http://nagaokatsukurukai.blog.fc2.com/blog-entry-1453.html↑昨年に引き続きS東京特派員が行けなかった大阪アジアン映画祭をS特派員の奥様がレポートを送っていただいたので掲載します。
中国語の翻訳の仕事をされるので勉強がてらに映画で学んでるのもいいなと思いました。ありがとうございます!
http://www.oaff.jp/2018/ja/index.html
大阪アジアン映画祭ポスター
今年も大阪アジアン映画祭へ行ってきました。
今年観たのは3/17(土)『血観音』、『ミスターとミセス・クルス』、『昨日からの少女』、『牌九(パイゴウ)』、3/18(日)『あなたの宇宙は大丈夫ですか』、『コロンバス』、『パパとムスメの七日間』、『中英街一号』の8本です。

『血観音』ポスター(イラストバージョン)

ヤン・ヤーチェ監督と通訳のサミュエル周氏
1.『血観音』台湾:ヤン・ヤーチェ(楊雅喆)監督
『GF*BF』のヤン・ヤーチェ監督の新作ですが私は『GF*BF』は観ておらず、ヤン・ヤーチェ監督の作品を観るのは今回が初めてです。
タイトルの日本語読みについて、トークの時は「けつかんのん」と言っておられたようですが、開場前の呼びかけではこの作品だけタイトルを言っていなかったので(通常は『〇〇』開場始まってまーす、などの案内をしているかと思うのですが)、なんとなく日本語読みの見解が分かれているのかな?と思いました。
一家三世代の女性を中心とした物語ですが、政界とのゴタゴタや男性関係のドロドロなどがとても怖いです。
Twitterで検索してみたらヴィッキー・チェンが14歳とは思えない怖さ!と絶賛されていましたが、確かに最初こそ控えめでかわいい少女なんですが次第に凄みを増していきます。
終映後の監督のトークでは、「血」と「観音」という正反対のイメージを組み合わせたのは意図的で、優しそうに見える観音が裏では…というのはまさに政治家のこと、だそうです。
またこの作品の(イラストバージョンの方の)ポスターは台湾の画家に描いてもらったが、実はその画家自身も、姑との確執を抱えているというストーリーのある人物で、女性というものが良く表れているポスターになったとのことでした。赤はヒガンバナのイメージとも。
ちなみに最初は探偵もののようなストーリーを構想していたそうですが、怖い女性プロデューサーに何度も突き返され(笑)、話を考えるためきちんとした服装をして図書館に通ううちに、女性の窮屈さというものを考え理解できるようになったのがこのようなストーリーになった理由の一つだそうです。
トーク時の通訳はサミュエル周さんで、さすがのハイレベルな通訳ぶりに大変勉強させていただきました。
映画祭に通うのは通訳翻訳の面でも面白いです。
2.『ミスターとミセス・クルス』フィリピン:ーグリッド・ベルナード監督
去年の大阪アジアン映画祭で『キタキタ』が上映された、フィリピンのシーグリッド・ベルナード監督の新作です。去年のも面白かったので今回も期待して観てました!
たまたま名字が同じ「クルス」だったことから他のツアー客から夫婦と勘違いされた男女が最初は反発しあうものの、次第に相手を理解していきます。
二人とも結婚生活に失敗していることから、簡単には仲良くならないものの、少しづつ距離を縮めていく様子は微笑ましいです。
ビーチの風景も美しい。
監督の登壇があったのですが、残念ながらABCホールからシネリーブル梅田へ移動しなければならなかったためトークは聞かずに出てしまいました。
会場間の移動と上映スケジュールの組み方は毎年悩みます。

