*今年もS東京特派員夫妻が大阪アジアン映画祭に参加し、長いレポートを送っていただいたので二回に分けて掲載します。
ありがとうございます。
レポのKがご主人、Hが奥様になります。
同じ映画を観て二人の視点が違うのも面白く読みました。
3月14日の『祝の島』上映会前日、開催について注視していた高崎映画祭がやはり新型ウイルスの影響で開催を中止。
それを知って慌てて東京特派員に電話して大阪アジアン映画祭の様子について尋で開催の判断の参考にさせていただきました。
本当にあの時は切羽詰まっていたと思い返したりしてます。
大阪アジアン映画祭公式HP
http://www.oaff.jp/2020/ja/index.htmlシネリーブル梅田
【はじめに】
3/8(日)~3/10(火)に大阪アジアン映画祭で鑑賞した映画をご紹介します。
今年は新型肺炎の影響でゲストの来場はなくなり、入り口にも消毒用のアルコールスプレーが置かれたり、希望者にはチケットの払い戻しも行うという措置の中での開催でした。
開催の判断は困難なものだったと想像しますが、様々な対策を講じながら予定通り作品を上映してくれた主催者、関係者の方々に感謝したいと思います。
他の方もTwitterなどで紹介していましたが、今年はゲスト登壇が一切ないにも関わらずすべての作品の上映回の最後で拍手が起こっていたのが印象的でした。
それから今年は女性監督の作品が多いことや、現代女性が直面する困難にフォーカスした作品が多かったことも特徴的だったと思います。
話は飛びますが、東京国際映画祭で紹介されその後一般公開もされた映画『マリッジ・ストーリー』の中で、妻で女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)が夫で演出家のチャーリー(アダム・ドライバー)と離婚したいと思った理由の一つが、「自分も演出をやりたいと言っているのに、夫はやらせてくれない」というものでした。
離婚成立後のラストシーンでニコールの新しいパートナーがニコールの近況について「エミー賞候補なんだ」と紹介したとき、「いい女優だ」と頷くチャーリーに対し「演出をやってる(演出家として候補になってる)」と返すシーンは、場面としては非常に短くさりげない会話なのですが、映画全体を引き締めてくれる名シーンだと思っています。
賞を受賞する男性とそれを支える女性ではなく、女性自身が公平に作品を発表し、実力で評価される社会になっていって欲しいと思います。(H)
『ハッピー・オールド・イヤー』ポスター
『ハッピー・オールド・イヤー』 スタンダード
(ナワポン・タムロンラタナリット監督 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン)
新しい生活のため過去の思い出が詰まった家の品々をすべて捨てようとする女性が主人公。
『フリーランス』にも通じる若者の現代的なライフスタイルに疑問符を突きつけるような作品。
いまどき珍しいスタンダードの画面がはたしてそれで幸福なの?と問いかけます。
そしてこの映画が今年のグランプリ!ナワポン監督好きなのでうれしいです。(K)
『女と銃』ポスター
『女と銃』 シネマスコープ
(ラエ・レッド監督)
セクハラに耐えて都会で生きる孤独なヒロイン。
ある日職場で暴行を受け帰宅すると路上に落ちている拳銃を見つける。
そこから復讐が始まる…と思いきやストーリーは想像のななめ上を行く展開に。
魅力的なジャズ音楽もあいまって不思議な映画世界に連れていってくれる映画。(K)
『マリアム』 ポスター
『マリアム』 ビスタ
(シャリパ・ウラズバエヴァ監督)
カザフスタンで牧畜を営む一家。
ある日夫が失踪、残された妻は生活に困りある決断をする…カザフスタンの夫婦関係、女性の地位がこんなにも危ういものかと愕然。
地味ですがまったく音楽がないせいもあってまるでドキュメンタリーを見ているような映画。(K)
『ローマをさまよう』ポスター
『ローマをさまよう』 シネマスコープ
(タニシュター・チャタルジー監督)
失踪した妹を探してローマをさまよう男の幻想的な話。
妹を演じるのは女優でもある監督。これが初監督作品。
女性蔑視に凝り固まった主人公が変化していく過程が見事だったと思います。
映画の中のローマは怪奇幻想ムードたっぷり。(K)
『散った後』ポスター
『散った後』 シネマスコープ
(チャン・チッマン監督)
『誰がための日々』『淪落の人』などを生み出したオリジナル処女作支援プログラムの一本。
2014年の雨傘デモに参加した学生たちの5年後の人生を描きます。
歴史的な出来事を背景にした青春映画は数多くありますがまだ評価が定まっていない、というか現在進行形の出来事を扱っているだけにやや結末が弱い気がしますが貴重な試みの映画だったと思います。
たぶん現実のデモの風景も使われていてドキュメンタリーのような臨場感のあるのも見どころ。(K)
『大いなる飢え』 ビスタ
(シエ・ペイルー監督)
太めであることから蔑みを受けるヒロインが恋したことからダイエットに励む。
笑えるよくできたコメディではありますが肥満から受ける差別だけでなく、ヒロインが恋する好青年、ある秘密を抱えた児童など「正常」から外れたことが非難される現状に対して疑問を投げかける映画だったと思います。
こういう娯楽性と社会性がほどよくミックスされた映画大好きです。(K)
ありのままの自分を認めてほしいという自己承認への飢餓感が表れているようなタイトルだと思います。
痩せてきれいにならなければ、自分に価値はないのか?
