昨日の東京フィルメックスに続いてS東京特派員とその奥様の映画祭巡礼記、
今日は第33回東京国際映画祭です。
アン・ホイ監督の新作はチケット争奪戦になったようで根強い人気があるんだと感心しました。
あとビビアン・スーは今やプロデューサーなのかと。
華があるんで映画祭に来てほしかった思いが。
東京国際映画祭会場 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
続いて東京国際映画祭。
こちらはリアル上映のみ。
これは映画は映画館のスクリーンで映し出されるべきだ、という映画祭の意思表示のように感じました。
『兎たちの暴走』ポスター
『兎たちの暴走』中国 シェン・ユー監督
主人公の少女が借金取りに追われる母親を助けたい一心から裕福な同級生を誘拐して身代金を得ようとしたことから生まれる悲劇。
未熟な若い母と娘、地方都市の閉そく感、貧富の差、運命のいたずら、皮肉な結末。実際の事件から着想を得た映画で、今の中国に生きる人たちの気持ちを反映した物語のように感じました。
今の時代、兎たちは反撃しなければならないのかも。(K)
『チャンケ:よそ者』 ポスター
『チャンケ:よそ者』台湾 チャン・チーウェイ監督
外国にルーツを持つこととは、ということを改めて考えさせる作品。
自分のルーツやアイデンティティに悩むことは誰にでも起こりうると思いますが、国籍の問題が絡んでくると精神面だけでなく現実的な制度面でもフォローされないことも多く、さらに台湾という地域の持つ複雑さも重なって、どうすればいいのかなあ…と考え込む内容でした。
韓国人と台湾人の間に生まれた主人公が、韓国の高校という実社会との軋轢や親との間に生じる葛藤を乗り越えて徐々に自己の確立を目指していく…というところで終わるわけですが、個人的には主人公の家族が日本でいうとやや昭和的な感じなのが気になりました。
言葉少なく厳しい父親と、間に入って「お父さんも本当はあなたの留学のこと喜んでるのよ」と言うような母親…
二人とももちろん息子を愛して、心配しているのですが、息子が苦しんでいることは明らかにわかるのだから、敢えて厳しく突き放すのではなく父親ももっと話を聞いてやるべきではないかという印象でした。
夢の中での父親との和解は素敵なシーンでしたが、現実の中でそれが行われてくれればなあと思わなくもないです。(H)
主人公は台湾系韓国人の高校生で台湾映画ですが舞台は韓国です。
韓国の台湾マイノリティ社会が映画で描かれたのは珍しいのでは。
差別や暴力(いじめ)描写がけっこうつらいのですが前向きなラストに救われる思い。
父と息子の関係が悲しくも心動かされました。(K)
『カム・アンド・ゴー』舞台挨拶の様子
『カム・アンド・ゴー』日本・マレーシア リム・カーワイ監督
国境をまたいで映画を作り続けているマレーシア出身のリム監督の大阪三部作の3本目。
158分に日本が抱える問題が山ほど盛り込まれメインの登場人物だけで20人ぐらいはいてあっという間の面白さ。
現代日本でも、映画で取り上げるテーマたくさんあると実感。
恋愛映画や漫画原作映画ばかり作ってる場合じゃないです。(K)
『アラヤ』中国 シー・モン監督
原題が『無生』英語タイトルが『Alaya』。
私は仏教の知識に疎く意味がちゃんと分かってはいなくてこの映画のテーマを理解しているとは言えません。
でも中国のひなびた農村の冬枯れの風景、廃墟の遺跡(バラバラになった仏像?が不気味)、抽象的な登場人物、結果だけを最初に示しあとから原因にさかのぼる時間が巻き戻るような感覚など、この映画はそれだけでも大変面白く感じました。
また後半の幻想シーンにはあっと驚かされました。
これらだけでもすばらしい映画だったと思えます。(K)
『第一炉香』ポスター
『第一炉香』中国 アン・ホイ監督
少し前に原作を読んでいて楽しみにしていたのですが、チケットが一瞬で売り切れてしまってがっかり…しかし入金しなかった人がいたのか、キャンセルが出て無事に2枚取ることができました。
上映後にSNSでは言語の問題や俳優のイメージが合わないなどの意見が出ていましたが、全編標準語なのには私もちょっとあてが外れた感じはしました。