.『昨日からの少女』ポスター

ファン・ザー・ニャット・リン監督
3.『昨日からの少女』ベトナム:ファン・ザー・ニャット・リン監督
ベトナムの高校を舞台にしたラブコメです。
主人公トゥのクラスにある日、美しい転校生ベト・アンがやってきます。主人公はなんとかして彼女を振り向かせようと友人の力を借りて奔走しますが失敗続き。折に触れて子供のころに隣に住んでいた初恋の女の子を思い出しては、なんで自分はうまくいかないんだろうと悩みますが…。
こちらも監督の登壇有りです。
高校生のシーンが97年、子供のころのシーンは86年ごろとのことで、監督自身の青春時代に合わせたため原作とは若干タイムラインが異なるそうです。
また作中に出てくる「秘密ノート」は原作にはなく、ラストのある事実の打ち明け方も若干原作とは異なり、原作ではもっと詩的な描写だが映画ではドラマチックな方が良いと思い変更したとのことでした。
また、インターネット導入前の時代の恋愛を描きたかったとのことで、劇中では本の中表紙にメッセージを書いて渡したり似顔絵を贈ったりするアナログなやり取りが出てきたりします。
監督は『ベトナムの怪しい彼女』(韓国映画『怪しい彼女』のベトナム版リメイク)のファン・ザー・ニャット・リンで、主演も『ベトナムの怪しい彼女』と同じミウ・レが演じています。エンディングの歌はミウ・レが歌っているそうです。キャストについて、当初は別の人を探していたが適切な人が見つからずミウ・レに依頼したとのこと。
女の子たちのアオザイがかわいらしいし、秀才なのに冴えない主人公の恋愛成就のために協力してくれる友人もいい味を出しています。
友人の提案がことごとく失敗していら立った主人公から「お前は人を好きになったことがあるのか!?」と八つ当たりされた友人が、てっきり「ないね」と突っぱねるかと思いきや、「たくさんあるよ」と憮然と答えるシーンが個人的にはツボにはまりました。
4.『牌九(パイゴウ)』インドネシア:シディ・サレ監督
公式パンフレットによると、「牌九」はゲームの名前だそうで、ゲームで起こりうるどんでん返しと劇中で起こる波乱とを掛けているようです。
自分を捨てた男、エディの結婚式をぶち壊そうとして式場に忍び込むシスカ、でもエディの結婚相手の女性の父は実は裏社会のボスで…。シスカの闖入と、エディの結婚相手であるルシーの家庭的背景によって、それぞれの登場人物にとって予想外な展開になっていきますが、それにしてもシスカは報われないなあと思います。
映画の最後に流れる「AKSI KUCING」という歌がYouTubeにアップされていました。実際の映画の映像そのままで映画の雰囲気も感じられると思います。(アップロードしているのは配給元?であるARCHIPELAGO PICTURESという会社なので違法アップロードではないと思うのですが…)
明るいコミカルな歌の背景で行われる事件が結構怖かったりします。
https://www.youtube.com/watch?v=_LlDSwDO-lo
.『あなたの宇宙は大丈夫ですか』ポスター

『あなたの宇宙は大丈夫ですか』ゲスト9人登壇の様子
5.『あなたの宇宙は大丈夫ですか』日本・韓国:ベク・ジェホ監督、イ・ヒーソップ監督
日韓合作映画です。
大阪を舞台にしていることや、映画に登場するミュージシャンのすのうさんとオル・トグンさんが上映後にライブを行ってくれたりして、会場はとても盛り上がった雰囲気でした。上映後の舞台挨拶はなんと監督2名+主要キャストほぼ全員の9名の登壇がありました。監督たちから、すでに公開が決まっていること、本作は大阪の人も韓国の人もそんなに違いはないということを伝えたくて制作したこと、などを聞くことができました。またデジョン先輩の役のチ・デハン(Ji Dae-han)さんは、本作ではギャラを受け取っていないので、ぜひ日本公開がヒットしてギャラがもらえれば…と笑いを取っていました。

