで足を運ぶ人が少ないということでしょう。お店としては、どうやってお客さんにこの奥の辺りまで足を運んでもらうかは課題でしょうね。
そのような、エリアの断絶、お客さんの動線の問題をなんとかするのに効果があるかもしれないと思われる、洋書と芸術書の間のフェアコーナーのような空間があります↓。この日は、「横浜×進行形アート すごいぞ!BankArt1929」なるフェアが開催中。BankArt1929についてはぼくもよく知らないので、こちらをご覧ください。




↑壁際には雑貨類が並び、フロア中央にある台(上で紹介したのと同じフェア台)には、写真にあるように、写真集や洋書が並んでいました。このスペースをうまく使って、手前のコミック・文庫などのエリアと、奥のかための本のエリアとを、うまくつなげられるといいかもしれませんね。
同店の上には映画館が入っていることもあり、上映作品に合わせた映画関連書のフェアなどにも力を入れているそうです。訪問した日は、コクリコ関連とハリポタが目立ちました。そうした映画関連書は、芸術書のコーナーではなく、雑誌のコーナーのほうに出すことが多いようで、どちらも大きなポスターなどを使って、入り口近くで展開されていました。

↑そうそう、芸術書と言えば。見かけない小冊子があるなあ、と思ったら、割に最近できたばかりの紀伊國屋書店オリジナル冊子だとかで、その名も「ル、キノ美ジュ」。副題に「紀伊國屋書店美術書カタログ2011」とあります。PR誌と同じA5判で、なんと64頁もある本格的なもの。中身は、ジャンル別の美術書ガイド・カタログで、特集として山崎ナオコーラさん、大竹昭子さん、佐々木俊尚さん、永江朗さんらが寄稿しています。美術(書)好きは要チェック。

↑児童書のコーナー。こういう区切られた空間って、子ども、大好きですからね。っていうか、ぼくも中にはいって写真を撮りたかったんですが、複数の親子連れが「使用中」だったため写真は外からのみ。写真には一部しか写っていませんが、この回りがぐるりと児童書の棚で、広さ的にも量的にも充実したスペースになっているようでした。

↑最後に、お店の方におすすめしてもらったのがこちら。
商業施設内の書店って、商業施設の性格や雰囲気によっては入りにくいこともあって、ここも知らなければスルーしそうな感じだったんですが、本好き書店好きの、とくに男性はそういう先入観は抜きで、ぜひ足を運んでみてほしいお店です。什器の感じなどが、おしゃれなセレクトショップ的書店に見えなくもないので、そういうのを苦手に感じる人がもしかしたらいるかもしれませんが、品揃えは、おしゃれに偏りすぎることはなく、全ジャンル全年齢層を丁寧にカバーしたものになっていますよ。そこはさすが紀伊國屋書店という感じ。あとは、スペースの使い方とか、エリア同士のつなぎをさらに工夫して、店内をぐるぐると回遊する楽しみが増えると、もっともっといいお店になるのではと、そんな感じも受けました。
次は、お隣、関内に移動して、有隣堂伊勢佐木町本店へ。何度も来ているお店ですが、今回は久しぶりの訪問です。
ここは、横浜を代表するお店の1つですから、お店の説明はあんまり必要なさそうですよね。関内から徒歩少し、伊勢佐木町通り(イセザキモール)にある、地上6階地下1階のマルチフロア大型店。ただ、大型店といっても、昨今の大型よりは小さめで、公称サイズは500坪かな。