実際に痩せたら、他人からの評価は本当に変わるのか?
見た目と中身、本当の自分と他人向けの自分の間で苦しむ三人の男女の葛藤が描かれます。
ただ体型に関しては、健康の問題もあるので、母親のアドバイスも一理あるような…。
どうしたら自己肯定感を得られるのか、難しい問題だと思います。(H)
『ヒットエンドラン』 ポスター
『ヒットエンドラン』 シネマスコープ
(オディ・C・ハラハップ監督)
今年の大阪アジアン映画祭は女性監督が多く、フェミニズム要素が入った映画が多かったと思います。
これは意図してのことだと思いますがこのインドネシア映画はそういう流れではなくコテコテのアクション・コメディ。
大阪はやはりこういう映画が好きなのかも。
インドネシア映画そんなに詳しくなくて主役のジョー・タスリムはじめて認識したのですが常識をこえた中年色男ぶりがとにかく強烈。
インドネシアが世界に誇っていい口ひげ。
『スター・ウォーズ フォースの覚醒』『ジョン・ウィック パラベラム』出演など世界中のアクション映画界でリスペクトされてるヤヤン・ルヒアンが手ごわい大ボス役。
インドネシア映画の魅力をもっと知りたいと思いました。(K)
『マルモイ ことばあつめ』ポスター
『マルモイ ことばあつめ』シネマスコープ
(オム・ユナ監督)
1942年に朝鮮で起こった日本による朝鮮語弾圧事件をモチーフにした映画。
自分達の言葉を守るために次々と犠牲になる人々の姿が壮絶。
実際にあったことに基づいているとはいえあくまでもフィクションで映画で描かれる事件も架空だし、すべての登場人物は実在しないというのに感動させてしまうあたりがさすが韓国映画。
同じく光州事件を舞台にした『タクシー運転手』(こちらは実在の人物・事件ですが主人公はフィクション)の脚本家オム・ユナの監督デビュー作。主演は『タクシー運転手』にも出ていたユ・ヘジン。(K)
『わたしのプリンス・エドワード』シネマスコープ
(ノリス・ウォン監督)
この作品も『散った後』と同じく香港の「オリジナル処女作支援プログラム」の入選作。
恋人から結婚を申し込まれたヒロイン。ヒロインにはひとつ問題があった。
若い時にお金のために大陸の男性と偽装結婚していたのだ。
恋人と結婚するにはいまはどこにいるかも知れぬ偽装結婚の相手を探し出し離婚してもらわねば!
なんともユニークな設定で、ヒロインがこの騒動によって結婚に対する心情が変化していくところが見どころ。
フェミニズム、結婚、家族のありかた、内地と香港の関係など現在の香港事情も巧みに描かれていて好感の持てる作品でした。(K)
粘着質の婚約者とその支配的な母親に違和感を感じながらも結婚の準備を進めるヒロイン。
しかし偽装結婚相手である大陸の男性の出現で次第に心境に変化が…。
朱栢康演じる粘着質な婚約者のネチネチした束縛ぶりがリアルで気持ち悪いです。
一方、大陸出身の偽装結婚相手も、自由を謳歌する野心あふれる青年に見えるも、自分の彼女が身籠ったのが男の子と分かるやいなや香港への移住計画はあっさり取りやめ。
「(男の子だから)堕ろせないはずよね」というヒロインのセリフに女の悲哀が詰まっている感じがします。
ところで中国語が下手だと、大陸の人からたまに「いや、広東人の普通話よりはうまいよ」という慰めのようなことを言われることがありますが、香港人のヒロインが福州(大陸)の公安と話すときに一生懸命に話しているのにまったく言葉が通じないシーンは個人的にツボりました。(H)