『コロンバス』ポスター
6.『コロンバス』アメリカ:コゴナダ監督
作品のタイトルは作品の舞台でもあるアメリカ、インディアナ州コロンバスからとのことです。夢を諦めてドラッグ中毒の母のために地元に残る図書館員ケイシーと、建築の話を通じて彼女と交流を深めていく韓国系アメリカ人のジン。
地元を離れられない、家族との関係のために自分の将来のために一歩踏み出せない…というのはアメリカに限らずどこでもある問題だろうなと思います。
若いケイシーの話に付き合い、恋愛関係になるわけでもなく大人の男性として優しく背中を押してくれるジンの存在がとても魅力的でした。
静かな音楽の中で淡々と話しは進んでいきますが、強いメッセージが込められていると思います。
建築は実際に人間が日々使うという意味で他の諸芸術とはやや違う位置づけのものだと思っていますが、その建築の美しさや包容力も作品を印象的にしてくれています。

『パパとムスメの七日間』原作者の五十嵐貴久氏
7.『パパとムスメの七日間』韓国:キム・ヒョンヒョプ監督
韓国映画ですが、原作は日本の五十嵐貴久の小説『パパとムスメの七日間』です。過去には舘ひろしと新垣結衣の主演でドラマ化もされたそうです(そちらの方は未見です)。
ゲストに原作者の五十嵐氏の登壇がありました。もともとこの作品を書こうと思ったきっかけはリンジー・ローハン主演の『フォーチュン・クッキー』が面白くなかったことから、「ママとムスメの入れ替わりよりパパとムスメの方が面白いはず」と考えたことだそうです。
実際とにかく女子高生と中年男性のギャップに笑わされます。
面白いだけでなく、美少女の中身が実は男性というのは場面によってはなかなかカッコよくもあり、『怪しい彼女』における「見た目は若いのに中身は人生の達人」に似たものを感じました。
『君の名は。』なども大ヒットしましたし、「入れ替わり物」はひとつの定番なんでしょうか。ちなみに五十嵐氏は『君の名は。』は観ていないとのととでした。
韓国社会の苦労も垣間見えるエピソードも多いですが、最終的にはパパとムスメがお互いの苦労を理解し、それぞれの仕事も恋も大団円…というハッピーエンドに落ち着きます。
詳細は分かりませんが中国とベトナムでリメイクが決まっているという話があったので、『怪しい彼女』のように各国版が観られる日が来るのでしょうか。
8.『中英街一号』香港:デレク・チウ(趙崇基)監督
1967年と未来の2019年の香港を舞台に、イギリスと中国との間で数世代に渡り揺れ続ける香港の苦悩を描く作品。香港と言えば最近は雨傘運動が記憶に新しいですが、私は不勉強でこの映画に出てくる67年の暴動は知りませんでした。
ネットで調べて見ると、下記のようなページが見つかりました。
☆清涟居「共産中国の扇動した50年前の香港暴動」(個人の方のブログ記事、日本語)
http://heqinglian.net/2016/02/27/hongkong-unrest/☆Wikipedia「六七暴動」(日本語ページなし、英語&中国語あり)
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E4%B8%83%E6%9A%B4%E5%8B%95かなり雑にまとめると、文革時代の67年に香港で反英暴動が起こり、中国共産党側は市民の反英行動を支持。暴動鎮圧のため香港警察や軍隊と衝突が起こり、最終的に50人以上が死亡する事態に発展したということのようです。
劇中でも、反英暴動に参加したジャンマン(ネオ・ヤウ)は暴動中の怪我が元で亡くなってしまい、彼を探しに行ったライワー(フィッシュ・リウ)も巻き添えで逮捕されてしまいます。
時は流れて2019年、恐らく雨傘運動に参加したことが原因で刑務所に入っていたシーワイ(フィッシュ・リウが二役)が出所し、かつて一緒に運動に参加した仲間と再会するも、彼らの立場や気持ちも揺れ続け…。
劇中で何度か「その土地を愛しているなら守るために命を懸けるべき」というメッセージが出てきます(うろ覚えなので実際の字幕とちょっと違っていると思いますが)。
50年前、香港のことを想って反英暴動を起こした人たち、そして現代においても香港のことを想って雨傘運動を起こした人たち。複雑な香港の歴史から、果たして土地を愛するとはどういうことなのか、守るとはどういうことなのかということを考えさせられました。

ABCホール全景