↑外観は、記憶にある以前通りの感じでほっとします。1階と2階が吹き抜けで、2階がギャラリーのようになっているのもそのままで、さらに安心。
ところが……中に入ると、文具館として建物が別だったはずの文具が入っていたり、地下にコミックと学参が移っていたり、などなど、フロア配置が記憶のなかのそれとけっこう変わってしまっていてびっくり……。ただ、売り場のレイアウト変更自体は、別に書店ではめずらしくありませんからね。最初こそ、変化にとまどってしまったのですが、それはそれとして、落ち着いて店内の様子を見てみることにしました。
この日、ここまで見てきたお店は、タイプこそ異なれど、この本を推したい売りたい、という活気にあふれたお店ばかりで、お店のどんなところをどう紹介するか、選び出すのが大変なほどでした。有隣堂も、好きなお店ですから、ぜひそのような感じで紹介したいのですが……ちょっとつらい書き方をしないといけません。うーん、他のお店に比べて、ちょっと元気がないところが目についてしまったのです。
もちろん、1階のレジ回りなどでプッシュされている本やそれに付されたPOPやカードには目を引くものがありますし、横浜の関連本を集めた棚も、非地元民には知らない本ばかりで見ていて楽しい。そういういいところもいろいろあるのです。あるのですが、その一方で、気になってしまったのは、たとえばこんなところ。
2階の文庫売り場は、同店をご存じの方には説明不要ですが、1階からの吹き抜けになっていて、吹き抜け部分をコの字に囲むような売り場になっています。コの一方の先は階段スペースにつながっていて、もう一方の先は行き止まりです。その行き止まりの先にラノベのコーナーがあるのです。別にそれが悪いとは言いませんが、コミック売り場の近くにあることが多いラノベが、文庫売り場の端っこ(行き止まり)にあるのは、ラノベ好きと、文庫好きの双方にとってどうなのかなあ、とちょっと気になってしまいました。文庫棚を眺めているうちに、いつのまにかラノベになってしまい、そのまま先まで行ったら行き止まりで、またラノベを見ながら戻ってくる、という移動は、ラノベ読みではないぼくには、なんというかちょっと違和感がありました。
もう1つ。コミックは地下にあるのですが、学参と一緒になっています。この組み合わせだと、当然、割を食うのは学参で、この規模の大型店の在庫としては、かなり少なめになっています。学参担当の牛嶋さんにお話をうかがいましたが、やはり在庫量が少ない点は気にされているようでした。この棚の本数では定番をカバーするのも大変なはずだし、新しいのも置けないから、入れ替えなど棚のメンテがひと苦労ですよ。近隣に学生の利用者がどれぐらいいるのかはまったくわかりませんが、有隣堂の本店ならあるだろうとわざわざ来られるお客さんも少なくないでしょう。コミック売り場の隅で、文字通りひっそりという感じになってしまっている売り場を見て、ちょっと気になってしまいました。


↑その学参売り場にいたクマ。キャラの名前をうかがったのに……すみません、メモが汚くて自分で読めませんでした(泣)。ここには学参のフリペも並ぶことになるそうですよ。学参、点数・在庫数こそ少ないけれど、なんとかしようという工夫をされているということですよね。残念ながら現物は見られませんでしたが、できあがったらぜひ拝見したいものです。
有隣堂と言えば、本の買い取りサービスを始めたときには話題になりましたよね。


↑「YURINO ReBOOKS」というそのアウトレット本の販売と買い取りは、旧文具館でという旨の案内看板が出ていました。右はそのチラシ。今回は、そちらはスキップしました。
実は訪問前に、どのお店に行くかを検討していた時点で、神奈川の事情にくわしい方からは、有隣堂ならば、横浜駅西口ザ・ダイヤモンド店がいいのでは、と言われていました。関内のあたりは、横浜松坂屋も閉店してしまい、往時の人通りはないこと。街に元気がないせいか、本店にも元気がないらしいことも聞いていたのです。
でも、そうであれば、なおのこと、ひと昔前の様子を見知っている者としては、今の様子を見ておきたいなと思って、今回訪問したのですが……。
松坂屋跡がこの後どうなるのか、横浜の事情にうとい身にはわかりませんが、目の前に大きな、そして勢いのある商業施設ができて、街の人の流れが変われば、有隣堂本店を利用するお客さんの数や層も変わりますよね。きっと。それも、いい方向に。
せっかく案内してくださった方もいるのに、他のお店のように、記事を楽しいことで埋められなくてほんとうに申し訳ないのですが、自分の覚えと記録の意味も含め、思ったままを記しておきました。お店の関係の方にとっては、よけいなお世話でしかないことを書いているかもしれませんが、素人の感想ということで、ご勘弁ください。


↑このコクリコが表紙のヨコハマガイド、さすが地元ということで、あちこちの書店で見かけましたが、有隣堂本店がいちばん大きく扱っていましたね。横浜関連本の棚があったので、そのなかから、雑誌『横濱』のうち、「歌、映画、ドラマに見る横浜」という特集号を抜いてきました。横浜が舞台の映画って多いんですね。特撮者としては、モスラや、ウルトラQや、大決戦!超ウルトラ8兄弟といった作品群がちゃんとリストに入っていたのがうれしい(笑)。
さて、最後は、紀伊國屋書店横浜店です。こちらも、有隣堂と同じく、何度も来ているお店ですが、このところごぶさただったので、久しぶりの訪問となりました。そごう横浜店の7階にあるワンフロアの大型店。広さは、550坪とのこと。「めぐみさん」に案内をお願いする予定だったのですが、忙しいときにあたってしまったので、単独回遊。そのため、店内の写真はなしです。残念。