主人公の二人は最初は上海語と広東語で会話ができず、英語で話をしている設定なのですが…。
とはいえそこまで再現しようと思うと大変なのだろうと思います。
原作にないシーンも多く追加され、単純な好き嫌い・愛してる愛してないでは済まないどうしようもないドロドロの人間関係を数々の美しい衣装と共に描くのは、いろいろな意味で「劇」という感じでした。(H)
中国の著名な小説家・張愛玲の第1作が原作。
張愛玲は映画のシナリオなども書いていて『傾城の恋』(これもアン・ホイ監督)や『ラスト。コーション』など映画化された作品も多く映画界にかかわりが深い人。
今年は生誕100年にあたるので記念すべき作品といえそうです。
舞台は第2次大戦前の香港。旧時代の文化の中、恋愛に生きようとした主人公の姿を大河ドラマのような風格で香港映画の巨匠が描きます。(K)
『弱くて強い女たち』ポスター
『弱くて強い女たち』台湾 チャン・チーウェイ監督
今年の東京国際映画祭の小特集「台湾映画ルネッサンス」の一本。
母親の70歳の誕生日を祝う姉妹がその日にかつて家出していたままの父親が亡くなったこと知る。
日本でいえば松竹の山田洋次監督が作りそうな笑いと涙と感動の王道の家族ドラマで、映画祭でアート作品や個性的な感覚の映画ばかり見ている中でかえって新鮮でした。
90年代に日本でも活躍していたビビアン・スー(懐かしい)が三姉妹のひとりに扮しプロデュースも担当しています。(K)
『足を探して』ポスター
『足を探して』台湾 チャン・ヤオシェン監督
夫の奔放な性格のために人生台無しにされたダンサーの妻、しかし夫は病気であっけなく亡くなってしまう…。
亡くなる直前の手術で切断した足をどうにか取り戻すまでのコメディでした。
浮気してた配偶者が若くして突然死んでしまうというのは結構深刻で、残された妻側からしたらなかなか気持ちの整理がつかない状況なのではないかと思うのですが、まったくシリアスではなく随所に笑いが入ってくるのはすごいなと思いました。
強いヒロイン、グイ・ルンメイ。まあ夫が過去にやらかした勝手な行動が次々に描かれるので夫の病死にはそんなに同情できないというのもあるのですが、かといって100%のクズ男というわけでもなく、妻の方もやっぱり夫を憎み切れなかったからこそのドタバタ劇…からの、夫との納得の行く別れを迎えるラストはとても良かったです。(H)
『ひとつの太陽』(チョン・モンホン監督)の脚本家で小説家でもあるチャン・ヤオシェンの監督デビュー作。
チョン・モンホンはプロデュースで参加、撮影もこなすというサポート。
死体をめぐるドタバタ、なのに夫婦愛の物語という変わった映画。
こんな変な映画のヒロインができるのはまあグイ・ルンメイしかいないですよね。
台湾映画らしい個性的な一本でした。(K)
『Malu 夢路』マレーシア・日本 エドモンド・ヨウ監督
母親が精神の平衡を失ってしまい、そのためにバラバラに育てられた姉妹。
妹は母のもとに残って世話を続けるも、成長して体を売っていたり錯乱した母を殺害しているらしき様子も描かれ不穏な空気を感じます。姉は母の死の真相は知らず、母の死をきっかけに妹を引き取ろうとしますが、妹は結局出て行ってしまう。
のちに日本で遺体で発見された妹のために来日した姉は、日本で妹がどのような生活を送っていたのかを追ううちにある男性に出会いますが…。
安らげる場所のなかった妹が日本で一人の男性に出会い、恋人のような、父娘のような関係になることで束の間居場所を見つけたかに見えるものの、それも一瞬の夢だったというのが、悲しい余韻を引きずる作品でした。(H)
長編第1作の『破裂するドリアンの河の記憶』から『アケラット ロヒンギャの祈り』、そして今作と東京国際映画祭の常連のヨウ監督の映画はいつも幻想的ですがマジックリアリズムともちょっとちがって最初から現実とも幻想ともつかない独特な作風で好きです。マレーシアにはアート系映画を上映する映画館がないらしくいままでマレーシアでは監督作品が公開されてないというのはには驚きました。
今作は日本では劇場公開。日本は恵まれているのかも。(K)
以上、東京国際映画祭と東京フィルメックスの感想でした。
第33回東京国際映画祭公式HP
https://2020.tiff-jp.net/ja/