↑写真は入り口のみ。入り口入ってすぐの台と正面の壁際に、新刊や話題書、ランキング本などが見やすく並び、入り口の脇には、フェアコーナーが。レジは、お店を入って左右の側面にあり、新刊やフェアのスペースから、レギュラーの棚に自然に足が向くよう、配置が工夫され、そのままぐるっと回って、店内を一周できるようになっています。しかも、その一周の動きで、主要ジャンルがひと通り目に入るようになっています。当たり前のことが当たり前に実現されているだけ、といえばその通りなんですが、個人的には、こういう、お客さんの自然な動きがきちんと考えられたレイアウトのお店って、大好きです。
店内の様子は、什器も、ジャンル区分も、本の並べ方も、とにかくいろいろな要素が、いい意味で、オーソドックスないつもの紀伊國屋スタイル。おしゃれでかっこいい店もいいけれど、やっぱりぼくのようなオールドタイマーにはこのほうが安心できますね。久しぶりのお店なのに久しぶりの感じがぜんぜんしなくて、安心して棚の間を回遊できます。
この規模の紀伊國屋のお店ですから、わざわざ言うまでもないことですが、品揃えは、全方位的で漏れなし。むしろ、デパート内にあること、客層などを考えると、専門書などは充実し過ぎではないかというぐらいにしっかり棚やスペースを割いてあります。
そういうかたい本だけではありません。たとえば、児童書コーナーもオーソドックスでいいんですよね。凝ったディスプレイとか、親子が遊べるキッズコーナーなどがあるわけではないのですが、絵本と読み物のバランスもよく、子ども目線でも、親目線でも、どちらでも見やすい工夫がされています。フェアの1つとして、夏の本のフェアが開催中でした。この時期、児童書コーナーでは別にめずらしくないテーマといえばそうなんですが、セレクトがなかなかで、他の夏本フェアで見かけない本が目についたので、この日最後の買い物は、夏本フェアから絵本を1冊抜いてきましたよ。
今回は、どのお店も短時間しか滞在できなかったのですが、短時間でもっとも効率よく店内を見て回ることができたのは、このお店でした。単に、紀伊國屋書店の棚や店作りに慣れているだけ、というのもあるかもしれませんが、それだけ、バランスがよくて、見やすい店作りがされているということなんだと思います。写真にとって紹介したくなるような、派手なディスプレイや、個性的なPOPは少ないかもしれません。でも、書店のおもしろさって、そういう目につきやすいところにだけ現れるものではないと思うのです(今まで、さんざん店頭のにぎやかな様子をほめるような文章を書いておきながら、矛盾しているのではないか、と言われそうですが、どちらもいい、どちらも好き、という話であって、店頭が派手=いい、地味=悪い、ではない、ということが言いたいのです)。
ぼくの文章力では、そういう「ふつうにいいお店」のすばらしさを十全に伝えることができないのが悔しいのですが、紀伊國屋書店横浜店は、ぼくにとってはそういうお店でした。地元の方に今さらおすすめする必要もないお店なのかもしれませんが、横浜で買い物のついでにはぜひお立ち寄りのほどを。
……ふう、以上で、長い長い神奈川書店回りレポートは終わりです。しかし、1日の書店回りのレポートにどれだけ時間かけてるんだか(苦笑)。
このほかにも、時間とルートの関係で断念しましたが、行きたかったお店はたくさんあります。ツイッターでの知り合い書店員さんがいるお店だと、ブックポート203の他のお店、中野島店と緑園店、文教堂書店すすき野とうきゅう店など。それ以外だと、サクラ書店平塚ラスカ店、有隣堂の横浜駅西口ザ・ダイヤモンド店、ルミネ横浜店、移転して縮小営業中という丸善の横浜ポルタ店、有隣堂のあとにできたくまざわ書店ランドマークプラザ店、などなど。
……全部行こうと思ったら、いったい何日休みをとらなきゃいけないんだろう(苦笑)。しかも、全部回ったりしたら、レポートが大変だ(って、書かなきゃいけない、ってわけではないんですが)。
今回、お店を案内してくださったり、ディスプレイや品揃えなどお店のことについて説明してくださったりした書店員のみなさん、ほんとうにありがとうございました。この記事が、神奈川の書店好きのみなさん、神奈川の書店を回りたいとお考えのみなさんの参考になったりしたら、こんなにうれしいことはありません。